カラーライティング 活用テクニック&役立つ機材・小物

Part2 応用テクニック

Part2では、Part1で解説した基本をもとにした応用編として、様々なパターンのカラーライティングを作品と合わせて紹介。人物、ブツと被写体も分けながら機材や小物の性能を活かした作品を撮り下ろした。

舞台照明用カラーフィルターでライティング

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メインモチーフである、ゴールドステーショナリーの存在感を浮き立たせるために、舞台照明用のカラーフィルターに下からライトを当てた透過光によるカラーライティングにチャレンジしてみた。

舞台照明用のカラーフィルターは透過性に優れているため、ライトを透過させたときの発光感が非常に美しいのが特徴的だ。また、彩度も高いため、ビビットなトーンなども作りやすいのも魅力。

今回は、補色や反対色の関係に近しいブルー系のフィルターを使用することで、ステーショナリーのゴールドの力強さ、神々しさをアピールすることに成功した。

ライティングセット

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真俯瞰セットでの撮影。撮影台は手をついても天板がしならないよう、透過率の良い90×90mmのナングレアガラスを設置し、その上に同サイズの乳白アクリルを乗せる。透過光の露出が画面内で均一になるように、ライトの光をバウンスして透過面全体に回している(画像右)。メインのライトは、アートレ越しに90×120mmのソフトボックスを使用(画像左)。ステーショナリーにレンズなどの写り込みを避けるため、シフトレンズを使用している。

カラーフィルターの扱い

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乳白アクリルの上に、舞台照明用のブルーフィルターを1枚乗せる。小道具を乗せたときにフィルターにシワや傷などができないようにするため、反射率の低い無反射ガラスを乗せると撮影がスムーズだ。使用しているフィルターは570×470mmサイズなので、透過光のライトは1灯で充分であるが、もっと広いサイズのフィルターや、カラーアクリルなどを使用する際はサイズに合わせて、ライトの灯数を増やしていくとよい。

ライトの出力で濃度調整

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カラーフィルターを透過するライトの出力が高いと、ブルーの濃度が薄くなる(Part1:「ライトの出力と色の関係性」を参照)。濃度を濃くしたいときは、ライトの出力を下げていくか、フィルターを重ねていく。フィルターに照射されるメインライトの出力も影響を受けるのだが、上の写真の透過光の露出はF値に対して±0。メインカットは-3段くらいアンダーな露出で撮影をしている。

LED照明の光の色を調整して色をつくる

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ここでは、「闇夜に彷徨うミステリアスな女性」というコンセプトを演出しようと考え、グリーン、パープルの2色を使いイメージを再現してみた。

使用するのは色温度や色相を調整することができるLEDライト。ここ数年で撮影用LEDの性能はかなり向上している。

色相を変更したLEDとカラーフィルターを装着したLEDの2種類の光源を使ってみた。グラデーション豊かなグリーンライトのなかに、エッジの効いたパープルのタッチライトが入り込み、見事なまでに美しい、色の境界線ができあがった。おどろおどろしく怪しげな闇夜のなかに佇むミステリアスな女性像を表現できたのではないか、と思っている。

ライティングセット

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LEDライトのカラーを素直に表現したいため、背景は白ホリゾントを使用。左のメインライトは出力が強いため、グリーンの光がホリに写り込んでいる。シャープな色味を作りたいため、左右ともディフューズはせず、直射光でライティングを行なう。LEDライトは調光可能なタイプのものが多いため、セットもシンプルにできるのが魅力だ。

LEDの光を調色

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メインライトは画像左の「ARRI L 10-C」を使用。色相を200°に設定すると、鮮やかなグリーンが照射される。右からタッチライト的な役割で使用しているのは、「LPL VLP-9500 XPD」のデイライトにパープルのカラーフィルターをセットしたもの。ライトがスクエアなため、シャープな色の境界線を作ることができる。

カラーバリエーション

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画像左は「ARRI L 10-C」をデイライトの5500Kに設定。「LPL VLP-9500 XPD」もフィルターを外して、デイライトのみで撮影したニュートラルな写真。画像右は、「ARRI L 10-C」を色相200°に設定したままで、「LPL VLP-9500 XPD」にレッドのカラーフィルターをセットして撮影した。照明や、フィルターの組み合わせだけでも無数のカラーバリエーションを作ることが可能だ。

ストロボ用カラーフィルターでライティング

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「サンセットビーチでのひととき」をテーマにストロボ用のカラーフィルターで、夕暮れ時の光感と、色合いを再現。

