Lightroom 私はこう使う

第4回 西川隼矢「RAWデータのままクラウドでやり取りできるLightroomはありがたい」

取材:桐生彩希

レタッチャー/ライターの桐生彩希氏が出会う2人目のLightroomユーザーは、日本で唯一のプール専門水中フォトグラファー、西川隼矢氏。オリンピックを目指していた元競泳選手という型破りな経歴を持ちながら、写真は完全独学でトライアンドエラーを繰り返し現在のスタイルを築き上げたという。プールの素晴らしさを愛ある目線で写し撮る西川氏に、Lightroomの使い方を聞いた。

img_soft_lrcc04_08.jpg 「STAY GOLD 〜北島康介のこれから〜」 DM、引退記念式典用ムービーに使用された

“Lightroom使い”の写真家を探し求めるこの企画。「プロはLightroom Classicを使うのでは?」と思うかもしれませんが、クラウドと親和性の高いLightoom(旧Lightroom CC)だからこそ、あえて使っているという写真家も多いようです。

今回紹介する西川隼矢さんもその1人。日本で唯一、もしかしたら世界でも唯一かもしれない「プール専門」の水中フォトグラファーです。あまりにも個性的すぎる肩書のため、Lightroomの使い方以上に来歴や活動内容が気になって仕方がなく、つい雑談の多い取材になってしまいました。でも、特殊な撮影スタイルだからこそLightroomが必要なのだな、と実感するお話でもあります。

「めちゃくちゃ面白い!」と気づいて写真の世界に

img_soft_lrcc04_01.jpg 西川 隼矢 / にしがわ じゅんや。日本で唯一のプール専門水中フォトグラファー。アテネ五輪代表選考会にも出場経験のある元競泳選手。水泳インストラクター、システムエンジニアを経て、海で1回も撮影したことがない水中フォトグラファーとなる。「APAアワード 2017」にて、史上初のW受賞の快挙を達成(広告作品部門3位、写真作品部門4位)。

「プール専門の水中カメラマンは儲からないですね。稼ぎたい人は海に行くと思いますよ。私は海で撮らないから分かりませんが」

挨拶も早々、にこやかにネガティブな発言をする西川さん。見事な逆三角形の体格は、写真家のそれではなくまさにアスリート。もっとも、写真をはじめる前はオリンピックを狙っていた競泳選手ですから、それも納得です。現在もジムで鍛えているという写真家らしからぬ体で、大きなジェスチャーを交えながら、プールと写真とLightroomに関して熱く語っていただきました。

まずは、写真を撮りはじめた来歴から。

*  *  *

私は大学の4年まで競泳をやってきたんですけど、水の魅力だったり、泳ぐことの素晴らしさみたいなものを写真で残したいなと思いまして。そのことで水泳界に貢献出来たら嬉しいですし。だから、たとえクライアントさんにプール以外で撮影してくださいとお願いされても、お断りしてます。それは、他のカメラマンでもできることですから。

プールで水中写真を撮ろうと思うきっかけとなったのが、親友の引退です。それまでも彼のことは撮影していたのですが、引退のタイミングで練習風景を撮りに行ったんです。そのプールには水中が覗ける小窓がありまして、そこではじめて水中からの写真を撮ってみて、「何じゃこりゃ。めちゃくちゃ面白いな!」と。

いつもの観客席から撮る写真とはまったく違っていて、「新たな世界じゃん」ということに気づいたんです。写真に写った景色は、泳いでいるときに見える景色ともぜんぜん違う。これは残したい、だったら水中写真をやろう。そう思ったのが、プロになるきっかけです。

現在はRockin' Pool(ロッキンプール)という会社を運営していて、名前のとおりプールのことしかやらない会社です。「人と笑顔をもっとプールに集める」という企業理念の下、テクノロジーとエンタメとアートをテーマに活動してます。水の中でプールVRとかをやっていて、それがテクノロジーでありエンタメ、写真がアートです。

img_soft_lrcc04_02.jpg Rockin' Poolでは、VRを取り入れたレクリエーションやエクササイズなどを提供。現在はイベント中心の活動だが、いずれは一般ユーザーも体験できるようになる予定

私はプールに人を呼びたいんですよ。例えば、私が海とか川とかで写真を撮ったとして、それが素敵だなと思ってもらえても、その人たちは海や川に行っちゃうじゃないですか。それじゃダメなんです。プールの魅力を伝えたい、だから、プールで撮るんです。

プールで撮るメリットはたくさんある

私は常に、「プールはいいよ。泳ごうよ!」という気持ちを込めて撮影してます。泳ぐことや水中写真というとプールにこだわる必要はないと思うかもしれませんが、プールでしか撮れないメリットがいろいろあって。いちばんは水の濁りです。

海や川だと濁って透明度が下がってしまい、そんな状況ではどんなにいいカメラやレンズを使ってもイマイチな写真しか撮れない。でも、クリーンなプールなら鮮明な色が出せます。

