産業の歩み

光学とカメラ資材の改良

第一章 1845-1855 ⑥

化学者やビジネスリーダー達が技術の進化を牽引

ダゲレオタイプが登場して以降、化学者や技術者あるいはビジネスリーダー達は、初期の写真産業の基礎を作りテクノロジーの開発の方向性を導いて行った、と言うことができます。そして、この間、ダゲレオタイプ以外の他の写真術が存在しなかったわけではありません。この時期には、カロタイプ、アルヴュメン、ワックスペーパー・プロセスなど、ネガポジ法を元にしたさまざまな技法が考案されます。

と同時に、なぜ複製のできる便利なネガポジ法がダゲレオタイプに代わって産業の波に乗らなかったのかを不思議に感じられるかもしれません。実は、ダゲレオ期と同時期のネガポジ法は、像が一般に不鮮明で完全なイメージとは言えませんでした。また、考案者であったタルボットが特許としてライセンスを独占していたために、さまざまな人々がそこに関与し技法を進化させることができなかった、ということもカロタイプが改良されない原因の一つでした。そして、アルヴュメンとワックスペーパーに関しては、露光に時間がかかりすぎました。つまり、いずれも商業用としては限界があったのですが、もっともな要因は、それを産業に推し進めなければならない切迫した状況がヨーロッパにはなかった、ということでした。

登場と同時に改良されていくダゲレオタイプ

さて、ダゲレオタイプの登場と光学とカメラ資材の改良は同時期にやってきます。まず、ダゲレオタイプはネガポジ法ではなくダイレクト・ポジティブであったために像が左右反転していました。そのため、光学研究者たちはすぐに像を反転させるプリズムレンズまたは鏡を使って改善を図りました。

もう一つの課題は、ポートレイトの撮影時間の短縮にありましたが、これを改良する一つの方法は、レンズの集光力を上げることでした。ダゲレオタイプ初期、レンズの集光力に挑戦したのは、それまでの大きな凹面の鏡をレンズに取り換え、集光力を上げ、露光時間を短縮するとともに像を反転させることにも成功したウォルコットです。もう一つは、オーストリアのペッツヴァル(Joseph M. Petzval)の考案したPetzvalレンズで、これは多くのレンズメーカーが模倣し、Petzvalレンズよりさらに集光力のあるポートレイト用レンズをドイツの光学メーカーが開発しました。

また、ダゲレオタイプ用のカメラはカメラオブスクラから発展したものですが、レンズの焦点距離が異なったため、それまで代理で使用していたカメラオブスクラのレンズから、ダゲレオタイプ専用のレンズが開発され、このことによって色収差が補正されるとともに、シャープな画像が写し出されるようになりました。

さらに、露光時間を短縮するために、ハロゲン蒸気を使用し銀板の感度も改良され、電気メッキや着彩などが発達したのもこの時期です。そして、ダゲレオタイプを納めるためのマット、ガラス、木、ベルベットなどを組み合わせたダゲレオ専用のケースが開発され、大変傷つきやすい銀板の表面を、埃や退色から守るためにいくつもの素材がそれを保護するように組み上げられました。

化学的な技術から、産業の一つとして商用化

1839年から1845年にかけてのダゲレオ期は、ダゲレオタイプがフランスで開発され、アメリカに持ち込まれ、化学者というリーダー的な存在が技術を洗練させた時代でした。また、その情報の共有は、ジャーナリストによって書かれ、新聞を賑わせ、化学者たちに追従しようとする人々を生み出しましたが、追従する彼らは、何らかの化学に素養のある人々でした。

1845年から1855年にかけては、ダゲレオタイプが入植者たちの暮らしの安定のために産業革命の波に乗り、商用として大いに利用され始めた時期です。また、化学に縁のない一般の人々が生計を成り立たせるために副業としてダゲレオタイプをはじめたのもこの頃です。サイエンティフィック・ジャーナルが刊行され、ダゲレオタイプを含め産業革命の新技術が紙面を賑わし、ダゲレオタイピストやギャラリーオーナーが紙面を通じ、化学者たちからの情報を得たり交流を持つようになったのもこの頃です。

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