iPad Proをクリエイティブワークで使いこなす

ドローン空撮の現場でiPad Proを活用する

解説:荒木則行

最近ではフォトグラファーがドローン空撮を行うことも多くなってきた。軽量・大画面のiPad Proは、ドローンのデータバックアップと画像閲覧に最適なデバイスのように思えるが、果たして実際の現場ではどうだろうか? 今回はすでにドローン空撮に取り組んでいる写真家の荒木則行氏による、iPad Proの実践的なレビューをお届けする。

我がドローン遍歴 〜iPad Proとの相性などについて

本サイトは雑誌コマーシャル・フォトのWebサイトだから、このページを読まれている大半の方は写真を生業とする方だろう。であれば、もうそろそろドローンを導入しようかと考えている方や、すでに導入して空撮のワークスタイルを確立している方も少なくないであろう。

思い返すと、ドローンがほぼ仕事用に活用できるようになった「Phantom 3 Professional」が国内発売されたのは2015年の5月。そしてiPad Pro(初代モデル)が発表されたのは同年9月。つまりこの2つのデバイスはほぼ同じ時期に産声をあげたわけだが、そのことがプロの写真家のワークスタイルをどのように変えてきたのかを、まずは振り返ってみたい。

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筆者所有のiPad Pro(2018)とドローン

筆者自身のドローン遍歴はと言うと、2016年に「Phantom 4」を購入し、まずは操縦に慣れねばと数日間中国山地の里山にてドローンをとにかく飛ばし続けた。

今でもドローンを導入しようとする知人から相談を受けると「まずは数日間の時間を作り、安心して飛ばせるところで、腱鞘炎になるぐらいまでドローンを飛ばし続けることをしてほしい」と必ず言っている。これは冗談ではなく本気の言葉なのだ。

昨今の法規制や様々な困難の中で安心してドローンを飛ばせるようになるためには、車の運転と同じように間をおかずにとにかく運転し続けること(ドローンで言えば操縦すること)が、飛行の安定や上達への近道なのは言うまでもないのだから。

飛行が安定してくると、やっと撮影を考慮して機体制御をできるようになってくるのだが、ここからがiPad Proの出番となってくる。

ドローンを最初に導入した時、すでに手元にはiPad Proがあったのだが、上空での撮影アングルなどに関しては送信機側のディスプレイで確認してはいた(最初の頃はディスプレイ一体型の送信機ではなく、iPhoneを送信機のディスプレイとして使用するタイプを使っていた)。

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筆者がドローンで撮影した空撮写真

けれど手元には大画面のiPad Proがある。そうなるとその大画面で確認したくなるのは人情というものだろう。無事着陸したPhantom 4からMicro SDカードを引き抜いて、少しワクワクしながらSDカードリーダー経由で撮影データをiPad Proへと読み込んでみた。

ところが、「グヌヌ、お、遅い!!」と憮然としてしまうほど、Phantom 4で撮影したRAWデータ(Adobe DNG形式)の読み込みは遅く、かなりイライラしてしまった。そして、iOS 9のアップル純正「写真アプリ」に読み込まれたRAWデータのサムネイルは画質が粗く、どうやら撮影した1200万画素ピクセルから新たに作った画像ではなく、元のRAWデータに埋め込まれたJPEG画像を表示しているようだった。

読み込み速度とサムネイルの問題は後にRAWとJPEGを同時撮影することによって解決したのだが、それはさておき、自分が初めて撮影した空撮写真をiPad Proの美しい大画面で見たときに、少しばかり見惚れてしまったのは秘密にしておこう(笑)。

ドローンの操縦にも慣れ、テスト撮影も兼ねて森や山、誰もいない里山の広場などを撮影している時にはまだ少しばかりの緊張感があるくらいだが、これが海や湖での撮影となってくると「も、も、も、もしもドローンが墜落してしまったら、今まで撮影していたデータが海原に潜むサメの餌か、もしくは湖の中に潜んでいるアマゴが、僕の高速書き込みにも対応しているMicro SDカードを飲み込んでしまうのだろうか?!」と少しばかりビビってしまう。

万が一にも墜落というリスクが不可避なのであれば、現場で手軽にデータをバックアップできるiPad Proが俄然存在感を増してくる。

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iPad Proの写真アプリに読み込んだ空撮写真


バックアップの必要性を痛感させられた出来事

前回の記事で書いたように、自分のその頃の使用機材は初代iPad Pro 128GBモデルで、ストレージ容量にそれほどゆとりがあるボディではなかった。それに加えてSDカードリーダー経由でのデータ読み込みがかなり遅く、フライトごとにバックアップをiPad Proに取りたい自分としてはかなりのストレスであったが、ドローン撮影時のバックアップの必要性を痛感させられる出来事がいくつも発生した。その出来事をいくつか紹介しよう。

例1. バッテリーの電圧異常

厳冬期の高山でドローン撮影を行ったのだが、信じられないようなトラブルが発生する。場所は大雪の後の立派な僻地。その場所から谷を隔てた場所にドローンを飛ばせば素晴らしい眺めが撮影できる場所だった。

