CP+プロ向け動画セミナー 2017

一眼カメラで機動力あふれる動画を撮るテクニック

岩元康訓(ムービーディレクター)

CP+2017において、プロのフォトグラファーを対象にした「プロ向け動画セミナー」が行なわれた。ムービーディレクターの岩元康訓氏が登壇した実践編では、小型化したデジタル一眼カメラですばやく高品質な動画を撮るテクニックを紹介した。セミナーの内容をレポートする。

少人数での撮影を可能にする一眼カメラ

img_event_cpplus2017_iwamoto_13.jpg岩元康訓 氏

こんにちは、ムービーディレクターの岩元康訓です。今日は「デジタル一眼カメラ」を使った撮影をテーマにお話をさせていただこうと思います。最近は映像の世界でデジタル一眼カメラが果たす役割はとても大きくなっています。そこで今回は、デジタル一眼カメラの力を最大限に発揮できるような映像の撮影とはどのようなものか、という点についてお話をさせていただきます。

本題に入る前に、簡単に自己紹介をさせていただきます。私は岩元映像制作事務所とSPADEという2つの映像制作会社に関わっています。岩元映像制作事務所のほうは、主に映像の撮影と編集を、SPADEではCGやAR、VRなどの映像の制作を行なっています。私はもともと映画の世界で映像を学び、そこで得た知識をもとに、現在は自然映像やドキュメンタリー、プロモーションビデオ、CM、ライブ、フェスティバルなどの撮影を、最近ではパプアニューギニアの公式映像の監督も努めるなど、幅広く映像制作に携わっています。

img_event_cpplus2017_iwamoto_01.jpg

まずはこれまで私が撮影したり、編集したりしてきた映像をご覧いただこうと思います。

パプアニューギニア政府観光局 オフィシャル映像

最近撮影した映像のうち、CGを除いた多くがデジタル一眼カメラで撮影したものです。最近は自然をテーマとした映像が増えていますが、これは最近になって国や自治体などがオフィシャルの映像を撮影するようになったことが大きく関係しています。以前に比べて小さな予算で映像を作れるようになったことで、オフィシャル映像を撮る自治体が増えてきているんですね。

ここで紹介した以外にもインタビューや密着取材、ライブの撮影やCM、PV、会社の撮影でもデジタル一眼カメラで、小さなチームで撮影する機会が増えています。では小さなチーム、「最小単位の撮影」とはいったいどういうものか考えてみましょう。

img_event_cpplus2017_iwamoto_03.jpg

デジタル一眼カメラが使えるようになって変わったことの一つが、1〜2人での撮影ができるようになったことです。これが実現できた背景には、カメラだけでなく撮影を補助する機器の変化もあります。例えばスライダー、スタビライザー、水中撮影のための機器といったものが一昔前と比べて非常に小さくなり、手持ちで持ち運ぶこともできるようになりました。先ほど見ていただいたように、パプアニューギニアの映像にはイルカと一緒に泳いでいるようなシーンがありましたが、そういった撮影ひとつをとっても機材が大きかった時代には大変な苦労をしたものです。

カメラが小さくなったメリットは他にもあります。彼らの生活の中に入り込み、日常の様子を見せてもらうためには小型の機材が必須です。その点で、デジタル一眼カメラは小さいにもかかわらず画質もいいですし、多様な映像を撮ることができます。

img_event_cpplus2017_iwamoto_04a.jpg機材の小型化により、水中撮影なども小さなチームで対応できるようになった

少人数の撮影で映像に変化をつけることができるのか、と心配される方もいらっしゃるかもしれません。でも、デジタル一眼カメラはレンズ交換をすることで多様な映像を撮影することができますので、そういった特徴を活かす撮影を心がけています。また、デジタル一眼カメラは手持ちでスタンバイし、決定的なチャンスを待つことができます。例えば動物の自然な姿を撮る際にはいつ決定的な瞬間が訪れるかわかりません。いつでも撮影ができるようにカメラを手にし、録画ボタンに指をかけておく。デジタル一眼カメラはそういった撮影がとてもしやすいのです。

