デジタルフォト&デザインセミナー2008

Retouch Session : プロのレタッチャーが教える Photosop CS3 実践テクニック

講師:片岡竜一・大里宗也

みなさん、こんにちは、ヴォンズ・ピクチャーズの片岡と申します。ヴォンズは広告写真の撮影、画像処理、Webサイトの企画・制作を手がけている会社ですが、今日はウチのチーフCGデザイナーの大里と2人で、Photoshop CS3のお話をしたいと思います。私が画像処理をはじめたのは15年くらい前ですが、当初は1台5千万円以上もするハイパーペイントというマシンを使っていました。その頃すでにMacとPhotoshopはありましたが、まだ業務で使えるようなレベルではありませんでした。ところが1994年に、Photoshopがバージョン3.0でレイヤー機能を搭載したことがきっかけとなって、画像処理はハイパーペイントでなければという常識が大きく変わっていきました。

いま、Photoshopの最新バージョンはCS3になっていますが、CS2からCS3へのバージョンアップはそのときと同じようなインパクトを持っていると思います。言ってみれば画像処理の世界のパラダイムシフトが起きている状態です。今日はPhotoshop CS3の新機能の中から、特にこれはすごいと思った“魔法のツール”を3つ取り上げて、説明していきたいと思います。私がしゃべっている横で、大里が実際にPhotoshopの操作を行なっていきます。こちらのスクリーンでPhotoshopの画面が見えるようになっていますが、その隣に彼の手元も映し出されますので、合わせてご覧になってください。

まず魔法のツールの一つ目は、「レイヤーを自動整列」です。これは、位置や大きさが微妙にずれている何枚かの画像に対して画像解析を行なって、自動的に位置合わせ、サイズ合わせを行なうという機能です。分かりやすい例で言うと、大勢の人が写った集合写真。こういう記念写真を撮る時は何回かシャッターを押しますが、たいてい誰かが横を向いたり、目をつぶったりしていますし、手持ちで撮っていると1枚ごとに水平が傾いたり、写真の大きさが違います。こういうときはPhotoshopで顔だけ別の写真と入れ替えたりしますが、1枚1枚の大きさや傾きが違うので、結構大変な作業になります。このときに便利なのが「レイヤーを自動整列」です。複数の写真をレイヤー構造にしてから、このコマンドを実行すると、あっという間にサイズや傾きを揃えてくれるので、後の作業が非常に楽になります。

もう少しプロの現場に即した話をしますと、たとえば缶の写真を撮るとします。今までだとプロのフォトグラファーが4×5カメラのアオリ機能を使うことで缶の手前から奥までピントのあった写真を撮っていたのですが、最近の35mmタイプのデジタル一眼レフだとアオリが使えないので、手前、真ん中、奥のそれぞれにピントのある画像を何枚か撮っておいて、後からPhotoshopで合成することが多くなっています。しかし、このとき三脚にカメラを固定していても、ピント面を動かすので、缶の大きさが微妙に変わってしまうんですね。

ここに、そうやって撮った缶の写真が6枚あります。この6枚をレイヤーで重ねて順番に見ていきましょう。奥のほうにピントが移動するのに従って、画像が微妙に小さくなっていくのが分りますね。これまでは上のレイヤーを半透明にして、「コマンド+T」=「自由変形」を使ってサイズを微調整していましたが、非常に神経を使う仕事でした。しかしCS3では「レイヤーを自動整列」を使うだけで、全ての写真のサイズが揃ってしまうんですね。しかも熟練のレタッチャーが時間をかけて調整するよりも正確に位置合わせができています。

それから、デザイナーやレタッチャー向けの応用方法としては、デザインカンプ(デザイン見本)の位置合わせ用として非常に便利です。広告の大きなキャンペーンだと、B倍ポスターをはじめ、雑誌広告、新聞広告、コルトン(電飾パネル)などたくさんの印刷物を作りますが、それぞれ大きさも違いますし、横位置だったり縦位置だったりします。メインのビジュアルは同じものを使っていても、それぞれ背景の大きさや形が異なるわけです。媒体ごとにその都度背景を作っていくと、同じような作業を何度も繰り返すことになり、非常に効率が悪くなります。

1枚目と6枚目をレイヤーで重ねて比較すると、缶の大きさが微妙に違うのが分かる


様々な媒体のデザインカンプを、「レイヤーを自動整列」で並べたところ

そこで我々レタッチャーは実際の作業に入る前に、デザイナーが作ったデザインカンプをもとに、背景をどのくらいの範囲までつくっておけばいいのかという設計図を考えます。このとき「レイヤーを自動整列」で位置合わせを行なうと、必要となる背景の大きさが一目瞭然で分るのです。メインビジュアルはどれも同じですから、それを基準として自動整列が実行されるわけです。この「レイヤーを自動整列」は、アマチュアの方からフォトグラファー、デザイナー、レタッチャーまで、いろんな人にとって便利な機能だと思います。

