イベントレポート

第11回 札幌国際短編映画祭「ブランデッドフィルム 2」レポート

10月10日から7日間にわたり、札幌プラザ2・5をメイン会場として開催された第11回 札幌国際短編映画祭。国内外から200本を超す上映作品が集まる世界有数の映画祭で、企業がプロモーションのために作ったショートフィルムを上映する特別プログラムが開催された。ここでは、その「ブランデッドフィルム2」の内容を詳しくレポートする。

「ブランデッドフィルム」は企業が作るショートフィルム

第11回 札幌国際短編映画祭の3日目、10月12日に札幌プラザ2・5で開催された「ブランデッドフィルム 2」。昨年の第1回目と同じく、今年もP.I.C.S. クリエイティブディレクターの寺井弘典氏とコマーシャル・フォト統括編集長の川本康がキュレーターをつとめ、2人による解説を交えながら、厳選した10本のフィルムが上映された。

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右:寺井弘典氏(P.I.C.S. クリエイティブディレクター)、左:川本康(コマーシャル・フォト統括編集長)

川本 昨年に続きまして、この映画祭で「ブランデッドフィルム 2」のプログラムを上映させていただくことになりました。札幌のみなさん、よろしくお願いします。昨年はサントリー C.C.レモン「忍者女子高生」、NTTドコモ「3秒クッキング」、サントリー ペプシ「桃太郎」など、ブランデッドフィルムの話題作がたくさんありましたが、寺井さん、今年のラインナップはいかがでしょうか?

寺井 今年も昨年に負けず劣らずのラインナップになっております。今回のプログラムを組むにあたって、川本さんと2人でいろいろと動画を探しましたが、この1年間でさらに多くの企業がネット動画を作るようになって、ブランデッドフィルムは確実に広がり始めているなと感じました。

川本 それでは上映に入る前にちょっとだけ、「ブランデッドフィルム」とは何かというお話をいたします。簡単にいうと、企業や自治体が自分たちのブランディングのために作ったネット動画のことなんですが、なぜネット動画にこんなに注目が集まっているのか? その背景についてです。

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川本 まず、こちらの「テレビとネットの平均利用時間」のグラフを見てください。年齢層によってそれぞれの利用時間がかなり異なっているのがわかります。

寺井 10代、20代はネットを見ている時間の方が長くて、30代以上になるとテレビの方が長いですね。年齢が高くなればなるほどネットの利用時間が短くなる。

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川本 こちらは「動画広告の市場規模」の予測です。これは2014年の調査結果ですが、かなりの勢いで市場規模が拡大しています。中でもスマホの動画広告はもうすぐPCを抜くと見込まれています。

寺井 スマホの勢いがものすごいですね。

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川本 ネット動画はスマホとの親和性が高いということで、歴史年表風にまとめたのがこちらのスライドです。まずYouTubeが誕生したのが2005年、2年後には日本での利用者が1000万人を超えました。その翌年にはTwitterとFacebookが登場し、さらにその翌年にはiPhoneが発売されました。このように今から10年くらい前にYouTube、SNS、スマホなどが続々と登場して、それによって我々の生活が大きく変わったのがよくわかります。

寺井 面白い動画を知るのは、だいたいスマホでFacebookやTwitterを見ているときですからね。かつて映像メディアはテレビが圧倒的だったのに、10年くらい前にパラダイムシフトが起こって、インターネットの存在感がどんどん増しています。この年表を見ると、ブランデッドフィルムは、YouTube、SNSなどの動画サイトで、主にスマホで視聴されて広がっているというのがよく分かります。

川本 さて、この「ブランデッドフィルム」という言葉についてですが、広告業界ではもともと、企業が作るネット動画のことを「ブランデッドエンターテインメント」「バイラルムービー」などと呼んでいました。ですが、せっかく映画祭のスクリーンで上映するのなら、なにか他の呼び方はないかということで寺井さんと2人で考えたのが、「ブランデッドフィルム」という造語なんです。

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川本 では、ブランデッドフィルムはテレビCMとどう違うのでしょうか。まず目的ですが、テレビCMは「商品の情報を伝える」ことが第一。それに対してブランデッドフィルムは「見る人を楽しませる」ことを優先してエンターテインメントに徹しています。尺は、テレビCMは「長くても30秒以下」、ブランデッドフィルムは「短くても60秒以上」、だいたい2〜3分のものが多いですね。視聴人数・視聴態度は、テレビCMの「不特定多数」「受動的」に対して、ブランデッドフィルムは「特定少数」「能動的」。そして効果測定の面でも違います。

