一眼ムービーで学ぶスチルライティング

第3回 3灯で球体をライティングする

解説:茂手木秀行

今回は、3灯に灯数を増やしてのライティングに挑戦。光の当たり方によって球体の印象が変わる様子を体感しよう。さらに露出計の使い方を改めて解説する。

輪郭を作るための半逆光を入れる

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前回は2灯でのライティングを学んだ。2灯をカメラ正面側に配置するとディテール感よく球体を表現できた。次に、2灯のうちの1灯を球体後方に配置し、球体の輪郭を描くようにすると円である印象が強くなることがわかったが、この時補助光源がなくなってしまうため、正円でなく半円に見えてしまった。

そこで、今回は3灯に灯数を増やし、カメラ側に2灯を配置して立体感とディテールを出し、1灯を球体後方に配置し輪郭を出すようにした。詳細は後述するが、球体の輪郭のどの部分を強調するかによって印象が違う。球体を表現する中での正解はあるものの、その印象の違いそれぞれが表現であることがわかる。何がしかの心象を写真で表現する時、ライティングによってその心象を強調できるということもこの小さな実験から体感することができる。この記事を読んでいる皆さんも、ぜひご自身でもライティング実験を行なってほしい。

さらに今回は露出計の使い方をおさらいしてみたい。露出計は受光球の扱い方がポイントだ。被写体への光の当たり方と受光球への光の当たり方を同じようにするのが基本だが、かなりノウハウと経験が必要になるので、ただ光を受けるのではなく、受光球への光の当たり方が、被写体への光の当たり方と同じになるように常に意識して、使い方を体得していこう。

今回のセッティング

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2灯は前回と同様、球の前側に配置した。カメラから見て左側をメイン光源として、球から45度右、上方30度弱に配置。もう1灯は補助光として球から見て左45度、下方約10度に配置した。光量比は1:4を基本とした。3灯目は球の後方に配置し、適宜場所を動かして球体の表現を見ることが今回の目的である。

3灯目の光源を連続的に動かして、それをカメラのムービー機能で記録することによって、球体の印象の変化を見ていくのである。どの場所に動かしたかは、声に出して記録しておくと後の参考にしやすいので、必ず音声も録音しておく。

ムービーでチェックするのは輪郭を出すための補助光2の位置とその結果だ。半逆光、トップ光と位置を変化させ、その際の球体の印象の変化を覚えよう。

ムービーでチェック

露光比と露光量の計り方のおさらい

ライトの数が増えると露光の計り方は煩雑になるように思えるが、基本的な流れは1灯ずつ各光源の光量比を計り決定してから、全ての光源を点灯して全体の露光を計る。このとき、光量比を計るのには平面受光板を用い、全体の露光を計る時には受光球を使うことが基本だ。もう一度第1回、1灯の計り方をおさらいしてみよう。

1灯ずつの光量の計り方(平面受光板を使用)
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セコニックL-478Dでは、受光球を収納した状態が平面受光板と同じ役割をはたす。被写体中心とライト光軸を結んだ線上に平面受光板を直交させて配置して測定する。これを各灯に対して行ない、露光比を決定する。
全体の露光量の計り方(受光球を使用)
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露光量はカメラ向けで計るが、1灯の場合、光源とカメラの間に受光球中心を向ける。その際、カメラから見て、受光球への光の当たり方が球への光の当たり方と同じになるように注意する。

多灯ライティングの際の露光量の計り方

1灯で45度方向からライティングした場合、シャドウ側は露光量に寄与しないため、受光球を光軸と球中心の間においたが、レフ板など環境光がある場合や2灯以上で球を照明する場合は、カメラ光軸上に受光球を置き、受光球頂点を光軸に向けることが基本だ。この時、受光球への光の当たり方と球への光の当たり方は一致している。

しかし2灯であっても、補助光源とメイン光源の光量比が1:16よりも大きく(補助光がより暗くなる)なってくると補助光としての効果が薄くなるので、ややメイン光源側に向けた計り方をする。こうした場合は球体全体ではなく、マクロなディテールへの光の当たり方を意識するためだ。(光量比については、この記事の最後のコラムを参照してほしい)

また、この講座のような照射範囲の狭いスポット光や表面のディテールがなめらかな光沢面、平面物を撮影する場合は、平面受光板を用いる方が正確な露光量となる場合も多いので、どちらを使うかは柔軟に考えてよい。いずれにせよ、平面受光板あるいは受光球を被写体の面の一部と捉え、被写体への光の当たり方をシミュレーションするのである。

2灯の露光量の計り方
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2灯で照明した場合は受光球頂点をカメラに正対させる。受光球は半球であるが、被写体である球体も見かけ上は同じく半球であるため、受光球への光の当たり方は球への光の当たり方と同一である。この時、補助光はメイン光側にも当たっていて、メイン光側に光量が加算されていることに注意が必要である。本稿のようにスポット光を使用している場合は、受光球の大きさと位置によって、メイン光へ加算された補助光の効果が十分にシミュレーションできない場合がある。そのような場合は平面受光板を使った方が正確な露光量となる場合もある。

