デザイン エクストリーム セミナー 2013

フォトグラファー、デザイナーのためのRED 4K ワークフロー

講師:藤本ツトム(フォトグラファー、映像ディレクター)

フォトグラファー、映像制作者、プランナー、Web デザイナーなどクリエイターに向けたセミナー「DEXS 2013」が4月12日開催された。4つのセッションに分かれ、それぞれの業界のトップクリエイターが登場したこのセミナーをレポートする。1回目は、フォトグラファー/映像ディレクターの藤本ツトム氏による「RED 4K ワークフロー」についてお届けする。

4Kで実現する映像と写真の新しいワークフロー

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藤本ツトム (ふじもと・つとむ)
フォトグラファー/映像ディレクター/代官山スタジオ映像プロデューサー。2006年以降、映像・モーショングラフィック制作を始める。RED 4K 収録によるテレビ CM やファッション・ムービーを撮影。2013年 4月より、日本大学芸術学部で DSLR/4K ワークフローの講義を受け持つ。

こんにちは。藤本ツトムと申します。今日は、最近おおいに注目を集めている「4K映像」を、フォトグラファー、デザイナーの方が扱うことのメリットについて、実際のワークフローを絡めながらお話をさせていただこうと思っています。

私自身、もともとはフォトグラファーであり、ある頃から映像も扱うようになったという経緯もあって、映像と写真の両方を同時に扱うことができないかと、模索を続けてきました。

ここに来て、いよいよ「4K」カメラを使った撮影が現実的なこととなり、両者を同時に扱うメリットを大きく感じるようになってきました。今日は、私が経験してきたことを踏まえた上で、4Kカメラを使った、映像と写真制作のワークフローをご紹介したいと思います。

「4K映像」での映像撮影を前提としたワークフローの最大のメリットはというと、「動画」と「静止画」の両方のプロジェクトを同時に進めることができる点にあると言えるでしょう。例えば、一度の撮影で、フルハイビジョン放送を前提としたTV向けの映像を撮影し、その映像の中からパンフレット用の写真を切り出すといったことが可能となります。

これまで、一つのプロジェクトの撮影を行なうケースでは、映像と写真の撮影は日を分けるのが普通であり、当然、撮影チームも別でした。これだと、コストがかかるのはもちろんですが、仕上がりのイメージにズレが生じることもありました。

実は、映像と写真の同時撮影に関しては、現場サイドよりも、むしろ、クライアントやアートディレクターからリクエストが出るケースが多いのですが、仕上がりのイメージを統一したいというのが主な理由となります。

ただ、こういったお話をしますと「コストが安いから、クオリティもそれなりの仕上がりになるのではないか」といった質問をされることが多いのですが、それはまったくの誤解です。4Kカメラを使った撮影では動画も、写真も、極めて高いクオリティでの仕上がりを得ることが可能であり、ファッションやビューティといった、ラグジュアリーブランドが求める、高いクオリティへの要望に十分に応えることができるものです。 

実はちょうど今頃、私がプロデューサーを勤める「代官山スタジオ」で、4Kカメラを使った撮影が、実際に行なわれています。最優先のタスクはパンフレット用の写真撮影なのですが、それを4K映像からの静止画切り出しで行ないます。完全に、静止画と動画を同時に撮影するというフローで行なわれているというわけです。

このような撮影は、既に海外では行われていますが、日本では私が知る限り初めての試みです。クライアントさんの期待も高く、これからの広告制作に関わる皆様はぜひ「動画と静止画を同時につくる」ことを視野にいれて頂きたいと思います。

「4K」からの静止画切り出しが使える理由

では4K映像から写真を切り出す方法を紹介していきたいと思いますが、その前に、「4K」の解像度がどれくらいあるかをご紹介しておきたいと思います。参考までに、4月6〜11日まで、ラスベガスで開催された映像に関する世界規模の展示会である「NAB Show 2013」でREDから発表された「6K」素子の「DRAGONセンサー」の解像度も合わせて紹介しましょう。

2K(フルハイビジョン映像) 1,920×1,080
4K(RED) 4,096×2,160
6K(DRAGONセンサー) 6,144x3,160

映像から静止画を切り出す場合に、大きな問題になるのが解像度です。紙媒体で仕事をされている方ならご存じのことと思いますが、印刷原稿は原則として350dpiですから、2K(フルハイビジョン)サイズでは、大きく引き延ばすのが難しいということはおわかりかと思います。