イエローフィルターで夕暮れ時の光を調色し、グリッドを使うことにより、鋭く、コントラストの強い日差し感を再現した。背景と床の素材も特徴的なテクスチャーが出る素材を使用することで、より印象的なシチュエーションを構築している。

ストロボ専用のカラーフィルターのメリッ トは、ストロボ本来の光の質やグリッドによる効果を損なうことなく色をのせられる点だ。一般的なカラーフィルターで同じ色を作ることも可能だが、光のコントロールにおいては、やはり専用のカラーフィルターに軍配が上がることが分かった。

ライティングセット

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まずは「立ち上げ」と呼ばれる床と壁からなるセットを作る。フィルインライトは全体の光源を大きく取るため、ユポ越しのアンブレラライトを使用。壁には、90×90の乳白アクリルに、透過できるシートを貼り付け、90×120のソフトボックスを使用し透過光を作る。ユポ壁の間に隙間を作り、メインライトをスポットで差し込む。

黄色い光と背景のテクスチャー

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メインライトには、「Profoto B1X」に「OCF II カラーフィルター」のイエローと専用グリッドを装着。これでヤシの葉の影と、黄色味を演出している。壁のシートは、「ワーロンシート鶸萌葱(ひわもえぎ)」(銀一スタジオショップにて取り扱い)という、和紙を塩化ビニール樹脂で両面からラミネートしたシートを使用。和紙の風合いを感じさせながらも、しっかりとした素材で破れにくく、熱にも強いのが特徴だ。

カラーバリエーション

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画像左はスポットライトなしで撮影したもの。立体感はなく、グラフィカルな印象を受ける。画像右は「Profoto B1X」に、「OCF II カラーフィルター」のグリーンと専用グリッドを装着したもの。メインカットより出力を2段ほどアンダーで撮影しているため、ヤシの影や、グリーンの濃度も弱めとなっている。床に敷いた「ワーロンシート淡水色(うすみずいろ)」のブルーを強調してくれた。

人物と背景にプロジェクターで写真を投射

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こちらのポートレイトでは、「カラーライティングでリラックス」をテーマに、プロジェクターを使用したカラーライティングにチャレンジしてみた。

今回のキャンバスは、モデルの身体がメインだ。「七色の光」をコンセプトに、デザイナーが作成したデータを投影。すると無機質なホワイトなスタジオが、一気に華やぎ始めた。

ふわりとした、美しくカラフルな光に包み込まれることにより、モデルの表情も和らぎ、ゆっくりと揺らぐような感じで撮影が進んでいった。モデルだけでなくスタッフ一同も穏やかな雰囲気で撮影できたことは、カラーライティングでリラックスができることを照明(証明)してくれた。

ライティングセット

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白ホリゾントと、モデルにプロジェクターを投影するといった、究極にシンプルなライティングだ。撮影テーマに合わせ、投影する素材を作成、選択するといった作業が肝心である。あとはPCとプロジェクターを接続し、素材の大きさや、モデルとの距離や、投影するデータのぼかし具合などを調整し、シャッターを押していけばよい。

7色をテーマにした画像素材

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画像左はライティング前のシチュエーション。衣装も白に統 一している。素材のテーマはカラーライティング特集にちなみ、「7色」とした。こちらのテーマをもとに、凸版印刷のクリエイター川﨑萌子氏にAdobe Illustratorにて素材を作成してもらった(画像右)。素材のもとは、網戸越しに撮影された植物(川﨑氏撮影)に、虹色のトーンのデータを掛け合わせたものだ。人工的に配置されたシャ ープなラインが、画面にアクセントを生み出してくれている。

カラーバリエーション

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川﨑氏に数パターンの素材を作成してもらい、それぞれ投影して撮影。画像左は、シャープな斜めのラインと、シャボン玉のように浮遊しているサークルのデザインが緊張感の中のくつろぎ的なニュアンスを作り出してくれている。画像右は、スクエアの枠のなかにモデルをプロットし、フォトフレームの中でゆったりたたずんでいるような作品に仕上がった。プロジェクター1台で、様々な空想世界を演出することが可能だ。

スローシャッターで布のゆらぎを写し込む

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続いては「スローシャッターを活かした演色」。画面の中に色とりどりの被写体が写り込むだけで面白い写真になるのがカラーライティングの特徴であるが、シャッター速度を遅くすることで、簡単に一歩踏み込んだ写真表現を作ることが可能だ。

