光の魔術師ジョー・マクナリーの極意

廃墟のダンサー

解説:ジョー・マクナリー

img_joe_mcnally_bookcover.jpg
タイム、ライフ、ナショナル・ジオグラフィック等の雑誌で活躍する写真家ジョー・マクナリーは、光の魔術師とも呼ばれ、彼の撮影技法書は海外で人気が高いという。その日本語版「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」(発行:ピアソン桐原)の一部を、Shuffle読者のために特別公開する。

廃墟のダンサー

2008年に、Photo-World Manilaで講義を担当する話がありました。歴史的なコレヒドール島でライティングのワークショップを開催し、被写体としてダンサーを用意するというではないですか。断る理由はありません!

img_tech_mcnally04_01.jpg

私はD3、14-24mm、24-70mm、200mm F2を持参し、25人ほどの受講者、6人のダンサーと一緒にコレヒドールに赴きました。ライティング機材としては、SB-800フラッシュ4台、SU-800ワイヤレススピードライトコマンダー1台、グリップ器具をいくつか持っていきました。さて何をしようか?

ロケ地を探そう!

img_tech_mcnally04_02.jpg 心を引かれたのは、さまざまな形や色が混在した、将校用の宿舎の廃墟です。何枚か試し撮りをしてみます。しかし、D3の液晶モニターはとても見やすい。小さなハイビジョンテレビを持ち歩いているようです。とにかく、この場所が気に入ったので、ダンサーの1人をよさそうな場所に立たせてみます。さらに試し撮りをします。

(いつも言うように、現場ではとにかくシャッターを押すことが重要です。ポラロイドの不確かな画ではなく、液晶モニターで確実に結果を確認でき、手軽で正確です。フレームの雰囲気も正確に把握できます。ロケ地の選定も短時間で済みます。これは非常に重要なことです。ライティングの準備を始める前に、カメラでどのような写真を撮るのかを決めておく必要があります)。

img_tech_mcnally04_03.jpg 彼女の顔には手斧のような細長く光が当たっています。つまり、カメラのアングルからの光はなく、窓から入り込んだハイライトが両側から当たっているのです。可愛らしく繊細なバレリーナにはふさわしくありません。

そこでライティング機材をいくつか用意します。

写真のように、Cスタンドと3x6フィート(約90×180cm)のLastoliteパネルを縦に使用しました。2台のSB-800フラッシュを用意し、1台は高い位置に、もう1台は低い位置に配置します。上のフラッシュはグループA、下のフラッシュはグループBにします。2つのグループに分けたのは、発光出力の比率を独立して制御するためです。大量の環境光が床であらゆる方向に反射していたので、彼女には下から少し光を当てようと考えました。それで場の雰囲気を高まるはずです。それには、低い位置のフラッシュの出力を上げる(プラス補正)必要がありそうです。すべてのライトを同じグループで発光させると、すべて同じ出力でしか発光できません。グループを分けることで、各フラッシュを1/3段ずつ微調整でき、細かく調整できるようになります。

img_tech_mcnally04_04.jpg

「被写体と光源の距離を近づけることで、背景を制御しやすくなります」

img_tech_mcnally04_05.jpg 彼女を同じ位置に戻します。まだ足りません。つまり、撮影できる程度のわずかな光は確保しましたが、その光は全体に広がり、彼女のはるか後ろの壁にまで拡散してしまいました(右の写真)。光源が大きいとフェザリング、制御やグラデーションが難しくなります。さて、どうしますか?

img_tech_mcnally04_06.jpg 彼女を近づければいい!被写体と光源の距離を近づけることで、背景を制御しやすくなります。彼女が光に近づくことで、光の質が良くなり、ソフトになります。光が彼女の背後でドラマチックに落ち込むようになり、壁の彩度が上がって気にならなくなります。彼女に当たる光が多くなり、背後の壁に当たる光が少なくなります。

この位置では、彼女は壁からさらに離れています。通常、私は被写体を少しでも背景から遠ざけようとします。そうすれば、2つのゾーンを制御できるようになるからです。被写体が背景に張り付いていると、前からどんなライトを使っても光が壁に届いてしまいます。被写体を離すことで、前景、被写体、光から受ける影響で、背景の雰囲気や外観を変えることができるかをテストできます。できるだけ距離を保つことで、撮影がスムーズに進めることができます。

気になるのは、この日の最終ショットで、彼女のあごの下に小さなハイライトが残っていることです。時間をかけてフレームをクリーンアップするべきでしたが、私自身は5枚程度撮影して終了し、後は受講生がライティング機材を使う時間にしたのです。その中の1枚がのちの後悔の種になりました。私はカメラの露出計のようには考えられないという良い例です。そのハイライトを読み取って、それが写真に穴をあけることに気付くべきでした。


※この記事は「ホットシューダイアリー」から抜粋しています。

おすすめ商品・アイテム

写真:ホットシューダイアリー

ホットシューダイアリー

世界的フォトジャーナリストにして「光の魔術師」のジョー・マクナリーがつづった「光」にまつわる撮影日記。本書の1/3は、1つのスピードライトだけで美しい写真を撮る方法について割かれており、そのほか複数のライトを組み合わせた方法についても詳しい解説がある。

発行:ピアソン桐原 3,465円・税込

写真:スケッチングライト

スケッチングライト

「今までもそうであったように、ライトはいつでも、どこでも、あらゆる写真家の言語であり続けます」と前書きにあるように、光で写真を自在に描くためのテクニックが詰まった1冊。1つか2つのスピードライトという最小限の機材で、最大限の効果を生み出す秘訣を披露する。

発行:ピアソン桐原 3,990円・税込

ジョー・マクナリー Joe Mcnally

タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY

関連記事

powered by weblio