人々の歩み

カラーへの欲望 ヒル

第二章 1846−1855 ⑦

カラーの再現に初めて挑戦した人物

ダゲレオタイプ期に特筆すべきことは1850年から51年にかけて二誌の写真雑誌、The Daguerreian JournalがニューヨークのS.D. Humphreyによって、また、The Photographic Art Journalが同じくニューヨークのH.H. Snellingによって、それぞれ出版されるようになったということです。両誌は全米の多くの写真家たちに最新情報を提供し、彼らの技術の改善に大いに役立ちました。特にSnellingが出版していたThe Photographic Art Journalは、版型も大きくリソグラフによって作られ、空白のスペースに紙写真が張り付けられておりとても人気がありました。

画期的だったカラーのダゲレオタイプの発表

さて、出版社のSnellingはダゲレオタイピスト達にも顔が広く、その内の一人ヒル(Levi L. Hill)とも非常に懇意にしており私信をやり取りする仲でしたが、1851年4月付のヒルからの手紙の中に、ヒル本人はHeliochromyと呼び、後にHillotypeと呼ばれるようになったカラーによるダゲレオタイプについての記述が出てきます。それによればヒルはその公表のために赤い屋根、木々の緑、木立の色、異なる木陰に休む赤牛とブチの牛たち、青空、など50枚のイメージを準備した、とあります。

当時、このカラーのダゲレオタイプについては画期的な出来事であり、新聞にも発表されたのですが、1851年夏の時点では、ヒルが推奨する何層にもコーティングした特殊な銀板や、非常に毒性の強い化学薬品を一般に普及させるためのインフラが整っていませんでした。また、カラーと言ってもあまりにも不鮮明で、通常のダゲレオタイプの方がこの時点でははるかに美しかったため、一般に普及することはありませんでした。

ヒルはそもそも聖職者で健康上の理由からダゲレオタイピストに転向したのですが、当時ヒルはニューヨークの北部にあるCatskillsという町に暮らしていました。このあたりは1840年代から50年代にかけてダゲレオタイプ産業が集中しており、そこには幾つものダゲレオタイプの研究グループがありましたが、彼はそのどこにも続せずに一人でコツコツと研究を進めていました。

ヒルの孤立した研究環境は彼を貧窮に追い込み、研究のための資金を必要としていたヒルはダゲレオタイプの教本を3ドルで販売し生計を立てるようになりました。そこに登場したのがモールスです。モールスはテレグラフが好調な時期でもあり、ヒルの研究に興味を持ち、彼を支援するために、積極的に彼のダゲレオタイプ教本を購入するよう他のグループに持ちかけました。

資金不足に陥ったヒルの研究環境

また、モールスはヒルに彼のカラーのダゲレオタイプのパテントを取得することを勧めませんでした。「パテントは化学にとって幻想にしか過ぎず、人を惑わす城壁のようなものでしかない」というのがモールスの論でしたが、これは間違いなくモールスのテレグラフのパテントの体験から出た言葉でした。

そしてこのモールスの助言と貧困との板挟みになったヒルは、1851年懇意にしているSnellingに雑誌への執筆を頼み、上院と国へ特別な研究のための援助金を助成してもらうよう嘆願しました。しかし、これが受け入れられることはありませんでした。なぜなら、ヒルの主張するカラーのダゲレオタイプは銀板のエージェントと彼の着彩によるもので純粋なるカラーのダゲレオタイプではない、と見られたためです。また、カラーで最も再現が困難とされる黄色がその中にないことも受け入れられなかった理由の一つにあります。

ヒルのダゲレオタイプはたしかに、私たちが知っているカラー写真とは、技術的にも品質的にも似て非なるものかもしれません。しかし、ヒルが思い描いていたカラー写真の理想像がどんなものだったのかは、彼が亡くなった今においては確かめる術もありません。ただ一つ確かに言えることは、彼はまぎれもなく一番初めにカラーの再現に挑戦した人物である、ということです。

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