産業の歩み

三大資材商

第一章 1845-1855 ③

マーケティング力だけでなく、優れた新技術により飛躍した資材商たち

1850年代、ニューヨークには、スコビル(Scovill)、アンソニー(Anthony)、チャップマン(Chapman)という三つの大きな資材商があり、各ギャラリーやダゲレオタイピストはこれらの資材商から材料を仕入れていました。特に、コネチカットのスコビルは1846年、ニューヨークに取扱商品の全てを持ち込み、ここへ来れば当時のダゲレオタイプに必要な資材は、その工程の初めから終わりまでフランスからの輸入品も含め全てが揃う、という具合でした。

スコビルのニューヨーク店のマネージャーであったマロリー(George Mallory)とホルムス(Samuel Holms)は、単なる工場生産とは一線を引いたそれまでにない洗練されたやり方でマーケットにスコビルの商品をアピールし、利益率を飛躍的に向上させ、1846年から3年後、その収益は5倍となりました。

また、ライバルであるアンソニーが1850年、メジャーな地方都市へ拡販のために営業を送り込むと、マロリーとホルムスも1851年から翌年にかけてミシシッピの主要都市に立ち寄り、営業を展開しました。そしてこの二社の拡販によって、地方都市であってもニューヨークからのダゲレオタイプの資材を手に入れられるようになりました。このことと期を同じくしてスコビルは各部門の利益を分け、部門化し、写真資材の部門ではダゲレオタイプの終焉期まで独走を続けたのです。

ギャラリーから出発したアンソニーの商売

さて、スコビルはもともと製造業から出発していますが、アンソニーの商売の出発はギャラリーにあり、そこにダゲレオタイプ資材の販売を付加し、最終的に資材を製造するという資材商としてはスコビルと異なる成り立ちをしていました。スコビルとは対照的に、アンソニーは一般工学をコロンビアカレッジで習得し、当時流行っていたダゲレオタイプをモールスに学び、1842年ダゲレオタイプ・ギャラリー(The Edwards and Anthony Gallery)を開き、46年にかけてパートナーたちとダゲレオタイプのシリーズを発表するなどして資金を稼ぎ、その間スコビルの成功を知って、47年ダゲレオタイプ資材商となったのです。

スコビルは安く高品質な銀板の製造に焦点

しかし、ダゲレオタイプ資材商を発達させたのは、彼らのマーケティングやマネージメント力だけではなく、そこに、優れた新技術があったことは言うまでもありません。特に銀板は新技術によって大きく改良されました。1840年代はじめ、デビス(Daniel Davice)が電流を使い銀を銅版に付着させる原理(電気メッキ)を発明し、これによってコイル状の銅版の表面に均一に銀塗装できるようになりました。また、40年代の終わり、静電気が銀板の研磨に有効であることがわかり、研磨技術が大幅に改良されました。

フィラデルフィアのトンプソン(Warren Thompson)は、アメリカン・プレスと呼ばれる銀器の製造技術を、1830年に創業したフランスのクリストフル(Charles Christofle)のために開発しました。これに刺激されたスコビルは施設を作り直し、フランス製よりも安い銀板を作ることに焦点をあてます。そしてスコビルの銀板の精度は飛躍的に改良され、多くの銀板製作会社がつぶれました。

新技術を取り込んだスコビルの成功はアンソニーにも影響し、50年代アンソニーは新たな戦略に打って出ます。まず初めに彼はダゲレオ用のケース、カメラボックス、薬品の生産をはじめ、セントルイスのような西側のマーケットの拡大に努めます。そして数年後、スコビルもアンソニーの戦略を模倣することになります。アンソニーは化学と経営に強い兄弟を会社の役員にすえ、技術的、ビジネス的に成功を収め、特に、1853年から55年にかけて目覚しく成功しました。しかし、以降は新技術に追いつくことができず、衰退することになります。

内陸部との交易で商売を拡大したチャップマン

三つ目の重要な資材商はニューヨークのチャップマン(Levi Chapman)です。1840年代後期、チャップマンは剃刀用の皮砥ぎとダゲレオタイプ用のケース、マットなどの保管用品を扱っていました。しかし、50年代前半まで彼にはこれといっためぼしい商売上の成功はありませんでした。そして、時を同じくしてアンソニーのように内陸部との交易をはじめ、52年から55年にかけてチャップマン・カンパニーは商売を拡大することに成功し、55年からはメジャーな製造会社の一つとして注目を集めるようになりました。

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