3灯の露光量の計り方(1灯は半逆光)
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3灯のうち、1灯を半逆光とした場合。2灯は同じくカメラ側なので、カメラに受光球頂点を向ける。この時半逆光である補助光源2からの光は輪郭に当たっているので、正面の露光量には寄与しない。よって、2灯を計るときと同じでよい。しかし、場合によっては受光球の一部に補助光源2の光が当たるので、その場合は手やボードで後方からの光をカットするか、補助光源2を消灯しておく。

次に、補助光源2による輪郭の露光量を計る。補助光源2はメイン光源と照射する位置を共有しているため、メイン光源を含み、かつカメラから見える位置で計る(図左後方の受光球)。しかし、半逆光は物体に対して全反射となる位置であるので、物体の表面性状に大きく左右されるため、入射光式露出計では正確な露光量は測定しにくい。しかし、経験値は得ることはできるので、物体表面によって露出がどう変わるかを覚えよう。

半逆光、トップ光など補助光位置による印象の変化

補助光1は正面側であり、メイン光源と1:4の光量比である。それに対して、球の背後に補助光源2をおき、位置を変化させた。ムービーを見直しながら球体の印象を考えてみよう。

補助光源を右後ろに置いたとき
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img_tech_stilllight03_10.jpg ①補助光源2を右後ろ下方に置いた。表面の反射位置が直線に揃うが、光源がいくつかの方向であることが見て取れる。下方の輪郭が明るいため、球体に動きがあるように感じられる。
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img_tech_stilllight03_11.jpg ②補助光源2を右後ろ上方に置いた。光の方向性が散発的な印象となり、落ち着かない。あるいは賑やかな印象となった。輪郭は強調されているので、正円であり球体であることはわかる。
補助光源を真上に置いたとき
img_tech_stilllight03_12.jpg img_tech_stilllight03_yajiu.gif
img_tech_stilllight03_13.jpg ③補助光源2をほぼ球体の真上に置いた。メイン光源の方向性を感じつつ一部が明るくなったので、明るくなった部分を天であると強く意識させられる。結果、落ち着いた画面構成に見える。
照明された被写体を見る時、人間の意識はまず明るいところに向くとともに、もっとも明るい方向を上であるように意識する傾向がある。それゆえ①では明るい方向が2つあることで動きがあるように見え、②ではその方向が散逸し、賑やかになり、③では天空を意識し、落ち着いた画面に見える。これらの見え方の違いは善し悪しではなく、表現の違いであり現実の写真の中で無意識に使われている。①、②では夜景や舞台に立たせたポートレート、③では、背景を整理したポートレートに落ち着きを与える時などだ。無意識ではなく意識して活用しよう。
補助光源を左後ろに置いたとき
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img_tech_stilllight03_15.jpg ④補助光源2を左後ろ上方に置いた。すると意識としての光の方向性が揃い、左方から広く照射される1灯によって照明されたように見え、静かに落ち着いた印象になった。
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img_tech_stilllight03_16.jpg ⑤補助光源2は④の位置のまま、補助光源1を球体から離して光量を下げ、メイン光源に対して1:8の光量比とした。球体に適度な明暗差ができ、ディテールよく重厚な立体感を表現できた。

光源の光量比について

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メイン光源がf11の時、補助光源がf8であれば光量比は1:2もしくは1:1/2である。セコニックL478-Dでは照度の表示(単位lx)ができるので、直接被写体を照らす光源の明るさを計ることもできる。メイン光源の照度を光量比で除算すればよい。例えばf11の時、照度は10000lxである。光量比1:2とするには、10000÷2=5000lxで、補助光源を5000lxにすればよい。1:4とするなら2500lxである。ただし、表示値は端数が表示されていないため、数値が合わない場合がある。その場合は近似値で考えればよい。


  光量比と各光量比における絞り値
メイン光源の絞り値 1:1 1:2
(1:1/2)
1:4
(1:1/4)
1:8
(1:1/4)
1:16
(1:1/16)
1:32
(1:1/32)
補助光源の絞り値
f16 f16 f11 f8 f5.6 f4 f2.8
f11 f11 f8 f5.6 f4 f2.8 f2
f8 f8 f5.6 f4 f2.8 f2 f1.4
f5.6 f5.6 f4 f2.8 f2 f1.4 f1.0

写真:茂手木秀行

茂手木秀行 Hideyuki Motegi

1962年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、出版社マガジンハウス入社。雑誌「クロワッサン」「ターザン」「ポパイ」「ブルータス」の撮影を担当。2010年フリーランスとなる。1990年頃よりデジタル加工を始め、1997年頃からは撮影もデジタル化。デジタルフォトの黎明期を過ごす。2004年/2008年雑誌写真記者会優秀賞。レタッチ、プリントに造詣が深く、著書に「Photoshop Camera Raw レタッチワークフロー」、「美しいプリントを作るための教科書」がある。

個展
05年「トーキョー湾岸」
07年「Scenic Miles 道の行方」
08年「RM California」
09年「海に名前をつけるとき」
10年「海に名前をつけるとき D」「沈まぬ空に眠るとき」
12年「空のかけら」
14年「美しいプリントを作るための教科書〜オリジナルプリント展」
17年「星天航路」

デジカメWatch インタビュー記事
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/culture/photographer/

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