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【ソニープロフェッショナルムービーアワード】審査員・江夏由洋氏インタビュー

聞き手:一柳通隆(ビデオサロン編集長)

ウェブやSNSで数分のプロモーション映像が使われることが多くなってきた。映像クリエイターの活躍の場が増えるとともに、新しい才能も求められている。しかし映画祭は数あれど、プロフェッショナル向けの登竜門的な映像コンテストはほとんどない。今回開催されるソニープロフェッショナルムービーアワードはぜひそういう位置付けになってほしいと思う。審査員の一人、江夏由洋さん(マリモレコーズ)に、コンテストの意義や応募者へのアドバイスなどをお訊きした。

迷っていたら絶対に応募したほうがいい

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──江夏さんは、コンテストに出されたことはありますか?

江夏 もちろんありますよ。きっかけがあると作るモチベーションになります。作品は人に見られないと形になりません。企画して、撮影して、編集して、完成して、配信して、その先に評価されてというのが必ずあると思います。スパゲティ作っても食べる人がいなければ意味がないのと同じように、映像も作って、見てもらって、評価されて、はじめて価値が出てくるものです。

ただ、評価がすべてではありません。その映像が好きな人もいれば、きらいな人もいる。とにかく人の心を動かさないと映像をやっている意味がないと思っています。

コンテストは締め切りとテーマがあるから、ゴールを設定しやすい。仕事がどんどん来て、それに対して作って行くというモチベーションもあるでしょうし、賞をとるために作るというモチベーションというものもあっていい。いずれにしても、きっかけがないと、やりたいとことはずっと先延ばしになってしまいますから。

映像業界の中でステップアップしていくために

──プロを目指していたり、プロとしてより良い仕事を増やしていくために、このコンテストに応募して受賞して…と考える人はきっと多いでしょうし、どうやってステップアップしていこうか悩んでいる人も多いと思います。江夏さんご自身はこれまでどうやってステップアップされてきたんですか?

江夏 僕らのモットーは単純で、依頼されたことに対して、何らかの付加価値をつけて出す、ということなんです。Aを作りたいと言われたときに、単純にそれを引き取ってAを作るのではなく、「これは誰のために、どのような意味で、どんな場所で出したい映像なんですか?」ともう一度聞いて、僕たちの目線でそのものの価値を上げられるA+αの提案をして映像を作っていくことで満足してもらう。それは僕らにとっても挑戦です。

実務的にはやらないほうが楽だし、納期も早くなるし、いいんですよ。でも、仕事というのは、クライアントの要求を満たすだけでなく、それを受けた自分たちの要求も満たすためにやるべきだと思います。それが映像制作というクリエイティブな作業の楽しいところだと思うんです。

それで続かなくなったクライアントもいれば、リピートしてくるところもあります。嫌われたり、好かれたりするのは仕方がありません。おかげさまで、仕事は続いていっています。

一人では何にもできない

──今のお話で、江夏さんは「僕」ではなく「僕ら」と表現されていましたが、映像も機材が安くなり、制作がコンパクトになってフォトグラファーのように個人で勝負できるようになりつつありますが、映像はチームで作るものだということは変わりませんか?

江夏 最近切実に感じるのは、一人では何にもできないということです。映像の場合、仕事自体ジャンルが多岐に渡りますし、ある程度の期間がどうしてもかかります。写真や音楽よりも、チームワークが重要になってくると思います。

実は僕、TBSを辞めて独立した時に、退職金をつぎ込んで思い切ってソニーのV1J(HDVのハンドヘルドのカムコーダー)を買ったんです。これからはワンマンオペレーションの時代で、自分で撮影して編集もできるし、機材も個人で所有できるものでクオリティの高い映像ができると思って。それで1、2年は、自分で絵コンテ書いて、自分で撮って、自分で編集して、ということを続けていたんです。

ところがあるとき、壁にぶつかりました。一緒に会社を始めた兄(江夏正晃氏/音楽家)からは、「お前の作るものっていつも一緒だな。それじゃダメだ。せめてグラフィックくらいアウトソースしろよ」と言われました。

たしかに自分だけでやっていると必ず限界があります。テロップを、カメラを誰かに任せる、ディレクションを任せる、ただし全体の統括だけはする。そうやっていくと、たしかに一つの仕事の儲けは減るんですが、仕事がどんどん広がるんです。作品のクオリティも、しかるべき構成、キャスティングをすると、納得できるいいものができますし、自分だけ作ったものとは違うものができます。
 
チーム制作するには人脈が大事になってきます。信用できるカメラマンが何人いるか、自分たちの言語が伝わるかどうかも重要です。でも、中でも一番大事なのは「技術力」なんですよ。映像の技術は進化が速いですし、その知識があって、興味がないと難しいと思っています。幸いにも僕はそのあたりがわかるので、それがアウトソースするときにも役に立っています。

今の制作機材はソニーがメイン

──現在のメインのシステムを教えてください。

江夏 今はメインがソニーのPXW-FS7が2台、サブがα7R IIとα7SIIです。収録は最終納品がHDだったとしても、絶対に4Kを選びますし、撮影段階でHDの29.97という選択はありえません。4Kの持つ映像のパワー、リサイズ、クロップできるというメリットを考えると、今、4Kを選ばない理由はありません。ファイルサイズもそれほど大きくないし、編集作業も負担ではないどころか、4Kのほうが安心なんです。

