一眼ムービーなんて怖くない!

第26回 NECのPAシリーズ、マスターモニタ化計画

解説:鹿野宏

昨年10月、久しぶりにNECのディスプレイ、PAシリーズが刷新されました。24インチから30インチまでのラインナップ。そのサイズ感の良さから27インチタイプがずっと気になっていたので、メーカーから借りて使ってみました。それも単に使ってみるだけではなく、実はある壮大な計画を持っていたのです。

以下、PAシリーズの特徴を簡単におさらい。

❶:ディスプレイ内部にカラーセンサーを内蔵しているため、わざわざ外部センサーを使ってディスプレイキャリブレーションせずとも、色域、輝度、コントラストなどを自動で長時間維持することができる(もちろんキャリブレーションすることも可能)。光源が安定していれば、ディスプレイの発色も安定する。

内部キャリブレーションは出荷時に1台ずつ調整され、よほど輝度や色味に変化がない限り、ディスプレイ自身でキャリブレーションしてくれる。

❷:マット系の液晶画面にありがちな、あの「ぎらつき感」を見事に抑えている。筆者はこれまで「気にしない」ことで解決してきたが、現物を見てみるともうダメ。従来のディスプレイとは異なり奥深く、くっきり見える。もちろん他社でも同様の機能を持つ機種が出ているが、この値段で「ぎらつき」を抑えたことが素晴らしい。おかげで「見かけの黒の締まり」も向上し、「見た目のダイナミックレンジ」も広がったように感じる。

❸:MultiProfilerを使用して、印刷物や他のディスプレイなどの色再現をエミュレーションすることが可能。MultiProfilerにはプリセットでDCI、REC-Bt709のプロファイルが入っているが、SMPTE-CやEBU規格のプロファイルを読み込むことも可能()。

DCI:Digital Cinema Initiatives。米国ハリウッドのメジャー7大映画制作スタジオが作った団体。DCI規格は、そこが策定したデジタルシネマの規格。
REC-Bt709:ITU-R( 国際電気通信連合 無線通信部門)が定めた規格。家庭用ゲーム機やHDTV放送用のプロファイルと考えて良い。色域はsRGBに酷似。
SMPTE-C:北米の放送規格で採用されているカラープロファイル。
EBU:ヨーロッパの放送連合の規格に準じたプロファイル。

❹:キーボードやマウスのハブ機能まで組み込まれている(しかも切り替えて共有可能)。また、LED光源に変更したこともあり、ファンレスで薄型化に成功したこと、フリッカー対策に取り組んだことなどが、新しい魅力。

ついでに言うと、接続ケーブルの抜き差しがしやすい設計になっていることもありがたい。私はちょくちょくディスプレイを移動するので、電源周りの接続がやりやすいことは結構重要。

画面の90°回転などもありがたい。デジタルサイネージの多くは縦位置なので、大きなアドバンテージ。

❺:入力はDisplayPortにminiDisplayPort、DVI-DにHDMIと、てんこ盛りで、何でもござれ!

❻:その他、14bitガンマ補正機能、均一な画面再現を約束するムラ補正機能、高彩度を再現する広い色域、斜めから画面を見ても正確に判断できるIPSパネル、他のマシンの画面を同時表示するピクチャーインピクチャー。それらの画面にそれぞれ異なるプロファイルを当てることが可能な仕様などなど…以前の機種の良いところはそのまま引き継いで、最安値では15万円を切っている。

以上、豊富な機能をざっとおさらいしてみました。ま、ここまでは「これだけの再現力を持って、このお値段はお買い得」というお話…。問題は「これで何ができるか」ということ。

前述のシャドウの締まりの改善による再現力の高まりと14Bitガンマ補正という性能を組み合わせ、そこにプロファイルを読み込んでディスプレイに反映させるMultiProfilerを活用すると、デジタルムービー用のちょっとしたマスターモニタとして使用できるのではないかと感じていました。…実はこれ、一番期待していたこと、それが筆者の「壮大な計画」なのです。

