デザイン エクストリーム セミナー 2012

Intel The Museum of Me

講師:齋藤精一(rhizomatiks co.,ltd.) / 坂本政則(DELTRO Inc.) / 村山健(DELTRO Inc.)

2012年2月16日に開催された「デザイン エクストリーム セミナー 2012」のIntel Sessionでは、齋藤精一氏(rhizomatiks)と坂本政則氏、村山健氏(共にDELTRO)により、Webコンテンツ「Intel The Museum of Me」が紹介された。国内外で様々な賞を受賞したこのコンテンツの製作過程に加え、コンテンツで伝えたかった思いが語られた。

「Intel The Museum of Me」プロジェクトのスタート

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齋藤精一氏(rhizomatiks co.,ltd.)
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坂本政則氏(DELTRO Inc.)
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村山健氏(DELTRO Inc.)

齋藤精一氏 rhizomatiks(ライゾマティクス)の齋藤と申します。僕はもともと大学と大学院で建築を学んでいて、卒業後広告代理店でCMのディレクションやモーターショーのブースのデザイン等を行なっていました。アーティストとしての活動も始めましたが、ご存知のとおりアートをやっていても食べれるわけでもなく、お金をかせぎながら美術を作る方向を探っていって、それがのちのrhizomatiksになっています。

rhizomatiksは2007年に設立したWebや映像制作などの会社ですが、もともとアーティストが集まって作った会社です。ですので、新しいことに挑戦していく「アート」と、その商品をどう売るかという問題を解決する「コマーシャル」を対等に見ています。ただ、今の時代はアートもコマーシャルも「実験的」であるべきだと僕は思っています。特に今回の「Intel The Museum of Me」のプロジェクトは、アートとコマーシャルの境界線上にあるようなプロジェクトですね。このプロジェクトにはさまざまな人が参加しているのですが、今日はDELTROの坂本さんと村山さんといっしょに制作秘話のようなものをご紹介できればと思います。

坂本政則氏 DELTROの坂本です。DELTROはアートディレクターの僕とテクニカルディレクターの村山によって2009年に設立した会社で、オンスクリーンメディアでの広告制作を主に活動しています。

齋藤 さて、Intel The Museum of Meについてお話します。これは、Facebookと連動して自分のためだけに生成されたシネマティックな映像コンテンツなんですが、まず実際のものを見てください。

img_event_dexs2012_intel_04.jpg 会場では、実際に「Intel The Museum of Me」のコンテンツが披露された。Facebookアカウントでログインすると、そのデータを利用した映像があたかも「自分の美術館」のように流れる。
Intel The Museum of Me:http://www.intel.com/museumofme

齋藤 このプロジェクトが始まったのは2010年の9、10月ごろです。もともと田中耕一郎さん(projector)のところにお話が来て、彼とはいつもいろんな仕事で関わった経験があり、僕はテクニカル視点から考える役割でチームに参加しました。これはもともとインドネシアを中心としたアジアのインテルの仕事だったんです。そこでまずはインドネシアのネット事情を調べていくと、ネットインフラの整備は発展途上なのですが、おもしろいことにFacebookの1人あたりのフレンド数が平均4~600人もいる。ほかにもインドネシア独自のSNSもあったんですけど、そこまで広がっていないのでFacebookを使おうということになりました。

そのころすでに欧米のほうではFacebookが普及していたのでいろんな事例を見ましたが、なかなか良い事例がないなと思っていました。もっと挑戦ができるんじゃないかと。また、このプロジェクトは第2世代インテル Core i5 プロセッサーのプロモーションのためのものです。「インテルって、知らないところで我々をサポートしてくれるものだよね」という考えが、一番最初からありました。それをどう表現していこうかと考えていたわけです。

ミュージアムというモチーフが決まるまで

齋藤 制作にあたって、まずFacebookのAPIがどう取得できるかということをデベロッパーサイトからいろいろ探っていきました。でも、よく知られているようにFacebookは最初は独自のコミュニティーの周りの友達のためだけに作ったサイトで、それを付け焼刃的にどんどん広げていっているので、たくさんのAPIがあまり整理されてなかったため、いろいろ実験しながら試行錯誤していました。

坂本 Facebookのデータを取得して、ユーザに特化したインタラクティブムービーを作ろうという方向が見えてきた辺りで、DELTROに声をかけていただいたのです。しかし、具体的にインタラクティブムービーと言っても何を作る? ということになり、さらにブレストは続いていきました。例えばデータビジュアライズの一例としてインフォグラフィックみたいなものを作るという手もありますが、格好はいいですけどそれだけで終わってしまう。僕らの共通意識としては「心に響くものにしたい。」という想いがあり、それには「シネマティック、映画的なアウトプットであるべきだ。」と少しずつ表現のイメージが固まっていきました。

