吉田尚記のあさっての話

五感っていいますけど、本当に五つですか?|稲見昌彦

撮影:浜村多恵 まとめ:粟野亜美

新しい技術やアイデアのまわりには一体何があるんだろう。「あさっての話」はニッポン放送 アナウンサーのよっぴー(吉田尚記)が、そんな今よりちょっとだけ進んだ未来のことを様々な分野のスペシャリストに聞ききまくる企画。「コマーシャル・フォト」にて連載中の人気対談をShuffleでもお届けします。

『攻殻機動隊』に登場する技術「光学迷彩」。マントをつけた人の身体が透け、後ろの背景が見えるという代物だ。この技術を実際にこの世に生みだした人、それが今回の対談相手である東京大学先端科学技術研究センターの教授である稲見昌彦さんだ。「聞きたいことが山のようにある」とよっぴーさん。話は、バーチャルリアリティを越えて、ビリーバビリティへ。

img_special_asatte_01_01.jpg東京大学先端科学技術研究センターが開発した光学迷彩。
img_special_asatte_01_yo.jpg吉田尚記

吉田 今日は聞きたいことが山のようにあり、何から聞こうか迷いますが、まず「五感」って本当に「五感」なんですか?

稲見 (即答で)違いますね。

吉田 やっぱり~!! 今日はそういうお話しが聞きたいです!

img_special_asatte_01_in.jpg稲見昌彦

稲見 五感というのはアリストテレスが言い始めて、目で見てわかる感覚器という意味で視覚・聴覚、嗅覚、触覚、味覚と分かりやすく定義されていた。しかし、例えば、バランス感覚。普段は意識しませんけど、内耳に炎症が起きるとめまいをおこす。五感には入っていないけれども大事な感覚なわけです。

ほかにも深部感覚。自分の舌の形は分かっている気がしてますけど、それは舌がどこかに当たることで触覚によって形を認識している。口の中のどこにも舌が付かない状態だと、10秒ぐらいで舌の形が消え始める。深部感覚が弱いからそういうことが起きるわけです。

吉田 面白いのは、その感覚ひとつひとつに芸術って存在しえますよね?

稲見 それがどこまで一般化できるかはまだわからないですが、でも、僕が思うのは、江戸前のお寿司屋さんがいい仕事をしている、これは触覚芸術かもしれません。口の中でシャリがいい塩梅に口の中の触覚を適切に刺激するように握られている。しかも、芸術の域まで達しているわけですからね。

「人間の信じる力」がカギに

稲見 触覚の話が出たので、これ、一見、糸電話のように見えるんですけど、よっぴーさん、こっち持ってください(と言って片方を渡し、自分の手に持ったもう片方の紙コップに砂利を入れる)。

吉田 うわ、すごい! 向こうの紙コップと全く同じ感触が遠隔で僕の手の中で再現されている。面白い! 

稲見 これは僕の慶応で同僚だった南澤先生らが開発したものなんですが、聴覚と触覚は、感覚として意外に近くて。コツコツという振動が空気を通じて耳に入ると聴覚、その振動がそのまま指に伝わるのが触覚で同じ振動を感じているわけです。まさに触覚の記録と再生、つまり触覚のバーチャルリアリティの研究です。

吉田 デバイスとしては中学生の電子工作で作っても不思議ではないくらいに簡単にできているだけに面白いですね。

稲見 はい。すごくシンプルです。足すことは簡単なんですけど、料理とかにもあるように何かを足すと何かが鈍るという感覚、それを踏まえて引き算した結果、このシンプルな形になった。この装置も、紙コップをこういう風に持つことによって、人間の脳は「実際にあり得るだろう」と思い込める。つまり、紙コップ自体が触覚想起装置になっているんです。

吉田 なるほど! 紙コップ自体にそういう意味があったんですね!

