CP+2025/CREATORS EDGE Spring Edition「RAW収録から始まるシネマトーンドキュメンタリー(小原穣)

2025年2月27日(木)から3月2日(日)までの4日間、パシフィコ横浜で開催された「CP+ 2025」。本記事では、そこで行われた玄光社のCommercial PhotoとVIDEO SALONがプロデュースしたイベント企画「CREATORS EDGE Spring Edition」の小原穣さんによるセミナーの模様をお届けする。3月2日(日)11:35-12:15にステージCで行われたこのセッションでは、ノーライトで撮影されたドキュメンタリー映像を、グレーディングを通してシネマトーンに仕上げるにはどうすればいいのか、ということを新規作例を用いて解説していただいた。

居酒屋を舞台にしたドキュメンタリー

今回のセミナーのために映像を作りましたので、それを見ながら僕がどういうグレーディングのアプローチをしたのかというのを語れたらと思います。2022年にたまたま仕事で富山を訪れまして、ちょっとお腹空いたな、なんて思っていたら路地裏に僕を誘っているかのような明かりがあって「釣師の休日」という看板が見えたんです。

このお店なら富山のおいしい魚を食べられるなと思って入ったら、すごく素敵なお店だったんです。大将が自分で釣ってきた魚を出していると言うんです。そして料理を運んできた女の子がすごくほがらかなかんじで、自分のことをシイラと呼んでいました。お父さんが釣り好きだから娘の名前をシイラにしたそうです。
そんなお店の話をいろいろ聞くうちに、「いつかこの人たちのドキュメンタリーを撮りたいと」思うようになりました。コロナ禍をきっかけに僕も新しい価値観というものを考えていた時期だったこともあります。それで今回の機会をいただいて、改めてアプローチして撮らせてもらいました。では映像をご覧いただきたいと思います。

今年の6月とか7月にもシイラやマグロ釣りをするようなので、そこも密着して短編に仕上げたいと考えています。今回の映像はその予告編というイメージです。

プラグインを活用してベースのルックを作る

今日脇に置かれていますが、今回はこのニコンのZ9というカメラで撮影しています。すごく高精細に撮れるカメラではありますが、どうしても親子であったり、小さな幸せを求める姿だったりという人の温かみが表現しづらいと思い、フィルムっぽいルックを目指しました。

手触りのある温かい感じと富山の冷たい海が共存している、というような世界観を作りたいと考えてグレーディングしています。グレーディングはDaVinci Resolveというソフトを使いました。Dehancerというプラグインがあって、それを使うとフィルムっぽさを簡易的に再現できるんですね。赤い四角で囲んでいる部分がDehancerで、ARRIというシネマカメラのルックをまず作り、Kodakの250Dというフィルムの質感を追加しています。

これがARRIのカメラに近いルックです(下の画面の右下)。さらにKodak 250Dのシミュレーションしたものがこの画です(同じく左下)。すでにフィルムグレインが乗っていますが、これはあとから乗せたものです。最初の画に比べると自分のイメージしている方向に近づいてはきました。

フィルムグレインは400Tというフィルムを実際にスキャンしたもので、よりリアルにフィルム感を出していこうと考えました。これによって、全体的にシャープだったトーンが豊かになってよりフィルムに近づきました。編集はPremiere Proで行なっていて、ニコンが新しく出したREDのLUTを調整レイヤーで当てています。それから一番上にあるグレインというところでフィルムの粒子感を出しています。こうして編集上でもなんとなくこんなトーンを出したいな、というのを一回作っています。

RAWを普通に現像すると鮮やかにはなりますが、僕が狙っているトーンよりも色が出すぎました。「寒さの中にある人の温かみ」が表現しきれいてない印象があったので、DaVinci Resolveのほうで追い込むことにしました。

暗めにとってグラデーションを残す

ところでHDだとデータサイズが抑えられますが、僕は4Kで撮影するようにしています。後から寄りたいときに助かるし、最終的にHDにする場合でも4Kで撮ってHDにするのと最初からHDで撮るのでは表現できるディテールがやっぱり違う。ハイライトやシャドウの階調も4Kで撮った方がちゃんと残りますね。

