そうだったのか!デジタルフォトの色

第14回 ワークフローとカラーマネジメントの整備

BOCO塚本

いよいよこの連載も最終回を迎えました。約1年半おつき合いいただき、ありがとうございました。このコーナーでは、これまで様々な角度から「デジタルフォトと色」そして「光と色」について検証してきました。光は、撮影時だけでなく、写真を見る場合にも大きな影響があることをご理解いただけたと思います。

デジタルフォトには、「カメラとパソコンがあればOK!」なんて思っていたのに「作業部屋まで変えないといけないのか!」と思われる方も多いかもしれません。しかし環境を整えずに作業を続けることは、写真の質に影響するばかりでなく作業時間のムダやインク・用紙のロスにもつながります。時間やコストがかかる環境整備ですが、結果的にスムースなワークフローへの近道になります。

では、ここでもう一度ワークフローから「デジタルフォトの色」について見てみましょう。撮影内容によって多少違いはありますが、私のデジタルフォトワークフローは、おおよそ次のようになります。

img_products_eizo_boco14_01.jpgテスト撮影後に画像チェックだけでなくRaw現像設定まで追い込んでおく。本番撮影画像に、テスト設定が適用できるとセレクト時にイメージのズレが少なくなる。

img_products_eizo_boco14_02.jpg再調整が必要な場合もあるが、撮影後の作業は少なくなる。

①テスト撮影→②テスト画像チェック&設定決定→③本番撮影→④画像セレクト→⑤Raw調整&現像→⑥レタッチ→⑦コンタクトシート(プリント)出力→⑧データ(プリント)受け渡し

この連載の前半で、数回にわたって撮影現場での画像チェックとキャリブレーションの重要性について書いてきました。適正な画像の撮影が目的ですが、時間短縮にもつながります。このワークフローで時間短縮のポイントは、「②テスト画像チェック&設定決定」です。この時にライティングの追い込みに合わせてRaw現像の設定を決めてしまいます。そうすることで撮影後の「⑤Raw調整&現像」を短縮できます。またモデル撮影のように「④画像セレクト」が必要な場合も、調整済みの状態で確認できるので後の工程でイメージのずれが少なくなるメリットもあります。

ただし、そのためにはRaw現像ソフトにテスト画像の現像設定がそれ以降の撮影画像に自動的に反映できる機能が必要です。

Photoshop Camera Raw とPhotoshop Lightroom そしてCapture One Pro はこの機能を持っています。また、これらのソフトは、現像設定をテキストファイルとして保存しているので設定値の変更保存に時間がかからないのも時間短縮に貢献します。

テスト画像の設定を本番に反映するには

Capture One Pro img_products_eizo_boco14_04.jpgCapture Oneでは「キャプチャー」タブの「キャプチャー設定」で画像調整をプリセットする


Photoshop Camera Raw
img_products_eizo_boco14_05.jpgCamera Rawでは、Camera Raw設定メニューから「新規Camera Raw初期設定にする」を選ぶ。初期設定は、自動的に保存されないので変更する前に「設定をXMPに書き出し」するのを忘れずに


Photoshop Lightroom
img_products_eizo_boco14_06.jpgPhotoshop Lightroom 2 では「自動読み込み設定」ダイアログで指定すれば自動的に反映される


img_products_eizo_boco14_07.jpgプリセットとして保存した現像設定を、「情報」の「現像設定」で指定すればOK


もちろん、撮影現場でテスト画像を正確に判断する必要があります。色々な環境の撮影現場で画像を正確に見るのは難しいことですが、こまめにモニターをキャリブレーションすることである程度正しい判断ができます。撮影後には、整備された環境でのチェックが必要ですが、作業量が少なくてすみます。

「撮影でできることは、撮影時に!」といいますが、Raw現像設定についても同じことが言えるのではないでしょうか。

img_products_eizo_boco14_03.jpg商品撮影などでも現場での追い込みは有効

さて、ワークフローと言えば、カラーマネジメントですが、この連載ではデジタルフォトの作業全体のカラーマネジメントにはあまり触れてきませんでした。難解なイメージがつきまとっていたカラーマネジメントが、ハードウェアとソフトウェアの対応が進んだためにずいぶんと簡単になりました。

特に「入力側」つまり撮影については、2003年にデジタルカメラのファイルフォーマット規格のDCFとExif がAdobeRGBをオプション色空間としてサポートしたことで、印刷で使用されているAdobeRGBのワークフローのいくつかの問題点がクリアになりました。(*1.)

