Photoshop CS4の目玉機能としてデビューした「コンテンツに応じて拡大・縮小」。デザインの都合で写真の縦横比を変更する時に、これまでは手作業で背景を伸ばしたりしていた作業を、自動処理してしまおうというものだ。写真の絵柄(コンテンツ)に応じて、自動的に背景だけを伸ばしたり縮めたりするするこの機能、はたしてその精度はどれくらいのものだろうか。
同じ絵柄で「コンテンツに応じて...」と単純な「拡大・縮小」を比較する
Photoshopには様々な自動処理機能があるが、この「コンテンツに応じて拡大・縮小」が自動処理に相当するか? というとやや疑問も残る。というのは、変形させたくない部分を選択してアルファチャンネルを作って といった手作業の部分もあるからだ。
とはいえ、従来の単純な「拡大・縮小」とは違い、絵柄を認識したうえで自動的に変形処理をするという意味では自動処理といってもいいだろう。デジタルカメラでも顔認識といった機能はあるわけだから、ある程度の絵柄はPhotoshopが認識するのだろうが、実際にやってみないとわからない部分もある。いくつかの作例写真をもとに、検証しながら進めてみよう。
作例として使う写真の元の画像である。

これをワイドパノラマ風の横長に伸ばしてみよう。
まずは従来のやり方でやってみる。あらかじめ「カンバスサイズ..」を開き、横長に書類を広げておく。写真全体を選択し、「編集」メニューの「変形」から「拡大・縮小」を使ってみる。アンカーポイントを左右に引っぱりながら伸ばしていく。

やはり通常の「拡大・縮小」では全体を平均的に伸ばしていくため、人物が妙に太く見えてしまう。
次に、「コンテンツに応じて拡大・縮小」を使ってみる。工程はほとんど同じで、書類を広げて写真全体を選択し、「編集」メニューから「コンテンツに応じて拡大・縮小」を選択。アンカーポイントを引っ張っていくやり方も同じだ。

今度は人物部分はあまり変形されずに違和感のない仕上がりになった。周辺部分だけを変形させて引っ張った、という感じがする。特に、ゴンドラの赤い服を着た女の子の隣の余白部分を上手く伸ばしているのには感心する。ただ、支柱が妙に太くなっているが、修正前を知らなければこれはこれで不自然ではないだろう。
この絵柄の場合、人物を主要な被写体として認識したからなのか、それとも単に中心部分を保護しただけなのかはわからないが、何の苦労もなく自動処理できている。
スキントーンで肌色を保護する
今度は画像を縮めてみよう。まずは変形させる前の画像である。

これを左右を縮めて正方形に近い写真にしてみよう。最初は普通に「拡大・縮小」を使ってみる。

やはり全体的に縮小されるため、人物が細くなってしまう。そこで「コンテンツに応じて拡大・縮小」を使ってみる。

前の作例では人物は画面の中心部分にあったので、それが人物を認識して保護したのか、ただ単に中心部分を保護したのかという曖昧な部分もあった。今回の作例では人物が左側にいるにもかかわらず、明らかに人物の顔を主要な被写体として認識し保護しているのがわかる結果になった。つまり、「コンテンツに応じて拡大・縮小」とはこういうことだ、という良い作例になったはず。
同時に決定的に残念な部分も露呈してしまった。

顔の部分は上手く保護されているものの、体や手の部分に歪みが生じている。むしろ歪みというよりも壊れてしまっていると言ってもよいほどだ。
しかし、心配することはない。オプションメニューの中に、人間のアイコンをしたボタンがある。

これは「スキントーンを保護」というオプションで、肌色に近い部分を保護するようになっている。このボタンをONにしてもう一度やってみる。

今度は手の部分も変形されずにうまくいった。ただ、木の部分や彫られた文字(特に右側)などの微妙な変形を許容範囲とするかどうかが悩ましいところ。絵柄によってはすんなり理想の変形ができるだろうが、いつもそうはいかない。結局のところ細部にもこだわって理想に近づけようとすると、単純な自動処理とはいかなくなってしまうのが現状だ。
アルファチャンネルを使って変形させたくない部分を保護する
そこで、もう一つのオプション、変形させたくない部分をアルファチャンネルのマスクを利用して保護する、という機能を使うことになる。実際の仕事で「コンテンツに応じて拡大・縮小」を使う場合は、ほとんどがこの機能を使う事になるはずだ。
アルファチャンネルの作り方は人それぞれだと思うが、ここでやった手順を紹介しておこう。
それと合わせて、画面の上のほう、空に近い部分が何もない空間である事にも着目しよう。つまり、左右を縮めるだけでなく、空の部分を伸ばす事で理想の変形に近づけようということだ。そのためまず、「カンバスサイズ」を開いて画面上部に余白部分を作っておこう。


