Photoshopプラスαの仕事術

写真品質の3DCGを組み込んだアプリを開発

ピップス+サイバネットシステム

スマートフォン用アプリ「AR Furniture」
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3DCG制作=御園生大地(ピップス)

フォトグラファーが制作する写真品質の3DCGと
拡張現実のAR技術を組み合わせてアプリを開発

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ピップス 御園生大地氏

フォトプロダクションのピップスは、撮影、ストックフォト、画像処理など、写真に関わる業務を幅広く展開しているが、最近では3DCGによる画像制作も行なっている。3DCGに取り組んでいるのは同社の若手フォトグラファー御園生大地(みそのおたいち)氏。フォトグラファーの他にも、レタッチャー、3DCGクリエイターの名刺を持ち、状況に合わせて3種類を使い分けているという、マルチな才能の持ち主だ。

「2009年から3DCGの勉強を始めて、最初は表現の幅の広さにワクワクしていたのですが、そのうち、撮影をCGに置き換えるだけでいいのか、CG業界に対抗してフォトリアルな画像を作るのがゴールなのかと疑問に思うようになりました」。

長年培ってきた写真のスキルと新たに学んだ3DCGの技術。これらを武器として、写真以外にも活動のフィールドを広げられないだろうか。御園生氏がそう考えている時に出会ったのが、AR(Augmented Reality)=拡張現実のテクノロジーだ。

ARとは、現実世界の環境にコンピュータを使って新たな情報を付加する技術のこと。たとえば、スマートフォンのカメラを通して目の前の風景を見ると、現実には存在しないキャラクターやモノ、文字情報などが写り込んでいるといった具合だ。

「はじめてARを体験したのはiPhoneアプリのセカイカメラでした。これで世の中が変わると直観し、ぜひとも挑戦したいと思いました。ARはこれからの成長分野ですし、誰にとっても新しいフィールドなので、やりがいも大きいですね」。

日常的に撮影、レタッチ、3DCGの1人3役をこなす御園生氏だが、しかし、ARのプログラミングまでは手を出さなかった。自分で覚えるよりも、ARの技術を持った会社と組んだ方がフットワークが軽く、時代の変化に強くなるという判断からだ。そこで、いくつかのソフト開発会社をパートナーとして、ARの分野に乗り出すことにした。今回紹介するのはその中の一つで、「AR Furniture」というアプリである。

これは、ターゲットとなるARマーカーを床に置いて、スマートフォンのカメラを向けると、本物そっくりの家具が画面に表示されるというもの。カメラの向きや画角に合わせて、家具の向きや大きさもリアルタイムに変化する。想定としては、家具のメーカー、ベンダーが開発の依頼主で、家具を買おうと思っている人がユーザー、家具の配置やデザインのマッチングなどのシミュレーション用途を考えている。開発中なので、表示できるのは現状このイスのみ。3DCGは御園生氏、ARのソリューション提供はサイバネットシステムが担当している。

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左:サイバネットシステム ビジュアリゼーション部 田邉裕理氏。右:同 岩㟢勤氏。

「当社では3年前から、metaio(独メタイオ社)のAR開発ツールの代理店業務を行なっています。これまでも産業分野や、イベント・プロモーション業界に向けて営業活動を行なってきましたが、御園生さんと出会い、フォトリアルな3DCGとARの組み合わせが可能になることで、様々な業界に向けて実用的なソリューションを提供できることを改めて確信できました」(サイバネットシステム 田邉裕理氏)。

「現在は最小限の機能しか積んでいませんが、依頼主のニーズに応じて拡張できます。デバイスのスペックにもよりますが、画像を拡大したり、複数の家具を表示したり、家具の色を変えたり、画像をTwitterに投稿したりというのは、すぐにでも実現可能です。今後は、スマートフォン需要も高まると思われますので、それに合わせたARのソリューション展開を検討していく予定です」(同 岩㟢勤氏)。

「AR Furniture」の仕組み
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(1)
家具を表示させたい場所にARマーカーを置く

QRコードのような図形が描かれている紙がARマーカーと呼ばれるもの。カメラがこのARマーカーを認識すると、その場所にイスのCGを表示する仕組みになっている。


(2)
スマートフォンのカメラをARマーカーに向ける

基本的な動作は、アプリを起動して、カメラをARマーカーに向けるだけ。スマートフォンの画面に、CGのイスが背景に重ねて表示される。

(3)
カメラ画像と家具のCGを重ねてスマートフォンに表示

フォトリアルな赤いイスのCGが背景画像に重ねて表示される。カメラの向き等に応じて、イスの向きや大きさもリアルタイムに変化する。

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今回のアプリで、AR技術と同じくらい重要なのが3DCGである。アプリの中で本物そっくりに見える家具は、ユーザー体験として欠かすことができない要素だろう。

ここで、御園生氏によるCGの制作過程を簡単に説明しておこう。まず最初にRhinoceros(ライノセラス)というモデリングソフトで、曲面の多い複雑なイスの形状を作り、3ds Maxで表面にテクスチャを貼りこむ。同時に、どのような環境でもイスが自然に見えるように、光を回しぎみにしたライティングを行なう。脚の下に落ちる影にもこだわって、影に半透明処理を加えているところがポイントである。

そして、テストレンダリングした画像をPhotoshopで開き、脚の部分のトーンをチェック。時間をかけてあらゆる背景に馴染むように調整して、結果を3ds Maxに戻って反映させている。こうして完成した3DCGのデータは、サイバネットシステムに渡されてアプリの中に組み込まれている。

このように徹底して写真的なアプローチで作り込まれた3DCGは、一般のソフト開発会社や従来の3DCG制作会社ではそうそう真似のできない高品質を誇る。その意味で「AR Furniture」は、一歩も二歩も先を行くARアプリに違いない。写真と3DCGを軸にして新しい分野の仕事を創り出したいという御園生氏の熱意は、今まさに実を結ぼうとしているのである。

Photoshop +α
写真品質の3DCGの制作過程
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(1)モデリングソフトRhinocerosの画面。イスのアウトラインを曲線で描画し、面を貼っていく。この段階の品質が後々の工程のクオリティにも影響する。


(2)曲面の品質をチェックするコマンドで念入りに品質を調べる。問題がある箇所は面を貼り直す。


(3)モデリングデータを3ds Maxにインポートし、マテリアルの貼りこみとライティングを行なう。レンダリングを何度か繰り返しては、修正を加えて、最終品質に近づけていく。


(4)テストレンダリングした画像をPhotoshopで開き、脚の部分のトーンをチェックする。様々な条件の画像に重ねて、どんな背景でも自然に見えるように調整を行ない、その結果を3ds Maxに戻って反映させる。


(1)
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(2)
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(4)
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アプリの動作確認
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metaio(独メタイオ社)のAR開発ツールに3DCGのデータを読み込み、アプリとして仕上げていく。上の写真はiOS版のアプリの動作をチェックしているところ。
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御園生氏も交えて動作を確認。テーブルには大きさの異なるARマーカーが置いてあるが、ARマーカーのサイズによって表示されるCGの大きさも変わる。

フォトグラファー御園生大地氏の3DCG制作事例
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御園生氏が自主制作した3DCG作品の一部。ピップスのサイト http://www.pips-inc.co.jp、個人サイト http://misonoo.com でも見ることができる。

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