齋藤 いろんな案が出てきたんですけど、「ミュージアム」というモチーフが決まりました。Facebookを使って、自分のミュージアムができるんじゃないかと。実際の美術館を舞台にコンテンツを作ることも考えたんですけど、それはさすがに無理だろうということで、じゃあバーチャルでミュージアムを作ろうということになりました。

坂本 「ミュージアム」というモチーフが決まったこと+谷川さんからの絵コンテと参考資料を拝見した時点で、これから作るべき絵が鮮明に見えました。というのも僕自身が実在するモノをモチーフに、考えを拡張しながらデザインすることを得意としている事もあり、「ミュージアム内の展示物がどういう色調と質感でどういうカメラアングルで流れていったら美しいか。」をイメージし、そのありのままを展示ごとに一枚絵として作り上げました。

img_event_dexs2012_intel_05.jpg 「Intel The Museum of Me」で表示される書体やピクトグラムなどは、坂本氏によってすべて新しく作られた。

齋藤 普通やらないですよね、ここまで(笑)。絵コンテからどうやって実際の絵にジャンプするか、動きにジャンプするか、もしくは物語にジャンプするかというのが難しい所です。でも、坂本さんのほうで作ってくれたイメージがあって、みんなの中に「ああ、これだよね」という指針ができました。そこからわーっと全体の制作が進んでいったという感がありますね。

「温かさ」を伝えるための制作過程

齋藤 こういうプロセスを経て、制作フェーズに入っています。村山さんの苦労話をお聞きしたいと思います。どのへんが苦労しました?

村山健氏 Intel The Museum of Meは、動画がジェネレートされているわけではなく、Flashでリアルタイムに合成して表示するという手法を使ってしまいます。動画にしてしまうとレンダリングを待つ時間が生まれてしまうので、スピーディなレスポンスを大事にしたかったんです。合成のためにプロジェクションマッピング的なことをデジタルの中で行なっているので、CGを作っている人とやり取りをして、CGの中の座標だとか3D空間の情報をいただいてマッピングしました。

img_event_dexs2012_intel_06.jpg Flashでリアルタイムに合成する場合は、精度が重要になる。位置フレームがずれてしまうだけで合成したものが浮いてしまうという。

Facebookから写真や画像を取り込んで美術館の展示物として見せるには、違和感のない合成が求められます。たとえば、Facebookのユーザーアイコンを印刷物として壁に展示している場面では、印刷物としての質感が必要です。壁のモニターに表示する場面なら、モニターが発光しているような質感が必要になります。

齋藤 こういったことをやりながら、CGからポイント座標をもらって、裏で画像を貼り付けてFlashで完全になじむ形で再現するというのは、チャレンジングなことだなあと思いました。それと、「坂本さん、あっぱれ!」と思ったのは、坂本さんには本物の美術館を作るように、画面では見えない部分も含め何から何まで全部デザインしていただいています。たとえば美術館のサインシステムであったり、展示物のデカールであったり、実際には見えないところもあるんですけど、そういうところまでデザインしている。

img_event_dexs2012_intel_07.jpg 坂本氏のサインシステムのデザイン。メーターモジュール(メーターのグリット)を引いて、全部オーバービューを作ったという。

こうして着々と制作が進んでいくわけですが、あるとき僕は映像も作ったほうがいいんじゃないかと思いました。このサイトはFlashで作られているわけですが、モバイルではFlashは見えない。映像を作ろうと思ったのは、そういうモバイルの人が楽しめるようにするためですが、我々自身「このモチーフでもっと作りたい!」もありました。美術館の建築模型を制作して、Intel The Museum of Meのサイトの中で行なわれること、もしくはコンピュータが演算して見せてくれることを、その模型を使って表現しています。この映像をYouTubeに上げて、モバイルの人にはティザー映像として見てもらいました。

インテルは知らないうちに我々を助けてくれているというのが、今回のプロジェクトの一つのテーマになっているんですが、その温かさを表現するにはどうしたらいいか、そこはだいぶみんなで議論しました。温かさを表現する意味でも、CG調だけではなくて、リアルな映像も撮ってみました。

