人々の歩み

言葉の誕生「Photography」「Positive」 ハーシェル

第三章 ②

1839年、ポジティブについての研究発表が集中

ネガティブをまず考案したタルボットは、ネガティブを元に像を別の印画紙に転換することはできないか、と考え始めます。現在で言うポジティブです。そして、このポジティブの可能性についてはハーシェルドレーパーにあてた手紙の中にも、それを示唆していたことが伺えます。

つまり、この時期カメラオブスクラの像の定着について、ダゲレオタイプでいち早く成功したフランスのダゲール、ネガティブで成功したイギリスのタルボットばかりではなく、同じくイギリスのハーシェル、アメリカのドレーパーも同時に考察しているわけですが、1839年前半という非常に限られた時期にまるで集中したかのように化学者たちは相次いで類似の研究成果を発表している、ということになります。そして、そのことはあたかも奇遇のように歴史の中では扱われていますが、ハーシェルとドレーパーのように国を隔てても手紙で研究内容をやり取りし、また少なくとも同じ国内に住む化学者同士であれば比較的頻繁な情報交換が行われていたためではないか、と思われます。

例えば、一体ハーシェルが1839年以前どれほどの期間をその研究に費やしたか定かではありませんが、1839年1月、ダゲールが像の定着に成功したという発表に触発され、多くの化学薬品のうち、一体どの薬品の組み合わせが像の定着に最も有効であるか、さらに具体的な考察を始めたことは間違いありません。またハーシェルはタルボットのプロセスにはすでに精通しており、ダゲールのプロセスについても、また、タルボットのプロセスについても、そのメソッドにはそれぞれ独自の問題点がある、と指摘しました。

その研究成果の報告はタルボットと同じく、ロイヤル・ソサエティー・オブ・ロンドンにおいて行われ、報告内容は、ペーパーを硝酸銀でコーティングし感光させるというタルボットの研究と大差ないものでしたが、この発表はダゲールやタルボットが発表を行ったわずか二ヶ月後、 1839年3月14日のことなのです。

ネガティブの明暗部分の再反転に成功したハーシェル

さて、そのハーシェルの写真における代表的な功績は、ネガティブの明暗部分を新たなコピーとして反転させることに成功した、ということです。彼ははじめこの明暗部分の反転した新たなコピーをセコンド・トランスファーズ(second-transfers 二次複製)、または、リ・リバーズド・ピクチャーズ(re-reversed 再反転)と呼び、その像の鮮明さを得るためにはネガティブから複製する側のペーパーの感度について、そもそものネガティブを作るより、遥かに困難で繊細さと経験が要求される、としています。

ハーシェルは、この再反転された像が非常に利点のあることをすぐさま認識し、1840年、ネガティブとネガティブを元にしたポジティブにどのように定着させるかについて、銀化合物ではなくチオ硫酸塩を使用することを含め発表します。このアイディアは、ダゲールとタルボットの考察を組み合わせたもので、この時ハーシェルの推奨したチオ硫酸塩は現代ではハイポという名で親しまれています。

現在に通ずる新たな呼称が生まれる

さらにハーシェルは、この定着された像を「Photography」と名付けました。ハーシェルこそが私たちが現在使っている「Photography」という言葉の生みの親なのです。

当時、定着した像にはたくさんの呼称がありました。サン・ドローイング(Sun Drawing)、サン・ピクチャーズ(Sun Pictures)、ヘリオグラフィック・アート(The Heliographic art)、ヘリオグラフ(Heliographs)、ペンシル・オブ・ネイチャー(The pencil of nature)、フォトジェニック・ドローイング(Photogenic drawing)、後にタルボットがタルボット・タイプ(Talbot Type)と名付けたカロタイプ(Calotype)、ダゲレオタイプ(Daguerreotype)など。またタルボットは自身の定着した像をペーパー・ダゲレオタイプ(Paper daguerreotype)と呼んでいた時期もありました。

ハーシェルはそこへフォトグラフィー(Photography)とポジティブ(Positive)という言葉を加えたことになりますが、フォトグラフィーという言葉が、一般に定着した像の総称となるのはまだまだ先のことで、アメリカでは非常に長く、ダゲレオタイプ、アンブロタイプ、ティンタイプ、ステレオカード、キャビネットカードなど、マテリアルそのものの形態やプロセスから呼ばれることがほとんどでした。

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