デジタルフォト&デザインセミナー2008

3DCG Session : CADデータを利用した広告販促ビジュアル制作(ビジュアライゼーション)の仕組み導入の方法

講師:長尾健作

株式会社パーチの長尾と申します。これまで大手広告制作会社でビジュアライゼーションを行う事業の立ち上げを担当し、 この市場をさらに活性化させたいと思いから、パーチという会社を作って独立しました。

いまクルマや家電などの開発・製造段階では、設計のデジタルツールとしてCADソフトが使われていますが、3次元CADデータを有効活用してビジュアルを制作する動きが活発化しています。メーカー内部ではデザインや機能の検討に使われますし、広告の世界では撮影の代わりに3DCGでビジュアルを作るようになっています。これがデザインビジュアライゼーションという新しい仕事です。クルマのカタログを例にとると、すでに掲載されている画像の多くがCGとなってきています。これまではスタジオでクルマを撮り、ロケで背景を撮って、画像合成をしていましたが、いまはコンピュータの前にフォトグラファーが立って、バーチャルなスタジオの中でクルマをライティングしていくスタイルになっています。今後はいろんな広告でこの仕組みが取り入れられていくでしょう。

今日は、三つのお話をしたいと思います。一つめはデザインビジュアライゼーションが利用される理由。二つめはデザインビジュアライゼーションの導入のステップ。そして三つめは3DCGデータのPhotoshopでの編集についてです。


デザインビジュアライゼーションが活用されている分野

まず一つめの話です。デザインビジュアライゼーションがどんな分野で使われているのかというと、広告業界では広告/SP/Webなどのいろいろな媒体で、メーカー内部では製品開発検討、販売支援、消費者調査などに利用されています。販売支援というのは、これまでは販売に際して実際の製品を使って営業活動をしていましたが、これをCGで制作したビジュアルで説明したり、社員教育用のビデオとして活用するというものです。これまでは製品写真を撮るためだけのモックアップを作っていました。モックアップの制作費用は意外と高くつくので、これをCGにすることで数百万円、数千万円単位で経費節減できます。視点を変えると、広告制作会社にとっては新しい収益源となります。

クルマの業界と並んでCGに力を入れているのが住宅・建築関係の業界。建物がまだ建ってない段階から広告を打たなければならないので、CGが当たり前のように使われています。いまこの業界で求められているのは単なるフォトリアルなCGではなく、広告として魅力的に見せることです。これから広告制作者が力を発揮できる業種だと思います。キッチンなどの住宅設備メーカーも、今年あたりからカタログのCG化が進むでしょう。それから家電メーカーなどでは、海外のリビングルームを3次元CGで作って、そこに自社製品を置いて、その部屋にマッチするかどうかのシミュレーションを行っています。


広告主にとっては、CGを使うことで建て込みやロケなどの費用を削減できる

CGが利用される理由の一つは、広告主のコスト削減です。たとえばキッチンカタログの撮影の場合、スタジオ内にキッチンの建て込みを作りますが、この費用がかなり高い。1セット作るのに約500万円〜1000万円はかかりますが、これをCGにすることでコストを抑えられます。それからCGを使えば、ロケ費用の削減も可能です。天候に左右されないし、アングルも自由だし、背景をイチから作り込むことも可能です。

CGが利用されるもう一つの理由は、CGなら早い段階から販促活動が可能となります。撮影用モックアップを準備するのに時間がかかります。また、今は製品開発のサイクルがどんどん短くなっていますから、撮影用モックアップを作っている時間もないという状況です。ですから、製品の発売時期に広告を間に合わせるためには、どうしてもCGが必要とされているわけです。

ビジュアライゼーションのワークフローを簡単に説明しますと、まずCADデータを3DCGデータに変換し、続いて質感の設定をします。ここまではいわば撮影用モックアップを作るようなものです。従来の撮影にあたるものとしては、3DCGソフト上でのアングルハント、ライティング、そしてCG独自の工程となりますが、レンダリングという演算の工程があります。アングルハントからレンダリングまでは、これまで広告に携わってきた人が持っている絵づくりのノウハウを活かすことができます。ここを担うのは誰かというと、フォトグラファーでもいいし、Photoshopクリエイターでもいいし、3DCGクリエイターでもいい。明確な線引きはないので、これから頑張れば、だれでもデザインビジュアライゼーションに取り組むことができます。

デザインビジュアライゼーションについてもっと詳しく知りたいという人は、オートデスクさんがオープンした専用サイト http://design-viz.com/ をご覧下さい。

二つめのお話は、ビジュアライゼーションの導入のステップです。1. 市場開発、2. サービスメニュー開発、3. 人材開発、4. ワークフロー開発、5. 外部協力会社の開発、6. 技術開発、の順番で考えてください。

