2025年6月、Nikon Z8のファームウェアVer.3.00が発表された。その内容は多岐にわたったが、中でも注目点は「ピクセルシフトとフォーカスシフトの併用動作で撮影が可能になった」こと。今回、普段からピクセルシフトを使用した作品を撮影していたというフォトグラファー・クロカワリュート氏に、両機能が併用できるからこそ実現できる、作例の撮影に挑戦してもらった。
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——今回、ピクセルシフト撮影とフォーカスシフト撮影の併用動作をテーマに、野菜を被写体として撮影していただきました。クロカワさんは以前からピクセルシフトを使用した作品の撮影に取り組んでいらっしゃいました。Ver.3.00にファームアップ以降、感じる変化はありますか?
Z8というカメラの捉え方が変わりました。 今までは、静止画にも動画にも強い高画素機で、電子シャッターを備えた隙のない万能機。逆に言えば、何かに特化しているとは思っていなかったんです。 それがピクセルシフトとフォーカスシフトを併用できることによって、画質特化という個性が追加され、武器を得たカメラになった。そういう印象です。
基本的には、スチルライフの用途がメインになると思うんですが、今までだったらシフトレンズを使いましょうとか、画素数を求めるのであればピクセルシフトを使いましょうとか、何を取るかの取捨選択をしなければいけなかった。でもこの機能のおかげで、レンズも自由に選べるし、フットワークも画質もいい。そのメリットは大きいですし、撮影提案の選択肢が増えますね。
——撮影を終えて仕上がった写真を見られた感想はいかがですか? 撮影時に「画の説得力が増した」というコメントがありました。
仕上がった写真を見て「説得力」という言葉がすぐ出てきたんですよね。単純に画素数が多いとか、彩度が高いとか、ピントがしっかりと全体に合っているとか、そういったものを超越した、見た時に「ハッとする」という感覚。そこを深掘りして分解していくと、ピクセルシフトとフォーカスシフトの併用により色再現性が良くなった、偽色が減って色がより正しくなった、ピントが深くなった、色の深みが増した、ノイズがきれいに処理された…など、細かい要素を積み上げたことによって、最終的に「説得力がある」という抽象的な言葉が出てくると感じています。
例えば、単純にノイズを減らすだけなら別の機能でのアプローチもできるけど、今回は複合的にいろんな要素を高めることができている。その結果が完成した写真にしっかりと反映される機能になっていると思います。

【パプリカ】
背景をあえてカラーバックにして、グラフィカルで奥行きのある仕上がりを目指しました。ピクセルシフトとフォーカスシフトによって、グラフィカルなのに写実的。 もっと言うと、「ハイパーリアル」。引きと寄りで写真を鑑賞した時、一番ギャップがある写真だと思います。シンプルだからこそ、寄りで見た時の色再現の忠実さが如実に表れますし、ハイライトに発生していた偽色(紫、青、黄などの本来存在しない色)が改善しているので、しっかりとした「赤」が表現されています。

【エリンギ】
エリンギを被写体として捉える人はあまり多くないと思いますが、画的にはややアンダー気味にして妖艶さ、妖しさを出しています。フォーカスシフトを使って全体のピントを合わせにいき、ピクセルシフトを使うことによって、おいしい画角でトリミングすることもできる。ちょっと下からあおるようなアングルなので、本来後ろの方までしっかりピントを合わせていくのが難しい。その中でもエリンギの繊維一本一本までピントが合いつつ、どこでも切り取ることができる仕上がりになったと思います。

【キウイフルーツ】
輪切りにしたキウイフルーツを真俯瞰で撮影。絞りをf11、f16に設定すると、回折現象が起こってソフトな描写になってしまうことがあるので、f5.6に設定しフォーカスシフトを使用して奥のキウイフルーツまでピントを稼いでいます。乳白のアクリル天板に輪切りにしたキウイフルーツを並べ、下から光を透過させることでキウイフルーツ自身が持つ色の美しさ、シズル感、艶感、艶による色の陰影の深さを追いかけるのが狙いです。やや硬めなライトセッティングにして断面の粒々感、点光源の集合体の美しさが出やすい状態にしたところで、ピクセルシフトを使うことで色の深みも増し、断面の微細なディテールまで解像しています。
——両機能を併用した撮影の設定、工程を詳しくうかがえますか?
今回の撮影ではf5.6またはf8の設定で撮影しています。そこは解像感や撮影枚数(データ量)や処理時間のステップを天秤にかけ、決めました。
撮影工程としては、まずライティング・構図を決め、通常の撮影を行います。最終的にトリミングで使用することも想定し、この段階で完成度を高めておくことが重要です。次にフォーカスシフト撮影の設定。ニコンの場合、一番手前のピント位置から無限遠に向かってピントを送る動作になるので、構図が決まったら、その中でカメラに一番近い位置でピントをとり、フォーカスシフト幅を設定。チェックすべきは、撮影された1枚目(一番手前)のピント精度、そして最終カット周辺のデータを見て一番奥までピントがきているか、です。なるべく細かい幅で設定する方が精密な描写となるのですが、撮影枚数が増え、データも膨大になります。そこを考慮しながらバランスを取りました。
フォーカスシフト撮影の設定が決まれば、ピクセルシフト撮影の設定をONにしてNX Tetherで撮影を開始していきます。私の場合、NX Tetherでテザー撮影し、NX Studioでピクセルシフト合成。「.NEFX」形式のピクセルシフト合成画像が生成されるのでCapture Oneと連携。合成結果に問題がなければ、Helicon Focusで深度合成し、レンダリングして完成データをチェックしました。パプリカのカットの場合、ピクセルシフト合成を32枚×45カット、フォーカスシフト合成を45枚。約16分で完了したので、実用性も高いと感じています。
——撮影時に考慮されたことは他にありますか?
機能を組み合わせて、最終的に1枚の写真にアウトプットする際には、やはり事前準備が一番大事だと感じます。ワークフローをきちんと把握し、テクニカルな課題やフォルダをどう整理するかなど、そういったものをきちんと準備していたからこそ、スムーズに進められたのは間違いないです。ニコンのドキュメントもしっかり読んで、機能の理解をしておく…というのは前提ですね。

その上で、併用による完成度の高さを感じました。セッティングはもちろん、いい機材を使って写真のクオリティを上げていく、というのはフォトグラファーにとって重要なことなのですが、今回はピクセルシフトとフォーカスシフトを併用した撮影で、体感2段階くらい写真がレベルアップしていると感じましたし、「画の説得力が増した」という表現がしっくりきます。
——ピクセルシフトとフォーカスシフト、この両機能を併用することでさらに挑戦してみたい撮影はありますか?
今、この機能を実用的に使用するという点で興味を持っているのはより細かなマクロ撮影の世界です。例えば昆虫標本などは、微細なテクスチャ、肉眼では見逃すような質感、自然界にしかない色の再現など、ピクセルシフトとフォーカスシフトという組み合わせを最大限生かして描き出すことができる被写体です。臆することなくこの領域に踏み込み、標本・アーカイブの仕事にも挑戦し、深めていけるのではないかと感じています。
協力:ニコンイメージングジャパン
コマーシャル・フォト2025年10月号より転載
【PROFILE】
クロカワリュート
(Kurokawa Ryuto)
東京生まれ、東京在住。ディレクターやプロデューサーを経て2019年6月にフォトグラファーとして独立。広告・アーティスト・ファッションを中心に活動。2024年より旅やドキュメンタリーを軸にした映像制作もスタート。
Web:https://ryutokurokawa.tokyo/
X:https://x.com/ryuto_kurokawa
Instagram:@ryuto_kurokawa
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