アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。
Vol.03
小杉幸一の相手に委ねるディレクション
▼今回のSPECIALIST
小杉幸一 (こすぎ・こういち)
1980年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、博報堂を経て、2019年 onehappy を設立。デザイン思考をベースに CI、VI、広告、空間、プロダクト、エディトリアル、パッケージ、Webなど、企業、商品ブランディングのためのクリエイティブディレクション、アートディレクションを行なう。

ディレクションというよりは「こっちの方に一緒に行きませんか?」みたいにお誘いする感じです。
中野 以前、小杉さんのインタビューを拝読した時に印象に残ったのが、「世の中をキャンバスにできる仕事だから広告を選んだ」という考え方でした。フォトグラファーも共通する部分があるのかなと思っています。そんな小杉さんが思う、デザインで写真を使う理由や必要性についてお聞きしたいです。
小杉 いきなり難しい質問ですね(笑)。広告って、あくまでクライアントが考えるメッセージを伝達するためのものなんです。さらに、その広告を制作する際、「解像度の高さ」が必要になるなら写真を選択するようにしています。情報量、具体性、世界観など、こちらの意図を余白少なく伝えることができるのが写真です。
中野 仕事ごとに違うと思いますが、そういった解像度の高い撮影をする際、フォトグラファーへのディレクションは具体的になるのでしょうか?
小杉 いえ、どちらかというと余白を残す方だと思っています。元々は「こうすれば上手くいく」みたいな方法論をメソッド化したいタイプだったんですけど、やればやるほどドツボにはまっていく。それは当たり前で、クライアントが違えば手段が違うのに、無理やりメソッドを当てはめていたんです。それからは、常に現場でベストを探すようになりましたし、それ以前のプロセスからデザインすることが表現には必要だと考えるようになりました。後輩デザイナーにも言っているんですけど、アウトプットは途中の点でしかなく、プロセスを自分らしく持っておけば、自ずとアウトプットも自分の色になっていくんです。
中野 プロセスの重要性は僕らフォトグラファーにとっても同じですね。
小杉 資生堂の元旦広告で「50 selfies of Lady Gaga」という作品を手掛けた時、レディー・ガガのセルフィーを50枚並べました。本来は撮り下ろしをする予定だったんですけど、フタを開けてみるとスケジュールがとれず、代わりにアリモノで作って欲しいと言われたんです。
中野 想像したくないですね(笑)。
小杉 送られてきたデータを見ると、そのほとんどが美しく着飾った写真ばかり。キャッチコピーが「あなたはあなたでいて。それが、あなたの美しさだから。」なのに、これはつくられたものだぞと焦りました(笑)。ただ、幸運なことに数枚だけあった解像度の荒い自撮り写真を見つけて、「これだ!」とチームで奮起したのを覚えています。
中野 予期せぬトラブルから新しいアウトプットが生まれたんですね。
小杉 これはプロセスが変わったからアウトプットが変わったっていう、ダイナミックな成功事例なんですけど。そこからはまず相手に委ねてみようと、楽な気持ちになりました。フォトグラファーからしたら「何にも決めてないじゃん」と思われるかもしれませんが(笑)。もちろん、ラフをバチバチに決めた方が上手くいきそうな場合はそうしますが、柔軟なフォトグラファーなら撮影は頼るスタンスで臨みます。
中野 コロナを経てトップダウンが多くなってきた感覚もありましたから、そのスタンスはフォトグラファーにとってすごくラッキーです。フォトグラファーがプロセスの中で能動的に考えることができる余白があるなら、トリッキーなお題の中でどう料理しよう、みたいなチャレンジができるので。そんな小杉さんにとって、フォトグラファーに求められるスキルや素養はなんだと思われますか?
