デザイン エクストリーム セミナー 2012

3Dプロジェクションマッピング

講師:株式会社NHKエンタープライズ / 株式会社P.I.C.S.

2012年2月16日に開催された「デザイン エクストリーム セミナー 2012」のCG & Movie sessionでは、NHKエンタープライズとP.I.C.S.との共同プロジェクト、3Dプロジェクションマッピング「SEIKEI 3D PROJECTION MAPPING」の制作ノウハウが披露された。建物の壁面をスクリーンとして大型映像を上映する注目の新技術に迫った。

寺井弘典氏 本日進行を担当します、P.I.C.S.の寺井と申します。我々は映像制作会社でして、まず中心として扱うのは音楽まわりの映像で、ミュージックビデオは年間100本ぐらい作っています。またNHKタイムスクープハンターやオリジナルコンテンツ、それ以外にもさまざまな映像に取り組んでいます。この3Dプロジェクションマッピングのプロジェクトを共同で担当しました森内さんが所属するNHKエンタープライズは、NHKで放送されるアニメやエンターテイメントの制作、キャラクターグッズ制作や映画事業、展示映像などさまざまなことに取り組んでいます。

森内大輔氏 はい、昨今は番組制作だけではなく、自主事業をより強く進めていこうということでさまざまな企業や制作会社と新たな映像事業の可能性を追求していこうとしています。

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寺井弘典氏(株式会社P.I.C.S.)
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森内大輔氏(株式会社NHKエンタープライズ)
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浅井宣通氏(株式会社P.I.C.S.)
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安藤隼人氏(株式会社P.I.C.S.)

寺井 さて、それでは今日のテーマである3Dプロジェクションマッピングについてお話ししていきましょう。この3Dプロジェクションマッピングをやるきっかけとしては、最近大型映像がまた注目されているように感じていたところからです。アーティストのステージ映像もそうですよね。それは、体験を共有していく、そして感動をシェアしていくということがキーワードになっているように感じていました。

そこにきて、この3、4年、海外では3Dプロジェクションマッピングという映像技術を使った面白いプロモーションが行なわれていました。しかも、ヒュンダイとかインテルとかナイキとか、世界的な企業が使っているんですね。でも、日本ではまだこれからだというムードだった。そこで、一緒に開発できないかという話を森内さんに話したところから始まりました。

森内 私も、映像制作のノウハウを使って他のメディアで体験や情報コミュニケーションを生み出せないかと考えていました。寺井さんがおっしゃったプロジェクションマッピングにはその可能性があるのではないかということで、開発を始めたという経緯ですね。

寺井 そこで、我々が共同開発して、2011年11月19、20日に東京・吉祥寺の成蹊大学の学園祭で3Dプロジェクションマッピング上映「SEIKEI 3D PROJECTION MAPPING」をやることになりました。まずは映像をご覧下さい。


SEIKEI 3D PROJECTION MAPPING[OFFICIAL] from worldmov on Vimeo.

森内 我々とP.I.C.S.さんで、いち早く国内で大型のプロジェクションマッピングの事例を作ろうということで、創立100周年を迎える成蹊学園さんに協力を頂いて行なったものです。成蹊学園が100周年を迎えるということだったんですが、それをOBの方や在校生にどうやって伝えていくかを悩まれていまして、そこでプロジェクションマッピングを紹介したら、受け入れていただけました。

寺井 成蹊学園の本館校舎に投影したのですが、学園側には非常に協力していただきましたよね。会場も真っ暗にしていただいて。僕達の経験として、建物側の協力を得るというのはなかなか大変なことなんです。ある時間に消灯していただくというのは中で作業ができなくなってしまうので。

森内 中の照明と外の環境照明の両方を消していただかないと、鮮やかな色は出せませんから。そして、この校舎は学生の方が現在学ばれていたり、かつて学ばれていたりする思い入れのある建物です。失礼な表現がないよう、いろいろなことに気を配りながら進めました。今回は創立100周年のイベントということで、最後に沿革や創立背景についてのシークエンスを上映することで、成蹊学園自体のブランドイメージが多くの方に届くという評価が得られました。関係者の方のモチベーションが上がると感じましたし、実際、学長や教職員の皆さんにもとても喜んでいただけたと。

