こびとのくつやの道具箱

第7回 ていねいなしごとのための役割分担

解説:工藤美樹(こびとのくつ)

いまから約7年ほど前は、撮影現場にフリーや外部のレタッチャーがいることはめずらしいことでした。その当時勤務していた会社は、社内にスタジオが豊富にあったため、外部の撮影現場に出向くことは滅多にありませんでしたが、あるとき人物の撮影を外部のスタジオで行なうことになり、たまたま打ち合わせ場所もスタジオになり、これが社内のフォトグラファー以外の撮影現場に立ち会った初めての経験となりました。

膨大な数に及ぶ水のシズルカットもフィルムで撮っていた時代です。まず撮影現場に行きたいと表明した時点で、社内のあちこちから「行く意味がない」「行って何をするのか」「新人でスキルも十分ではないのに生意気だ」など、いろいろと風当たりも強かったのを覚えています。現場のお客様に仕事の内容を説明しても「よくわからない」「そんな仕事があるのか」と言われたのを覚えています。まだフィルムによる撮影が一般的で、デジタル撮影はあってもごく一部であり、デジタルで撮影した画像のエッジにRGBのにじみのようなものが出ていたりと、クオリティにも問題がありました。ですから、デジタル画像やレタッチの話が通じないのも無理はありませんでした。

そして現在。すでにデジタル撮影はあたりまえの存在になり、レタッチャーが何をする職種なのかについての認識も、広告業界では浸透しつつあります。環境も大きく変貌しました。1台数千万円の大型画像出力機(当時の環境は島精機のハイパーペイントでした)から、MacとPhotoshop、そしてColorEdgeの組み合わせによる画像制作設備が一般に普及するようになり、国民総デザイナー時代を現出させたと言っても過言でないでしょう。さらにデジタルカメラの普及により、国民総フォトグラファー時代とも言えると思います。モニターも大型のCRTから液晶へと変化し、表現能力も大きく進化しました。このような外部の機材環境の変化に、わたしたちレタッチャーは大きく影響を受けています。

こびとのくつ 最近の仕事 ①
ナイキジャパン Nike Run Revolution

企画制作:ワイデン+ケネディトウキョウ ECD:米村浩 CD+C:神谷幸之助 AD:何直己・新出利明 (watch) D:★大二郎 (watch) P:DYSK AE:足立公平 アートバイヤー:渋谷浩美 プロダクション:Rooftop PR:小田桐団・山本賢治 (Rooftop) CG:こびとのくつ(タレント)・マスタッシュ(商品)

デジタル化のもう一つの側面は、スケジュールの短縮です。フィルムの入出力の時間が大幅に削減されたことで、撮影から入稿までの時間が短くなりました。しかしレタッチの手間と時間は多少の短縮はできても、クオリティとの関係で簡単に削減ができないので、自然と「撮影の段階で何ができるのか」という点に重きが置かれるようになります。

現在は撮影現場に行っても、わたしが手を動かすことはずいぶん少なくなりました。以前は頻繁にその場で合成のシミュレーションをすることがありましたし、現在でも複雑かつ高度な表現を求められる場合は、その場でプレオペレーションし、完成イメージを現場でクライアントとともに確認してしまうこともあります。

しかし広告写真の撮影の場合、レンタルスタジオ所属のデジタルオペレーターが、レンタル機材とセットになって協力してくれるのが一般的になりました。必然的に普段自分たちがしているような、レタッチ作業を現場ですることはありません。

それでは何のために現場に行くのかといいますと、フォトグラファーやアートディレクター、場合によってはクライアントも交えて、ヴィジュアルの着地点を共有し、コンセプトや表現のポイント、画像修正時の留意点などを確認するためです。製作時は一人一人が職人として力を発揮しますが、このときはディレクションすることやディレクションに必要な情報の収集に専念することになるのです。高いクオリティを保ちつつスケジュールを短縮するためには、もはや欠かせないステップと言えるでしょう。

こびとのくつ 最近の仕事 ②
ナイキジャパン Nike T90 鈴木啓太

企画制作:ワイデン+ケネディトウキョウ ECD:米村浩 CD:神谷幸之助  AD:田邉慎太郎 C:野澤幸司 D:青山周平 P:半沢健 AE:中道大輔 アートバイヤー:渋谷浩美 プロダクション:Rooftop PR:小田桐団:山本賢治 (Rooftop) CG:こびとのくつ

このように時代の変化とともに、レタッチャーの立ち位置もめまぐるしく変化しています。いまや国民総レタッチャー時代に突入しつつあります。その中で、プロフェッショナルとして仕事をするための差別化要因は何か。これからレタッチャーを志す人、レタッチャーになりたての人は考えて見直す必要があるかもしれません。

Photoshopの技術の習得は手段であり、ツールであって、目的ではありません。これはもう言う必要もないことですが、どの道順を通って目的地に達するかは、自分の現在地と志向性によると思います。スタジオ経験者は写真に関する知識や光を読む力、アート分野に携わっている人は観察眼・デッサン力、製版でレタッチをしている人は印刷に関する知識など、それぞれのアドバンテージがあるはずです。すべてにそこそこではプロの世界では通用しませんから、自分の適性を見極めた上で、得意分野を伸ばすための選択と集中が必要です。

これを登山に例えると、目指す頂点は一緒でもそこに向かうためのルートが違うということです。こびとのくつの場合は、一つの会社というパーティの中に、それぞれの分野に精通した人がいて、自分のいちばん能力を発揮できる分野で仲間を助けながら頂上を目指しています。

2008年は金融危機という経済の大きな津波に世界が翻弄されました。実体経済への波及はこれからで、2009年は相当厳しい年になるでしょう。特に広告業界は、実体経済との関係性が深く、打撃は大きいでしょう。

しかしデジタル表現の流れは変わらないものであり、優れたものを生み出すことに真摯に、誠実に取り組んでいれば、一時的には厳しくとも、その仕事を見ている人が必ずいるものです。苦しく、大変なときにこそ、クオリティを下げてはいけないのです。「細部に神宿る」。それを心に刻んで、次世代を担うレタッチャーには歩んで行ってほしいと願っています。

それではまた来年にお会いしましょう。

こびとのくつ 最近の仕事 ③
ニコン NIKON Up

CD+C:宇佐美清、佐藤浩志 AD+D:グルーヴィジョンズ C:宇佐美清・佐藤浩志 P:YASUNARI KIKUMA(FEMME) ST:mick HM:石田賢治(KiKi) Model:RICARDO (Be Natural Models) CG:こびとのくつ
大塚製薬 カロリーメイト
企画制作:電通+TUGBOAT+コモンデザイン室 CD:角田誠 AD:宮坂佳克・相川一明 D:青山京子・小椋泰大 P:KEI OGATA C:麻生哲朗・中村直史 CG:こびとのくつ

写真:工藤美樹(こびとのくつ)

工藤美樹(こびとのくつ) Miki Kudo

7歳より油画・水彩・陶芸・書道を学ぶ。株式会社アマナを経て、こびとのくつ株式会社を設立。精密さと早さを重視した職人集団、こびとのくつの現代表取締役。
http://www.kobito.co.jp/
主な仕事:花王『AUBE』『GRACE SOFINA』、NTT DoCoMo『Anser』、サントリー『DAKARA』『角』、東京ディズニーランド『20周年記念』、TOYOTA『LEXUS』『COROLLA ALTIS』など。

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