稲見 紙コップの中に入っているものを当てる力は、我々人間が学習によって元々持っている。紙コップは、リアルとバーチャルをつなぐ補助線。言ってみれば、落語の「まくら」みたいなもの。現実世界とバーチャルな物語の世界をつなぐために、まくら=紙コップが存在しているわけです。

吉田 前説が大切だと。確かに前説段階で紙コップ持ってもそれに何かが仕込まれているとは思わないですからね。このさりげなさが重要なんだろうなぁ。

稲見 人間の信じる力を上手く引き出してあげるわけです。最近、リアリティではなく、「ビリーバビリティ」という言い方が登場し始めているんですが。

吉田 信じられるかどうかってことですよね。確かにドラゴンなんているわけないよって言いながら、みんなが頭に同じものを想像できる。これがビリーバビリティですね。面白い! 

img_special_asatte_01_02.jpg

人間の信じる力
=ビリーバビリティが
カギとなる未来が
すぐそこに来ている

稲見 神戸大学の寺田努先生という方が開発した「うそつき体温計」。37.5℃なのに36.8℃と表示される。そうすると、それで元気になったり、因果関係は不明ですが熱まで下がり始める人まででてくるそうです。

つまり、情報が体に効く作用っていうのも示唆されているわけです。人によって効きやすさには違いはあるけれども、情報がサプリメントとして効く時代は来るんじゃないかなと。ウェアラブルなどで、その人に合わせて個別に設計できるようになるとなおよい。

吉田 なるほど! ラジオもそういう面がある気がします。僕らがやっていることは薬剤師の方に近いのかもしれない。つまり、「この処方は絶対にやってはダメ」という情報の伝え方があるんです。人間のビリーバビリティと結びついた情報のサプリメント、今後、大きな波になりそうですね。

僕ら人間にこの世界がこんな風に見えているのは人間の感覚受容器を持っているからあくまでこう見えているだけであって。たとえば、ここをコウモリが見ていたらこんな風には見えていないわけですよね。

稲見 そうです。また目の不自由な方がこの世界を晴眼者と同じように感じているかどうかもわからないですよね。

吉田 そうなると、よく「真実はひとつ」なんてこと言いますけど、今の話の流れだと、とんでもない!ってことですね。

img_special_asatte_01_03.jpg

「真実はひとつ」
という言葉が死語になる
時代の幕開け、
僕らはそこに立っている

稲見 少なくともリアリティは人の数だけ存在するわけです。というより、今後は人の数以上のリアリティ、ビリーバビリティが出てくるのではないか。今よく開く議論はリアルとバーチャルを対比させた話ですけど、もっとたくさんのバーチャルがある中で、リアルは多くあるチャンネルのひとつぐらいになっていく。

しかも、それぞれのチャンネルの中では、好きな性別、好きな年齢で生活ができ、そちらのほうがより自分らしさを感じられるというのも出てくるでしょうね。それがまた新しいリアリティになるのかもしれません。

つまり、現実世界の体験よりもバーチャルの世界の体験のほうがより楽しいとか、生きがいを感じるということが起き始めていると言えるのでは。

吉田 うん、ありえますよね。リアリティがビリーバビリティになる瞬間ももう間近。今、まさに離陸する、そんなタイミングで、お話しできてすごく面白かった! でも、正直言うとまだまだ話したりない(笑)。先生の話、オモシロすぎます!

よしだ・ひさのり
1975年12月12日東京生まれ。ニッポン放送アナウンサー。「マンガ大賞」発起人。『ミューコミプラス』(月〜木曜日24時より放送中)のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」受賞。著書『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)、『元コミュ障アナウンサーが考案した会話がしんどい人のための話し方、聞き方の教科書』(アスコム)ほか。

いなみ・まさひこ
東京大学先端科学技術研究センター教授・総長補佐。博士(工学)。JST ERATO稲見自在化身体プロジェクト研究総括。電気通信大学、慶應義塾大学等を経て現職。自在化技術、人間拡張工学、エンタテインメント工学に興味を持つ。米TIME誌Coolest Invention of the Year、文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞。超人スポーツ協会代表理事。著書に『スーパーヒューマン誕生!人間はSFを超える』(NHK出版新書)。

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