寺井 視聴態度が受動的か能動的かというのは決定的な違いですよね。面白いネット動画はまずSNSや口コミで知り、見たければクリックしたり検索で探したりしますよね。行動の基本としては、映画やDVDと同じように自分から見にいくわけです。

川本 先ほどの「テレビとネットの平均利用時間」の調査でも見たように、いまやテレビは中高年層中心で、ネットは若年層が中心。おまけにネットの方が効果測定がやりやすいので、企業が若年層にリーチしたいときはブランデッドフィルムを選ぶという流れができているんだと思います。

寺井 私のような作り手の側からすると、ブランデッドフィルムは情報性よりも娯楽性、 エンターテイメントとしての演出が重視されるし、テレビCMよりも時間と表現の制約が少ないので、やりがいがあります。広告の枠を超えた「ショートフィルム」の一つと言えると思います。

川本 なるほど、作る側からしてもブランデッドフィルムはCMとは違うものなんですね。前置きはここまでとして、いよいよ作品の上映に入りましょう。本日は10本のブランデッドフィルムを用意しています。

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インパクトの強さを狙うか、コンセプトで勝負するか

富士フイルム 空中土俵入り

川本 空から相撲取りが降ってくるという、なんともシュールなフィルムです。CGは使用せず全て実写だそうですが、なぜ相撲取り? なぜスカイダイビング? なぜ外国人? と疑問ばかりが浮かびます。これで商品のブランディングになるのかと不思議に思いますが、2016年6月に公開されてすでに128万回も再生されているので、話題になったのは間違いありません。

寺井 壮大な一発芸とでも言いましょうか、意味がわからないけど面白い。富士フイルムはかつて樹木希林のフジカラープリントや、デーモン小暮の写ルンですなど、不条理でやんちゃなテレビCMで一世を風靡したことがありますが、それが復活したような感もありますね。

川本 そうは言っても、どうして外国人の相撲取りが空を飛んでいるのか気になります。

寺井 大丈夫です、ちゃんと調べてきましたよ。実はネットの世界では10年以上前から「アフガン航空相撲」というネットならではのジョークがありまして、ネットで検索すると、裸の男が空中で戦っているイラストなどが見つかります。空中土俵入りの映像はそのイラストとそっくりですから、元ネタになっているのはまず間違いないと思います。

ではアフガン航空相撲って何だろう? ということで調べてみると、2002年にアフガニスタンの航空観光相という大臣、略してアフガン航空相が暴徒に殴り殺されるという事件が起こっています。新聞で「アフガン航空相撲殺される」という見出しで報じられたのですが、それが2ちゃんねるで「あふがんこうくうずもう、ころされる」と意図的に誤読されて、アフガン航空相撲という架空の格闘技の話題で盛り上がったというわけです。

川本 なるほど、それでいろいろな謎が解けました…。でも、肝心の商品はスマホの写真をワイヤレスで出力するプリンターです。それに対してアフガン航空相撲のネタというのはかなり大胆ですよね。公式のメイキングビデオを見ても何も説明がないですし。

寺井 ネットの流行り、ネットジョークが企画の骨子になっているのが今の時代ならではだと思います。見ている人の多くは元ネタを知らないと思いますが、わからなくてもいいんだ、ビジュアルインパクトがあればいいんだという割り切りがすごい。自分だったら元ネタを匂わせるような描き方をして、理屈をくっつけていたと思うのですが、あえてそれを伏せてやっているのはとてもチャレンジングで、これでいいんだと見ていて勇気が湧きました。ブランデッドフィルムの有り様の、一つの見本のような気がします。


関電工 光を灯す

川本 白い紙にペンで線を描くと、その線に沿ってLEDの明かりが点いたり、白い紙から建物の形が立ち上がってきて、だんだんと街が出来上がるという楽しい映像でした。これは電子回路ペンという特殊なペンを使っていて、インクの部分に電気が通ることで明かりが点く仕掛けで、基本は一発撮りだそうです。関電工は電力供給のインフラを支える会社で一般的な知名度は高くないのですが、このフィルムは2016年6月に公開されて227万回も再生されています。

