イベントレポート

Adobe MAX Japan 2019レポート|Photoshop iPad版はここまでできる! 世界的コンセプトアーティストがライブペイントで魅せる最強テクニック 富安健一郎

取材:関根慎一

12月3日、パシフィコ横浜にて開催された「Adobe MAX Japan 2019」から、注目のセッションをレポートする。まずは、世界的に活躍するコンセプトアーティストの富安健一郎氏によるセッションから。都市をテーマにした雰囲気のあるコンセプトアートがライブペインティングでスラスラと仕上がっていく様子など、披露された驚きのテクニックを報告する。

映画やゲーム、都市計画などでも重要なコンセプトアートの役割

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12月3日、アドビのクリエイター向けイベント「Adobe MAX Japan 2019」がパシフィコ横浜で開催された。毎回、著名クリエイターによる公演や、協賛各社のブース展示などが実施されている。

株式会社INEI(陰翳)の代表でコンセプトアーティストの富安健一郎氏によるセッションでは、iPad版Photoshopを活用して行っている業務の事例紹介と、即興でコンセプトアートを描き上げるライブペインティングを実施していた。

富安氏はセッションのはじめに自己紹介として、自身が手掛けたコンセプトアートを紹介。映画やゲーム、都市計画などで使われるコンセプトアートの役割について説明した。

富安: コンセプトアートとは、一言でいえば「プロジェクトのコンセプトを絵にしたもの」です。物語のある作品であれば、作品の世界観や雰囲気をひと目で伝えるようなイメージ。商品やサービスを開発するうえでも、コンセプトをはっきりさせることが重要ですので、それを伝える絵も描いています。大きいものでは都市計画。その都市がどういう暮らしを実現するのか、目指すコンセプトのビジュアル化が必要です。

img_event_repo_adobemax2019_tomi_03.jpg 富安健一郎氏

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img_event_repo_adobemax2019_tomi_07.jpg 「Agni's Philosophy FINAL FANTASY」のコンセプトアート。作品制作の初期段階に、作品世界の空気感を伝える目的で描かれた

img_event_repo_adobemax2019_tomi_08.jpg ゲーム「黒騎士と白の魔王」のコンセプトアート

img_event_repo_adobemax2019_tomi_09.jpg 富安氏が趣味で描いたもの。遊びで描いていても、世界観や物語を考慮に入れている

img_event_repo_adobemax2019_tomi_13.jpg 画面全体で不吉な空気感を理解してもらうために描いたコンセプトアート

img_event_repo_adobemax2019_tomi_14.jpg SF世界に存在する巨大ロボット。人間の情報を衛星に送っているという設定

img_event_repo_adobemax2019_tomi_16.jpg 中国のSF小説「三体」の日本版を出版する際に描いたカバーアート。初期案は中央に女性が立っている左の絵だったが、作者の希望で右のデザインに変更したという

富安氏が関わった映像作品の中で、コンセプトアートを描いた世界観が映像作品の表現に関わった事例として、映画「HUMAN LOST 人間失格」を挙げた。作品に登場する都市や、登場人物が使う乗り物、脇役的に登場するドローンのコンセプトを紹介している。

富安: メカのデザインや、世界観を構築するのに、コンセプトアートが使われているというのを感じていただけると嬉しいです。

img_event_repo_adobemax2019_tomi_17.jpg 「HUMAN LOST 人間失格」のコンセプトアート

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img_event_repo_adobemax2019_tomi_19.jpg 前輪がない状態で駆動するバイク。「"何かがロストしている”という世界観を作品に染み込ませたかった」との意図で描かれた

img_event_repo_adobemax2019_tomi_20.jpg 本来は4本脚が望ましいが、"何かがロストしている"世界を描くために3本脚になったドローン

img_event_repo_adobemax2019_tomi_21.jpg 作品の舞台となる都市。あえて東京に似せている

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富安氏のPhotoshop iPad版の利用法

富安氏がPhotoshop iPad版を使うシーンは、主に打ち合わせの場。その場でさっと出して、ホワイトボードやメモ帳のように使っていると話した。顧客の前でPSDを開いて、構図やレイヤーを直接操作しながら軌道修正できるところが便利だという。

富安: Photoshop iPad版は機能が出揃っていなくて、正直、仕事としてコンセプトアートを描いていくにはまだまだ足りないと感じることは多いです。でも数十程度のレイヤー数であれば特に問題なく使えますし、やはり、お客さんと一緒にその場で作品を追い込んでいけるというのが大きな利点です。これよりレイヤー数が多くて重いファイルになると、画像が開けなかったり、開けても表示されないといったことが起こります。こういうあたりは、「まだこれから」だなと思うところですね。