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江夏 もはやDSLR(デジタル一眼レフ)で映像を撮る時代ではなくなったと思っています。動画に関しては一眼はミラーレスの時代になり、その中で、僕らにとって欲しい機能を搭載しているのはαシリーズです。映像制作者にとっては、α7S IIはLog撮影ができて、さらにLogビューアシスト機能もあるわけですからこんな便利なカメラはありません。個人的にはα7R IIは、写真は8Kサイズですし、スーパー35モードにも切り替えられるので、24-70のズームレンズがあれば、ズーム域が充分確保できますから、ミラーレスの中では一番好きですね。α6300はオートフォーカスが鬼のように速いですから、ディレクターが回すのにもってこいです。

FS7はこんなに完成度の高いカメラはないと思っています。HDでは180p、4K/60pが撮れるし、Logでも撮れる。Vマウントでも運用できるし。ハンドヘルドでもショルダーでもできる。何より感度が高い。そして記録メディアのXQDが安定していて、一回もファイルのエラーがありません。非の打ち所がありません。

それから4Kのアクションカムは本当に素晴らしい。手ブレ補正がほんとによく効くので、テレビ関係の仕事ではほんとに使いどころがあります。

ただ、僕らは機材にこだわりますけど、実は映像作品にとっては、何で撮ったかというのはどうでもいいんです。何を撮ったのかが重要で。あくまでカメラは道具です。でも、道具のおかげで楽ができるし、失敗も避けられるわけですから、それはしっかり選んだほうがいいと思います。

──今回の応募作品で何を見たいですか?

江夏 今回のテーマは「感動」です。だからまずはストーリーをみたいですね。やっぱり技術的なところよりは優先すべきはストーリーであり、「感動」があるかどうかでしょうね。

お金や機材で勝負ではなく、アイデアとか、伝えたいメッセージの深さがポイントじゃないでしょうか。今回のコンテストに限らず、映像とはもともとそういうものですよね。心を動かすということが映像の役割でありゴールですから。ですから「感動」というのはいいテーマだなあと思います。作品を拝見するのがすごく楽しみですね。

2分以下で何をどう語るか?

──2分以下という制限があります。

江夏 そこがいいですね。CMだってストーリーを感じるものはありますから、2分あれば充分じゃないですか? 最後にオチがあってもいいし、起承転結がなくてもいいかもしれない。

今の時代だからこそ表現できるものってたくさんあると思うんです。これだけネットとかSNSが広がってきてみんなが日々接していると、それほど説明しなくても分かることって案外多いですから、行間を読む力もみなさん上がっているような気がします。何かを見たときに、すぐに見ていることの答えが分かる、想像する力が伸びてきていると思うんです。そういう発想を使って作品を作ってみるのも面白いかもしれません。

──技術面で気をつけたほうがいいポイントは?

江夏 こういうコンテストで重要なところで、「音」でしょうね。絵はもちろん大事で、技術上は誰もが一番気にしていると思いますので、音はそれ以上に意識してほしいと思います。重要なセリフが聞き取れなかったらそれでおしまいだし、曲の選択が間違っていたら、作品全体を台無しにしてしまいます。「音」が結果を左右するような気がします。これから作る人はそこを注意してもらったらいいのではないでしょうか?

──いいルックの映像は見たくないですか?

江夏 個人的にはもちろん見たいですよ。僕の趣味になってしまいますけどね。もちろん内容が一番重要で、それを伝えるためのルックであるべきだと思います。この1年で、Logのカメラが量販店で買えるようになって、みんなのものになったんです。だから怖いのは、Logで撮ることの意義とか、カラースペースも含めた技術的な知識がないときちんとした運用はできません。メーカーもそれだけの技術を解放したわけだから、さらなる啓蒙活動がもっと必要になってくると思います。でも、Logで撮って、センスのいいグレーディングした作品が出てくるといいですね。

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興味を少しでも惹かれたら出したほうがいい

──最後に応募する方へのメッセージをお願いします。

江夏 悩んでいたら出したほうがいいです。告知をみておもしろそうだと思ったら、絶対出したほうがいい。手元に機材がないとか、人が足りないなら、iPhone片手に何か撮ってみてもいい。モチベーションは単純でもよくて、FS5がもらえるんならそれを狙うというのでもいい。まだまだ時間はあるので、少しでも興味を覚えたら応募したほうがいいですね。

僕だったらどうするかというと、まず、紙と鉛筆を用意します。「感動」といったときにどういうことを思い浮かべるかということを文字や絵でなぐり書きをするんです。キーワードとか自分の体験とか、なんでもいいんです。自分の中にある、感動というフレーズに反応するものを文字にしてみる。

そして自分の中にある点と点を繋いで再構成してみる。そのうちにアイデアが広がっていきます。撮影自体はそれこそ1日で終わってしまうかもしれませんが、何をどう撮るかという作業で徹底的に絞り出していきます。

でも、簡単にはグランプリをとれませんよ。それは他の人に勝たなければならないから。ただ、こういったコンテストというのは、素晴らしい作品でもたまたまその時の空気とかタイミングもあって、受賞しないこともあります。運ですから。決してあなたの作品がダメと言われているわけではないんです。だから結果にはあまり一喜一憂しないほうがいいと思います。でも、出すことによって、人はきちんと受け止めて見ています。だから、落ちたからといって、意味がなかったわけでは決してない。

僕はコンテストいっぱい出しているけど、受賞したことは一回もないですからね。だけど、作るきっかけを与えられたと思って、やってみることです。動かなかったら、何も動いていかないわけですから。自分で動かさないと。

──ほんとにそうですね。ぜひ多くの人に挑戦してもらいたいですね。本日はありがとうございました。

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