寺井 80年代に、同じように電球を使った松下電器の有名なCMがありましたよね。果物の皮を剥くと中から光る電球が現れるというCM。あの時代はまだデジタル合成なんてなかったから実物を使って撮影していたと思うんですが、関電工もそれと同じ匂いがします。こういう手作り感、クラフト感あふれる映像は非常に日本人的だけど、日本以外でも通用するんじゃないかと思います。

川本 たしか松下電器のCMもカンヌ広告祭でグランプリを獲りましたね。

寺井 関電工の映像は新井風愉さんという監督が作っているんですが、2012年のメディア芸術祭で新人賞を受賞した時から注目しています。受賞した作品は永野亮さんの「はじめよう」というMVです。歌っている人が最初から最後まで宙に浮いているという不思議なMVで、デジタル合成は使わず、アナログ的な仕掛けだけで空中浮遊しているように見せています。僕はその時審査員をやっていて、非常にシンプルなアイデアなのに、見たことのない映像感覚で、やられた感が強かったですね。

新井さんはストーリー性のあるものや情感に訴えるものよりは、ワンコンセプトの面白さを追求する作風で、広告の仕事でもコンセプチュアルな発想で活躍されています。ノーマン・マクラレンという実験映像・アニメーションの作家を尊敬されているそうです。一貫したアイディアと映像手法で1本作ってしまう。毎回、作り方を発明しているようなところがあります。手間がかかる作り方でも、その手間を惜しまずにコンセプトを貫き通すことができる演出を、緻密に構築しているのに感服します。関電工のフィルムは新井さんらしい1本だなと思います。


地方から発信するブランデッドフィルム

倉敷中央病院 研修医実技トライアウト

川本 これは岡山県の倉敷中央病院が研修医採用のために実施した、5ミリの折り鶴を折る、バラバラになった昆虫を組み立てる、米粒大の寿司を握るという、これまでにない実技試験を収めたフィルムです。

寺井 試験の様子をドキュメンタリータッチで描いているんですが、ライティングやカメラワークがきっちりとしているので、もしかしたら本物の試験ではないのかもしれませんが、課題が発表された時のどよめきや学生が焦っている様子などは真に迫っています。ドキュメンタリー的要素に加えて、医療ドラマの手術シーンのようなハラハラドキドキの要素も入っていて、見応えがあります。しかも動画のほかに制作されているポスターがかなりハイクオリティで、トータルな完成度の高さに圧倒されます。

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倉敷中央病院 研修医実技トライアウトのポスター(画像をクリックすると拡大)

川本 ポスターはトライアウト当日に試験会場で貼られていましたし、トライアウトを体験できるWebサイトがオープンしたときも同じ写真が使われています。

寺井 考えてみればお医者さんは手先の器用な人の方が信頼できるし、その一方でこういう試験を行なう病院は患者の気持ちがわかっているなと思う。リクルーティングとブランディングがうまく合致しています。

川本 このフィルムは2015年10月に公開されて6万回再生されているんですが、実は英語版もあって、そちらはすでに100万回を超えています。わざわざ英語版を作ったのは、この病院が海外に向けてもブランディングしたい表れだと思うんですよね。

寺井 海外での反響を狙って、折り鶴や寿司など、いかにも外国人が反応しそうな試験にしたのかなという気もしますね。

川本 いま医療の世界も国際化が進んでいて、実際に倉敷中央病院は2016年にJCIという国際的な医療機能評価を取得しています。その背景にはメディカルツーリズムとか医療観光という言葉があって、自分の住んでいる国とは違う国を訪ねて高度な医療を受けるという状況が世界的にあるそうです。

寺井 そうすると、このフィルムの目的も単なる国内での話題作りではなく、海外を見据えた戦略の一環ということになりますね。動画やポスターのクオリティの高さといい、試験問題の作り方といい、病院とクリエイターがかなり突っ込んだ議論をしているのではないかという気がします。単なる広告の枠を超えていて、思っていたよりも深いブランデッドフィルムだと思います。

川本 動画やポスターは国内外の広告賞もたくさん受賞しているので、その話題性も込みで、世界的に病院の知名度が上がりましたね。

寺井 首都圏の代表的な病院ではなくて、地方の病院がこういう施策で打って出ているというのは意義深いですね。こういう流れが医療業界にもっと広がっていくと面白いと思います。


静岡新聞SBS 超ドS「静岡兄弟」

川本 静岡新聞の創刊75周年、静岡放送SBSの開局65周年にひっかけて、75歳と65歳のおじいさんに擬人化された兄弟が登場します。2人はマスコミ関係であることを鼻にかけて女の子をナンパしようとしますが、まったく相手にされないという、なんとも自虐的なフィルムです。

