HDRとはハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range)のことで、HDR画像は同じ絵柄の露出の違う複数の写真を統合し、32bit化されたダイナミックレンジを持つ写真として合成するものである。今回はこの機能にチャレンジしてみよう。
なんとなく思った通りにならなかった「HDRに統合」
「HDRに統合」は、以前からPhotoshopにあった機能(CS2から)なので、使ってみたことはあるものの、なんとなく思った通りのトーンにならないことも多く、いつの間にか疎遠になっていた、という経緯がある。この連載を執筆することが決まってから、ぜひ、この機会に再検証してみたい機能の一つだった。
Photoshopで初めて32bit画像が扱えるようになったのはCS2からだが、その後CS3で大幅に強化され現在のCS4に至っている。現在では「レベル補正」「色相・彩度」などの色調補正機能も使えるようになっている(CS2と比較して)。
HDR画像を作るには「ファイル」メニューから「自動処理」→「HDRに統合 」を選択するか、あるいは、Bridge CS4で画像を選択した後で、「ツール」→「Photoshop」→「HDRに統合 」を選択する。

作例として選んだ絵柄は、街路樹のある街並。逆光が照りつけ、明暗差がかなり激しい絵柄である。

f11 1/60秒で撮影
ビルの壁面は逆光で完全に白飛びし、暗部も潰れている。カメラを三脚に取り付け、同ポジ(同ポジション)で段階露光しながら撮影していく。
ハイライト側の露出に合わせた写真はこんな感じ。

f11 1/500秒
これでもまだ壁面の一部が飛んでいる状態だ。暗部を潰さないためには

f11 1/15秒
このぐらいスローシャッターにしないと暗部が再現されない。
HDR画像は、これだけ明暗差の激しい絵柄を一枚の写真として、諧調を保持しながら再現できるのか?
32bit HDR画像の作り方をもう一度検証してみる
少し多すぎると思いながらも、f11 1/4000秒から、f11 1/2秒まで11EV差の写真を撮った。この1EV差の写真を12枚、HDRに統合した。

実際にはこんなに沢山の写真は必要ないかもしれない。左側に縦に並んだソース画像のチェックマークを外すと、必要な枚数だけの合成になる。プラス、マイナスのEV値が表示されるが、これはデータのExif情報を参照しているものと思われる。
どのくらいの露出差の写真が何枚必要か? というのは、絵柄によっても違うだろう。もっと細かく検証してみなくてはいけないが、一般には5枚程度の写真が推奨されているようだ。
例えば、この絵柄で2EV差と1EV差で3枚の写真で合成することも試してみたが、右に示されたプレビューのヒストグラムを見た時、暗部にトーンジャンプが見受けられた。

この、右側に表示されたヒストグラムを見ながら、白色点のスライダーを動かしていくとプレビュー画面が大きく変わってくる。ただし、これはディスプレー上で見るプレビューであり、実際のデータではハイライトからシャドウまでカバーする諧調を保持していることに変わりはない。
実は、ここが、以前の私が正しく理解していなかった点だ。
つまり、実際に表示するディスプレイは24bit(各色8bit)なので、現状では各色32bitの諧調幅をもつデータの表示はできないのだ。プレビューでハイライトが飛んでいても、シャドウがつぶれていても、それはあくまでディスプレイ上に表示できないだけであってデータそのものにはハイライト側の情報もシャドウ側の情報も破棄せず持っているのである。だから、ここの白色点のスライダーはどこに設定してあっても実際のデータには影響はない。あくまでプレビュー上の見栄えの問題である。
ヒストグラムの下に、「応答カーブ」という項目があるが、これも通常「自動」のままでよい。ビット数はもちろん32bitに設定する。直接、16bitや8bitに変換することもできるが、その場合は後述する変換のための設定ウインドウが現れる。
「OK」ボタンをクリックして、32bit HDR画像ができ上がる。これを一旦32bitのまま保存しよう。ウィンドウの下に「32bit露光量」のスライダーが現れ、センターより左へ動かすと飛んでいたハイライトが見えてくる。逆にセンターより右に動かすとつぶれていたシャドウが見えてくる。


このとき、露光量を変えた状態で保存しなおしても、実際のデータに変化はなく、ハイライトからシャドウまでのデータは保持したままである。
これが、本来の32bit HDR画像データだ。
ただし、ディスプレイ上ですべてを表示できないので「32bit HDR画像(ただし、全ての諧調は表示できない)」といった具合にかっこ付きでただし書きを入れておかないと、以前の私のように意味がよくわからないままになってしまったりする。
32bit HDRから8bit、16bitに変換するための設定
こうして自動処理によりHDR画像は簡単にできるのだが、問題は、それをどのように8bitあるいは16bitという目に見える汎用的なデータに変換するか?ということである。
もちろんPhotoshopの中に変換のための設定は各種あるのだが、どのような写真のトーンに仕上げたいか、というフォトグラファー各人の好みやこだわりがあるので、試行錯誤は必要になってくるだろう。
HDRフォトというと、高彩度なCG風の仕上がりをイメージされるかたも多いと思うが、私の場合はあくまで写真的なトーンにこだわりたいほうなので、そういう設定を探って行くことになる。
32bit HDR画像を表示した状態で、「イメージ」メニューから「モード」→16bit/チャンネルあるいは8bit/チャンネルを選択すると「HDR変換」ウインドウが現われる。それでは一つ一つ設定をみてみよう。
露光量とガンマ