小杉 デザイナーも同じですが、自分の考えを明確化することが大切です。僕の場合「みんなと楽しみたい」という考え方です。だから、色んな人と仕事をしたいし、余白も残しておきたい。一方で「もっと美に特化したい」というならそれでもいいし、そのフィールドは人それぞれ。それが個性。例えば、フォトグラファーだと操上和美さんや瀧本幹也さんって、明確な個性と美学があるじゃないですか。自分なりの考えを明確化できると、自ずとアウトプットも魅力的になるのだと思います。
中野 GARDEN STANDの広告写真も個性的ですね。
小杉 これは、大矢真梨子さんに撮影していただきました。大矢さんって基本は自然光で、ライティングをしない人だったんです(今はライティングもするそうです)。でも、フォーカスや切り取り方に独特な強さがある。思いがけない写真を撮ってくださるので、ほぼノートリで使っています。
中野 現場ではどういったコミュニケーションをされたんですか?
小杉 最近の仕事だと一番相手に乗っかった撮影かもしれません。僕はプロダクトの配置に少し口を出すくらいで、2時間くらいで好きに撮ってもらいました。
中野 タレントさんとのコミュニケーションはどうですか。
小杉 寡黙なフォトグラファーだったら僕がディレクターになりますが、全部仕切っていただけるならお任せします。撮影中に、小声でフォトグラファーに伝えるくらいで、そこからのディレクションも委ねることが多いですね。大枠の考え方は共有していますから、その場で考えていただくほうが結果いいのかなと。
中野 ディレクションできるタイプのフォトグラファーを選んで、小杉さんはそれをプロデューサー的に楽しんでいるみたいな構図がありそうですね。アートディレクターというより、総括プロデューサーのように感じます。
小杉 現場でアートディレクターからうるさく言われると、フォトグラファーの方もやる気なくなっちゃったりしませんか(笑)?
中野 流石に今の時代はないと思いますけど、昔はそういう現場もありましたよね(笑)。例えば、あまり撮影を重ねていないフォトグラファーを起用する際、どうアプローチされていますか?
小杉 今の話とは逆で丁寧さを意識するかもしれません。とはいえ、いきなり撮影ではなく、作品を拝見してどういう発想の方なのか知ってからですね。あと人となりを探ってみます。打ち合わせで「撮影の時、あんまり横で言わない方がいいすか?」とか聞いてみたり。
中野 現場での立ち回りについても事前に打ち合わせておくということですね。
小杉 若い時にタレントビジュアルの撮影経験がほとんどなかったんです。だから、最初のタレント撮影はパニックで、とりあえず声を出そうみたいな。現場が静まるとすぐにネガティブな空気になるじゃないですか。あれが苦手で…。悪戦苦闘しているうちに少しずつ自信が出てきて、今に至ります。
中野 現場での旗振り役って大切ですよね。それを買って出ていたと。相手に委ねる際のアプローチの仕方をもう少し深堀りしたいです。企画概要の説明などはされると思いますが、「その枠組みの中でお任せします!」みたいなことでしょうか?