寺井 これはものすごくエッジが効いていて、有吉弘行を起用した「おしい!広島県」の自虐的なキャンペーンに通じるところがあると思います。僕の周りではみんな大笑いして見ていたので、SNSで大きな話題になるだろうと思っていたんですが、それほどでもない感じですね。どうしてなんでしょう。

川本 広島県の場合は日本全国に向けた観光誘致のキャンペーンでした。それに対してこちらは静岡県の地元メディアのプロモーションなので、そもそもターゲットが違うのではないでしょうか。

寺井 確かにそういう面はありますね。

川本 超ドSというコピーについてちょっと補足すると、ドはど真ん中のド、Sは静岡新聞SBS、超ドSはこれまでの静岡新聞SBSを超えろという意味だそうで、新聞広告では「静岡県民は、己を蜜柑の大器と信じ決して諦めるな。」「静岡県民は、嫌なことはお茶に流して次へ行け。」などと、静岡県民に向けた「超ドS憲章」を発表しています。静岡ではかなり話題になったようです。

寺井 ということは、このフィルムも静岡県民に向けたメッセージなんですかね。

川本 おじいちゃんになった静岡新聞と静岡放送SBSが自分を鍛えて出直すという内容ですから、やっぱり静岡県民に見てほしいんだと思います。

寺井 なるほど。そう考えると、いま地方のメディアが厳しい状況に置かれている現状はよく表現されているし、それを踏まえた静岡県民へのメッセージとしてもよく出来ています。ここまで自虐的な内容に対してよくOKが出たなと思いますが、それこそが出直しの姿勢の表れなんでしょうね。新聞とテレビというオールドメディアがわざわざネットを使って発信しているのも、新しいことにチャレンジしている感じがします。


徳島県 ホントに都会じゃなきゃダメ?~サラリーマン編~

川本 倉敷、静岡と地方発の作品が続きましたが、これは地方創生を目的に徳島県が作ったフィルムです。徳島県は2014年から「vs東京」というコンセプトで動画を作っていて、これもその中の1本なのですが、なぜ東京との対決姿勢を鮮明にしたのかというと、各都道府県のプロモーション合戦の中で後発の徳島県が埋没してしまうのを防ぎ、強いインパクトを残すためだそうです。そもそも目的が観光誘致ではなく、東京からの企業誘致や移住促進なので、とても難易度が高い。それだけにかなり真剣な取り組みだと思います。真っ向から「ホントに都会じゃなきゃダメ?」という投げかけは、ちょっとドッキリしますね。

寺井 地方創生関連の仕事はクリエイターにとって表現の自由度が高いと思うので、今後もっと面白くなっていくんじゃないかなという予感はあります。地方の取り組みを支援する地方創生交付金という制度がありますが、国もお金を配分するだけではなく、交付金を使って制作した動画のコンテストをやったりすると、クリエイターも注目するし、クオリティも上がるし、いい循環が始まるんじゃないかと思います。

川本 今年は鹿児島県志布志市の動画「少女U」がネットで炎上して、最終的に削除されるという出来事がありました。

寺井 インパクトの強いものを作ろうとすると、どうしてもそういうことは避けられません。SNSが発達したおかげで口コミが広まりやすくなった反面、炎上も起こりやすい。これからの地方自治体はネットメディアときちんと向き合って、炎上やクレームに対する耐性を身につけないといけない時代ですね。

川本 トガった表現は、東京の人は面白いと思っても地元の人が反発するかもしれないし、クリエイターのやりがいだけでは地方創生の動画を語れないような気がします。

寺井 きっと面白いだけではダメで、物が売れるとか人が動くとか地域の課題解決につながるきっかけが求められているんでしょうね。ブランデッドフィルム自体には課題を解決する力があるわけではなくて、より多くの人に注目してもらうきっかけを作るツールなんです。クリエイターがきちんと地方の課題に向き合って、表現として面白く、なおかつ注目を集め、課題解決につながるようなフィルムがたくさん生まれてほしいですね。

川本 徳島県の場合は企業誘致や移住促進という大きなテーマなので、そんなに簡単ではないと思いますが、時間をかけてじっくり取り組んでほしいですね。


ネットの特性を活かしたブランデッドフィルム

日産自動車 #猫バンバン PROJECT MOVIE

川本 寒くなると猫たちがエンジンルームやタイヤの間に入ってしまうことがあって、気づかずにエンジンをかけてしまうという悲しい事故を防ぐのが#猫バンバンプロジェクトです。冬はクルマに乗る前にボンネットをバンバンしようと呼びかけています。