撮影ですが、朝の景色などはハイライトとアンダー部分の差が結構あるので、どちらを生かすかというのが大切になります。僕の場合は、朝のシーンだとハイライトのグラデーションを最終的に出したいということもあったので、少し暗めに撮っています。適正露出で撮ると太陽が飛んでしまうので、太陽の芯が見えるくらいにするイメージです。そしてDaVinci Resolveのソフトクリップを使ってハイライトとシャドウを丸めてフィルムトーンを追い込みます。これでちょっと柔らかい感じになります。微差ですが、これが動画として動いたときに全く印象が変わってくるんですね。

調整前
調整後

ここまでをまとめると、最初Log(下の画面で左上)だったものがREDのLUT+フィルムグレインになり(同右上)、ここからDaVinci ResolveにバトンタッチしてKodak 250Dを適用して(同右下)、さらにハイライトとシャドウを丸めてフィルムトーンを再現しています(同左下)。

部分補正で人の温かみを表現

冬の屋外では4,600Kあたりで撮るのがいわゆる適正の色温度だったりしますが、今回の撮影に関しては自分が感じた富山の寒い感じというのを撮りの段階で出したいと思って、3,900Kで撮っています。

それでグレーディングしていくと全体的にはイメージしていた寒い感じにはなるのですが、出したい人肌の温かさみたいなものは色温度の設定だけでは出せないんですね。そこで、部分補正で人の肌だけを温かく見せることもしています。調整後の方が「寒い中でも真摯に釣りに向き合っている感じ」が出ていると思います。

調整前
調整後

一方で居酒屋のシーンは蛍光灯と暖色系のランプが混ざった照明だったので、普通にグレーディングしていくと蛍光灯の緑が残った状態になり、肌のトーンが美しくなりません。そこで温かみを出す色を加えてあげる。すると暗い印象だったものが、自分がこの居酒屋にいたときに感じたような温かい見た目になります。

調整前
調整後

それからDaVinci ResolveのFilm Look Creatorというツールも使っています。船の奥でキラキラ光っている水面ですが、カメラが高精細なのでハイライトやボケ足がすごくシャープで、自分がその場で感じた優しい光が表現できていないんですね。もともとボケてもいるしソフトフィルターも使っていて多少柔らかくなってはいるものの、これだけだとまだシャープに感じたので、ハイライト部分のエッジを少し柔らかくすることをしています。

調整前
調整後

撮影時のフィルターですが、NiSiのバリアブルNDフィルターとブラックミストフィルターを使いました。フィルターの付け外しは手間なので、バリアブルNDフィルターはすごく便利ですね。ブラックミストも使っておけばグレーディング作業が少なくて済みます。ブラックミストは1/2と1/4を多く使いましたが、もっと強いものを使うときもありました。

ドローン映像の馴染ませ方

ワンカットだけドローンのカットが入っていましたが、ドローンの画は被写界深度も深くて全体的にシャープに写ってしまいます。Z9で撮ったカットと並べるとどうしてもここだけ浮いてしまうので、DaVinci ResolveのTexture Popという機能で対処しています。

調整前
調整後

見てもらうと分かると思いますが、このように水面のシャープさを軽減しています。こうすることでドローンの画とZ9の画を馴染ませることができます。音声については、ガンマイクとピンマイクを使っています。冒頭のインタビュー映像などはピンマイクで押さえていて、MA作業でベースノイズを取るなどしています。

ドキュメンタリーの撮影だとどうしても音の部分が後回しになってしまいますよね。それで、使いたい音が使えないことによって描きたいストーリーが描けないというのは僕も経験があります。ですから、ピンマイクを最初から付けさせてもらうのは大事だと思っています。ちょっとマニアックな話もありましたが、フィルムトーンにするために僕が今回の作品作りで行なったことをプレゼンさせていただきました。

CREATORS EDGE2025は10月9日(木)開催!

CP+ 2025

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