マスターモニタとしてこんな使い方ができる
img_products_dslr_nofear26_01.jpg 手前のMacBook Proの画面を2台のディスプレイに出力。左のディスプレイは筆者が従来使っているNECのPA301。こちらはAdobe RGB、100cd/㎡に設定。右が今回テストした27インチのPA272。オリジナルで作った家庭用テレビのプロファイルで表示。
img_products_dslr_nofear26_02.jpg PA272の画面。2台のマシンからの入力を2画面で表示するPA272のPIP(ピクチャーインピクチャー)機能を使えば、こんなこともできる。入力されたデータは同じものだが、小さい画面はREC-Bt709のプロファイル、大きい画面は自作の家庭用テレビプロファイルのエミュレーションで表示。

デジタルシネマのDCIや放送機器用のREC-Bt709のみならず、各国の放送規格であるEBU、SMPTE-Cなどもエミュレーションできてしまいます。ついでに通常のテレビのプロファイルもあれば最高なのですが…それは存在していませんでした(というよりも、現実には生産されたテレビの機種の数だけ、プロファイルが存在すると言っても過言ではないでしょう)。

そこでMultiProfilerを使って、家庭用テレビのプロファイルをちょっと試しに作ってみました。

最近のテレビの発色を見ていると、sRGBよりも色域が広く、コントラストが遙かに高い感じです。ガンマは2.4か2.6。私は間を取って2.5としました。白色点は9300ケルビン。色域はsRGB以上、Adobe未満という感じですが、結構広そうなので、「ディスプレイの色域すべて」を選択しました(赤方向に余裕があるので、使わない理由はないなと)。輝度は300cd/㎡とかなり明るめです。こうして作成したプロファイルを「TV」という名前でMultiProfilerに登録。本来、テレビのディスプレイは各社各様の色作りをしているので完璧ではありませんが「普通のテレビで見たならばこんなもん」というエミュレーションができると思います。

PA272、1台でデジタルシネマのDCI、HDTVのREC-Bt709、印刷用のAdobe RGBにコンピュータの規格sRGB、そして家庭用テレビで見ている状態を、すべてプリセットにしてシミュレーションすることが可能になり、私の期待通りのディスプレイになってくれました。

印刷用原稿はAdobe RGBで、Web系はsRGBで作業を行ないます。動画系は…私はハリウッドのデジタルシネマを制作していない…そのため通常はREC-Bt709を選択して作業をします。クライアントに見せる時は「家庭用テレビで見るとこんな感じ」という、TVモードで見ていただくことができます。

本格的なマスターモニタを購入することはちょっと難しいのですが、こんな便利なディスプレイが1台あっても良いと思いませんか?

MultiProfilerで「家庭用TV」のエミュレーションプロファイルを作る
img_products_dslr_nofear26_03.jpg
img_products_dslr_nofear26_04.jpg
NECのPAシリーズは、MultiProfiler機能を使い、自分でプロファイルを作ることが可能。今回は「家庭用テレビ」の再現をエミュレーションするためのプロファイルを作ってみた(あくまで最近の家庭用テレビはこんな色再現という数値)。ガンマは2.5、白色点は9300ケルビン。色域はsRGB以上、Adobe未満で、やや広めに設定。そのプロファイルを「TV」という名前で保存。これでいつでもこのプロファイルを呼び出して、制作したムービーを「家庭用テレビ」の「映り」で、擬似的に再現できる。

鹿野宏 Hiroshi Shikano

デジタルカメラの黎明期からほとんどの一眼レフタイプのデジタルカメラを遍歴。電塾塾長としてデジタルフォトに関する数多くのセミナーを開催。カラーマネージメントセミナーも多い。写真撮影では2億画素の巨大な画像を扱い、2009年から動画撮影をスタート。WEB上の動画、デジタルサイネージ、社内教育用などの「ミニマル動画」を中心に活動している。

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