仕事以外の使い方としては、写真に建造物や乗り物、人物などを直接書き込んで、コンセプトアートのように加工してみるという遊び方を紹介した。

img_event_repo_adobemax2019_tomi_28.jpg ホワイトボードとして使っている例

img_event_repo_adobemax2019_tomi_26.jpg 撮った写真を読み込ませた

img_event_repo_adobemax2019_tomi_27.jpg 遠景や建造物を描き足して遊んでみるという使い方もしているという

富安: もうちょっと機能が充実してきたら、いずれはiPadだけでフルにコンセプトアートが描けるようになるかもしれないし、実際、アドビさんの方でも機能面、安定性の部分を充実させる準備はしているみたいです。今のPhotoshop iPad版は、それこそ「赤ちゃん」の状態。みんなで「こういう機能をつけてほしい」とリクエストして、自分たちが使いやすいソフトに成長させていくのを見守っていくような、そういう段階だと思っています。

img_event_repo_adobemax2019_tomi_29.jpg 機能リクエストの画面。機能リクエストのボタンや、現在準備中の機能が表示されている

Photoshopを使用したライブペイントを披露

ライブペイントは、PC用アプリのPhotoshopを使って制作した。遠景として水平線の向こうに見える巨大な建造物から描き始めて、手前に広がる都市の街路や建物を追加。図形の変形や写真素材などを活用しながら、現実に存在しない都市の景観を描写していた。「未来の横浜」をイメージしたという。

富安: 普段、仕事以外で落描きをするときでも、おおまかにコンセプトを考えて描いています。いま描いているものがどういう場面なのか、物語の中でどういうシーンなのかを想像しながら描きますね。レイヤーを分けていますが、これは特に深い意味があるわけではなく、適当なところで作業を区切るという意味で分けています。

img_event_repo_adobemax2019_tomi_31.jpg 水平線の向こうに描かれていく街並みのシルエット

img_event_repo_adobemax2019_tomi_32.jpg あみだくじのようにも見えるランダムな格子状のレイヤー

img_event_repo_adobemax2019_tomi_33.jpg 台形に変形させて、都市の街路を表現している

img_event_repo_adobemax2019_tomi_34.jpg 前景の建物を追加。かなり街らしく見えてきた

img_event_repo_adobemax2019_tomi_35.jpg 遠くのものは淡く、近くのものは濃く描写して、遠近感を表現している

img_event_repo_adobemax2019_tomi_37.jpg 背景に夕焼けの写真を貼り込んでいるところ。左側に写真の幅が足りていないが、「コンテンツに応じる」塗りつぶしで足りない分を補っている

img_event_repo_adobemax2019_tomi_39.jpg透明度の調整で背景の存在感を調整している

img_event_repo_adobemax2019_tomi_40.jpg 富安氏が登壇前に作ったという「街の光ブラシ」

img_event_repo_adobemax2019_tomi_41.jpg 大きなビルのふもとにブラシを配置していく

img_event_repo_adobemax2019_tomi_42.jpg 消しゴムツールでブラシの形を適宜削っていくことで、街の光らしく見せている

建物の明かりはビルに直接描き込むのではなく、写真素材から切り貼りしているところも印象的だった。ビル街を撮った夜景写真からビルの光だけを切り取り、レイヤーの描画モードを「スクリーン」に設定し、「レベル補正」で色をなじませている。

富安: ビルの光を入れたいので、夜景写真の素材から一部を取り出してみましょう。ネットには著作権フリーで使える写真素材がたくさん売っているので、こういうものを使ってみるのも有効な手です。

img_event_repo_adobemax2019_tomi_43.jpg 夜景の写真素材からビルの光の部分を取り出し、ビルの形に合うよう変形させている

img_event_repo_adobemax2019_tomi_44.jpg 写真素材から街の光を移植

img_event_repo_adobemax2019_tomi_45.jpg 不要な部分は消して表情をつけた

img_event_repo_adobemax2019_tomi_46.jpg 前景に人物を描き込んでいる

img_event_repo_adobemax2019_tomi_47.jpg 人物の前につける柵を描き足した

img_event_repo_adobemax2019_tomi_48.jpg 変形させて人物の前に設置。展望台から街を見下ろしているイメージが形になってきた

富安: コンセプトアートってこんな簡単な絵でいいのかと思う方もいらっしゃるかもしれないですが、僕がやってる段階のコンセプトアートに求められるのは正確さではなく「どういう雰囲気を持っているのか」、「どういう魅力があるのか」を伝えることなんですね。一番の目的は、なるべく速く、いいところをみんなに解ってもらうこと。だからこうして、その場で速く描いていくテクニックが自然と身についたりもします。

img_event_repo_adobemax2019_tomi_50.jpg ビルにまとわりつくモヤと陽の光を描き足して、都市の雰囲気を演出している

img_event_repo_adobemax2019_tomi_51.jpg 空中に飛行する物体のシルエットを並べ、未来都市らしさを出して完成。制作の所要時間は25分

富安: ライブペインティングは以上です。僕がやっているのは、こういう絵を数週間かけてぎっちり描き込んでいくお仕事です。

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