光の魔術師ジョー・マクナリーの極意

スカートを照らす太陽の光!

解説:ジョー・マクナリー

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タイム、ライフ、ナショナル・ジオグラフィック等の雑誌で活躍する写真家ジョー・マクナリーは、光の魔術師とも呼ばれ、彼の撮影技法書は海外で人気が高いという。その日本語版「ホットシューダイアリー」「スケッチングライト」(発行:ピアソン桐原)の一部を、Shuffle読者のために特別公開する。

スカートを照らす太陽の光!

時折、運に任せて試みてみると、うまく写真が撮れることがあります。しかし、そこにライトを置いてしまったとたん、成功のチャンスは皆無となってしまいました。お話にならないほど最初のフレームは実にシンプルです。液晶パネルをのぞき込み、まるで「coulda had a V8(V8野菜ジュースをどうぞ)」的な瞬間があります。もちろん、そこで何でも知っている風で、自信満々に頷き、静かに、「もう何枚か、これを撮ろうと思う」とつぶやいたりして、その場をとりつくろうとします。

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私は夜明け前、ベニスの広場にいました。歴史ある美しい場所がバックパック集団に占領されず、さまざまなアクセントと言語が入り乱れることのない唯一の時間です。太陽が昇り、光は水路できらきらと跳ねていましたが、まだ太陽の光の影があたりを支配している古代建築の素敵で美しい姿に感動していました。

シンプルに作業し、たった1つの小さいフラッシュを使ってシーンに影響を与えようとするとき、太陽の光の影は、一番の味方になります。高く強烈な太陽と競い合ってライトを強調する必要はありません。映画撮影用機材を載せたトラックを持ち込まなくても、抑えた色調によって、シーンの色の広がりに、効果的影響をもたらします。

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この設定は、先ほどお話ししたとおり、ものすごくシンプルです。私は、SB-900に付属している小さいプラスチック製フロアスタンドを使い、ライトにフルCTOウォーミングゲルを付け、ドームディフューザーを外し、フラッシュヘッドを200mmにズームして、光の拡散がかなり狭いままに維持されるようにして、広場の古びた石の上に置きました。ズーム機能は、ライトをダンサーに正確に照らすのを助け、床へ光があふれ出してしまうのを最小限にとどめます。広場のタイルはすり減っているので、光をピックアップし、かなりよく反射します。したがって、ライトが広くズームされ、あちこちに拡散してしまう場合、問題が起こります。ライトを狭くズームするということは、光を必要とするダンサーに光を送ることであり、床上ではっきりとわかる光の経路を最小化します。光の気配がうまく表されます。大きな吹き付けるようなハイライトは、適していません。実際にライトを床に置くとき、明らかに、床に強く光が当たることが常に懸念されます。ここではこの方法を採用する必要はありませんでしたが、ここで示すように、フラッシュヘッドのフロア側に装着したシンプルなガファーテープの切れ端が、カッターまたは遮光物としてうまく機能しています。

私はたまたま1人のバレリーナを一緒に連れて来ました。ダンサーたちに、私が撮影していたグループへの参加を提案したところ、彼らは快諾してくれました。ダンサーを夜明けのベネチア広場に連れていくということは、明らかに自分に有利なように事を運び、確実なものに取り組むものと言えます。フラッシュ撮影のポートレート用の被写体を探しているときには、良い考えです。それは確かに、面白い帽子をかぶった古代の酔っ払いが美しいハイライトによろめき入るシーンを求めて、通りをさまよい歩くよりも良いでしょう。(もちろん、あなたがストリートのフォトグラファーで、偶然の出来事を探しているわけではない場合です。それはまったく異なる任務です。)

ライトを狭くズームするということは、光を必要とするダンサーに光を送ることであり、床上ではっきりとわかる光の経路を最小化します。

連続する柱と望遠レンズとの相性は、最高です。レンズの遠近感はグレーの柱をうまく積み重ね、終わりがないかのようなグラフィックパターンを生み出し、その中にチュチュをまとったダンサーを配置します。ライトはカメラの左側の、柱の外側にあります。見通し遠隔TTL (LOS)が完全に機能しなくなる感じがするかもしれません。PocketWizardとマニュアル制御の出番です!

確かに、無線がうまくいかないということがなければ、それは有効で実行可能な手法で、ほぼ確実に結果は得られます。しかし、普通、皆、決して実行しません。そうですよね?(ここでニヤリ。)今回は無線を持っていませんでしたから、その選択肢は消えました。私が実行したことは、TTLを見通し遠隔技術に頼ることでした。私は3本のSC029コードをつなげて、コマンダーSU-800をカメラのホットシューに連結しました。言い換えれば、配線です。何重にも巻かれたコードであれば、コマンダーフラッシュをカメラの視線からかなり離れた距離まで伸ばすことができます。我々のグループの1人に、マスターフラッシュから約15~18メートル(50~60フィート)離れたデッキ上に置いてあるメインライトが見えるところまで、カメラの左からまっすぐ出て、コマンダーを伸ばすように頼みました。その距離と落ち着いた周囲光の質の中ではトリガーは正常に動作しました。

