Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-

第9回 Photo Worksとして水面の煌めきを撮る

解説・撮影:南雲暁彦

今回は、まるで海の浅瀬に映し出されたような水面の煌めきを再現したライティングをスタジオで作り出し、作品を撮影してみた。

img_products_still_life09_01.jpg 1/250s f5.6 ISO800
撮影協力:中島孟世(THS)
スタイリング:鈴木俊哉(BOOK.INC)
ロゴデザイン:井元友香(凸版印刷) ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

まるで海の浅瀬に映し出された水面の煌めきのような光を利用した写真や映像、水の揺らぎを投影する装置などを見かけることがある。美しいビーチやプールでもこういうシーンを見つけるとつい見惚れてしまうのは私だけではないだろう。この水、風、光という自然が作り出す情景は率直に「綺麗だ」と感じるシーンの代表格ではないだろうか。また、水面の煌めきに癒される効果があることは、実際に照明器具に利用されリビングや寝室に持ち込まれていることが証明している。

今回はこの水面の煌めきを再現したライティングをスタジオで作り出し、作品を制作するのが目的だ。この作品、富士フイルムの広告として使用されることとなった。この連載は常に広告作品を意識して作品を撮影しているが、実際の広告になるという光栄を得たことを嬉しく思う。

実際に使われた広告ページ

ライティング図

img_products_still_life09_02.jpg 【使用機材】
カメラ&レンズ(富士フイルム)
 GFX 50R…[1]
 GF120mmF4 R LM OIS WR Macro…[2]

ライト(東芝エルティーエンジニアリング)
 Qスポットライト 500W…[3]

プロジェクター(ミノルタ)
 MINI-35…[4]


撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。前出のライティング図と合わせて見ていこう。

1. セットを組む

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基本的に水面の揺らぎに上から光を当てて煌めきを作り、そこを透過した光をメイン光源にするというのがこのライティングの基本である。水面の揺らぎが無数のレンズの働きをし、プロジェクターのようにその模様を映し出す。まずは被写体をカバーする大きさのアクリル水槽を用意し、サイコロで浮かして水を張る。

img_products_still_life09_04.jpg 仮組みした状態のセット

カメラは水面越しではなく砂を敷いたバック板に映った揺らぎを直接撮影するため斜め上部から。バック板と被写体はプールの真下ではなく少し手前に置いてカメラから直接見えるようにする。水面越しで覗くと被写体の歪みが大きく、何が写っているかわからなくなる。今回の視点としては水中で貝を見つけた、といった感じだ。煌めきは微調整が難しく、見えている光をそのまま撮影できるようにライトは定常光が好ましい。今回は5Kのタングステンスポットを使用した。


2. 水面に波を立てて煌めきを作る

img_products_still_life09_05.jpg

まず小型の送風機を用意し、常に水面が波立っている状態を作るのだが、これは一筋縄ではいかず、水面との距離や角度、風量を調整しながら波の大きさや波紋の広がり方を見極めていく。様々な方向から風を当ててみたがここで作る波がこの後の作品の出来栄えに大きく関わっていくので後悔しないように上下左右、色々と試し、方向を慎重に決めてからファンを固定。左上を波紋の中心とした煌めきを作ることにした。

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小型送風機によって断続的に波を立てることができる

一定の角度から風を当て続けると同じ周波数の波紋が出続けてくれるのでこれをベースとする。ただしこれだけだと機械的な連続性を帯びてしまうので、それをブレイクする一陣の風をブロワーで一発入れてみることにする。これも色々とやり方を練習し、大体の感じを掴んでおくのだが、流石に毎回同じようにはいかないことは想像に硬い。おそらくこのひと吹きがシャッターのタイミングと相まって良いカットが撮れるまで散々粘る原因となるだろう。この手の撮影の楽しみとして予測不可能な部分も残しつつ、これで一旦セットを固定。

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水槽に張った水に風を吹き付ける


3. ライトの位置と被写体の距離を探る

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水面に作った煌めきをしっかりと被写体に映すために、水槽とバック板の距離を微調整してベストの光を探る。これがなかなか難しい。まず被写体が小さいため、かなり小さな波紋が必要で、またハッキリと撮影するのにコントラストの高い状態にする必要がある。

img_products_still_life09_09.jpg 水面の煌めきは少しの調整で表情を変える

相当高周波な波を作ったつもりだったが、小さな貝にトーンを付けるには最後の微調整が必要だ。煌めきのコントラストを上げようとしてバック板をプールに寄せていくのはNGで、これはプリントでいうベタ焼きに近くなっていき、最後には被写体を入れる隙間が無くなることになる。あくまで波立った水面のレンズが結像するポイントを探るのだ。ベースの波の大きさを固定するのは、ここが毎回違うと場所を探せないからなのだ。