このおかげで、Jpeg撮影の場合はカメラの撮影設定を、Raw撮影の場合はソフトウェアのカラー設定を、それ以降のワークフローに使用する色空間(iccプロファイル)を指定するだけですむようになりました。

もちろん撮影時のホワイトバランスや露出、コントラストの調整などは必要ですが、これらは撮影意図に含まれる部分だと考えて良いでしょう。デジタルカメラを立体スキャナーと考えて正確な色を記録する場合は、光源の色やレンズの特性まで管理(マネジメント)する必要があります。しかし、撮影に表現や強調が必要だと考えれば、これらの調整はフォトグラファーの裁量でしょう。(*2.)

デジタルカメラは、機種や設定の違いによって発色にクセや偏りがあります。それを理解した上で使いこなせばクセや偏りは「味」になるでしょう。特に35mm一眼レフタイプは、「写真らしさ」や「フィルム風」を残した上で高画質を求めているのでこの傾向が強いのです。

一方、「出力側」のモニターやプリンターは、カメラに比べてひたすら正確さと安定度が求められます。発色のクセなどはない方が良いのです。カラーマネジメントの指標として色ズレを表すΔE(デルタイー)という数値があります。ΔEが3以内であればカラーマネジメントの誤差範囲と言われていますが、皆さんはこの差を納得できるでしょうか?

img_products_eizo_boco14_08.jpg周囲の8枚の画像は、真中の基準画像からΔE=3ずれている。色味によっては気にならないこともあるが、意外と大きな差だ

モニター表示とプリントを並べてもほとんど変わらない状態を追求するとΔE=1以下になります。この程度の差は、モニターのちょっとした輝度ムラの違いでも出てしまうのです。ColorEdgeでは、製造過程での厳しいチェックと出荷前のユニフォミニティ・階調調整、納品後の調整・保守サービス(有料)によって、色の誤差をできるだけ小さくするようにしていますが、これは決してオーバースペックではありません。

img_products_eizo_boco14_09.jpg
ColorNavigatorの6色調整でインクジェットプリンターとのマッチング精度を上げている。これくらいの違いでΔE=1~2程度である

カラーマネジメントやデジタルワークフローは、単なる環境整備です。フォトグラファーのクリエイティブには直接関係ありません。しかし、普段からしっかりした環境を整えることは機材の整備と同じで無用のトラブルを避けるために役立ちます。

この連載が読者の皆さんの環境整備に役立ってほしいという願いを込めて、筆を置きたいと思います。


*1.
DCFとExifは、社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の規格
http://www.cipa.jp/exifprint/index_j.html

2003年9月にDCF Ver.2.0、Exif Ver2.21(Exif Print)は、AdobeRGBをオプション色空間として採用。これによりデジタルカメラは、sRGBに加えAdobeRGBも正式にサポートできるようになる。AdobeRGBで撮影された画像のファイルネームが_DSC0792.JPGのように_(アンダースコア)で始まるのもDCF Ver.2.0の規格。

デジタルカメラで記録されたJpeg画像にはiccプロファイルが埋め込まれないが画像のExifデータから色空間を読み取れるようになった。Mac OSXでは付属画像ビューアのプレビューやwebブラウザのSafariも対応するがWindows VistaのイメージビューアやIE8は未対応となっている。
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*2.
撮影時のライティングやホワイトバランスを入力プロファイルに含む考え方もあるが、デジタルカメラを使った立体スキャナーのような撮影でないと運用できない。本来フォトグラファーが力を発揮するライティングや撮影場所などを固定する方法なので実用するには、習熟が必要。
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写真:BOCO塚本

BOCO塚本 BOCO Tsukamoto

1961年生まれ。1994年フリーランス、2004年ニューヨークSOHOにてART GALA出展、2007年個展「融和」、ほかグループ展、執筆多数。公益社団法人日本広告写真家協会(APA)理事、京都光華女子大学非常勤講師。

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