それが4Kになれば、フルハイビジョンの4倍強の面積になり、100%使用でも、A4に近いサイズで利用できる計算になります。印刷原稿としての使い道は大きく広がってきます。

代官山スタジオでは、この4K映像から切り出した静止画を130%に拡大してレタッチをかけたものを、一眼レフカメラで撮影した写真と厳密に比較してみましたが、問題ないと判断しました。これは単に「使用可能」という話ではなく、ビューティやファッションの分野からの質的な要望に応えることができる、という意味です。

ちなみにこれが、6K映像ともなれば、雑誌の表紙で十分に使える解像度の静止画を切り出すことができますから、用途はさらに広がることがおわかりいただけると思います。

では、映像の中から静止画を切り出す作業をご紹介しましょう。ここではREDで撮影した映像から切り出しを行ないます。利用するアプリケーションは「REDCINE-X」です。これは、REDでRAW形式で撮影した映像を現像する際に使用しますが、それ以外にも静止画像の切り出しができますので、現場でのフォーカスチェックなどでも使われます。ちなみにこのREDCINE-Xはフリーでダウンロードできるアプリケーションなので、皆さんも触ってみることが可能です。

まずREDCINE-Xを起動して、REDで撮影した4KのRAWデータを読み込み、再生していきます。基本的に、映像は1秒あたり30枚の静止画が並んでいるというイメージで考えてくださって結構です。それを見ながら1コマを選びます。実際にはカメラマークのボタンを押すだけです。実際には、レタッチャーらと一緒にモニターで確認しつつ選ぶようなことが多いです。

img_event_dexs2013_fujimoto_02.jpg REDCINE-Xを使っての静止画切り出しは簡単な作業

img_event_dexs2013_fujimoto_03.jpg 切り出した画像をPhotoshopで開いたところ

切り出したデータは、RAW、またはTIFF形式の16bit、4,096×2,160ドットの4K解像度の画像です。仕事の現場では、このデータをレタッチャーに渡して、いわゆる写真レタッチを行なって仕上げるというのがベストなフローだと思いますが、フォトグラファーの方は自らレタッチを行なうのもいいでしょう。

このように、REDはRAW収録を採用しています。つまり、これまで長く培ってきた写真のRAW現像の技術を活かすことができるわけで、これから動画の分野でも活躍しようとお考えのフォトグラファーやレタッチャーにとっての大きなメリットだと言えるでしょう。

ご覧になっておわかりかと思いますが、4K映像から写真を切り出すプロセスは非常にシンプルなものであり、フォトグラファーの皆さんにとって、おなじみの作業と言っていいものなのです。

最適なハードウェア環境とは

では、4K映像を現像したり編集したりする環境にはどんなものが必要かというと、実はPCレベルの機材で十分に作業が可能です。ただし、そのハードウェア構成には、注意が必要です。

4KカメラのRAW形式で撮影した映像では、1分でおよそ1GBの容量を費やします。さらに現像すると、その2倍から3倍になるでしょうか。少し前なら、これだけの容量のデータを扱うこと自体、PCには無理ではないかと感じていました。私自身、インテルのハイスペックのCPUに最高性能のハードディスクを組み合わせてPCを自作したのですが、仕事で使うのは厳しいというのが正直な感想でした。

ところが最近になって、ハードディスクに代えて、インテルの最新のSSDである「インテル® SSD910シリーズ」を搭載して使ってみたところ、問題が解決してしまいました。ボトルネックとなっていたのはCPUではなく、ハードディスクだったんです。

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SSDはハードディスクと比べて非常に高速で、最もシンプルな比較として、私が実測したデータコピーの例では4倍のスピードが出ていました。

10GBのデータをコピーするケース

HDD ←→ HDD 80秒
SSD ←→ SSD 20秒

実際の作業は、時間的な制約がある中で、数百GB〜数TBのデータを扱いますから、この差は非常に大きな意味を持ちます。PCの動作スペック自体も速くなりますし、SSDへの投資は大変費用対効果が大きいと言えるでしょう。ちなみに、SSDの性能や容量とのバランス、そして信頼度を考えると、インテル製が優れていると私は感じています。

高速なCPUを搭載したPCをベースに、SSDを搭載してもせいぜい50万〜70万円。数千万円の編集機がなくても、4K映像を扱うための環境を作ることができる、というわけです。このようにPCをベースとしたシステムは高い品質が要求されるハリウッドの制作現場でも採用されています。量販店で売られているような、我々にも十分に手の届く範囲の機材で、ハリウッドクラスの高い品質の映像を作りあげることができる、ということを覚えておいていただければと思います。 ぜひこちらの記事をご一読ください。