冬季はドローンのバッテリーは事前にある程度温めておかねばならないのだが、その温度が低かったらしく、予定していた場所へと向かう途中、いきなり送信機側で「異常電圧」のアラート表記。そして直後に「緊急降下開始します」という音声案内が響き始めた。

距離はフライト開始地点からは数百メートル離れていて、直下は深く切れ込んだ谷。もちろん除雪などしてあるわけもなく人家さえもない。落下してしまえば機体やこれまで数日間撮影してきた撮影データも失われてしまう。モードの切り替えや急上昇などでなんとかバッテリー電圧が安定し、機体を無事帰還させることができた。正直言ってあの瞬間は口から心臓が飛び出すかというほど驚いた。

例2. 鳥の攻撃

四国南端のとある岬で晴天の撮影を行おうと待機していた。高さ50m近い断崖の上からドローンを飛ばすことにも恐怖を感じたが、万が一にも墜落した場合、機体の回収が不可能であろうことも容易に想像できた。

実際にドローンを飛ばし始めると、トンビなど鳥の急襲を受けて希望する場所に機体を持っていくことが難しく、思わぬ長時間フライトに。バッテリーアラートが響く中で必死に操縦して、なんとか手元に戻ってきた機体を見てホッとした。

例3. 突然の強風

離島で灯台を撮影しようと雨上がりの翌日にドローンを飛ばした。天候は前日までの雨風が嘘のように晴れ渡り、あたりに吹く風は微風程度だったのだが、灯台のアングルを求めて少しだけ岬を回り込んだ途端、いきなり強風が機体に吹き付けて「強風注意」のアラートが鳴り始めた。

発進させた場所から数百mしか離れていないのに、その一瞬で数mほどは吹き飛ばされてしまったのではないかと思えるほどの暴風であった。この時は本気で「墜落する!!」と思ったが、高度が高めの設定だったので間一髪で、その暴風から抜け出て機体を無事帰還させることができた。


ドローンというものは、今まで撮影業務で使用してきた機材の中では、一番不安定な機材だと自分は考えている。バッテリーがなくなれば落下してしまうし、自分が目視できる範囲より遠くに飛んでしまったり、思わぬ障害物に激突したりと、不安な要素は枚挙にいとまがない。

望遠レンズであろうと一眼レフであろうとミラーレスであろうと、普通は機材を三脚に固定したり地面に置いてしまえば安定するが、ドローンは違う。また上記の「例」のようにリスクも大きい。このような場面で活躍するのがバックアップデバイスだが、iPad Proはどうであろうか?!


iOS 12で劇的に改善されたiPad Proのバックアップ速度

前述した通り、iPad Pro(初代モデル)はまずRAWデータの読み込みが遅すぎた。SDカードリーダー経由で200枚前後のPhantom 4のRAWデータを読み込むのに数十分は必要だったかと思うが、これほど時間がかかっていては、バックアップのために撮影時間が削られてしまう。

必要な時にはもう1枚のMicro SDカードをPhantom 4に差し込んで撮影を続けることもあったが、撮影後にまとめてバックアップすると、そのぶん余計に時間がかかってしまう。

もう一つの問題はiPad Pro(初代モデル)のストレージ容量が小さすぎたということだ。初代モデルが発売された時点から512GBというストレージ容量が設定されていればまだ良かったのかもしれないが、販売直後のストレージは32GBと128GB。当然自分としては128GBを購入したのだが、それでも連日続く撮影ではかなり厳しい容量だったのだ。

「RAWデータといえども、それほど容量が必要か?!」と思われるかもしれないが、筆者がドローンで撮影する時は、静止画だけでなく動画も同時撮影するようになっていたのだった。

静止画のRAWデータだけならまだしも、4Kでの動画撮影もしてるのだから、もちろんデータサイズは大きくなる。結果としてiPad Pro(初代モデル)は容量不足と読み込みの遅さで現場でのバックアップデバイスとはならず、ロケのバックアップはMacBook Proで外付けハードディスクへと行うこととなってしまった。

だが、2018年のiOS 12で環境に変化が訪れる。なんとSDカードリーダー経由でのデータ読み込みが高速になり、ほぼストレスなくデータのバックアップが行えるようになってきたのだ。

この頃知人には、「iPad Proの新型が出れば必ず買う。それもストレージ容量はもしかすると1TBのものが出るのでは?! 出たら買います!!」と、なにやら決意表明のようにつぶやいていたが、iOS 12の発表からあまり時間をおかずにiPad Pro(2018)が発表された。

今までiPad Pro(初代モデル)で感じさせられていた「読み込みが遅くて、容量が少なくて」という不満も、iPad Pro(2018)が「高速読み込みで1TBのストレージ容量」というスペックで登場したことによって、今までの問題は全て解決できた。