それと、海では自然光がメインになると思いますが、そうするとコントラストのコントロールが難しい。その点、プールならいろいろな方向からストロボの光が回せますし、空間自体の作り込みもできるので、作品撮りに最適です。

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写真は完全に独学です。ひたすらにトライアンドエラーですよね。プールの水中写真なんて、参考になる本や情報もありませんし。

当然、最初は上手く撮れませんでした。でも、撮影を繰り返すうちに、きれいに写るプールとそうでないプールがあることが分かりました。なぜだろうといろいろ考えた結果、それは光の違いだったんです。

きれいに写るプールは外光がサンサンと照っていて、これはもうストロボで光を当てるしかないなと。海で撮る水中カメラマンなら、ハウジングの横にライトをつけて照らすと思うんですけど、何せ独学ですから。そういう水中撮影の知識がなくて。だから、「自力で自然光を作るんだ」みたいな感じでモノブロックを買って、上からバンバン光を当てて。

光を当てる角度とか強さとか、ぜんぜん分からなかったので、当時アルバイト先だったプールをお借りして、閉店後の深夜11時くらいの真っ暗な中でマネキンを沈めて練習しました。巡回の警備員さんにめっちゃビックリされましたよ。「おい、何やってるんだ!」みたいな。

沈めたマネキンにいろいろな角度からストロボ光を当てて、5cm単位で少しずつ移動して撮影して、その写真でオリジナルのアルバムを作ったんです。「こんな感じで撮れるんだ」みたいなことが分かるように。いわば、自作のHowTo本ですよね。

私のLightroom使用術

Lightroom + iPad導入のきっかけは報酬よりも高かったデータ復旧費

ストロボ光を当てて撮影しても、水中で写すとやっぱり青が強いので、それを減らすようにLightroomで色を調整します。光の三原色で青色ばかり届いて、赤の波長が弱くなるのが水の中なんです。でも、データ的には残っているので、「青を抑えて赤を引き出す」補正を施して陸上のような色を再現してます。


どうしても青に偏る水中写真では、「色温度」で青を軽減するだけでなく、「カラーミキサー」を使い青系統の色の調整も施している

作業の流れとしては、Lightroomで大まかな調整を施して、細部をPhotoshopで仕上げていきます。もっとも、これは案件によって変わりますが。

私はスイミングスクールで写真を撮影して販売もしているんですけど、その仕事は自分1人でできるので、LightroomのRAW現像からPhotoshopでの仕上げまでを行なっています。

企業の案件などでは、色調整はRockin' Poolのディレクター兼レタッチャーに任せます。撮影した写真を全部渡して、選んでもらった写真に対して私が大まかなRAW現像を施す。それをまたレタッチャーに戻して仕上げてもらう、という流れが多いです。

問題は、写真の枚数がすごく多いこと。陸上だったら10回中8回くらいはきれいに撮れると思うんですけど、水中だと反対で、10回撮って1枚か2枚、納得する写真が撮れればいいほうです。モデルが目を瞑ってしまったりとか、泡の感じのよしあしとか、映り込みの状態とか。計算できない要素がたくさんあるし、タイミングの勝負だったりもします。だから、「数打てば当たる」なんです。一度の撮影で30GBとか40GBになることもありますから。

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以前は写真をHDDに入れてレタッチャーに渡してたんですが、それを落としちゃって。それでHDDが物理的に壊れました。結局、ギャラ以上の修理費を費やしてデータは復旧できましたが……。

それ以来、HDDを持ち歩くことも、受け渡しに使うこともやめようと決めました。ちゃんとマスターデータを保存して、二元管理もしよう、と。

RAW形式でやり取りできるありがたさ

そこで問題になるのが、ディレクターに任せる最初のセレクトです。私の写真はすべてRAWです。以前は汎用的な形式に書き出してから、セレクトしてもらう写真をディレクターに渡していたんですけど、これだとすごく時間がかかるし、二度手間だし。撮ってから写真を渡すまで、数日くらい時間が空いてしまうんです。

でも、LightroomならRAWのまま写真が見せられるし渡せる。この点が私の使い方にマッチしてます。撮影後にRAWのままクラウドに上げればディレクターがすぐに確認できるので、作業がめちゃくちゃラクになりました。

img_soft_lrcc04_04.jpg クラウド経由でディレクターと写真の状態を共有できるLightroom。撮影したら大まかな色調整を施して、仕上がりのイメージを伝えている

それに、Lightroomは新しいカメラのRAW対応も早くて、機材を買い替えても問題なく写真が共有できる点もありがたい。別のソフトでは、RAWで渡すと相手のパソコンで扱えないことがあって、いろいろと不便もありましたし。

意外かもしれませんが、Lightroom Classicは使っていません。写真の受け渡しとセレクトの比重が大きいので、クラウドでやり取りしやすいLightroomを使ってます。それと、Photoshop。お話ししたとおり、セレクトと大まかな現像をLightroomで行なって、最後の完成度を上げる作業にPhotoshopを使います。時間のかけ方としては、撮影後の粗現像が1、セレクト後の現像が1、Photoshopでの仕上げが8、くらいの割合です。