それとは逆にカメラを固定し、待ち伏せして撮影することもできます。動物の警戒心のない映像を撮るには、長回し撮影が効果的です。また、夕陽が落ちていくシーンや星空、そして朝陽が昇る様子を撮影するのに効果的なタイムラプス撮影ができる点もデジタル一眼カメラのメリットの一つです。こういった手法で撮影し編集した映像は、テレビ局などにも貸し出しています。一眼カメラで撮影した映像は、十分にテレビクオリティでの撮影ができるというわけです。

ちなみに最小単位での撮影の場合の機材とはどんなものでしょうか。実際に行なった撮影から一例をあげますと、デジタル一眼カメラが1台、三脚、スライダー、水中ハウジング、インターバル撮影用のレリーズ、レンズは長短含めて4本で撮影を行なっています。これなら一人で持ち歩くことができますし、2人いれば2班での撮影ができます。そして映像を編集し、YouTubeなどの動画サイトで公開する。そのすべてのプロセスを手元で行なうことができる。それがデジタル一眼レフカメラの力だと思います。

img_event_cpplus2017_iwamoto_05.jpg使用機材の一例。このくらいの機材であれば一人で持ち運ぶことも十分に可能だ

小型カメラを併用する

次に「小型カメラ」について触れてみたいと思います。GoProなどのアクションカムやiPhoneなど、最近では小型カメラを仕事で使う機会が増えてきました。実際に撮影に利用したシーンを見ていただこうかと思います。例えばカメラをペンギンが歩く道の岩陰に隠して撮影をしたシーン。ペンギンがすれ違ってちょっと面白い行動をします。こういったシーンを撮影することができたのはカメラが小型で、目立たないように設置することができたからです。

img_event_cpplus2017_iwamoto_06.jpg岩陰に小型カメラを設置して撮影すると、動物の思わぬ生態を垣間見ることができる

また小型カメラであれば水中ハウジングに入れて海中を撮影したり、船から直接水中に突っ込んで撮影することも可能です。小型カメラといえばドローンもその一つですね。小型カメラを使うことで、さまざまな応用ができるようになりました。

img_event_cpplus2017_iwamoto_07.jpg小型カメラを使用することで映像のバリエーションが増える

小型カメラというと画質が気になるという方もいらっしゃるでしょう。確かに小型カメラはデジタル一眼カメラほど映像がきれいではありません。しかし私はそのことがデジタル一眼カメラで撮った映像の美しさを際立たせる役割を果たしていると感じています。例えばドローンと一眼カメラを組み合わせることで、両者の特徴が活かされ相乗効果が生まれる、というわけです。

img_event_cpplus2017_iwamoto_08.jpg小型カメラの特徴をうまく活かす撮影とはどういうものかを考えてみるのがいいだろう

小型カメラはダイナミックな撮影がメインで、例えばホテルの撮影のようなフォーマルなものには使えないと考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。こちらのアリラホテルから依頼を受けて撮影をしたプロモーション映像では、キャメラマンが一人でデジタル一眼カメラと小型カメラを組み合わせて撮影をしています。

バリ島 アリラホテル オフィシャル映像

アリラホテルの映像。途中の夜のシーンは高感度が得意なデジタル一眼カメラを使って撮影をしている

ホテルのシーンでは夜の撮影がとても大事です。高感度のカメラを使ったノイズのない映像とドローンを使った浮遊感のある映像を組み合わせることで雰囲気が出すことができたと思います。

固定カメラがキャメラマンの自由度を高める

次に紹介するのはイベントでの事例です。私の場合、イベントでは小型カメラを固定カメラとして利用することが多いです。例えばカウントダウンイベントなどの場合、もっとも気を遣うのは「カウントダウンの瞬間を必ず押さえないとけいけない」という点です。ただし、そればかりに気をとられていると自由な撮影ができなくなってしまうんですね。それではデジタル一眼カメラの機動性を活かし切ることができません。

