2021年11月30日
何もない宇宙の始まり
創造主ゼウスのように
光を操って宇宙を 創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界 楽しい夢

高井哲朗が主催する「ゼウスクラブ」。今日は「フランスコメルシー公認 マドレーヌ大使」の肩書きを持つ壁谷玲子さんのマドレーヌを撮影することとなった。まずは、日頃の仕事でも食品関係の撮影が多いと言うフォトグラファー永井啓介さんによるベーシックなテーブルトップ撮影。続いて、ゼウス:高井哲朗によるドライアイスを使ったイメージフォト。季節柄、クリスマスカードにもなりそうな写真を。
「自分自身が食べたいって思えること」
永井くんさぁ フリーになってから
ずいぶん 経つよね
作品も揃えて 仕事も順調だね
食べ物関係も多いんだっけ
今日は マドレーヌの撮影だから 見本、見せてよ
食べ物関係は だいたい 作っている現場 お店などで撮るよね
今日はスタジオだけど
――そうですね
自然光で窓際の柔らかい光で 撮ったりもしますけど
ストロボ 持ち込んでの撮影も よくしますよ
まず全体に光を回しますね
メインライトは 傘バンかボックスライト
柔らかく 綺麗な光を作り
重く見える影は できるだけなくします
それから 美味しそうに見えるように
色を再現するための アクセントライトで 演出します
ピントは ほんわりと
柔らかにするために開放気味にして 周りをぼかしていきます
いちばん に 考えること
それは 自分自身が 食べたいって 思えること
そこに気持ち 持っていくことですね
へー それって
シズル感 撮ることの 基本だよね
頑張っているんだ
仕事撮影をすること
それが いちばん 撮影が上達することなんだね
Ph.1 / 2 / 3のセット

ライト:❶❷ broncolor Pulso G Head+Softbox 60×60
Canon EOS 5D Mark II/レンズ:EF100mm F2.8L Macro IS USM/1/125秒 f6.3 ISO100

バンクライト(ソフトボックス)❶の前にディフューザー(アートレ)を入れた柔らかい光がメインライト。斜め後ろからの半逆光ライティングはフードフォトの基本。

被写体の右手前にレフを立ててシャドーを起こす。

Photo:永井啓介
ライト❷を入れて、マドレーヌの色味、全体の明るさを調整して完成。
ちなみにカップの中の紅茶は、光が入らないと色が濃く写るので、薄めに淹れてちょうど良い濃さに見えるようにしている。フードフォトのちょっとしたテクニック。
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「プルーストのマドレーヌ」
秋が ストンと きた
紅茶 マドレーヌ 素敵な 秋の憩い
マルセル プルースト「失われた時を求めて」の一節
「私は(中略)、なにげなく
紅茶を一さじすくって唇に運んだが、
そのなかに柔らかくなったひとかけらのマドレーヌがまじっていた。
ところがお菓子のかけらのまじったひと口が口蓋にふれたとたん、
私は身震いし、内部で尋常ならざることが
おこっているのに気づいた。」
それは 不思議な幸福感 幸せな記憶が次々と蘇る
味覚と嗅覚が 記憶を呼び覚ます
フランスコメルシー公認のマドレーヌ大使 壁谷玲子さんは
そんな物語を語りながら 焼き菓子を 渡してくれた
あたたかで やさしくて しあわせな 貝殻型のマドレーヌ
バター 卵 砂糖 小麦粉 レモン果皮 シンプルな材料
それと たっぷりの愛
口に頬張れば ほっとする
やさしい気持ちになれるおいしさ 口溶けは うっとり
知性によってなされる 意志的記憶
でも 無意志的記憶 って
いうのは さ 形のない思想の助け
ある匂い ある陽射し ある味覚
触覚などの 何気ない些細な感覚に触れた 瞬間
突如として 忘却の淵から
素晴らしい 幸福感を伴い
蘇ってくる 過去の映像
そんな プルーストの創造的感想論など
ややこしい話に持ち込む 僕に 身体的快感を 押し込む
文学なんて 楽しい快感が あれば それでいいのよ
おいしさ を 求める
それが 人生の 幸せな快感なの
なんて ね
写真は 記録? 記憶? 身体的快感幻想?
シズル感 を 表現してみようよ
長い夜が はじまる
長い小説も 読めるかもね