寺井 このフィルムを見たら、乗る前にぜったい猫バンバンしますよ。多くの人がこれを見ることによって、猫が本当に救われているんだろうなと思います。機能するブランデッドフィルム、役に立つブランデッドフィルムとしてピカイチじゃないですか。

川本 使われている猫の動画は、このプロジェクトに賛同した猫好きの人たちから提供されたものだそうです。

寺井 いまFacebookでもInstagramでも自分が飼っているペットの写真を見せ合うグループが盛り上がっていますが、そういう猫好きのコミュニティと自動車メーカーとが結びついたというのが意外でした。これはクリエイターが狙って作れるものではなく、そういうコミュニティの間で自然発生的に生まれたような気がします。

猫を救おうと呼びかけることで日産のブランド価値が上がるという、コミュニティの盛り上がりが先行しているのがいいなと思います。クルマのスペックを軸にしなくても自動車メーカーのプロモーションが成立するんだという発見は、ブランデッドフィルムならではです。

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猫バンバンの公式サイトからロゴやステッカーをダウンロードできる

川本 猫バンバンのロゴやステッカー、ポスターなどのデータが、Webサイトからダウンロードできる仕組みもいいですよね。ネット上だけでなくリアルな世界でも、猫バンバンの運動が広がっていくわけですから。

寺井 これはたぶんテレビCMでも紙の広告でも成立しなくて、ネットメディアだからこそ多くの人に共感してもらえるんだと思います。テレビ中心の広告手法ではできなかったことを実現していて、ブランデッドフィルムにはこんな役割もあるんだということがよくわかりました。とても良心的だし、ハッピーだし、理想的なブランデッドフィルムとして、この先も語り継がれていくと思います。


大塚製薬 ポカリスエット ポカリガチダンス フルバージョン

川本 テレビCMのダンスを見た人たちから振付の質問が多数あったことからこの企画が始まったそうです。ポカリガチダンス選手権として一般の人からダンス動画を募集して、応募総数は600以上。キャンペーンの副賞として投稿動画を使用した60秒と30秒のCMが放送されましたが、このWeb限定版はフルバージョンとして150秒で作られています。

寺井 このフィルムを見ていると、みんな踊るのが大好きで、踊りたいんだなというのがよくわかります。CMもそうですが、ダンスものはブランデッドフィルムの一つの定番として定着するのではないでしょうか。

川本 ダンス動画の募集期間はわずか1週間でしたが、そのちょっと前からYouTubeチャンネルでレッスンビデオを公開して振付師がダンスの解説をしたり、公式の踊ってみた動画を海外ロケで作るなど、事前の盛り上げ施策にも力が入っていました。

寺井 ネットの使い方がよくわかっていますね。今時の中高生はみんなスマホを持っていて、ダンスの練習なんかもスマホで動画を見ながらやるらしいですから、こういう視聴者参加の盛り上げ方は上手いと思います。

川本 ポカリスエットではガチダンス選手権の前にも、ペットボトルを写し込んだトリックアートのような写真をTwitterやInstagramで投稿する、「ポカ写」というキャンペーンをやっていて、そちらも中高生に大人気で、投稿写真で写真展まで開催していました。大塚製薬はユーザーの目線に立った参加型のイベントを仕掛けるのが上手いですね。

寺井 イベント性のあるキャンペーンは、ネットやスマホ、ブランデッドフィルムとも相性ぴったりです。見る人を巻き込んで作るブランデッドフィルムがもっとあってもいいですね。


日清食品 侍ドローン猫アイドル神業ピタゴラ閲覧注意爆速すぎる女子高生

川本 これはタイトルの通り、侍やドローンや女子高生など、ネットの世界でバズる要素をこれでもかというくらい盛り込んだフィルムです。2016年7月に公開されて106万回再生されています。

寺井 これはブランデッドフィルムのトレンドの総ざらいみたいなもので、去年このプログラムで上映した「忍者女子高生」や「3秒クッキング」のネタもしっかり入っていました。こんなやり方があるんだとちょっとびっくりしました。

