光の魔術師ジョー・マクナリーの極意

30秒のポートレート撮影のためのクイックツール

解説:ジョー・マクナリー

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タイム、ライフ、ナショナル・ジオグラフィック等の雑誌で活躍する写真家ジョー・マクナリーは、光の魔術師とも呼ばれ、彼の撮影技法書は海外で人気が高いという。その日本語版「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」(発行:ピアソン桐原)の一部を、Shuffle読者のために特別公開する。

30秒のポートレート撮影のためのクイックツール

ローリング・ストーンズの「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」は、カメラマンのテーマソングには使えません。時間がカメラマンの味方になることはほとんどないからです。2時間の予定が1時間になり、10分になった経験はありますか?え、先週は2回あった?よくある話です。

スピードは現代の写真撮影における合言葉です。被写体が決まって尋ねるのは「時間はどれくらいかかる?」いい質問です。私たちが撮る写真が、夢に描いていた写真になることはめったにありません。それなら、手早く撮影するのに越したことはないのです。私なら、延々と長引く拷問より、短く鋭い鞭打ち刑を望みます。さらに、誰か偉い人を5分で撮らなければならないとしたら、凄く割のいい仕事です!ここまではよろしいでしょうか。では、先に進みましょう。手際良く進めるコツを教えましょう。

短時間で高品質な光を作り出す方法はいくつかあります。非常にスタンダードな方法もあれば、解析と調査が必要な方法もあります。実際の状況を判断して、最もふさわしい方法を選ばなければなりません。

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Life誌の依頼で、動物園の動物とトレーナーとの感情的な絆を感じさせるポートレートを撮影する仕事がありました。長い時間を共にすると、動物は飼育員に非常に特別な信頼を抱くようになります。もちろん、見知らぬ人、特に、風変わりなフラッシュ装置を持った人物は信用しません。

「現実に立ち向かわなければなりません。毎日、約3,000兆枚のデジタル写真が撮影されているのです。どうすれば自分の写真を目立たせることができるか?どうすればエディターの目を自分の写真に引き付けられるか?どうすれば継続的に仕事が得られるのか?」


野生動物が檻に入っている!私も同じ檻に入っている!何か間違ってないか?

檻の中では、撮影の範囲が重要です。人の顔だけでなく、非常に大きな暗い色の生物も捉えなければなりません。人間と猛獣という非日常的な組み合わせに合わせて、光を拡散させて回り込ませ、しかもすばやく撮影を終わらせる必要があります。

これにぴったりなのはライトパネルだと考え、Lastoliteの3x3フィートSkyliteディフュージョンパネルを使用することにしました。このパネルは軽量で、簡単につなぎ合わせることができ、大きく柔らかな面を作って光を広げることができます。もう1つの利点として、裏側に補強材が付いているのです。この光制御ツールは、パネルの中央部を横切る補強材が付いていて、スピードライトを取り付けるのに絶好の場所になります。ここでもスピードライトです。

2台のSB-800を使用しました。1台で十分じゃないかと思うでしょう。もちろん十分です。このパネルに1台のライトを設置するだけで、光が改善されます。ロケでのライティングでは、常に次のステップを見据え、わずかなアドバンテージ、強みを模索する必要があります。現実に立ち向かわなければなりません。毎日、約3,000兆枚のデジタル写真が撮影されているのです。どうすれば自分の写真を目立たせることができるか?どうすればエディターの目を自分の写真に引き付けられるか?どうすれば継続的に仕事が得られるのか?

小さな強み、何か秀でたものを持つこと。機材をもう1つ追加してよりすばやく、より質のいい仕事をすること。

この場面では、私は2台目のスピードライトを使用しました。突拍子もない対策でも、非日常的な行動でもありません。非常にシンプルで、現実的で、論理的な判断でした。ライトを2倍にすることで、パネル全体の光の範囲を広げることができます。光の面が大きくなったことで、光の質が改善されます。出力を倍増させたわけではありません。それをやるつもりはありませんでした。私は今でも、絞り優先露出モードでカメラからF値を指示して、CLSを試しています。そこから、1台のライト、2台のライト、30台のライトなら、絞りはF5.6にしています。

光の範囲が広がり(光の質が高まり)、さらに光がうまく回って、被写体、例えばセイウチを優しく照らせます。また、1台のスピードライトでは、動物にストレスを与えてしまう可能性があります。2台のスピードライトを使用することで、光がほどよく広がり、被写体を柔らかく照らすことができます。また、2台のライトをSD-8A外部バッテリーパック(単三電池12個)に接続したことで、余裕を持って作業を進めることができました。この写真の撮影は1回でうまく行きました。かかった時間も2、3秒です。フラッシュの再充電時間は重要です。

私はLastoliteパネルの背面の補強材に、それぞれにBogenマジックアームを付けた2個のBogenスーパークランプで2台のライトを取り付けました。これによって、ライトをディフューザー素材から離して設置でき、素材に当たる前に光を拡散させることができました。大きめのディフューザーではあまり効果的ではありませんが、光をうまく混合することはできます。ドーム型ディフューザーもSB-800ユニットに装着したままにしました。これも光を拡散させて柔らかくするためです。

私はトレーナーと動物が待つ囲いに入りました。静かに、ゆっくりと。トレーナーが動物の機嫌を取っている間に、私はカメラとレンズを持って近づき、そろそろと距離を縮めていくと、トレーナーに「そこまで」と言われました。

それでも、勇敢なスコットはライトパネルを持って前進します。近く、もっと近く。再びトレーナーの制止が入ります。ホットシューに接続したSB-800でリモートユニット(グループA)を発光させながら、動物がストレスを感じるぎりぎりまで常軌を逸したように撮影しました(いつも常軌は逸しているって?)