寺井 今回はバラエティに富んだ表現を追求しようということで、全体の長さ約10分30秒を5つのパートに分けて、それぞれを1人のクリエイターや3DCGチームが担当、全部で5バリエーションのいろんな表現に挑戦しています。

森内 多くのパートがCGで作られているんですけど、スーパーハイビジョンのカメラで撮影した高精細な素材を使っているところもあります。スーパーハイビジョンは、NHKと関連団体が主体となり研究しているもので、8Kの解像度を持つ映像です。HDの映像を大型化しようとするとどうしてもブローアップせざるをえないのですが、スーパーハイビジョンならこのような巨大な映像にしても画像が荒れないという魅力があります。

寺井 さて、それではこの映像をどうやって作っているかというのを、簡単に浅井の方から説明します。

リアルな表現にするために、奥行きを考えた映像を作る

浅井宣通氏 建物の形にぴったりと合った映像がプロジェクションされるには、まず最初に建物の形をしっかりと計測する必要があります。それには、3Dレーザスキャナという、レーザーを当てることで建物の立体の形状を計測できる機器を使用します。一度建物を立体計測すると、ポリゴンでできた立体の模型データが出来上がります。その模型データを元にして「Autodesk Maya 2012」などの3Dソフトでさまざまなアニメーションを作るというプロセスになります。

寺井 建物の図面とか設計図をもらっても、実際は実物と違ったり経年変化があったりで合わないっていうことですよね。

浅井 そうですね、プロジェクションマッピングは少しでも位置がずれると「映像を投影したんだな」というのがバレてしまう。そうするとギミックが弱くなって見ている人が覚めてしまうんです。いかに正確に計測して、プロジェクションするかというのがキモになります。

もう1つ見えないところのプロセスとして、1/100の模型を作っています。実際のモデリングデータを元に、3Dプリンタで瓜二つの立体物を作り出すのです。その模型に映像を投写してテストするんですね。特に今回は初めての試みだったので、模型にさまざまな映像を投写して、どんな法則性や規則性があるかを研究しながら作りました。そこで得られたノウハウを元に本番のプロジェクションをしたわけです。かなり正確にシミュレーションできます。

寺井 今言ったように、プロジェクションマッピングは正確にきっちり投影していくことが一番大切なんです。そして、そのためにはこの空間が真っ暗になることも重要です。

東京だとどうしても街明かりがあるので、その見え方に苦労することがあります。では、実際に安藤が制作したパートをコンピュータの画面を見ながら紹介しようと思います。

安藤隼人氏 僕は、このプロジェクションマッピングの光が筋になって動くパートとテトリスのパートを担当しました。アイディアとしては、建物を動かすのをやりたいなと思っていたんです。観客は目の前の建物を実感している。その建物がずれて動いたように感じると盛り上がるかなと思って、建物主体の演出を考えました。実際は壁に投影するんですけど、壁1枚にイメージを投影するというのではなく、壁の奥の部分だったり前だったりと、空間でイメージをマッピングしたわけです。

計測データで上がってきたのは建物の前の部分なんですけど、壁の奥や手前みたいなことを表現したかったので、光を受ける「壁」を奥に作ったんですね。そして、光というものを含めてマッピングしていきます。光の存在感を出すには影が必要なので、こういうライトボールの映像で表現しました。テトリスのパートも同じように奥行きを考えて空間を表現しています。

寺井 このライトボールのパート、僕は好きなんですよね。ライトボールが建物の中に入って移動しています。平面的なスクリーンとしてではなく立体として移動しているという、プロジェクションマッピングの醍醐味が感じられます。

img_event_dexs2012_pics_05.jpg 「Autdesk Maya 2012」によるプロジェクトファイル画面。建物を壁としてだけでなく奥行きがある構造として捉え、これにライトボールをマッピングしていく。すると、上の図のように光が建物を抜けて動いているような映像を作り出せる。

img_event_dexs2012_pics_06.jpg テトリスのパートも、ブロックの横から見てブロックの厚みを出したり、テトリスのブロックの上にブロックがある様子を見せたりしている。それによって建物が受ける影をリアルに表現してマッピングした。