小杉 そうですね。なるべく言葉で定義することを心がけてはいますけど…「バイブスで!」とか(笑)。ディレクションというよりは「こっちの方に一緒に行きませんか?」みたいにお誘いする感じです。あとはポイントで要望を伝える際は、臨場感を出すためにワイドで撮りたいなど具体的にしていますね。
中野 面白いですね。この連載ではフォトグラファーとしてインタビューさせていただいているんですが、小杉さんのお話の中に写真用語が入ってるのが珍しいなと思いました。フォトグラファー目線だと、優しいディレクションだと思いますし、言葉の隙間に写真的要素が入ると気持ちが楽になります。
小杉 意識していませんでしたが、共通言語で伝えるのは効果的ですよね。
中野 それに、「今回の撮影ならガンガンワイドで攻めていこうと思います!」とか、フォトグラファーからも積極的に提案していく姿勢が大切だとも思いました。ある程度ラフが組まれていると提案する意識が薄れてしまいがちなので。
小杉 ラフもフォトグラファーの余白が増えるように手描きでやりたいんです。一時期は、クライアントにはきちんと合成したラフで方向性を決めて。フォトグラファーには手描きのラフを見せるみたいなこともしていました。
中野 ラフの作り方にも個性が出ますよね。一度拝見してみたいです。
小杉 僕は『踊る大捜査線』が大好きなんですけど、仕事でも「事件は現場で起きている」という感覚を持っています。準備してきているものがあっても、やっぱり現場で考えることを忘れたくないし、いい意味で切り捨てる決断も大事じゃないかと思います。だから、フォトグラファーには現場のチャレンジが欲しいって思っていますね。何よりも、それを見るのが楽しいです。
Garden Stand Organic Kombu-Cha


原産国は東モンゴルと言われている、茶葉に糖類、水そしてスコビーという菌株を漬け込んで発酵させた〈コンブチャ〉。サプリメントでもトレーニングでもない、おいしくナチュラルな腸活の新スタイルブランドのビジュアルです。菌は生きているため、時にはボトルから噴き出すほど自然発泡します。そんな生命感あふれる〈神々しさ〉、腸から生き生きとした毎日をつくってくれる〈光〉〈彩〉、そんなメッセージを撮影していただきました。(小杉)
NAKANO’s COMMENT
プロデューサーのような目線で制作をされている小杉さん。プロセスを大事にするからこそ生まれるクリエイティブには納得です。フォトグラファーにとって余白はありがたいことですが、被写体の捉え方や技術面など撮影過程で疑問を持つことで、新しい画作りに挑戦できると思いました。
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 写真の好きなところ
写真には独特の温度感があると思っていて、それはイラストに比べても強いと感じます。個人的に好きな写真は振り切っている写真です。フォトグラファーの思想を強く感じる写真は魅力的です。
Q2 最近気になるフォトグラファー
インスタグラマーです。私的な視点から撮影をされているので、委ねすぎると失敗してしまうかもしれませんが、好きなものを撮るという点で特化している方の写真を見るのは楽しいです。
Q3 業界を目指す人へ
同業種に憧れを持たないこと。どうしても狭い視野になってしまうし、むしろ、違う業界で活躍している人のメソッドを参考に落とし込んでみると、新しい視点に立つことができると思います。
Q4 衝撃を受けた写真
ロリンツィー・ギオルギーの写真集『New York, New York』です。ニューヨークの建築やそこにいる人々がすごく溶け込んでいて、えも言われぬ美的な空気感があるドキュメンタリー写真です。
Q5 フォトグラファーと出会う場所
フォトプロデューサーやアートディレクターの紹介が多いです。恋人探しに似ているというか、信頼できる人からの紹介だと、その人の目線で自分との相性を考えてくれていそうで楽しいです。
Q6 キーアイテム
iPhone とモバイルバッテリー、付けているのは広角レンズです。今のリアルなメディアとの接点に立つことがクリエイターとして重要なので、新しい機種が出たら毎年機種変更もしますね。

撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

話題作を次々と生み出す人気クリエイターは、何を考え、どこでアイデアを生み出しているのか。本特集では、広告・エンタメビジュアルなど様々なフィールドで活躍する6名へのインタビューを通して徹底取材。思考のプロセスや発想の起点、日常の習慣、創作の源泉、そしてプライベートまで、そのリアルに迫る。栗田雅俊/井本善之/吉兼啓介/有元沙矢香/吉良進太郎/泉田 岳
【特集】
Mrs. GREEN APPLE Wonder Museum MGA MAGICAL 10 YEARS EXHIBITION
Mrs. GREEN APPLEのデビュー10周年を記念して虎ノ門ヒルズ・TOKYO NODEで開催された展覧会を、制作に携わったクリエイターへの取材を通して紐解く。
10年間で生み出された楽曲の背景にあったアイデアや対話を、いかに空間体験として構築したのか。そのコンセプト設計や表現のプロセスを掘り下げ、音楽と展示表現を横断するクリエイティブの現場に迫る。
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