アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。
Vol.05
関戸貴美子に聞くプロセスの重要性
▼今回のSPECIALIST
関戸貴美子(せきど・きみこ)
電通所属アートディレクター。1988 年サンフランシスコ生まれ。2010 年多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業、同年電通入社。最近の仕事は、Zespri「キウイブラザーズ」、JINS「時をかける、メガネ。」、花王メリット「家族と愛とメリット」、広告電通賞「walk,walk,」など。東京 ADC、NYADC、The One Show、D&AD など他多数受賞。

最終的なアウトプットだけでなく、
水面下のプロセスにその人の価値観が見えてくる。
中野 関戸さんが手掛けられた作品は独創的で、特にその色彩感覚には目を見張るものがあります。アートディレクターとしての素養は前提として、独自の色彩感覚を写真に落とし込む際の考え方や、フォトグラファーへ共有する際のディレクション方法について教えていただきたいです。
関戸 私の場合、企画のかなり前段階でフォトグラファーを考え始めます。この方に撮ってもらうからこの企画にするというくらい、「当て書き」に近い形で企画を考えているんです。なのでクリエイティブに関しては、フォトグラファーの世界観を借りるという感覚のものも多く、フォトグラファーの好みや感性に共感してお願いしているので、色彩感覚もその中に含まれているかもしれません。
中野 そのような当て書きスタイルは以前から?
関戸 そうですね。クライアントへの企画提案も、基本的にフォトグラファーとセットです。企画が決まってからフォトグラファーを探すというプロセスだと、自分の中で順序が崩れちゃう感覚があります。フォトグラファーの都合が合わないなら、絵の企画を変更するくらいの気持ちです。
中野 関戸さんがフォトグラファーを選ぶ時の基準って何でしょう?
関戸 実績重視の視点はあまりありません。私の場合、撮影の頻度は高くなく、半年以上続く企画を形にすることが多いんです。日常的に、いいなと感じたフォトグラファーをピックアップしておき、仕事が具体的になったタイミングでその方の知識を組み合わせて企画を構築していくような流れです。
中野 最近だと、鈴木亮平さんが出演する「MEGA BIG」の広告でフォトグラファーの TOKI さんを起用されていますね。フォトプロデューサーからの紹介もあるのでしょうか。
関戸 フォトグラファーを紹介してもらうことはあまりないですが、「どんな方なのか」についてヒアリングすることがあります。例えば、「MEGA BIG」はコメディータッチな企画なので、そのようなコメディ要素が強いものや、そもそもが広告撮影に抵抗がないかなどを確認しました。
中野 自分の作品ありきでキャスティングされるのは、フォトグラファーにとって嬉しいことですね。色彩設計の話に戻りますが、「フォトグラファーの世界観を借りる」という話がありつつも、関戸さんの中では全体像が見えている状態で進行している印象を受けました。
関戸 企画を具体的にする前にブランドや伝えたいメッセージ、世の中の出来事など、そのブランドを取り巻くなるべく多くの情報をモヤモヤと巡らせることを大切にしています。最終的なクリエイティブには、そういった要素が自分のフィルターを通して結果として表れているのだと思います。
中野 その思考整理はどのようにしているのでしょうか?
関戸 言葉で考えることが多いですね。絵をひとつ描いたら、キーワードを出して、伝えたいものを整理する。フォトグラファーにもそれに近いラフを見せて、考え方を共有します。クライアントにはデザインカンプを提示しますが、フォトグラファーへは意図の共有を優先するため、解像度を落とした手描きラフで説明することも多いです。
中野 手描きラフの利点は何だと感じていますか?
関戸 具体的なビジュアルがあるとそこに縛られがちで、単なる答え合わせの作業になってしまうのが嫌なんです。ゴールは明確に設定しつつ、輪郭は意図的に曖昧にして、現場でそれぞれのスタッフが最大の期待値を目指すスタンスが理想なんです。このやり方は、人によってはやりづらさを感じる方もいるかもしれません。
中野 フォトグラファーに合わせてやり方も変えているのでしょうか。
関戸 はい。あくまでも先ほどのやり方が 100% ではなく、フォトグラファーの特性によっても変えています。ただ、手描きラフをベースにした撮影の方が多いかもしれません。過去の作品の再現を求めてもモチベーションは下がりますし、実際にそれを求めているわけではないです。広告制作はオートクチュールのようなものなので、余白を持たせる手段として言葉による共有作業が効果的のように感じています。
中野 言葉での説明となると、フォトグラファーにも想像力が必要になりそうです。関戸さんのディレクションは映画監督のようですね。私の映画はこんな佇まいでいてほしいみたいな。
関戸 そうかもしれません。絵を作るというより、佇まいを作るの方がしっくりときます。
中野 技術的な部分も聞きたいのですが、ゼスプリの作品ではどんなディレクションをされていますか?
関戸 ゼスプリはずっと船本 諒さんにお願いしています。例えばスタジオでの人形撮影の時でも、「みずみずしい果物を撮るように美味しそうな光で」とお願いしています。船本さんは理解力が高く、意図をすぐに読み取ってくれるので信頼しています。逆に、ポートレイトの方が綿密な相談をするかもしれません。
中野 それは気になります。
関戸 例えば、どんな状況なら屈託ない笑顔が撮れるのかみたいな。こういう状況になった時、被写体がどんな気持ちになるか、いい気分で表情を作ってもらうためにどうしたらいいのかなど環境作りはすごく大切にしています。
中野 ポートレイトでは被写体の思いも汲み取るということですね。
関戸 そうできたらと思っています。気分良く撮影できる方が写真に表れるので、気持ちを撮りたい時が一番難しいし、作戦も色々と立てます。
中野 被写体と共通認識を持っておくのはすごく大切ですよね。僕も撮影前にゴールはここ、ということを決めてからスタートをすることが多いです。お互いが共同作業者だっていう認識を被写体と共有したいですね。2017 年の「JINS × TIME」の広告は色彩設計が特徴的ですが、どのようなディレクションを?
関戸 これはアレックス・プレガーというフォトグラファーとの仕事で、彼女は映像的な演出とセットで撮影する群衆写真を得意とする方です。彼女の作品自体は満遍なく人に目線がいくものも多かったので、この企画の性質上、特定の人に目がいくビジュアルにしたいと伝えました。実は、撮影がハリウッドのスタジオで、豊富な衣裳のストックを活用できたんです。色彩に関しては、既存の衣裳の色彩を借りる形で構成しました。また、レタッチャーとタッグを組んでいたので、後から手を加えることも作品的な作 業だったんです。そういう意味では、撮影後の演出や人物配置の変更など、編集の重要性が大きな仕事でした。
中野 海外ではレタッチも含めて写真として扱っているのは面白い話ですね。やっぱり日本だと一発撮りが多いですか?
関戸 価値観の面で日本の方が一発撮りを重視しているように感じます。もちろん、どちらが良い悪いではありませんし、 集中力を研ぎ澄まして撮影に望む空気感はすごく好きです。
中野 ちなみに、写真の潮流や流行り廃りに関してはどう見ていますか?
関戸 クライアントの目的を達成するため、広告として差別化が必要な場合、時流に乗るか反るかの判断は大切です。流行を取り入れるのが正解な場合もあれば、あえてそれを無視したスタイルを提示する場合もある。どの時代でも流行は必ず存在するので、一定の距離を置いて俯瞰的に捉えることを心がけています。
中野 写真の潮流と広告写真のムーブメントに違いを感じますか?
関戸 隣合わせで進んでいないと思います。広告写真独特の流れは感じますし、写真ひとつとってもブームは繰り返しているとは思います。
中野 関戸さんのクリエイションの源泉が垣間見えた気がします。とにかく、合点がいくまでプロセスを詰めていく姿勢が印象的でした。
関戸 最近、その傾向にあることに気づいたんです。言葉とビジュアル、両方が繋がらないと気持ち悪くって、自分の中で一本筋が通るまで止められないんです。関わる方々にとって意味のある、豊かな仕事になればいいんですけど。
中野 アートディレクターの皆さんは、それぞれのプロセスを大事にされていると感じます。
関戸 最終的なアウトプットだけでなく、水面下のプロセスにその人の価値観が見えてくる。そこは本当に面白いですよね。
ジンズ JINS×TIME 時をかける、メガネ。

