CP+プロ向け動画セミナー 2018

映画撮影用のシネマレンズを一眼ムービーで試す

解説:千葉孝(撮影監督/デジタルイメージテクニシャン)
ゲスト:若松大久真(株式会社シグマ)

最近、一眼カメラの動画撮影を想定したシネマレンズが増えている。豊富なスチル用レンズを使えるのが一眼ムービーの良さであるが、シネマレンズを使用するとどんなメリットがあるのか。多くのCMやドラマ、映画などの撮影に携わる千葉孝氏が解説した。

注目を集めるシネマレンズ

img_event_cpplus2018_chiba_25.jpg千葉孝氏(撮影監督/デジタルイメージテクニシャン)

今日は「映画撮影用のシネマレンズを一眼ムービーで試す」というテーマでお話をさせていただきます。現在、多くの会社がシネマレンズを市場に投入していることもあって、大きな盛り上がりを見せているジャンルです。その背景などもあわせてお話をさせていただければと思います。

なお本日は、シネマレンズを発売しているメーカーの1つであるシグマのレンズ技術者、若松大久真(たくま)さんにもおいでいただいております。後半は若松さんにも登壇していただき、専門的なお話をうかがってみたいと思っています。

まずは簡単に私のプロフィールからご紹介させていただきます。すでに30年ほどムービーのカメラマンの仕事をしておりまして、テレビCMやドキュメンタリー、さらにはドラマや映画などの仕事もしています。

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さて、写真の分野同様に、映像の世界も技術革新のスピードがどんどん上がっています。皆さんもご存じのように、4Kばかりか8Kの放送も実現しようとしていますし、ネットワークの技術も進展していますから、最近では、テレビ局や映画会社だけではなく、「Amazonプライムビデオ」のような新しい映像配信も一般化してきました。

それにともなって変化をし続けているのがビデオカメラ、そしてシネマレンズです。一眼レフ用のレンズでももちろん、動画は撮ることはできます。でもなぜシネレンズが発売され、高価であるにも関わらず購入する人がいるのか。ちょっと不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。

実は、私のように映像を生業にしている立場からすると、一眼レフ用のレンズで撮影すると、現場でいろいろと困った事態に遭遇します。それに対してシネマレンズがどう役に立つのか。そんな視点から、今日はお話をさせていただきたいと思います。

シネマレンズとはどういうレンズなのか?

写真の世界ではあまりなじみがないかもしれませんが、ムービーの分野では「キャメラワーク」という言葉を頻繁に使います。ムービーには、たとえ15秒のコマーシャルであれ2時間の映画であれ、時間の概念が存在しています。ですから、カメラの動きが演出の手段として重要になります。例えばパンのようにカメラを振ったり、ズームをしたり、クレーンやドリーを使ってカメラを動かしたりといった演出が、大きな役割を果たすわけです。こうしたキャメラワークが、印象的な表現を作り上げていきます。

このような表現をする場合、スチル用レンズではうまくいかないことがあるんです。例えば、女優さんの口元にゆっくりとズームをしていくようなシーン1つを取っても、スチル用のレンズではうまく撮影ができません。それはなぜか。その理由を理解していただくために、スチルレンズとシネマレンズの違いを表にしてみました。

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こうしてみると、両者には違う点が多いということがわかるかと思います。例えば「絞りリング」。ほとんどのスチルレンズは、映像撮影中に絞りを変えることはできません。変えられたとしても、F2、F2.8、F4…と、段階的に変わっていきますから、変化のタイミングでカクカクしてしまうんです。一方、シネマレンズは、撮影中でも自由に、しかも無段階に絞りを変えることができます。

次に「フォーカスリング」。シネマレンズはスチルレンズと違って、無段階にしかもスムーズにフォーカスリングを回すことができます。また、回転角の大きさにも違いがあります。シネマレンズではおよそ180度から200度と、角度が決まっているんですね。例えば映画の場合、フォーカスの操作はフォーカスマンという専門の人が行ないますが、彼らは被写体までの距離をメジャーで測って、どのくらい回転させればフォーカスが合うかを事前に決め、レンズに印を付けています。そうした人にとっては、回転角が大きすぎたり小さすぎたりするレンズは使いにくいんです。

他にも、周辺機材を使ってフォーカス合わせを行うためのギアがあるか、さらにはリングの位置が統一されているか、といった部分にも違いがあります。これらの要素も、採用されていないと撮影がうまくいきません。シネマレンズはこうした機能を採用しつつ、使い勝手がいいように設計されているのです。

フォトグラファーの皆さんは、「ブリージング」という言葉はあまり聞いたとこがないかもしれません。レンズによって、フォーカスリングを回すと、撮影している映像の画角が勝手に変化してしまうことを言います。ブリージングが多いレンズだと、手前と奥に人がいるようなシーンの撮影で不自然さが目につきます。シネマレンズはこうした点にも気を遣って作られています。

ムービーカメラマンがレンズに求める性能とは?