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ドライアイス+レーザーライト
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Ph.4・5のセット

被写体の周囲は、ブロック(アクリルキューブを黒いパーマセルテープで覆ったもの)と黒ボードで囲んだプールを作る。Ph.5はそこにドライアイスの「けむり」(水煙)を注ぎ、レーザーポインターで光線を入れて撮影。
定常光のレーザーポインターの光線の色、「けむり」のモヤっとした感じを出すために、シャッター速度は1/4秒に設定。
ライト:❶broncolor Boxlite 40/❷broncolor Pulso Spot 4+Optical snoot
カメラ:Canon EOS 5D Mark II/レンズ:EF100mm F2.8L Macro IS USM/1/4秒 f8 ISO100
ライティングの組み立て

ライト❶ モデリングオフ。ストロボ光だけだとかなり暗い。

ライト❶ モデリングオン。シャッター速度1/4秒。
長時間露光の場合、通常はストロボのモデリングライトをオフにするが、今回はモデリングをオンにして、モデリングの光を被らせて明るさを適性にし、さらに暖色系のトーンにする。

カラーフィルターを仕込んだスポットライト❷。

ライト❶+❷。ライティング完成。

メインライト❶。小型のボックスライトなので、テーブルの上に置き、やや傾けてライト面が被写体を覆うようにセット。

スポットライト❷。虹色のフィルターを仕込み、ポールで吊るしたガラス製の星を中心に、カラースポットを入れる。
ドライアイスとレーザーの演出

ピッチャーに入れたドライアイスにお湯をかけてできた「けむり」(水煙)だけを、ブロックで囲んだプールに流し込む。ドライアイスの「けむり」は比重が重いので、底にたまっていく。

レーザーポインターは手持ちでランダムに照射。スタジオに来ていた永井さん、壁谷さんたちにも協力してもらう。

「けむり」(水煙)の粒子に光があたることで、レーザーの軌跡が見えるようになる。瞬間光のストロボと定常光のミックスになるため、1/4秒の長時間露光で撮影をする。
マドレーヌ制作:壁谷玲子
Web:www.madeleinejapon.com/
Instagram:madeleine_princesse/
blog:ameblo.jp/reiko-kabeya/
撮影(Ph.1〜3):永井啓介
Web:keisk.jp/
本文中の引用:プルースト作 吉川一義訳 「失われた時を求めて」(岩波文庫)
第1篇「スワン家のほうへ 1」より。

高井哲朗 たかい・てつろう
1978年 フリーとして活動開始。1986年高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
※この記事はコマーシャル・フォト2021年12月号から転載しています。
- 第12話「江藤くんが高そうなバッグを持ってスタジオに遊びに来た」
- 第11話「龍之介くんが二十歳の記念に買った革ジャンが本日のお題」
- 第10話「ナカムラさん、チョコレートをもらったから、撮ってみよう」
- 第9話「うさだだぬき こと 稲田大樹さんの写真集を写真する」
- 第8話「永井くん、マドレーヌの撮影だからフード撮影の基本を見せてよ」
- 第7話「緒方くん 今日はミネラルウォーターを撮るよ」
- 第6話「まりちゃん 今日は靴を撮るって言ってたよね」
- 第5話「みやこさん、コップと水だけで『しゃしん』してみてよ」
- 第4話「怜くん、光沢のある被写体は乳白アクリルのグラデを映し込むんだ」
- 第3話「朗くんは、スタジオで花を撮ったことがある?」
- 第2話「BOTCHANという名前の化粧水 桜子さんなら、どう撮る?」
- 第1話「いとちゃん、今日はカットグラスを撮ってみよう」