市場開発とは、要するにお客さんはどこにいるのか、どう獲得するのかという問題ですが、これまでの広告制作と同じように、広告主 → 広告代理店 → 制作会社という流れは基本的に変わりません。ただし広告主 → 制作会社という流れもあります。またすでにデザインビジュアライゼーションに取り組んでいる会社は、撮影会社、印刷会社、画像処理会社、動画制作会社とこれまでとは異なる顔ぶれです。この新たな競合に勝つためにも早く取り組むこと、自社の特徴を作り上げることが重要です。

サービスメニュー開発とは、自分たちが何ができるのかをサービスメニュー化して価格付けをするということです。自分たちの得意分野は何か、商品撮影なのか、Webの動画に特化していくのか、あるいは建築家と組んで建物系のCGで頑張るのかということをまず決めましょう。価格付けをするときに注意してほしいのは、あまり低く設定しすぎると業界全体が冷え込んで、よい広告が作れなくなるかもしれないということです。これまで撮影にかかっていた費用というのは、単なる撮影費用だけではありません。ロケハンや家具の持ち込み、撮影立ち会いにかかっているクライアントの人件費まで含めていくらかかっていたのかを考えて、デザインビジュアライゼーションの価格設定を考えてください。

それから技術開発についてですが、CGで写真品質を実現するにはグローバルイルミネーションというレンダリング技法が必須となっています。以前は写真品質を実現するため独自にプログラムを開発することもありました。しかし最近は市販ソフトの品質が良くなっているので、ソフトの使いこなしで対応できるようになっています。ではどのソフトがいいのかというと、広告でもメーカー内部でも、デザインビジュアライゼーションの分野で使われているのは、オートデスクの3ds MaxとMayaの2つが主流です。この2つのソフトは解説書の類もたくさん出ていますから人材開発の面でも有利です。

最後は、3DCGソフトから画像を書き出してPhotoshopで編集する時に、こんなことができるんだ、これまでの撮影とは違うんだというお話です。3Dソフトから書き出した画像のレイヤー構造を見てください。ベース、スペキュラー、リフレクション、グローバルイルミネーション、シャドーなどのレイヤーに分かれています。

レンダリングと呼ばれる演算工程では、画像のベース部分だけ、スペキュラーというキラリと光るハイライトだけ、リフレクションという床からの反射だけという具合に、それぞれ別計算で書き出すことができるんですね。このおかげで、後からハイライトの輝きを増やしてほしいという注文にも簡単に対応できます。グローバルイルミネーションというのは、物体に直接的に当たっている光の反射だけでなく、壁や天井、周りの物体からの反射を加味して演算する手法のことで、現実の世界に近い表現、写真的な品質にするのに重要な役割を果たします。

何より物体の形状が非常に滑らかに出ています。モックアップを撮影する場合はモックアップの歪みを後から修正したりしますが、3Dではその必要がありません。それからマスクを作るのに手間がかかると思いますが、3DCGソフトはマスクも別出しできます。これからはもうマスクを作らなくていいんです。これまでと比べた場合、Photoshop での画像処理時間は約半分になりました。

この画像はいま、奥から手前まで全てにピントが合っている状態ですが、あまり写真的ではないですよね。実はPhotoshopを使って後から、手前だけにピントを合わせることもできるんです。3DCGソフトでは奥行き方向の距離情報を書き出すことができ、それをZデプスと呼んでいます。この別出しされたZデプスのチャンネルを見ると、黒いところが奥、白いところが手前になっています。被写界深度によるピントの表現は、このチャンネルを選択範囲に変換して、ぼかし(レンズ)フィルターを使います。ぼかし具合は黒い部分の濃度で調整できます。小さい製品をデジタルカメラで撮影するときなど、被写界深度のコントロールに苦労しますが、3Dなら後からでも調整可能です。

3Dソフトから書き出した画像は、部分ごとにレイヤーに分けて書き出すことが可能だ


被写界深度をコントロールするためのZデプスチャンネル


Photoshopで奥の方のピントをぼかすこともできる

さて、デザインビジュアライゼーションの世界を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。今日ご来場くださったみなさんも、ぜひこの新しい仕事を始めていただきたいと思います。私たちパーチでは市場活性化のために、トレーニングツールを開発したり、セミナーを開いたり、コンサルティングなどを行なっています。Webサイトも立ち上げましたので、詳しくは http://www.perch-up.jp/design-viz/ をご覧いただければと思います。

写真:長尾健作

長尾健作 Kensaku Nagao

広告ビジュアル制作のデジタル化/3DCG 化 (ビジュアライゼーション) を業界最大手の株式会社アマナで実現。それに必要な戦略立案、市場開発、表現技術開発、人材開発、などを手がけ現在はこのビジュアライゼーションの新しい利用シーンを拡大させる活動等を行っている。 http://www.perch-up.jp

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