さて“魔法のツール”の2つ目は「スマートフィルタ」です。完成画像はこういうイメージです(写真右参照)。さきほどの缶の写真を水しぶきの上にのせて、缶にはオリジナルのラベルを貼付けてあります。最初にまずPhotoshopでラベルデータを作ります。グリーン色のベースにマリリン・モンローの顔を重ねて、さらにIllustratorの文字データを配置します。ラベルができたら缶の上に置いて、缶の形に沿って変形させます。各レイヤーはすべてスマートオブジェクトに変換しておきます。

さてここからが「スマートフィルタ」のお話しです。ここまで作り込んだ段階になって、マリリン・モンローの絵が強すぎるんじゃないか、という意見が出たとします。これまでだったらイチからラベルを作り直すことになるのですが、今回はラベルをスマートオブジェクトにしておきましたので、後から自由に変更ができます。ラベルのレイヤーをダブルクリックすると、コンテンツ編集用のウインドウが新たに開いて、ラベルの平面図が現れます。ここでモンローのレイヤーを選択して「スマートフィルタ」に変更します。

「スマートフィルタ」は、一度かけたフィルタの種類を後から変更したり、効果の強弱を調整することができます。ここではモンローの絵にいろんなフィルタをかけてみます。試行錯誤を何度か繰り返して、これでOKだと思えば、「コマンド+S」=「保存」で決定。すると、その変更結果が、こちらの缶のラベルにも反映されます。一度決定した後でも、さきほどと同じ手順をたどれば、さらに変更することも可能です。何度でもやり直しがきくので、非常に強力なツールだと思います。

「スマートフィルタ」はCS2で搭載されたスマートオブジェクトの延長線上にある新機能だと思ってください。スマートオブジェクトでは画像の拡大縮小を繰り返しても画質が劣化しませんでしたが、それがフィルタにまで拡大されたものが「スマートフィルタ」です。これによって、スマートオブジェジェクトはようやく本格的に使える機能になったと言えるでしょう。ついでに言うと、さきほどラベルデータを作るときに、Illustratorの文字データをPhotoshopにコピー&ペーストしましたが、このときスマートオブジェクトの形式でペーストしておくと、後からIllustratorで文字データの修正も可能です。スマートオブジェクトのTIPSとして覚えてください。

スマートフィルタ機能を使って、モンローの画像にフィルタをかけて、保存すると…


缶のラベルにその結果が反映される

さて3つめの“魔法のツール”は「画像のスタック」です。これはPhotoshop CS3の上位バージョンであるCS3 Extendedの機能ですが、街角の風景を写した写真から一瞬で人だけを消してしまえるというものです。たとえば、ここに横浜のみなとみらいで写した写真を持ってきましたが、デートスポットということもあって、人がたくさん歩いていますね。このような写真に写り込んだ人を消す作業というのは、広告の画像処理ではよくあるものですが、今までは人がいないところを一つ一つ貼り合わせるという気の遠くなるような作業をおこなっていました。ところが「画像のスタック」では、一瞬で人を消してしまえるのです。

元になる写真はできるだけ多くの枚数を用意します。今回は同じ位置から撮影した写真を10枚用意しました。これを「レイヤーとして読み込む」のスクリプトで、Photoshop CS3 Extendedに読み込みます。そしてレイヤーをすべて選択して、いったん「スマートオブジェクト」に変換。さらにレイヤーメニューから「スマートオブジェクト」>「画像のスタック」を選びます。「画像のスタック」にはパラメータがいくつかありますが、不要なものを消す場合は「中央値」を選びます。実際にやってみます。…ほら、一瞬で人だけが消えました。画像の品質的にもまったく問題はありませんよね。

これで私たちのライブデモは終わりです。今回は時間の都合で3つの機能について絞ってお話ししましたが、Photoshop CS3にはこのほかにも便利な機能、びっくりするような機能がたくさんあります。冒頭でもお話ししましたが、今回のCS3は、10年以上前にレイヤーが初めて登場した時と同じくらいのインパクトがあります。いまやフォトグラファーもグラフィックデザイナーも、Webデザイナーも、みんなレイヤーを使っていますが、今回紹介した機能も、もうすぐ当たり前のように使われるようになると思います。これまでプロのレタッチャーはPhotoshopの新機能には目もくれず、ひたすらレイヤー、マスク、トーンカーブだけで作業を行なってきたようなところがありましたが、CS3の登場によって、そういう時代も終わりです。画像処理の仕事は、確実に新しい段階に入ったと言えるでしょう。

写真:片岡竜一

片岡竜一 Ryuichi Kataoka

日本大学芸術学部写真学科卒 。1997年 ヴォンズ・ピクチャーズを設立。数々の広告ヴィジュアルを手がけ、現在 12名のレタッチャーと 6名の web チームからなる VONS pictures の代表。 http://www.vons.co.jp/

写真:大里宗也

大里宗也 Souyo Osato

ヴォンズ・ピクチャーズ チーフCGデザイナー

関連記事

powered by weblio