こうした違いを踏まえて、ムービーカメラマンが求めるシネマレンズのスペックがどんなものか、という話に入っていきたいと思います。リストにまとめてみましたので、まずはそちらをご覧ください。

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1番目の「スムーズなフォーカスとズーム操作」、2番目の「ブリージングの無いレンズ設計」については今お話をしたとおりですが、では3番目の「迅速なレンズ交換が可能なサイズの同一性」は何か。ちょっとわかりにくいかもしれませんが、それぞれのレンズで、フォーカスや絞りのリングの位置やサイズが同じか、さらにはフォーカスギアのような周辺機器を付けるための規格が同じか、といったことを意味しています。

我々ムービーカメラマンは現場に5本から6本、多い時には10本以上のレンズを持参し、100回、150回とレンズ交換をします。もしレンズのサイズや形がひとつひとつ違っていたら、そのたびに時間をかけて設定をし直さなければなりません。そんな非効率なことはしていられないわけです。実際にシネマレンズを見ていただくとわかるんですが、16〜18mmから100mmくらいまで、前玉の径や全長、さらには絞りやフォーカスリングの位置などが同じようにできています。おそらく、技術的に大変難しいことをしているのではないかと思います。

4番目は「ズームレンズにおけるすべての焦点距離下でのフォーカス」と書きました。わかりにくいかもしれませんが、要は「引きボケ」の話です。ズーム側、すなわち、いちばん寄ったところでピントを合わせたのに、ズームしてみたらピントがボケていた、といったケースですね。フランジバックの調整ができていないから起きることです。写真の場合はずれていても撮影のたびに調整すれば問題がないのですが、ムービーの場合は撮影中にズーム操作をすることがありますから、それでは困るわけです。

5番目は「無段階絞りによる快適な操作性」。これは先ほどお話したのと同じです。クリック感のない無段階で調整ができる仕組みであってほしい。カクカクと絞りが変わっては映像が不自然になってしまいますので、これもまた重要なポイントです。

6番目としては「絞り値の同一性」を挙げました。例えば、AさんとBさんの会話のシーンを撮影していたとします。2人のいる場所までの距離が違うので、レンズを変えてそれぞれのアップを撮影しようとなった場合を考えてみてください。その場合にそれぞれの絞り値を揃えることができないと、イメージの統一性を含めいろいろと不都合なことが起こりえます。やはり使う立場からすると、使用しているレンズセットで同一の絞り開放値レンズが理想です。

さて、今度はマウントの話をしてみたいと思います。図は一般的なシネレンズで使用されているマウントを示したものです。来場者の皆さんも、このマウントのいずれかをお使いなのではないかと思います。

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この中でご存じない方が多いのは「PLマウント」ではないかと思います。PLとはポジティブロックの略で、映画などのカメラでは標準的なマウントとして使われています。押す方向にロックすることもあって、現場で使っていて、安心感を感じることのできるマウントです。

シネマレンズは高いか?

ここまで聞いても、それでもシネマレンズって高いよねって思うかもしれません。例えばキヤノンのスチル用の50mmレンズには、18万5,000円という値札が付いています。これに対して、シグマのシネマレンズの50mmは42万円です。やはり高いな、手が出ないなと思う方も多いと思います。

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ただ、先ほど紹介したARRIのレンズなどは50mmで300万ぐらいします。そう考えるとシグマのシネマレンズはとても安い。全体的な傾向として、価格はだんだん下がってきています。キヤノンでもフジノンでも良いシネマレンズが出てきていて、しかも価格も意欲的です。