さまざまなクリエイターの力が集結して
クオリティの高い作品に作り上げる

安藤 今回のプロジェクトにはいろんなクリエイターが関わったことも、うまくいった理由の1つだと思います。我々クリエイティブチームにプラスして、テクニカルディエクターを入れました。今回上映した成蹊学園の建物はレンガ造りなんですけど、この質感を研究して、レンガの反射率はどれくらいで、どれくらいの色を当てるとこれぐらいの見え方になるという分析をしてもらったんです。それを元に、最終的には僕らが作ったムービーにカラー補正をかけています。カラー補正をかけるとかけないとではまったく出力具合が違います。カラー補正をかけないと迫力感がなくなってしまうんですね。ぎりぎりまでカラー補正が大変でした。

img_event_dexs2012_pics_07.jpg 最終的には、カラー補正によって赤みが加えられた。カラー補正は現場レベルでテクニカルディレクターが調整したという。

寺井 1日目と2日目で天候も違うので見え方も違う。その日その日の天候状況を感じながら補正しなくちゃいけないですよね。

安藤 はい。カラー補正をかけることで、単純に「面白いものを作って投影する」というだけではなしえなかった迫力感が出て、ものすごくよかったです。

寺井 レンガ造りの建物が動いているというリアリティが生まれていますよね。人の目はかなり繊細なものなんです。ちょっと色が違っていると、建物としては感じられなくなってしまう。意外と、人というのは立体的な感覚ではなく見た目の感覚で見ているんだなと思ったりしました。

体験をシェアする映像の試み

寺井 3Dプロジェクションマッピングのように、大勢の人が現場で映像を体験して、その「体験をシェア」というのがキーワードになっていく気がします。今後もこういう空間自体を1つのテーマにして、その空間の特性を活かした映像を作っていきたいですね。そして、現場で見た人がケータイで撮ってFacebookやYouTubeでシェアしたくなる、そういったことを考えています。そのためにもいろんなクリエイターに参加してほしいです。

森内 そうですね、映像クリエイターだけでなく、グラフィックデザイナーとか、音楽を作る方ですとか、プログラマーとか、いろんな方の参加が考えられると思います。

映像を見るのではなくて体感してもらうというメディアを創り出していけるんじゃないかと可能性を感じています。

寺井 この3Dプロジェクションマッピングは映像のスクリーンが現実の建物や空間に拡大することで、映像を客観的に見るというよりは映像の中に入ってしまう。包み込まれてしまうんですね。そんな映像が生成する現場に立ち会うことでダイレクトな感動が生まれます。その感動をシェアしていく。今後のエンターテイメントのある方向性として、新鮮な感動、エモーションをみんなで共有しSNSなどでシェアでしていくのがポイントになるんじゃないかと思っています。本日はどうもありがとうございました。


取材:丸山陽子
会場写真:竹澤宏

P.I.C.S. Co., Ltd.  

2001年にMTV JAPANより分社化し、株式会社ピクスとして独立。 MTVとCM出身のプロデューサー陣と制作部を加え、プロダクション機能を兼ね備えたクリエイター集団として、CM・MusicVideo・オンエアープロモーション、企業C.I、SHORT FILM、映画、オリジナルコンテンツ(タイムスクープハンター etc.)制作等を中心に活動している。PROMAX&BDAグランプリ、カンヌ国際広告祭GOLDなど国際的な評価が高い。
http://www.picsco.net/


森内大輔 Daisuke Moriuchi

1999年、NHKに入局。「紅白歌合戦」や「NHKスペシャル」を中心に、ステージセットやCGのデザインに携わる。2010年より、株式会社NHKエンタープライズ チーフプロデューサー。企画担当として「NHKスタジオパーク」のリニューアルに従事した後、現在はプロジェクションマッピングなど映像コンテンツを核とした新規メディア事業を開発中。2004年度グッドデザイン大賞受賞。
http://www.nhk-ep.co.jp/

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