チャンネルパネルから新規チャンネルを選択し、アルファチャンネルを作成する。あくまで筆者の場合だが、赤い色を選択し不透明度を50%くらいにしておくと、他チャンネルの絵柄が透けて見えるのでクイックマスクと同じ感覚で扱いやすい。

すべてのチャンネルを表示した状態で、アルファチャンネルだけを選択し、消しゴムツールを使って保護したい部分を消していく。この消された部分がマスクとして保護されることになる。
(アルファチャンネル作成時のオプションで、「マスク範囲に色を付ける」か「選択範囲に色を付ける」かで階調が反転してしまうので、その場合は消しゴムツールではなくてブラシツールを使って選択範囲を決めていく。単純な事だが、作業のやり方によってはうっかり逆階調のマスクになっている場合もあり、その場合は「階調の反転」をするとよい)
チャンネルパネルを見ると白と黒で表示されたアルファチャンネルがあるので、白い部分が保護される部分であることを確認しておこう。

全チャンネルを表示したままではいけないので、通常のRGBチャンネルを選択し、アルファチャンネルは非表示にする。写真の部分を選択(もしくはすべて選択でもよい)し、「コンテンツに応じて拡大・縮小」を開こう。
上のオプションメニューからアルファチャンネルを保護する項目を選択しておく。
左右のアンカーポイントを縮めていくのと同時に、上のアンカーポイントも伸ばして空の余白を多くしていく。

これでほぼ正方形に近い写真になり、違和感のない理想に近い変形ができた。保存時に注意するのは、作業用に作成したアルファチャンネル。必要なければ削除しておいたほうがよい。そうしないとJPEGでの保存はできないからだ。(PSDやTIFなどアルファチャンネルをサポートしているファイル形式ならそのまま保存できるが、JPEGはアルファチャンネルを保存できないので、アルファチャンネルを破棄したコピーを別途保存することになる)
実際の仕事で抜群の効果を発揮した事例
ここまで紹介した作例では、背景がシンプルであることから、自動処理がやりやすい絵柄だった。しかし背景に建物があったり、室内でも窓の格子など「線」の要素が多いと、うまくいかない場合のほうが多い。保護用のマスクを緻密に作り込まなくてはいけなくなると、やはり時間がかかってしまう。
いっぽう、この「コンテンツに応じて拡大・縮小」という機能があったおかげで、できた仕事もある。それを紹介しよう。
内容は、とある高層ビルから眺望パノラマ写真を撮り、それを超巨大なプリントにするという、超高解像度が求められる仕事だった。パノラマという点では、分割撮影したものをPhotomergeの機能を使って合成することで、かなり高解像度の写真ができる。しかし、それでもまだ解像度が足りなくなる懸念があった。特に縦方向の解像度が足りなくなりそうだったので、あらかじめ空の部分は少なめに撮影し、後で「コンテンツに応じて拡大・縮小」を使い、空を上に伸ばすことで解像度を稼ぎ出そうという方針を立てた。
パノラマにつなぎ合わせた写真はこんな感じであった。

カメラは水平よりやや下向きで、空の量は少なめだ。パノラマになると、一枚の写真の中に順光と逆光になる場所が同時にできるので、露出やトーンのコントロールも難しく、この後、調整していくことになる。
あらかじめ上部のカンバスを増やし、地上部分はアルファチャンネルのマスクを作って保護し、空の部分だけを持ち上げて増やしていく。

空の部分を増やしたら、全体のトーンも整えて完成だ。
従来だと、カンバスを増やしたらコピースタンプツールなどで色を塗っていく方法が一般的だったのではないだろうか? しかしそれでは、上に行くに従って段々濃くなっていくという微妙な空のグラデーションが表現しにくかったし、手間もかかった。「コンテンツに応じて拡大・縮小」を使えば、グラデーションをそのまま引き延ばすことが可能だ。拡大時にはピクセルを補間しながら伸ばしていくので、厳密にいうと画質は落ちるだろうが、空という曖昧な被写体には好都合だった。
「コンテンツに応じて拡大・縮小」、ありがとう。
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竹澤宏 Hiroshi Takezawa
1983年、フリーのフォトグラファーとして独立。1995年〜96年、東京グラフィック・アーツ 映像事業部長 兼 マルチメディアスクール主任講師。1997〜99年、青山CGスクール・メロン非常勤講師(写真担当)。2008年より、毎日コミュニケーションズ「Mac Fan」で「デジタル一眼 Step By Step」を連載中。http://www.takezawa-lab.com/blog/



