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シネマレンズを使う場合はアダプターなどの周辺機器が必要になります。レンズが重いですから、一眼に付けると前が重くなってしまってバランスが取りきれなくなってしまうんですね。さらにはフォーカスを合わせるためのギアやドリー、クレーンに接続した際に使用する無線のアクセサリーなども必要となります。

ただし、こういった周辺機器も、最近は多くのメーカーが登場し、クオリティが高いにも関わらず安価なものも増えてきています。以前に比べれば、かなりとっつきやすくなっていると思います。

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と、ここまで駆け足で説明をしてきましたが、ムービー撮影の際のキャメラワークを考えた時に、シネマレンズの優位性が大きいということがわかっていただけたのではないかと思います。今後動画の作成に力を入れていこうというのであれば、レンタルで借りることもできますので、ぜひシネマレンズを使ってみていただければと思います。

対談 レンズメーカーから見たシネマレンズの今

ラージフォーマットの衝撃

千葉 さて、ここでゲストの方に登壇いただきたいと思います。 シグマでシネマレンズのプロダクトマネージャーを担当されている若松大久真さんにおいでいただきました。若松さん、どうぞよろしくお願いします。

img_event_cpplus2018_chiba_26.jpg若松大久真(株式会社シグマ シネマレンズ プロダクトマネージャー)

若松 よろしくお願いします。と、出てきたはいいものの、すでに千葉さんのほうから、シネマレンズについて知っておいてほしいことは全部お話しいただいたんじゃないかと思っているんですが…。

千葉 いえいえ。まだまだいろいろとあると思いますので、ぜひお願いします。

若松 それではシネマレンズに注目が集まる中で、作り手側の目線でお話をして見たいと思います。レンズのことを語る際には、レンズの話だけをしていてもなかなか全体像がつかめません。そこで、業務用のビデオカメラのトレンドについて触れてみたいと思います。

最近、ムービーカメラの分野の話題といえば、なんといっても「ラージフォーマット」と呼ばれる大きなセンサーを持ったカメラです。例えばソニーの「VENICE」やARRIの「ALEXA LF」、REDの「MONSTRO」といったカメラです。

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千葉 先だってのInter BEEでも、ラージフォーマットはいちばんの話題でした。

若松 ラージフォーマットとは何に対してラージなのかといいますと、実は映像の分野では「スーパー35」と呼ばれる、写真の「ハーフ版」にあたるサイズのセンサーが標準として使われてきたという前提があるんですね。

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千葉 先ほど紹介した、BlackmagicのURSA Miniもこのサイズですね。

若松 ラージフォーマットというのは、これまでの「スーパー35」よりも大きなサイズのセンサーすべてを指しています。

例えはソニーのVENICEは写真用フルサイズと同じ大きさで、先日発表されたARRIのALEXA LFはそれよりもちょっと大きなサイズのセンサーを積んでいます。さらにREDの「MONSTRO」のVV Sensorは、アスペクト比が異なる横長のラージフォーマットセンサーを積んでいます。ここまでお話ししてもうおわかりかと思いますが、フォトグラファーの皆さんにとっては当たり前のフルサイズセンサーが、ムービーの分野でも使われ始めたということなんです。

あまりにも長い間スーパー35フォーマットのカメラが標準だったために、大騒ぎになっているというわけなんですね。ではスーパー35がいつから使われてきたのかというと、なんとフィルム時代の1909年、規格化したのはあのトーマス・エジソンです。もちろんそこからさまざまな進化をしながら、なんと2000年ごろまで、まったく同じサイズで進化してきました。

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千葉 2000年ごろからはデジタルカメラに切り替わりますからね。我々にとって衝撃だったのはREDの登場ですね。PLマウントでRAWの撮影ができるカメラが、安価に登場したからです。

若松 それまで1台2,000万円、3,000万円していたプロ用のムービーカメラが200万円ぐらいで買えるようになったわけですからね。さらにBlackmagicのようにより低価格のカメラも登場しました。ただし、それらのカメラもフォーマットはスーパー35だったんです。

ではその間、ずっとスーパー35しかなかったのか、より高画質なフォーマットはなかったのかというと、そうではないんです。例えば1950年代には20世紀フォックスが作った「シネマスコープ」が登場しましたし、70mmフィルムを利用するカメラなども登場しました。そのなかでも唯一、成功に近づいたのは1970年台に登場した「IMAX」でしょうね。

