2022年04月05日
何もない宇宙の始まり
創造主ゼウスのように
光を操って宇宙を 創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界 楽しい夢

大阪から若手フォトグラファー江頭佳祐くんが遊びに来た。彼は普段、屋外のポートレイト撮影がメインだけど、高級バッグを借りて来たので、今日はこれをテーマにスタジオスチルライフの勉強会。まずはシンプルな正面からの製品写真。そしてスタジオに「春の庭」を作って、広告イメージカット。スタジオスチルライフはセットを組むことから始まる。
「スチルライフは撮影セット、
組むことからだよ」
佳祐が来た
新幹線が 雪で遅れた
などと 言いながら 来た
ところでさぁ “どう撮るかって” 聞いたんだけど さ
なんと “なんも” だって
大切な バッグ 借りて来たんだけど
触るの 怖くて よく見てないんだと
まったく もう だな
だいたい 写真 撮るときゃ
どんな 撮影セットに するのか
考えて来るもんだろう
撮影台の 作り方も わかんないだと
まったくもって 困ったもんだ
と 言っても
スタジオのアシスタント 経験してないと
どうも 何をどうしていいのやら
本当に わからないらしい
屋外で 人物撮影してるから
スタジオ撮影は 未知の世界 なのか
コマ・フォト
よく 読んで 研究しろってんだな
つー ことで 撮影台セット 組みました
佳祐 どうするかだ やってみてくれい
メインライト だけでも撮れるよ
スチルライフは
撮影セット 組むことからだよ
頑張って やってみよう
自分のオリジナリティ 出そう
という 気持ちは わかるけど
まず 物を よく見て 形 質感 魅力的なこと
しっかり 把握することだね
それが 商品写真の 基本だからね
Ph.1 / 2 / 3のセット

ライト:❶ broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70+Honeycomb grid/❷broncolor Boxlite40/❸broncolor Pulso G Head+Softbox 60 x 60
カメラ:FJIFILM GFX100/レンズ:GF45-100mmF4 R LM OIS WR /1/125秒 f11 ISO100

Ph.1
メインライト❶。左斜め上からグリッド付きリフレクターで明暗=光の方向を作る。

Ph.2
ボックスライト❷を真上から照射。被写体全体を均一に明るくする。フィルインライトの役割。

Ph.3 完成
背景はアクリルボードに60×60cmのバンクライト❸をぴったりとつけて、ムラのないハイライトバック(白飛ばしの背景)にした。撮影したカットの背景の明るさはRGB値250〜254くらい。

背景はアクリルボードにバンクライトをぴったりとつけて、ムラのないハイライトバックを作る。

自分の中に 幸せな 物語を作ること
写真は 自分自身が 写ってしまうからね
カタログ写真は 説明が 重要で
基本的な光を 構築すること
で イメージ写真は どうするか って ことだけどね
撮影方法は いろいろだけど
僕は どういう場面に 商品を置くか を 考える
今回は 春の やわらかな 光を作り
幸せな シーンを 思い描くように 撮影セットを 組む
若草のような 薄いグリーン アクリルと布で 背景を作り
直射光で 光の影を作っていく
春の霞のように レンズ前に 滲みを 作る
自分の中に 幸せな 物語を作ることだ
写真は 自分自身が 写ってしまうからね
気持ちいい イメージ 常に ポジティブシンキング
それは こんなこと
マーガレット チューリップ
かわいい 花が あちら こちら 揺れる 若葉の影
風は あたたかで こころ うきたつ
遠くに 子供たちが きゃー って 走ってる
ふたり並んで そんなの ながめてた
スカートの花柄から くっつくように 隣に よりそって
大切そうに 黄色のバッグ 僕の プレゼント
春の日の あたたかさは ほんわり 緩やかな 土手に寝転んで
夢見たころの ここちよい 幸せな 時間の中に 漂って いるような
うつくしい その 曲線は なやましくも こころ わきたつ も
春の日は ぼんやりと 夢ごこち やさしい 光のなか
詩人 まど・みちお さんの ように つぶやく
イヌ
ワンフォフォ ハト
ポッポン
テントウムシ
タンポンタン チョウチョウ
ポポポポ
マーガレット
マンマンネ チューリップ
チッチ チュー
ひそかに チュー やわらか
いつも 幸せの 陽だまり残しておきたいもの
それは ここちよい記憶生きている よろこび
スチルライフ
あたたかな 春 夢 まどろみ
そんなこと 考える ひとときの 幸せを
写真は 愛

Ph.4
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写真:高井哲朗
Ph.4のセット

ベアバルブのライト❶は太陽を模して高い位置にセット。
アクリルボード後ろからライト❷、アクリルボード下からライト❸を入れ、布地の透明感を出す。ライト❹はスヌートにイエローのカラーフィルターをつけ、左手前のチューリップにあてた。
ライト:❶ broncolor Sunlite Tube/❷broncolor Pulso G Head+Standard Reflector P70/❸broncolor Picobox/❹broncolor Pulso G Head+Conical snoot カメラ:Canon EOS 5D MarkII/レンズ:EF50mm F2.5 コンパクトマクロ/1/100秒 f10 ISO100
ライティングの組み立て


ベアバルブ状態のトップライト❶。太陽のような上からの光が、蔦の葉の影を背景に落とす。


ライト❷。カラーフィルターのグリーンの色を入れつつ背景を明るくする。フィルターはあえてふわっとかけて、色のムラを作る。


アクリルボード下から小型のボックスライト❸。ライト❷❸を逆光で入れることで、トップライト❶でできた影が薄まる。


スヌートにイエローのフィルターをかけたライト❹。部分的カラースポットで、ライト❶だけでは影になるチューリップの花を明るくし、色も強調する。

180×90cmのアクリルボードをしならせて撮影セットをつくる。アクリルボード1枚で背景と台を兼ねたセット。布は薄いシフォンを用意。ポールに絡めた蔦(レプリカ)は画面には写らないが、トップライトにより背景に影を落とす。

ワセリン ソフトフォーカス

カメラ前に極薄のガラス板をセット。ワセリンをガラス表面に塗り、部分的に写真の色を滲ませる。

左のカットはワセリンなし。右のカットがワセリンあり(部分拡大)。部分的ソフトフォーカスの面白さだけでなく、周囲の花のディテールを滲ませて主張を弱めることで、メインの被写体=バッグを浮き立たせる狙いもある。

高井哲朗 たかい・てつろう
1978年 フリーとして活動開始。1986年高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
※この記事はコマーシャル・フォト2022年4月号から転載しています。
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