4. 波のパターンを比較する

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小型送風機を固定し、ベースにする波は決めているが、電源を入れた吹き始め、最大風量状態、電源オフで波が静まるまで、というシークエンスでもかなり表情が変わり、さらにブロワーによる一吹きでかなりのバリエーションが(半分神の手によって)生まれる。コツを掴むまで何度でもやる。

私は右手にブロワー、左手にレリーズ。掛け声で小型送風機の電源をON・OFFするアシスタント、撮れたデータを確認するオペレーターの3人で餅をつくように「電源ON、吹いては撮る」を繰り返す。面白いので何度でもやるのだが、そのうちに目が肥えてきて、何がかっこいい煌めきなのかがわかってくる。やはり水面とはいえ機械的に生まれる波紋は味気なく、そこに一陣の風が与える偶然が加味された水景は写真に人を惹きつけるも魅力をも与える。要するに、納得いくまで何度も何度もシャッターを切る類の撮影である。それでも次第に方向性は定まっていき、最終的に納得のいく1枚が生まれるものなのだ。ブツ撮りでもシャッターチャンスのある撮影はやはり面白い。

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風を当てる強さやタイミング、ブロワーによる変化を何度もシュミレーションする

Tips

この撮影には隠し味を効かせている。このライティングは画面自体が単一的な色やトーンになりがちで、目が慣れてしまうとそういう部分が目についてしまう。そこで被写体にポジフィルムを投影し、アクセントライトとすることでビジュアルに厚みを出しているのだ。今回は水中のイメージを強調するために、青みのあるポジフィルムを選択。所々に入る黄色っぽい絵柄でさらにニュアンスを付けている。

プロジェクター:ミノルタ「MINI-35」
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img_products_still_life09_15.jpgプロジェクターでアクセントをプラスした


カメラは前々回に使用し、中判フォーマットカメラの実力をまざまざと感じさせられた富士フイルムの中判フォーマットの最新モデルGFX 50Rを使用。相変わらず階調がリッチな絵に仕上げてくれるが、何よりEVF装着時のGFX 50Sに比べて150gほど軽くなっているのは大きい。ブツ撮りでは時として三脚ではなく、ブームの先にカメラを固定するなど色んな方法を用いてアングルを作らなければならないため、この少しの軽量化が嬉しい限りだ。

カメラ:富士フイルム「GFX 50R」
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バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

img_products_still_life09_17.jpg1/60s f6.4 ISO800  ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

メインカットでは海の中の神秘的な瞬間をイメージしたが、バリエーションカットでは全く趣向を変え、水中と親和性の無いエアプランツを被写体にした。

撮影のセットはメインカットと全く同じ。波の作り方とプロジェクションしているポジフィルムをグリーンが強めの物に変えての撮影である(ガウディのカサ・ミラの夜景のポジだ)。

風はブロアーのみにして、波紋作りをコントローラブルに。画像外右下のあたりが波紋の中心になるように一拭き、少しずつ角度や強さを変えて何度もトライし、エアプランツのフォルムに合わせた流れの光を作ることに挑戦。

水槽のエッジに当たって返ってきた波に新しい波をぶつけて幾重にも重なった鱗のような光を生み出すことに成功した(と思っている)。水と風と光を司り時間で切り取る、神様気分を味わえる撮影なのであった。




※この記事はコマーシャル・フォト2019年2月号から転載しています。


南雲暁彦 Akihiko Nagumo

1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷(株)TICフォトクリエイティブ部 チーフフォトグラファー。「匠」エキスパートクリエイター。コマーシャルフォトを中心に映像制作、執筆、セミナー講師なども行う。海外ロケを得意とし、世界300以上の都市で撮影実績を持つ。APA広告年鑑、全国カタログ・ポスター展グランプリなど国内外で受賞歴多数。APA会員。知的財産管理技能士。長岡造形大学非常勤講師。

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