照明機材のオーソリティ
「玉ちゃん」こと玉内公一氏と、
担当編集者との掛け合いでお届けする、
ライティングの基礎と実践。
2009年から約3年間にわたって
コマーシャル・フォトで
連載した記事から抜粋して
お届けします。
編 「硬い光」「柔らかい光」ってよく言いますけど、実際のところ、それはどんな光なんですか?
玉 もっともシンプルにお答えすると、硬い光とは直進性がある光、つまりスペキュラー(specular)ライト。モノの影がシャープに出ます。光源で言えば点光源、ベアバルブの光が、スペキュラーライトですね。(*ベアバルブ:スタジオ撮影用ストロボのリフレクターを外した状態の光。)
柔らかい光とは拡散光、つまりバンクライト(ボックスライト)やバウンスを使ったディフューズ(defuse)ライト。光が回り、影は柔らかく表現されます。
編 シンプルな答えということは、シンプルじゃない答えがある?
玉 そういうわけではないんですが、たとえば拡散光のバンクでもホットスポットから周辺までの光の落ち方が急激だと、そのバンクの光は硬いなんて言われますね。
さらに光の硬/軟と、写真の硬/軟が混同される場合もありますが、光の硬/軟はあくまで写真の硬さの一要素であって、イコールではない。
写真の硬さは被写体(の材質)、光のあて方、また昔で言えば印画紙の硬さや焼き、ピント、シャープネスなどさまざまな要素で決まる。
つまり拡散光で撮った「硬い写真」というのもあるわけです。
編 でも、一般的にシャープでカリッとしたイメージを作りたい場合は、硬い光を使うのがいいんですよね。
玉 そうですね。特に光の硬/軟と光のあて方は、被写体の質感を表現する上で重要です。
編 硬い金属などは硬い光ですね。
玉 そうとは一概に言えません。光にスペキュラーライトとディフューズライトがあるように、被写体にもスペキュラーオブジェクトと、ディフューズオブジェクトがあります。スペキュラーオブジェクトとは光を直進的に強く反射させる表面を持ったもの。ディフューズオブジェクトは光を拡散して反射する表面のもの。
ディフューズオブジェクトはスペキュラーライト、ディフューズライトのどちらでも撮影できるけれど、スペキュラーオブジェクトはスペキュラーライトで撮らないのが、ライティングの基本なんです。
シャープに見せたい被写体の代表、銀食器など光沢の強いモノは、スペキュラーライトで撮ると光を強く反射してむしろ質感が損なわれる。
編 言われてみればそうですね。
玉 また、柔らかい毛糸のような素材も、あまり光を回しすぎると、メリハリのないぼやけた写真になる。ちょっと硬めの光をあてた方が、毛足に陰影がついて毛糸の感じが出る場合もあるんです。
編 お汁粉の仕上げに、塩をひとつまみ入れると甘さが引き立つのと同じですね。
玉 たとえ話が飛躍しすぎてません? ま、いずれにせよ被写体の表面の質感、またそれをどう見せたいかを考えた上で、最適なライトの硬さを決めていくわけです。
編 ところで銀食器などの「光り物はディフューズ光」ということですが…。
玉 特に鏡面のものは直に光をあてない。周囲の環境をライティングするのが基本です。
編 環境をライティングする?
玉 そこは次回ということで。
ベアバルブの光
標準リフレクターの光
アンブレラの光
バンクライトの光
シルバーアンブレラの光
アンブレラ+ディフューズの光
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コマーシャル・フォトで約3年にわたり連載された「玉ちゃんのライティング話」を再構成した1冊。カラー作例をふんだんに使い、プロのスタジオ撮影の基礎を解説したライティング読本です。
コマーシャル・フォト2024年5月号
【特集1】
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この特集ではライフスタイルフォトを撮影するフォトグラファーとクリエイターがどのようなことを考えながらビジュアルを設計しているのか、作品と合わせてその思考を探っていく。
兼下昌典 / 金子美由紀 / 上澤友香 / 元家健吾 / 山本あゆみ / 小野田陽一 / 角田明子
良品計画 無印良品 クラシコム 北欧、暮らしの道具店
中川正子が撮る暮らしの気配
FEATURE 01 中森 真「endura」
FEATURE 02 金子親一「READYMADE」
FEATURE 03 尾身沙紀「Wanderlust」