20 世紀のメガネのデザインから着想を得てつくられた JINS × TIME。ストーリーのあるファッションを身にまとうと、その世界にトリップしたような気分になります。メガネをかけた人の心象風景を絵にしたいと考え、Alex Prager 氏に撮影を依頼しました。各年代のファッションの傾向と背景について調べ、フォトグラファーとやりとりを重ねながら制作しています。(関戸)
NAKANO’s COMMENT
これまでもフォトグラファーと AD の関係性に様々な喩え方があったと思います。広告表現において、関戸さんの役者を「当て書き」をするようにフォトグラファーをキャスティングする、という映画監督のような撮影手順は羨ましくも理想的なクリエイティブの在り方だと思いました!
スペシャリストに聞く6つの質問
Q1 写真の好きなところ
被写体、構図、色、光…全てが凝縮されて生まれる非言語のスピード感が写真の一番の魅力だと思います。一瞬で感覚的に反応できるのは、写真ならではの魅力です。
Q2 最近気になるフォトグラファー
仕事柄、フォトグラファーの世界を借りている感覚が強いので、好きなことが何か、嫌いなことが何か、パーソナルな価値観がわかる方を発見したら見入ってしまいます。
Q3 業界を目指す人へ
自分の価値観や視点を強く意識している方との仕事は楽しいです。例えば、その被写体をきれいに撮るだけでなく、その被写体をどう見ているのかというその人の目を通す意味や偏りが大切です。
Q4 衝撃を受けた写真
中学生の頃に見た、コム・デ・ギャルソンの広告写真。色彩や影の力強さが魅力的で、ブランドに対する憧れが生まれました。AD の井上嗣也さんが思う、広告を見る人の距離感が感じられます。
Q5 フォトグラファーと出会う場所
新しいフォトグラファーとは、相対的に Instagram で出会うことが多いかもしれません。その他ですと、展示会でお会いしたり、本に掲載された作品などもきっかけになることもあります。
Q6 キーアイテム
ロットリングのボールペンとキャンパスノート。次の日に行なうタスク、簡単なラフ、思いついた言葉などをメモしています。作業場に着いたらこのセットを机に出すところから始まります。

撮影・インタビュー
中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/

本特集ではコマーシャル・フォトが注目する若手フォトグラファー5名にフォーカス。直近の仕事を起点に、日々の制作への向き合い方、これから挑戦したい表現やフィールド、そして撮り溜めてきたパーソナルワークについても話を伺った。
岡﨑果歩/カクユウシ/日野敦友/平岡尚子/渡邉成美
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