2つの装置ですが、露光のための唯一のフラッシュです。カメラの左6メートル(20フィート)にあるハンドヘルドのコマンダーSU-800と、被写体の左にある、地面上に設置された1つのリモートSB-900が、石の柱の間で発光します。光の変調もスタンドもありません。それだけです。それが基本的な物理的なセットアップです。前述のとおり、シンプルです。この写真のキーポイントは、ライトの配置や色ではありません(重要ではあります)。彼女のスポットライトとしてSB-900を使い、露出の豊かさを維持すること、それによって劇場のように美しいシーンをバレリーナのステージにすることが、すべてでした。

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最新式のデジタルカメラのほとんどが、このような景色を見るとき、基本的にそこにあるすべてのものに対し露出しようとして過剰反応し、影の中にまで到達して、必ずしも見たいわけではない画素を表現してしまいます。デジタルカメラが、誤りを犯したり、何か悪いことをするわけではありません。ただ、製造したエンジニアの魂をただ表現するだけです。勤勉であり、最新のとてもかしこいカメラです。撮影者が望む限り、デジタルカメラは懸命に働き、フレーム全体を細部まで表現します。古い言い回しですが、「眠っている影に欺かせる」ことには精通していません。雰囲気や繊細さを知りません。そこにあるものの後を追い、露出的に注意を引くようにスナップ写真を撮ろうとします。

しかし、このシーンは、実際には露出する必要はありません。ただ、そこにあればいいのです。ここで期待する結果は、古い石のように色あせてすり切れたように見えることです。静かで、できることならバックグラウンドミュージックのように。一方で、ショッキングピンクの衣装を着た、生き生きとしたダンサーがクライマックスを演出します。

したがって、この写真のテクニカルな面としては、カメラで絞り優先モードを使って、-2 EVになるようにします。それら2段階の露出不足の絞りが、正確な色調を与えてくれます。撮影者である私のためです。カメラのためではありません。カメラは知りません。ここでカメラに指示を与え、もしカメラが話すことができるとすれば、私に議論をふっかけ始めるところまで詰めなければなりません。「本当にそれをしたいのですか?」はい。そのシーンの色調を抑えた感じにしたかったのです。こうすることによって、使える光を適正にする伝統的な原理に従ってから、フラッシュをいじります。

そして、この例では、見通し遠隔TTLのメカニズムを介して、カメラで結果を見て、コマンダー装置を保持するVALに、適切な調整を要求することによって、フラッシュをかなり簡単に操ることができます。この特別なフラッシュ露出は、フラッシュでの0.0補正とともに、カメラで-2 EVによってすでに和らげられているという事実から、比較的均一な結果になります。このようにする利点は、調整のためにライトのところまで何度も行く必要がないことです。ワイヤレス技術を使って、効果的にカメラからライトに信号を送って、命令を実行できます。常にうまくいくわけではありませんが、それができれば、やった! となります。写真家としての生活が楽になるという、私が大賛成することです。

70~200mmレンズは130mmに設定され、手持ちで、シャッタースピード1/40秒で、F7.1の露出にしています。それは、少しの被写界深度を生み、レンズを手持ちできるようにする、合理的な組み合わせに思われました。ところで、これらの数字にはマジックはありません。私は、F7.1を考える状況には絶対に立ち入りません。このようなF値は、私にとっては異質な設定です。かつては基本的に、強の5.6または弱の8と言われていました。絞り優先で作動させるとき、私は、カメラに話をさせ、F値と中間的なシャッタースピードに関して、細かいことにこだわるようなことをします。私の主要な関心事は、画像をシャープにして、少し深度を維持することでした。これらの数字が特別である唯一の理由は、この特定の時間にこの特定のシーンに対してうまくいくからです。

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いつもと同じように、私は、もう少し撮りたかったのですが、最終結果には十分満足しています。ご覧頂いておわかりのように、ここで天才は、彼女の裏側に照明を当てることに関しては考え始めていませんでした。私たちは、いつくかのかなりクラシックなダンスのポーズで撮影を開始しましたが、私は柱と彼女の相対的位置が気に入りませんでした。うまくいってはいたのですが、私は彼女にもう少しいい指示を出し、ライトの位置を変えようと、歩み寄ろうとしていました。そのとき、彼女に体をストレッチさせて、トゥシューズを直すポーズをとってもらうことを思いつきました。

私にとって、この動作は、常に感動的で、ちょっと変わった美しさがあります。バレリーナが、クラシックでシャープなチュチュを着ているとき、彼女は少し、水面をダイブするあひるのように見えます。チュチュの後ろ端は、扇のように上方向へピンとのび、材料によっては、光を良く捕らえます。ここで、全体的な形は道路を覆うアーチに似ており、それは良い効果を生んでいます。

私がこれを計画していたと言うと、うそになります。ロケでは、カメラを手に、いくつかのフレームを撮ると、F7.1のようなことが起こります。偶然に。


※この記事は「スケッチングライト」から抜粋しています。

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ジョー・マクナリー Joe Mcnally

タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィック、ライフなど世界的に著名な雑誌で活躍するフォトグラファー。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
・インタビュー ニコンイメージングジャパン 世界の写真家たち Vol.08
・公式サイト JOE MCNALLY PHOTOGRAPHY

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