そこで小型カメラを固定カメラとして活用します。イベントではカウントダウンを表示する画面が映り、会場の雰囲気が伝わる場所に固定カメラを設置しました。この固定カメラのおかげで、キャメラマンは自由に移動をしながら撮影ができます。固定カメラには、撮影の機動力を上げる役割があるのです。

ageHa COUNTDOWN 2015 OFFICIAL AFTER MOVIE

カウントダウンイベントでは複数の小型カメラで固定撮影をして、必ず映さないといけない画を押さえる。それによってキャメラマンは自由に動くことができるようになる

小型カメラが活きるシーンは他にもいろいろとあります。例えば音楽フェス。ステージがいくつもあるような大きなフェスですと、担当できるキャメラマンは1ステージあたり1〜2人の場合が多くあります。こういったケースでも小型カメラを固定カメラとして活用することで映像に変化をつけることができます。この撮影方法は結婚式などのイベントにも応用ができると思いますので、ぜひ皆さん試してみてください。

次に同じカメラを複数使用した映像を紹介します。こちらのケースでは、DJが扱うターンテーブルのすぐそばにカメラを設置して迫力ある映像を撮影しつつ、キャメラマンは動きをつけたり場所を変えながら撮影をしました。こうすることで少人数でも迫力のある変化に富んだ映像を撮影することができるわけです。

Yamato - CDJ-2000NXS2 & DJM-900NXS2 Performance

ターンテーブル近くにカメラを設置し、映像に変化をつけている

さて、最近ではワンカット撮影でどこまでできるのか、そのままでCMで使えるような映像が撮れないか、ということにトライしています。例えば長野県木曽で撮影した映像では、ワンカットで星空を捉えるというテストをしたのですが、この映像をFacebookに公開したところ、大きな反響がありました。

上の動画のFacebookページ
https://www.facebook.com/IWAMOTOFILMSTUDIO/videos/1916502631927884/

面白いなと思ったのはコメント欄に愛の告白を書き込んでいる人がいたということです。「こういう星空を一緒に見たいですね」「私もそう思っていました」みたいな感じです。いい映像が撮れれば見る側のさまざまな反応が現れる。それが映像の面白さだと思っています。

と、ここまでいろいろとお話をしてきましたが、映像というのはダイナミックであるだけが良いというわけではありません。一つ一つをきちんと撮ることが大事な時もあります。 キャメラマンやディレクターがそのシーンをどう撮るべきなのかをよく理解する。それこそが他人との違いにつながっていくと思います。ぜひ皆さんもこういった環境をうまく活用して、良い映像を撮っていただけたらと思います。

私の話はここまでなのですが、まだ少し時間があるようですので、もし質問があれば受けたいと思います。


質疑応答

Q. BGMとして利用している音楽について伺います。音楽に合わせてシーンを作るのか、それとも先に映像を撮って音楽を決めるのでしょうか。

A. 私の場合、ほとんどのケースで撮影前に音楽を決め、シーンのイメージを固めてから撮影をします。音楽は作曲家に制作を依頼していますが、意図がズレてしまうことがないよう、あらかじめ市販されているループ音源をもとにイメージを固め、それを作曲家の方に渡して作ってもらうようにしています。

Q. マルチカメラ編集では映像の選択肢が多くて迷うことが多いのですが、どういった視点でセレクトをされていますか?

A. 例えば先ほどお見せしたDJのシーンのように、機材がある場合はそれがよく見えるカットを中心に構成し、見せたい瞬間を引き立てる画をその前に配置するようにしています。寄りの前には引き、その前にはミドルといった感じで画の広さで切り替えるのが一つの方法です。あと、編集で大事にしているのは色です。シーンごとに色がズレていると、落ち着いて見ることができません。最近はLog撮影をして後からでも色を合わせやすいようにしたり、カラーチェッカーを利用してグレーディングをするといったことをしています。なお、マルチクリップ編集はいまや必須になりましたが、4K映像が混じるとPCによっては編集が厳しくなることがあります。その場合は分けて編集をしています。

Q. カメラのメーカーは揃えますか? またビデオカメラは使いますか?

A. メーカーについては予算次第です。予算が足りない場合は仕方がないのでカラーグレーディングで色味を合わせるようにしています。ただし、同じメーカーのカメラだからといって同じ色で撮れるとは限りません。結局は映像ごとに合わせる場合が多いです。 ビデオカメラについてですが、もちろん使います。長回しで押さえる場合などに使用することが多いです。

そろそろ時間のようです。今日は長い時間、どうもありがとうございました。

取材:小泉森弥

関連記事

powered by weblio