ラスト近くになって、主人公が実は男だったとわかるのがけっこう意外でした。最初見たときは女の子が途中で男の子に入れ替わったのかと思っていましたが、もう一度見直してみたら最初から男の子だった。女の子のような声だったので、しっかり騙されました。とてもいいオチになっていると思います。

川本 YouTubeの日本語字幕機能をONにすると、動画のバズ要素の解説が字幕で表示されるという小ワザも効いていますよね。1回見たら、次は字幕入りで2回目を見てしまう。

寺井 こういうものがネットで話題になることを計算に入れて作っているわけで、いよいよ時代もここまできたかという気がします。まさに今回の「ブランデッドフィルム 2」のプログラムのために作られたかのようです。

川本 さきほどのポカリスエットもそうですが、チキンラーメンのように単価が低い商品は競争相手が多いし、次から次に新しい商品も出てくるから、常に話題性を維持しなくてはならない。ブランデッドフィルムはそういう商品に向いているような気がします。

寺井 そうですね、若者ターゲットでコンビニ勝負の商品は、話題性を提供するためにブランデッドフィルムを作り続けていくことになりそうですね。ほかの食品メーカーにも期待したいと思います。


企業の文化を世界へ、未来へ伝えるためのブランデッドフィルム

トヨタ自動車 THE WORLD IS ONE -FUTURE-

川本 「THE WORLD IS ONE」は2015年1月に公開されたフィルムで、最初に日本篇、オーストラリア篇、南アフリカ篇の3本が同時に公開されました。役者とロケ地は違っても、ストーリーもアングルもすべて同じというプロジェクトで、これだけでもかなり破格なのですが、公開から1年半が経過した2016年6月、新たに4本目のFUTURE篇が追加されました。

舞台は遠い未来の日本で、何百年も前のクルマ文化が復活しているという設定になっていて、やはり同じようなストーリーが展開します。最初の3本よりもさらに大規模で、未来社会のコンセプトデザインやVFXのクオリティがものすごく高い。

寺井 これはかなり長い時間をかけて作っていますよね。クリック数や再生回数を瞬間風速的に稼ぐだけだったら、こんな手間とお金のかかることはしないと思うので、他のブランデッドフィルムとはちょっと文脈が違うような気がします。

川本 登場するクルマは「ハチロク」と呼ばれる1980年代のスポーツクーペで、新車のプロモーションではありません。4本とも同じストーリー、同じアングルにこだわったのは「国や文化や時代が違っても、クルマと人の関係は変わらない」と言いたいからだと思うんですが、ちょっと回りくどいというか、ストレートには伝わらない気がします。

寺井 青春のストーリーにクルマをすべりこませて、人生の中でクルマって何だと問いかけるような、かなり難しいことをやっていますからね。いま自動車産業は若者のクルマ離れという難しい局面にあって、そんな中でも若者に向けてクルマ文化を伝えていかなければならない。いろんなジレンマの中でこれを作ったと思うんですが、すごくセンスがいいフィルムだと思います。

最近のトヨタは創業者の精神に立ち返り、モータースポーツ活動を根幹に据えることでクルマファンを増やそうとしています。このフィルムは一見それとは無関係なんですが、実は「TOYOTA GAZOO Racing」というモータースポーツのWebサイトで公開されている。クルマ文化を伝えるという意味では、モータースポーツ活動と同じ使命を帯びているんじゃないですかね。

川本 それで思い出しましたが、同じ自動車メーカーのマツダには、1990年代の一番苦しい時代に作られたブランドエッセンスビデオというものがあって、短い時間の中でマツダは何をして社会に貢献していく会社なのかが語られています。YouTubeでも見られますが、20年近くずっとこのビデオはマツダの社内で共有されていて、社員なら年に1度は必ず見るそうです。言ってみればマニフェストみたいなものなのですが、トヨタのこのフィルムもそれに近いのかもしれません。

寺井 そうですね。きっとトヨタのスピリッツを内外に長く伝えていくためのブランデッドフィルムなんでしょうね。大きな企業にはきっとこういうフィルムが必要で、これからもずっとアーカイブされていくんだと思います。


マルコメ 世界初かわいい味噌汁

川本 最後の上映作品を何にしようか二人で相談したのですが、わりとすんなりと「マルコメ 世界初かわいい味噌汁」で一致しました。

寺井 これは商品もよく分からないし、映像も非常に感覚的だし、ワケの分からなさではピカイチ。今年最大の問題作といいますか、非常にコメントしにくい作品ではあるのですが、すごく斬新だと思いました。