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セイウチの檻の中では、Lastoliteパネルに別の機能もあることが分かりました。セイウチデフレクターです。見た目は穏やかなこの猛獣は、撮影には協力してくれましたが、気はあまり長くありません。680kgくらいある足のない生き物があれほど速く移動するとは思ってもみませんでした。彼女(メスだった)はスコットの後を追い、コーナーに追い詰めました。そこでパネルがセイウチ除けになったのです。

トレーナーが叱責するまで、スコットはセイウチの突進を防ぐことができました。セイウチはまんまと余計に魚をせしめました。そんなこんなで、今回のライティング機材は完璧でした。

ベッドシーツはあるかな?

ええと、誰か白いベッドシーツを持ってきてそこらにつるしてくれるかな?大きな白いリネンならある?テーブルクロスは?じゃあXLサイズのパンツは?

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私はチェコ共和国の大手パペットメーカーに招かれていました。それは素晴らしい体験で、ジェペットじいさんの工房に足を踏み入れたようでした。たくさんの木材と工具、仕上げ前のパペットがそこらじゅうにあります。

「手作りのパペットなどを見るときは、じっくり眺め、見事な細部の仕上げや手仕事の巧みさを味わいたいものです」

私は職人の光と呼ばれるものを再現しようとしていました。柔らかい光。曇天の窓の光。柔らかい光は特定の方向に緩やかに拡散し、その光が落とす影は大きくて深みがありますが、寛容なイメージになります。手作りのパペットなどを見るときは、じっくり眺め、見事な細部の仕上げや手仕事の巧みさを味わいたいものです。そもそも細部を見たくて写真を撮るのに、硬く差し込む光があると細部が見づらくなり、意味がなくなります。

また、心理学も光の選択に影響するようです。あまり考えずに対象を見ると、古く伝統的な手工芸品と何の飾り気もない古い窓の光の間に関連性があるように感じられます。こうした芸術品や工芸品は、大量の蛍光灯で私たちが温室育ちになる前の時代に生まれたものです。コンピューター画面の光や、高輝度なハロゲンランプが登場するはるか前の話です。つまり、無菌室ではないのです。

それは昔ながらの工房で、かつて仕事場の他の場所は暗く、煙が充満して健康に悪かったため、職人が窓のそばに座って作業していたそうです。

だから、ベッドシーツが必要でした。大きな光源になり、窓全体をカバーできます。シーツの後ろに設置したのは2台のSB-900ユニットですが、シーツに光が当たると1つの光源のように見えました。ライトを2台に増やしても出力が増えなかったので、光の量を増やしてバッテリーに少し負荷をかけました。シーツは均等に光を分散し、柔らかな光でシーン全体を照らし、窓の近くのものに過剰に反射することもありませんでした。ディテールを保ちながら、ハイライトチャートを外れるような明るい部分も出ませんでした。写真にもあえて少しシーツを入れました。通常は避けるべきことですが、注意を引くことはありません。窓の一部のように光を通し、常にかかっているカーテンのように見えます。

カメラの左には戸口があり、そこを通してi-TTL信号を送りました。SB-900のセンサーをドアに向け、この場面ではSU-800ではなくSB-800を起動に使用しました。フラッシュユニットをSUコマンダーから直線的な方向に置けない可能性があるため、SB-800の方が信号を放射するからです。信号の方向性が広がりました。信号はドアから出て、カメラから約1.5m~2.1mしか離れていない2つのフラッシュを発光させました。信号の放射(つまり指向性が低い)により、カメラ移動の自由度が高くなり、アングルを上下に調整できます。また、発光について心配せずに、部屋の奥まで進んで被写体に近づくことができます。

このようにすばやく作業を進め、良い光が得られたおかげで、何体かの重要なパペットを強調することができました。


※この記事は「ホットシューダイアリー」から抜粋しています。

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写真:ホットシューダイアリー

ホットシューダイアリー

世界的フォトジャーナリストにして「光の魔術師」のジョー・マクナリーがつづった「光」にまつわる撮影日記。本書の1/3は、1つのスピードライトだけで美しい写真を撮る方法について割かれており、そのほか複数のライトを組み合わせた方法についても詳しい解説がある。

発行:ピアソン桐原 3,465円・税込

写真:スケッチングライト

スケッチングライト

「今までもそうであったように、ライトはいつでも、どこでも、あらゆる写真家の言語であり続けます」と前書きにあるように、光で写真を自在に描くためのテクニックが詰まった1冊。1つか2つのスピードライトという最小限の機材で、最大限の効果を生み出す秘訣を披露する。

発行:ピアソン桐原 3,990円・税込

ジョー・マクナリー Joe Mcnally

タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY

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