家庭用の色温度可変タイプのLEDと、色布を使用し撮影した作品だ。照明で色を作る、というよりは、色布をぶらすことによって幻想的な雰囲気を演出している。

手前の赤い布の彩度を上げるため、こちらには赤いLED照明を照射しているが、花と背景にはニュートラルな白色のライトを使っている。もちろんこれらのライトも色をつければ、一層幻想的なビジュアルに落とし込むことも可能だ。

ライティングセット

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画像右は、セットの裏側から撮影した写真だ。花の後ろには青い布と金色の布を垂らし、花の前にはピンクの布を垂らしている。それをワーカービーやブロワーで揺らし、シャッター速度2.0秒で撮影した。

スマートLED照明「LIFX」

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画像左に写っている照明は、LIFX(ライフエックス)社のスマートLEDだ。スマホのアプリで調光や、色を変えることができる。今回は「LIFX」を3灯使用している。そのうちの1灯は、手前のピンクの布の彩度を上げるため、アプリ上で光の設定を300°/50%にして照射。その他2灯は昼光、5000K/100%に設定して、花とホリに照射している。

シャッター速度の効果

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カラーライティングの醍醐味は、ビジュアルにインパクトを与えられることである。カラー照明やカラーフィルターなどを効果的に使うことはもちろんであるが、スローシャッターで色のついた布(画像右)をぶらすことでも面白い効果を得ることができる。画像左はシャッター速度を1/160秒で撮影したため、布の動きが止まっていて、普通の写真となってしまっている。逆に、超高速シャッターで色のついた水などの一瞬を切り撮ったりするのも面白そうだ。

複数の素材を使用したライティング

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「カラーライティングに制限はない」。自由な発想で、思い切っていろいろなことにチャレンジできるのもカラーライティ ングの魅力のひとつだと思っている。そんな想いをもとにライティングしていった作品がこの2枚である。

レンズとモデルの間にはオーロラのように色が変化するカラーフィルムを1枚差し込み、そのフィルムに色温度可変LED照明を反射させた。モデルにも色温度可変のLEDを照射。背景にはプロジェクターでNYのSOHO街の写真を投影。
カラーフィルターその他様々な素材(布や和紙などでも面白いだろう)、照明器具(なしでもOKだろう)など、無限の可能性が広がっている。

ライティングセット

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使用している照明機材は、「ARRI L10-C」(画面全体を演色)、「LIFX」(モデルに照射)、プロジェクター(背景にNYの写真を投影)で、レンズとモデルの間には、「オーロラペーパーアイリスプラス PET24 U 1.02m×5m」(銀一スタジオショップにて販売)という、 非常に薄いフィルム状の塩化ビニールを1枚入れて撮影している。こちらのフィルムは、ホログラムのように、角度や光の反射によってまさしくオーロラのような美しい現象を生み出してくれる。

プロジェクターで風景を投射

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白ホリの壁には、20年前に撮影したニューヨークのSOHOの写真を投影。しばらくHDDの片隅で眠っていたが、今回のカラーライティング特集の企画にて、再び出会うことができたのは嬉しいかぎり。絞りf1.4で撮影しているため背景の写真がボケていて、どこの、何の写真かわかりづらいが、クールな都市の一部が画面に入り込むことにより、写真に色気を与えてくれた。NYにかぎらず、壮大な自然の景色や、満点の星空など写真のテーマに合わせて背 景をセレクトしていくとよりベストな1枚が仕上がるだろう。

照明機材の選択と効果

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メインカット上段の写真は「ARRI L10-C」(画像左)を250°の真っ赤な状態にし、カメラからだいぶ離れた位置からスタジオの壁と天井に照射。モデルには、スマホのアプリで操作可能なスマートLEDの「LIFX」(画像右)をグリーンに設定し、照射している。ARRIの照明はハイエンド機なだけあり、光量も豊富なため空間全体に色味をつけることも可能だ。「LIFX」はコンパクトで取り回しがよいため、狭い場所でも設置が容易である。表現の意図に合わせて機材を選べるとベストなショットも生まれやすい。

カラーライティング 活用テクニック&役立つ機材・小物
Part1 基本テクニック
Part2 応用テクニック
Part3 役立つ機材&小物



解説・撮影:中村雅也
凸版印刷情報メディア事業部 ビジュアルクリエイティブ部 1977年生まれ。2000年中央大学文学部卒業。コマーシャルフォトを中心に活動中。静止画のみならず、動画制作も手がける。日本広告写真家協会(APA)会員。長岡造形大学非常勤講師。

※この記事はコマーシャル・フォト2021年8月号から転載しています。

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