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千葉 IMAXはもともと風景とか、広大な自然を撮るためのカメラですね。ただし、クリストファー・ノーラン監督が「ダークナイト」で使うなど、一般の映画でも使われるケースはありました。それでもこれらラージフォーマットが今ひとつ普及しなかった理由、それはなんといってもコストが莫大にかかるためです。制作費が何倍にも膨れ上がってしまう。

若松 こうして歴史を振り返ってみると、ラージフォーマットを使いたいと思っている人はたくさんいたんですよね。そして登場したのが、デジタルのラージフォーマットセンサーを積んだカメラです。最初に登場したのは、先ほどから名前の出ているARRIのALEXA 65です。これは大反響を呼んだのですが、ARRI直営のレンタル店で借りることしかできませんでした。

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千葉 より高画質を、と望む人たちはやはり多かったわけです。

デジタル時代のラージフォーマット

若松 そして2017年に大きな事件が起きました。ラージフォーマットのカメラがついに買えるようになった。それがソニーのVENICEです。本体のみで約400万円ですから、高価なことに変わりはありませんが、これまでは借りるしかなかったカメラを買うことができるようになったというのは、大きな出来事でした。

千葉 この驚きをどう伝えればいいのか難しいんですが、我々映像に携わる者にとっては、F1のレースカーを購入できるようになったくらいの衝撃があった、と言うと伝わるでしょうか。もちろん、おいそれと買える価格ではないんですが、入手する方法がないのとは意味が違います。

若松 こう言ってはなんですが、センサーサイズはα7に積まれているものと変わらない。ですが、映画でも使えるムービーカメラというとこれしかないこともあって、注目を集めているんです。そして、ARRIやREDも続いた、と。そんな背景もあって、我々のようなレンズメーカーもシネレンズを作っていこうとなったわけです。

ではラージフォーマットのメリットとは何かというと、それはここにいらっしゃる皆さんであればピンとくると思うのですが、「APS-C」とフルサイズの違いです。画質、ノイズ、さらには焦点距離の変化といった点ですね。スチルカメラが先に体験したことを今、映画の世界が追体験している感じでしょうか。

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千葉 撮る側からすると、ワイド撮影がしやすくなったこともそうですが、高画素化、高画質化により、動画の情報量が増えたことがポイントかなと思っています。今はYouTubeやVimeoで公開するような短い動画が一般化しましたから、 ますます1カット1カットの映像クオリティが求められる傾向ではないかと思います。

若松 今後、各社からラージフォーマットのカメラが登場してくることになるはずですので、いよいよ大きな変化が起きるだろうと思っています。となると、やはり解像度や画質の面でもラージフォーマットに対応したレンズが必要になりますね。

千葉 使い手の立場から言うと、カメラは世代の更新も速いから、作品の中身や予算に合わせて借りることが多くなると思うのですが、レンズに関しては、長く使える財産になります。今から購入されるのであれば6K、8Kに対応した、品質の高いレンズを購入されるのがいいと思います。

若松 我々としても、カメラの撮影品質が上がっても十分に対応できるよう設計をしています。しっかりと、長く使っていただけると思います。

千葉 ところで、写真用のレンズとシネマ用のレンズのリリースって関係があるんでしょうか。シグマさんで言うと、最近、スチル用の105mmレンズを発表していますよね。非常に注目されているレンズなんですが、近いうちにシネマ用にもなるのかな、と。

若松 シグマのレンズに関しては、同じ焦点距離のレンズでも、重さやサイズ、さらには価格は違っても、ガラスは同じもの使っていますので、スチルレンズとシネマレンズを並行して企画するというケースはありますね。ですので、楽しみにしていただければと思います。

質疑応答

千葉 少し時間がありますので、最後に会場の皆さんから質問をお受けしたいと思います。

[質問] カメラが新しくなることで解像度が高まっているといったお話がありましたが、具体的にはレンズのどんな点が進化しているのでしょうか。

若松 品質を高くするには、レンズを大きくするというのがひとつポイントになります。最近シグマのレンズが大きいのはそれが理由です。また解像度について言うと、「非球面レンズ」がひとつのポイントになると思います。以前は直径35mmとか50mmでしか使えなかった大きな非球面レンズを、最近では直径80mmぐらいのレンズが使えるようになってきました。その辺りの進歩は大きいのかなと思います。

千葉 そろそろ時間のようです。ありがとうございました。


取材:小泉森弥

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