かなり早い時期に発注をしたのだけれど、1TBモデルは生産が追いつかないほどのオーダーであったらしく、納品は年を越して2019年の1月終わりになってしまった。そして待ちに待ったiPad Pro(2018)を受け取った翌日、テスト使用と撮影も兼ねて雪の中国山地に向かった。

現場ではEOS 5Ds RのRAWデータもiPad Pro(2018)に読み込ませてみるが、ほぼストレスなくスイスイと読み込み、iOS版のLightroom CCにて現地でRAW現像も可能、またPhantom 4からPhantom 4 Proに自分のドローンは機材変更していたが、1200万画素から2000万画素に高密度化したRAWデータも同じようにスイスイと読み込んでいく。

「これで見事にiPad Proだけで、現場でのバックアップもブラウズも可能になったのだ」と美しい雪の中国山地を見つめて感慨に浸っていた。


iOS 12と新型iPad Proによって、問題は解決したかに思えたが…

あまりに寒いので、森の中の喫茶店にてコーヒーを飲んで温まることにした。ところが、そのときに気がついてしまったのである。「あれ、ドローンで撮影した動画ファイルが1個しか転送されとらん!!」という現実に。

ご存知のようにiPad Proの写真アプリには「ビデオ」という項目があるのだが、上空で20回ほど回した動画がなんと1つしか表記されていないのだ。転送時に「全て転送」としたはずなのに…。

暖かい暖炉の前で、頭の中に「?」マークを連発しながらコーヒーを飲み続けるしかなかった筆者だが、しばらくして、転送失敗の原因に思い当たった。一つだけ転送されていたものは4Kの30fpsで撮影したもので、転送されていないものは全て4Kの60fpsで撮影したものだったのだ。

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赤い「!」マークがついたサムネイルはiPad Proに読み込めなかった4K 60P動画

その後、Phantom 4 Proでピクセルサイズやフレームレートを変えていくつかの動画を撮影して、iPad Proに読み込ませようとするのだが、結論としては「Phantomの4K 60fpsの動画をiPad Proは読み込まない」ということ。H.264でもH.265でもmp4でもmovでもlogでもテストしてみたがダメだった。

ちょうど手元にGoPro HERO7 Blackがあったのでそれも、同じようにiPad Proに読み込ませてみると、GoProで撮影した4K 60fpsの動画は当たり前のようにiPad Proにキチンと読み込まれていく。あまりの理不尽さに「なんでGoProの4K 60fpsは素直に読み込むのに、Phantomの4K 60fpsは読み込まんのじゃ!!」と大声で怒鳴ったほどだ。

その後アップルのサポートに問い合わせしてみたが、「カタログに明記してある以上のことはわかりかねます」という、型通りの返答しか得られなかったのはなんとも残念だった。仕方なくDJIのフォーラム(英語)をのぞいてみたところ、自分と同じように4K 60PをiPad Proに読み込めないという投稿を見かけた。どうやらこの問題が起きているのは筆者の環境だけではなさそうである。

プロの写真家としてiPad Proに望むこと

製品名にプロと名乗っている商品が以前は多かった。けれど最近はそういったモノは少なくなってきたよう思う。コンシューマー機がパワーを持ち、そのデバイスが広いワークスタイルを担当できるのであればそれに越したことはない。メーカーにとってもプロ機器がフラッグシップであった時代は徐々に過ぎ去ろうとしているのだから。

しかし、iPadという商品にわざわざプロを足して「iPad Pro」と名付けたのである。ドローンの業界標準機であるPhantom 4の動画にはシームレスに対応できるぐらいの理解と、懐の深さが欲しいところだ。

仮に友人の写真家がiPad Proを購入しようと思うと相談を持ちかけてきたとしたら、「静止画に関してはかなりの部分をiPad Proで補えるだろうが、動画を本気でやりたいのならまだまだギャンブルだ」と伝えるだろう。なぜなら写真家も動画撮影を行う昨今、4K 60fpsはリッチコンテンツになり得るし、他との差別化も可能だと自分は感じるからだ。

このようなiPad Proの現状に対しては、プロの写真家として、「静止画のRAWフォーマットに関しては、順次新機種へのアップデータを続けること。そして対応動画に関しても、4K 60fpsクラスであればH.264でもH.265でも、どの機材で撮影したものでもブラウズできるぐらいにしておかないと、Proの名称が泣くよ」と言いたい。

とある知人にiPad Proを見せた時の言葉が思い出される。「アラキさん、それiPad Proじゃないよ。iPadが大きくなっただけのiPad Jumboだよ」と。

今年後半に公開されるであろう次期バージョンのiOS 13では、このあたりが改善されることを強く望んで、この稿を終わりたい。


写真:荒木則行

荒木則行 Noriyuki Araki

写真家、東京工芸大学卒。在学中より雑誌等でカメラマンを務める。卒業後、アシスタントを経てフリーランス。キヤノンフォトコレクション作品収蔵。2006年度日本写真協会新人賞・ノミネート。現在は名所旧跡や自然風景撮影からドローン撮影まで精力的に活動中。
http://photoaraki.com

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