上田義彦写真展 神奈川県立近代美術館・葉山「いつも世界は遠く、 / From the Hip」 連動企画「写真の記憶」1

現在、神奈川県立近代美術館・葉山にて大々的な回顧展が行なわれている上田義彦。
展覧会に連動してコマーシャル・フォト2025/8月号に掲載した記事を抜粋してお届けします。
記事では学生時代〜初期作品から、「QUINAULT」「サントリー烏龍茶シリーズ」などの代表作について、氏自身にその「記憶」と「想い」を語っていただきました。

大阪 1977-1978

大阪 1977-1978
「学生時代、僕は街に繰り出し、
飽きることなくただただ眺めていた。

20歳の時、大阪写真専門学校(現専門学校大阪ビジュアルアーツ・アカデミー)に入学しました。

それまで僕は、ある大学の法学部に行きたくて2浪していたのですが、
姉の言葉をきっかけに、写真のことは何も知らないのに通うことになったのです。

入学最初のオリエンテーションの教室で「写真をやったことがない」という人は、
僕ともう1人しかいませんでした。

そこからカメラやプリントのことを勉強するのですが、
何より先生たちの写真についての話、撮影の時の話を聞くのが楽しくて、
「写真って面白いのかもしれない」と感じ始めました。

当時は広告写真家になりたいとは考えておらず、
スタジオ撮影の授業も興味が持てなくて、もっぱら4×5のカメラを担いで街に出て、
風景ばかりを撮っていました。

今回の展示ではその頃の写真を7点、大きく伸ばして展示します。僕の写真の原点です。   

上田義彦

Pomegranate / Tokyo 1987
Red and Black / Tokyo 1988

Into The Silent Land 1985-1990

1990年、プロになってから5年目に、
仕事の写真(当時はエディトリアルが多かったですが)とプライベートな作品を集めて
『Into The Silent Land』という写真集を出版しました。

その頃の僕は、人物でも静物の写真でも、それが持つ「気配」をどうやって写真に撮るかを模索していました。

そしてそのために一番重要なことは、僕にとって「光」だったのです。

だから被写体としてはポートレイトだったり、植物や果物だったりしますが、
何を撮るかよりも、光のことばかりずっと考えていたように思います。

そして自分の中でのひとつの答が1990年に撮影をした『QUINAULT』の森でした。
この写真集にもギリギリ間に合い、1点だけ収録しています。

とても静かな森に足を踏み入れる、
そんなことをイメージして『Into The Silent Land』とタイトルをつけました。

Quinault / Quinault No.39 / Washington 1990

QUINAULT 1990
「それは森の神が、原始の秩序を垣間見ることを
僕に許した時間だった。」

『QUINUALT』の森は、ある広告で人物の背景になる場所を探している時に出会いました。

8×10を担いでいたのですが、その時は森を撮ろうとは思っていなくて、
ただ、輝く下草がきれいだなと思いながら森の奥に入って行き、圧倒されたのです。

カメラをセットして撮り始めたのですが
「自分に何が起こったのだろう? 何を見たのだろう?」ということが気になって、
すぐにクルマを飛ばして現像所に行き、現像をお願いしました。

上がったポジをビュアーで見た時、これまでに見たことがないものが写っていた。

他の写真家たちが撮った写真でも見たことがなかったし、
自分が撮ってきた写真の中にもなかった。

自分がこれから撮らなくてはならない写真が、見えた瞬間です。

以来、『QUINAULT』の出来事をなぞるように、僕は何度も森の中へ入って行きます。

上田義彦「写真の記憶」2
上田義彦「写真の記憶」3

月刊コマーシャル・フォト2025/8記事 「上田義彦 写真の記憶」より

上田義彦写真展 「いつも世界は遠く、 / Yoshihiko Ueda: From the Hip」

神奈川県立近代美術館 葉山 2025年7月19日〜11月3日
www.moma.pref.kanagawa.jp

<概要> 過去40年以上にわたる写真活動から、上田義彦自身のプリントによる500点の作品を展示。『QUINAULT』『AMAGATSU』『materia』シリーズなどの作品群、サントリー烏龍茶をはじめとする広告写真、モノクロポートレイト、家族写真、最新作から学生時代の写真までを時系列で見せる大回顧展。
会場ではCM映像作品、広島県福山市沼名前神社にある豊臣秀吉が愛用したといわれる能舞台で撮られた、能の長尺映像も上映される。

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