露光量のスライダーでハイライト重視、あるいはシャドウ重視などを決めて中間調のトーンをガンマで調整する。いろいろ試してみたが、ガンマのスライダーは明るい方向へ持って行くと同時にコントラストもなくなっていくので使いづらかった。トーンカーブとヒストグラムの表示も(タブをクリックすると)できるが、実際には動かすことはできない。
ハイライト圧縮

設定のためのパラメータはない。ハイライト側を圧縮し、白飛びのないように変換するのだが、どうしてもアンダーでコントラストのない眠い写真になりがち。絵柄の内容によっては多少アンダーでも16bitにしてから再調整することでしっくり行く場合もある。
ヒストグラムを平均化

これも設定のためのパラメータはない。高彩度な絵画風写真に仕上がる場合が多いが、これはこれで面白い。ただし、従来の写真的なトーンを保ちたいと思う場合には不向きな設定。
ローカル割り付け

HDR変換のための設定で唯一トーンカーブが使える設定。今回、この記事を書くにあたって一番勉強したところ。まだ、修行の途中だが、たぶん、ここがうまくできるようになるとHDR変換の達人になれるかも 。

「コーナー」オプションを選択するとトーンカーブが直線で使用できるので、「コーナー」オプションを使うアンカーと使わないアンカーを織り交ぜると、直線と曲線を自在に使ってコントロールできるようになる。
半径スライダは調整したい明度の領域のサイズを指定し、しきい値スライダは、2 つのピクセルの色調値がどの程度離れていれば同じ明度の領域に含めないかを指定するものだ。とはいえ、説明されてもピンとこないのが実情で、試行錯誤を繰り返しながら感覚的に理解して行くしかないのかもしれない。今回の作例の絵柄も、「ローカル割り付け」で仕上げてみた。

一旦16ビットに変換した後に、覆い焼き、焼き込みツールなどで微調整し、「明るさ・コントラスト」などの色調補正ツールも使った後、8bitに変換してでき上がり。100パーセント満足できる仕上がりとは言いがたいものの、最初に見ていただいた素材写真と比較してみると、そのすごさがわかると思う。
「ヒストグラムの平均化」や「ハイライト圧縮」を使ってみる
それでは、その他の作例、設定もいくつか見ていただき参考にしていただきたい。

f8 1/125秒
次に選んだ絵柄は公園にたたずむ洋館。逆光なのでわずかに見える青空も真白になり、木々の緑も黒く潰れてしまった。
下は8枚の写真をHDRに統合したものだ。

ここでは「ヒストグラムを平均化」を選択した。青空も再現でき、日陰の木々の葉にも少し色がのってきたものの、左側の木の幹は黒くつぶれているし、土の色も実物以上に赤くなっている。通常の写真のトーンとは違うものになるが、こういう特殊効果的な楽しみ方もある。
次に、夜景の作例を見ていただこう。こうした夜景も明暗差のある被写体だ。

f5.6 4秒
下は6枚の写真をHDRに統合したものだ。動いている人や車などはズレが生じてしまうため正確には描写できないが(写真の右下あたりの部分)、この対処については後で述べる。

「ハイライト圧縮」を選択して一旦16bitに変換。ハイライトのディティールも再現できたが、コントラストのない眠い写真になってしまう。ただし、シャドウのディティールもわずかに残っているので変換後の調整も可能と判断。

16bitのデータからトーンカーブやコントラストを調整し8bitに変換した完成画像。ビルの照明などのディティールも再現できた。正確に描写出来なかった車のライトは、元の画像をはめ込む事で解決した。
さて、いかがだっただろうか?
HDRフォトの一番厄介な点は、撮影である。三脚に据えて何枚もの写真を撮影しなければいけないので大変だ。2〜3枚の写真からでもできなくはないが、よく見るとハイライト側の微妙なトーンなどにエラーが出ていたりするケースも見受けられたので、なるべく多くの細かい情報を与えたほうがよさそうだ。
こうして手間をかけて撮影した写真をHDRに統合して、8bitに変換した時に、それ相応の仕上がりになるか?という点でも賛否が分かれるところかもしれない。
特殊効果的な派手な仕上がりを期待するならばサードパーティー製のトーンマッピングプラグインなどを利用したほうが簡単かもしれない。
私の場合は、ほんの少しでもハイライト側の飛びを抑えてくれるだけでも大助かりなので、重要な撮影の時なら手間ひまかける価値はあると思っている。そう思ったのは、今回「ローカル割り付け」の設定に活路を見出したからだ。これを機会にもう少し試行錯誤を続けてみようと思う。
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竹澤宏 Hiroshi Takezawa
1983年、フリーのフォトグラファーとして独立。1995年〜96年、東京グラフィック・アーツ 映像事業部長 兼 マルチメディアスクール主任講師。1997〜99年、青山CGスクール・メロン非常勤講師(写真担当)。2008年より、毎日コミュニケーションズ「Mac Fan」で「デジタル一眼 Step By Step」を連載中。http://www.takezawa-lab.com/blog/



