ちなみに、大量のデータを扱うのでなければ、SSDを搭載したノートパソコンなどでも十分に可能です。うまく使い分けながら作業を行なえばいいと思います。

もう一つ、動画編集にどんなアプリケーションを使っているのかという点ですが、先ほどから紹介している「REDCINE-X」と、「Adobe Premiere Pro」「After Effects」といったアドビアプリケーションがあれば十分に可能であり、数百万円、数千万円するような投資が必要というわけではありません。さらにはアドビの「Photoshop」「SpeedGrade」、Blackmagic Designの「DaVinci Resolve」といったアプリケーションも注目していますが、いずれも入手は容易です。すでに編集作業のための環境は十分に整っているのです。

情報収集のためのアプローチ

さて、ここまでお話ししてきました4K映像のワークフローについてですが、アドビのサイト内にある「Adobe Focus In プロフェッショナルのための映像制作情報」のページで詳しく取り上げていただいておりますので、こちらも合わせてご覧いただければと思います。ここには、私自身が10年間、失敗をしながら積み重ねたノウハウがいろいろと記載されており、これから4Kでの制作を始めようという方には、参考になるのではないかと思います。

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また、『コマーシャルフォト』誌が運営するフォトグラファー向け情報サイト「Shuffle」でも、Windows環境における4K映像のワークフローを紹介していただいています。動画レタッチについての話もあり、こちらもなかなか興味深い内容になっていると思いますのでぜひご覧いただければと思います。

クリエイティブ業界ではMacを使われている方が多いかと思うのですが、こと4K映像を扱うケースに関しては、Windowsマシンがおすすめです。ハードウェアの性能だけでなく、コストパフォーマンスもよく、アドビをはじめ、ツールもしっかりと対応しています。個人的には、現状は、インテルのCPU+SSDマシンというのが理想的な形だと思っています。

また、同サイトでも触れている動画レタッチについてですが、4Kが主流になると、いよいよそのニーズが高まると思います。2K映像ではそれほど目立たなかった、シミや毛穴などがはっきりと見えてしまうからです。そこで必要となるのが、写真で培われてきたレタッチの技術です。代官山スタジオでも動画レタッチに取り組んでいるのは、もともとフォトレタッチを専門に行なっていたレタッチャーです。では動画のレタッチはどんな風に行なうのか、そのあたりも同記事でご覧いただければと思います。

最後にもう一つ、映像関連の情報サイトとして「raitank blog」をおすすめしたいと思います。 もともとアートディレクターの仲 雷太氏が執筆されているサイトなのですが、1日10,000~15,000のアクセス数を誇る業界の垣根を越えた人気サイトです。情報のセレクトの仕方だけでなく、アートディレクター出身という、ご自身の立ち位置から映像の世界の進化というものを見てらっしゃるその視点も素晴らしいと思いますし、そういった視点をユーモアで包んでいる点も秀逸です。映像業界の今を客観視するためにも、参考になるのではないかと思います。

写真への「こだわり」が活きる4Kの世界

さて、最後にまとめになりますが、私がRED 4Kでサポート及び撮影/制作した作品等をいくつかご覧いただければと思います。一つは川崎のショッピングセンター「ラゾーナ」のTVCMとして撮影したもの、もう一つは、世界的な映像のコンペティションである「ASVOFF」に出展した作品です。

ラゾーナ川崎プラザのテレビCM

img_event_dexs2013_fujimoto_07.jpg 「ASVOFF」出展作品

このASVOFFには、フォトグラファー出身の方の映像作品が数多く出展されており、その映像へのこだわりは非常に高いものがあります。2010年から東京でも開催され注目を集めています。こちらもリンクを紹介しておきますので、ぜひご参照ください。

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こうして現在の4Kを取り巻く現状を見ていくと、これまでフォトグラファーやデザイナーの方々が積み上げてきた、質へのこだわりや経験が活きるようになってきてたなとあらためて感じます。シンプルに言えば、4K映像は写真のクオリティがそのまま動画になったものですから、これまで培ってきた写真のクオリティへのこだわりはそのまま活かすことができるというわけです。

これまで1000分の1秒、100分の1秒という単位で時間を扱ってきたのが1分、10分になった‥‥写真表現の延長という感覚で4K映像に触れてみるというのはいかがでしょうか。

ぜひ、これまでの経験を活かして素晴らしいコンテンツを生み出していただければと思います。

どうもありがとうございました。


取材:小泉森弥

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