実はこの映像を作るちょっと前に3.11の震災があって、作業が1回止まります。インテルの担当の方はシンガポールにいらっしゃったのですが、制作チームはすべて日本でした。震災の後、現場ではいったん全部止めようということになったのですが、インテルさんにはそこをよく理解していただきました。2ヵ月ほどローンチが伸びたわけですが、僕自身はその2ヵ月がすごく大きな意味があったように思っていて、友達や仲間についてもう1回考えるきっかけになりました。このIntel The Museum of Meのコンテンツって、そういう人と人のつながりだとか、今の日本の状況を表現しているなあと思いました。

そんなわけで2ヵ月遅れて5月31日に公開をしたのですが、うれしいことにすぐにサーバーにアクセスが集中しました。Facebookって24時間、世界中で時間帯が違う人でもいつでも見ているんです。ものすごいアクセスが来て、サーバー稼働がマックスまで達しそうでした。結局、サーバーは何台になったんだっけ?

村山 最初は4台で、ローンチしたその日のうちにすぐに追加しましたがそれでも追いつかない。もう、どーんと追加したほうがいいだろうということで、1日、2日で24台になりました。Facebookの「Like」がバンバン増えていって 、リロードするたびに何十件も増えていくような状態でしたね。

齋藤 コンテンツの中で地図が出てくるところがあります。あそこはFacebookのプロフィールの中の「僕はどこに住んでいます」という情報を地図を表示しているんですが、最初はGoogleマップを使っていたんですよね。

村山 最初はGoogleマップを使っていたのですが、諸事情により途中から独自のGoogleマップみたいなものを作り、現在はそちらを使用していますね。

「Intel The Museum of Me」で表したかったものとは

齋藤 Intel The Museum of Meは最初アジアの一部の地域向けのコンテンツでしたが、反響があまりにもすごかったので、すぐにアジア・パシフィック、そしてグローバルのコンテンツになりました。2011年の終わりで2億2300万インプレッション、シェアが130万ぐらい、ライク数が13万ライクという、非常に多くのアクセスをいただきました。個人的にうれしかったのは、「おもしろいサイトがあるから見てみなさいよ」と僕の奥さんから言われたことなんですね。もちろん僕が作っていることは知らなかったわけですが、うちの奥さんは普段こういうものに関心がないほうなので、そういう人にも届いたんだなあと。それで初めて成功したと思いました。

このコンテンツは人の心に刺さるものを目指しています。インテルの商品を直接的に「速いよ」「すごいよ」と言うのではなく、もっと深いところで人間のどこかにある共通意識を表現したので、すごくいいコンテンツになったと思っています。インテルの存在って、ものすごく深くて広い海みたいなものなんだというコンテンツです。サイトの最後にインテルのマークが出てくるところは、いろんな人に「ああ、なるほど」と納得してもらえるだろうと思っています。それから僕がこだわっていたのは、グローバルな舞台で、海外に対抗できるテクノロジーを駆使して作っていくということです。日本の、このチームでやれたのはすごくよかったですね。

坂本 このコンテンツの裏側には様々な技術と工夫が散りばめられていますが、それらを全く意識させることなく、自分のミュージアムを体験できてしまいます。つまり、これこそがインテルのテクノロジーに触れているという事実であり、このコンテンツの真髄であるのです。また、「インタラクション=リアルタイム合成された映像体験」とすることで単純明快な1クリック動作にまでそぎ落とした事も体験フローとして重要な要素だと感じました。

村山 僕はもちろん技術的な表現とかも好きなんですけど、そこが先行して見えてしまうと届く層が限られてしまう。いかにそれを使いこなして自分たちがやりたいことのツールとして使うか。裏で色々と苦労していても表(ユーザー)にそれは感じさせずに純粋に良い体験を届けることだけに力を注ぐ。その縁の下の力持ち感が何よりインテルという企業っぽいなと思いましたし、そこら辺がうまくいったと思いますのでよかったですね。

齋藤 長時間のご清聴ありがとうございました。


取材:丸山陽子
会場写真:竹澤宏

齋藤精一 Seiichi Saito

1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科 (MSAAD) で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後、Arnell Groupにてクリエティブとして活動し、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を創る。2009年-2010年カンヌ国際広告祭にて多数受賞。現在、株式会社ライゾマティクス代表取締役、東京理科大学理工学部建築学科非常勤講師、Columbia University GSAPP StudioX Japan staff。
http://rhizomatiks.com/


DELTRO Inc.

アートディレクター・坂本政則、 テクニカルディレクター・村山健により2009年に設立。以後、数多くのオンスクリーンメディアのアートディレクション / デザイン / プログラミングの分野で活動を続けている。カンヌ国際広告賞、クリオ賞、One Show、TIAA など国内外の広告賞を多数受賞。
http://f.deltro.jp/

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