川本 商品についてまず説明しますと、これまでにない新しい味噌汁を作る目的で、日本独自の「かわいい」カルチャーと、世界的な和食ブームで海外でも人気が高まっている味噌汁を融合させたものです。これをどうやって作るかというと、東京の原宿、シンガポール、パリ、ロンドンの4都市で2000人を超える人の「かわいい」という声を録音して、それを工場で味噌に聞かせる。他人から「かわいい」と声をかけられると、だんだん人はかわいくなっていくという話がありますが、それを味噌に応用したのだそうです。

フィルムの方ではそういうことはまったく触れないで、チアリーダー、土偶、枕草子、女子高生のセーラー服、携帯ストラップ、お歯黒、魔法少女など、「かわいい」をめぐる様々なイメージが次々と現れては消えていく。そして女の子がモノローグで、「かわいいとは幼くて、無垢で、純粋なもの。清少納言は、枕草子にそう書いた。でも、それだけ?」と、「かわいい」の定義について思考をめぐらしていきます。

寺井 ものすごい強烈なイメージの洪水をなかなかうまく言語化できないんですが、これを監督したのは佐渡恵理さんと鎌谷聡次郎という二人の若手ディレクターです。そのインタビューがIMAGICA DIGITALSCAPEのサイトに出ていたので、そこからちょっと引用してみます。このインタビューは面白いので、ぜひ読んで欲しいと思います。
*IMAGICA DIGITALSCAPEのインタビュー記事はこちら

鎌谷さんはこう言っています。『 “かわいい”をどう解釈するかっていうのは大きなテーマでした。その答えを出すまでの道のりが大変な仕事だったんです。打ち合わせで、昔のファッション、十二単から今の服まで、かわいいとされたものを挙げていったりするのですが、それらってその時代のイケているアイテムだけど、果たして“かわいい”のか?なんかしっくりこないな…。“かわいい”って何なんだろう?っていう自問自答のループが続きました』。

『最終的にヒントになったのが、僕の大好きな手塚治虫のマンガ「火の鳥」でした。“かわいいとは何か”を追い求めているこの過程が、絶対的だけどあやふやな存在“火の鳥”を求めるというマンガの内容と重なって、「そうだ、“かわいい”を探求している過程を映像化すればいいんだ」って思ったんです』。

川本 「火の鳥」は、時空や歴史を超えて生き続ける不死鳥がいて、いろんな時代の人がそれを追い求めるという話でしたよね。あともうちょっとで捕まえられそうなんだけど手が届かないという感じが、たしかに似ています。

寺井 そもそも「かわいい」とは何かって考えても、答えは出ない問題じゃないですか。「かわいい」とはこれだと結論を出すのではなく、日本人の「かわいい」はいろんなところに遍在しているので、それを探し歩いて「あ、これこれ」「こっちもある」という過程を描くというのは、とても面白い試みだと思います。まるで鈴木清順やゴダールの映画を見ているようで、監督の脳みその中を見ている感じがしますね。

川本 一つ一つのショットはものすごくクオリティが高いし、圧倒的なものを描こうと果敢に挑戦している感じがします。よく意味は分からないんだけど志が高いのはわかった、みたいな。

寺井 「世界初かわいい味噌汁」は、わかりやすく言えば、日本の食文化を、今の切り口で世界に広めていくプロジェクトだと思うんです。その切り口を切り開き、広めていく有効な機能を持つ媒介として、日本発の「かわいい」という言葉が採用されたのだと思います。無形文化遺産に認定された「和食」の代表的な発酵食企業のマルコメとして、それに取り組んでいること自体に意味があって、こういう素晴らしいフィルムが生まれたこと、それだけでブランド価値が上がったのではないでしょうか。

川本 寺井さん、きれいにまとまりましたね。ありがとうございます。

さて本日の上映作品は以上です。みなさん、いかがだったでしょうか。単なる面白ネット動画だと思っていたものが、その裏側には世の中の動きや、それぞれの企業や自治体の抱えている課題、世界の中の日本などいろんな問題などが詰まっていて、「ブランドッドフィルムもショートフィルムの一つ」ということがお分かりになっていただけたのではないかと思います。また来年もこの札幌国際映画祭で、寺井さんと二人でブランデッドフィルムを紹介できたらと思います。ありがとうございました。


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第10回 札幌国際短編映画祭「ブランデッドフィルム」レポート


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