人々の歩み

ペーパー・ネガティブからガラス・ネガティブへ

第三章 ④

ネガティブ法の最大の欠点が改良される

ダゲレオタイプ・プロセスとネガポジ法は1839年ほぼ同時期にスタートしたのですが、1844年の時点で、それぞれの技法によって得られた像にはその精度に大きな開きがありました。またそれが元で、アメリカにおいてダゲレオタイプ・プロセスが、タルボットやハーシェルの考案したタルボタイプ(カロタイプ)やネガポジ法よりも現代の写真システムの基礎となり、写真産業を推し進める原動力ともなったのは、ダゲレオタイプ・プロセスは銀板のためネガポジ法とは比べものにならないほど細部を写しだすことが可能で、感度もよく、そのため露光時間がネガポジ法より短かった、ということが主な理由です。

当時のネガポジ法の元となるネガは紙、つまりペーパー・ネガティブであり、そのため像が鮮明さに欠けることは仕方ないことでしたが、これはネガティブ法の最大の欠点でした。それを改良したのはハーシェルです。1839年、ハーシェルはまず、ペーパー・ネガティブのクオリティを上げることが最大の課題と捉え、紙の代わりにガラス板を塩化銀でコーティングすることで、より質のいいネガティブができるのではないか、と実験を始めます。その方法は非常にシンプルで、塩化銀の溶液にガラス板を静かに沈み込ませコーティングを完了した後、ガラス板を取り出して乾燥させる、というものです。つまり、塩化銀をその表面にフィルムのように均等に密着させることになるのですが、これが世界初のガラス・ネガティブです。

その後、ハーシェルの編み出したガラス・ネガティブ法は像の定着が安定したものとなるよう塩化銀をコーティングするための媒体剤の発見などいくつかの改良をもって完成するのですが、この研究に参加したのは、アマチュア写真家ばかりではなく、ヨーロッパやアメリカのプロの写真家たちも参加しました。ペーパー・ネガティブの当時、プロの写真家は不鮮明さに商用としては使えない、と判断していたわけですが、彼らは、ガラス・ネガティブ法に発展的な商用性を感じ取ったのでしょう。

アメリカでは卵白を使った実験

アメリカでガラス・ネガティブ法の媒体剤の発見に興味を示したのはウォルコットでした。1843年、ロンドンに滞在し写真をスクリーンに写しだすマジック・ランタンを研究していたウォルコットは、アメリカにいた共同研究者のジョンソン宛に「卵白を使って挑戦したけれども上手くゆかなかった」と私信にしたためています。また、ウイップルはこの研究を1844年から開始し、ミルクを使って成功するのですが、結果としてこれは非常に不鮮明で時間がかかるため、成功とまでは言うことができませんでした。そして、ゼラチン質とタンパク質にも着目したのですが、1844年の時点において、まだ誰も鶏卵からゼラチン質とタンパク質を分離して抽出することに成功しておらず、その後、この方法を6年かけて模索し、1850年にガラス・ネガティブの媒体剤として実験の完成を迎え、アメリカのパテントを取得します。

彼のアイディアは、1848年、ダゲールの共同開発者であるニエプスのいとこビクター(M.Niepce de Saint-Victor)が、アルビュメン(卵白)を媒体剤として使用し、成功したことに着想を得ています。また同じくビクターのアイディアを元に、フィラデルフィアのランゲンハイムス(Langenheims)は、ハイアロタイプ(Hyalotype)と呼ばれるガラス・ネガティブ法を考案し供給しました。フレデリック・ランゲンハイム(Frederick Langenheim)はこのハイアロタイプのパテントをウイップルの少し後に取得しています。ランゲンハイムスは、ハイアロタイプで紙だけではなくガラスにも像を複製し、当時のフィラデルフィアではよく知られた存在でした。いずれにせよ、ウイップルはボストンで、またランゲンハイムはフィラデルフィアでプロの写真家たちにガラス・ネガティブ法を普及させる牽引力となりました。

ガラス・ネガティブ法がマイナーだったアメリカの「ハイアロタイプ」

さて、1851年に行われたロンドンの博覧会(クリスタル・パレスで開催のグレート・ワールド・フェアー)ではアメリカからは唯一、ランゲンハイムがハイアロタイプでタルボットや他のヨーロッパのペーパー・ネガティブ法やガラス・ネガティブ法に対抗し、参加しました。そして、この博覧会でアメリカのダゲレオタイプがずば抜けて優れていたことは先にも記しましたが、実際、この時期アメリカではヨーロッパのようにペーパー・ネガティブ法やガラス・ネガティブ法は非常にマイナーな位置づけにあり、主流とは言いがたいものがあったのです。

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