データの受け渡しにも二元管理にもクラウドが役に立つ

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私は電車での移動も結構多くて、その時間を利用して簡単な色調整をすることもあります。ノートPCやiPadを持ち歩いているので、それに入れたLightroomを使って。さすがに、仕事に使う広告写真は電車の中では扱いませんが、自分の作品だったり、前撮りした写真などには便利です。

でも、まだ本格的に使いこなせていない気がします。Lightroomはまだまだ研究の段階です。ただ、ディレクターに写真を選んでもらったり、色調整した画像のやり取りをするためには、クラウドが使えるLightroomの存在がマストになってますね。

実は先日、iPadを水没させてしまって。Lightroomを使っているので写真は全部クラウドに上がっているし、バックアップも取ってあったので実害はなかったのですが。いや、iPadは被害をこうむりましたけど、納品データがなくなるようなことはなかったと。

機材の水没は初めてなんですよ。カメラを含めて1度もない。海と違って砂とかの影響がないので、水中ハウジングのパッキンがきちんと作動してくれますから。その点も、クリーンなプールで水中撮影するメリットですね。

ともかく、HDDを壊した教訓が生かせてよかった。クラウドでのデータ管理と、マスターデータをバックアップしておく二元管理。これはとても大切なことです。

元競泳選手だから写せる写真がある

現在、撮影に使っている機材はソニーのα7R II、レンズは単焦点の広角レンズです。プールの写真は、被写体との距離が命なんです。標準域のレンズだと白くかすんだようにシャープさがなくなるので、できるだけ広角レンズで寄ってクリアに写します。

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プロとしてはじめて、手応えのようなものを感じた仕事が、ゴーグルメーカーのSWANSさんのお仕事です。カタログに使う1~2カットの依頼で、「こんな風に撮ってほしい」というリクエストどおりに撮影していたんですけど。撮影が終了してから、もう1枚撮らせてくださいとお願いして写したのが、この写真です。

img_soft_lrcc04_05.jpg 山本光学「SWANS SWIMMING GOGGLES 2015」カタログの表紙

本来は依頼された写真ではないのですが、私は「めっちゃいい」と思ったんです。だからこの写真も一緒に納品したら、カタログの表紙になった! 表紙用の写真は別に撮影してあるはずなのに、それを差し替えてまで私の写真が選ばれた。これは嬉しかった。

実はこの写真、モデルに腰ひもを付けて、前に進まない状態で泳いでいるシーンを上からストロボを当てて撮っているんです。

一般的には普通に泳いでいるシーンの撮影を依頼されますが、それだとタイミング的に1カットか2カットしか撮れない。でも、私の方法だと何カットも撮れるから、いい写真が残せる可能性が高くなります。これは、チューブ引きという練習方法を応用した撮影です。とても理にかなった写し方なんですけど、メーカーさんはそういうことを知らないので「泳いでくる人を撮って」としかリクエストをしない。だから私は、最後にもう1カット、納得のいく方法で撮らせてもらったんです。

「プール以外は撮りません」というセルフブランディング

プロとして稼げるまでは、とにかく営業して回りました。スイミングスクールのコーチをしている知り合いがたくさんいるので、子供たちが泳いでいるシーンを撮らせてもらえないかと。そのうち、SNSで人気というか、「いいね」がもらえるようになって、いろいろなプールに呼ばれはじめたんです。

img_soft_lrcc04_12.jpg Speedo 2014年 ポスター、Web

そんなことをしていると、「レーザー・レーサー」で有名だったSPEEDOさんから声がかかって、それ以来、広告写真の話が来るようになりました。

当時、メーカーさんは海で撮影している写真家にプールで撮ってもらっていたんです。海のシステムをそのままプールに持ち込むので、水中から光を当てることになり、立体感の乏しい平面的な写りになってしまう。そんな写真ばかりだったから、私みたいに陰影がはっきりしていたりとか、躍動感が出ている写真は新鮮だったみたいです。

海とか川で撮ってもらいたいという依頼もあります。撮れると思うけど、撮らない。それをやってしまうと、私の“色”がなくなってしまうんです。要するに、セルフブランディングですね。「プール以外は一切撮りません」という確固たる軸があって、それがブレちゃうと私のフォトグラファーとしてのアイデンティティーが崩壊しますから。

だから、一貫してプールにこだわります。それが、競泳という世界に身を置いてきた私の恩返しでもあり、やるべきことでもあるんです。

img_soft_lrcc04_13.jpg Personal Work

img_soft_lrcc04_11.jpg ウェディングフォトの依頼を受けることも


桐生彩希 Saiki Kiryu

レタッチャー/ライター。レタッチ系の記事や書籍を多数執筆。なかでもAdobe Photoshopに関しては、Adobe Photoshop 3.0の頃から20冊以上の書籍やムックを制作。個人的な活動としては、「売れる」「飾れる」デジタルプリントを目指し、自作の用紙で作品を制作している。

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