Blackmagic Camera (Application for smartphones)│ DaVinci Resolve 18
木村太一(ディレクター)
西田賢幸(カラリスト)
内田誠司(DIT)

強烈な個性が光るミクスチャーバンドKroiが奏でる「Method」のMVを観れば、誰もがその特別感に驚くだろう。40台のiPhoneに囲まれた緊張感は、まるで主題歌となったアニメ「SAKAMOTO DAYS」の中で殺し屋に囲まれたシーンのように、張り詰めたエネルギーさえ感じられる。ディレクターの木村太一氏とカラリストの西田賢幸氏、そしてDITの内田誠司氏に今回の作品について質問をした。
Kroi 「Method」

マルチカメラ同期でスマートに繋がる
――40台のiPhoneでアーティストを取り囲んで撮影するというアイデアはどこからスタートしたのでしょうか。
木村 ディレクションをしない撮影方法ってあるのかなと思い、40台置いてみようと軽い気持ちで始めたのですが、いざやってみるとすごく大変でした。以前に手持ちカメラで撮影しカット割りを速くする作品を手がけたことがあったのですが、それとは対照的にカメラの動きではなく事前にセットしたカット割りでやりすぎなくらいエネルギーを出してみたら面白いんじゃないかと思ったんです。
――現場はどんな雰囲気でしたか。
木村 最初にKroiの皆さんへ撮影のコンセプトや難しさを撮影監督から説明した時には正直言って想像がつかなかったようで、聞いただけではわからないというリアクションでした。そういう意味ではiPhoneをメインカメラとして使うということは、まだスタンダードではないんだと思います。でも現場に入ってフィジカルで見ると、想像を超えた印象があったようで驚いていました。

――iPhoneを選んだのはどういった理由からだったのでしょうか。
木村 最初は40台のVHSビデオカメラで撮りたいと思っていたんですが、テープだと技術的に40台は難しいし、ホワイトバランスを合わせにくいという課題がわかってその案は無くなりました。シネマカメラを40台だと予算的にも難しいし、映像に映ってしまうカメラを考えた時、空間デザイン的にカメラ自体もかっこよくないといけない。そこでAppleの方がiPhoneを貸してくださることになって、美術チームもデザイン性や機能性としてもiPhoneが良いという結論になりました。この時のバージョンは16 Proと16 Pro Maxです。――今回のトーンや色作りはどのように設計しましたか。
西田 監督と話しながら、今回はあまり脚色しないクリーンな感じにしようと決めました。僕の勝手な解釈ですが、監視カメラで見た記録映像のような、いい意味で雑味がない高品質な感じにしようと意識してグレーディングしていました。
――カラリングでの新しい挑戦はありましたか。
西田 iPhoneで撮影するということがどういう感じなのかと思っていたんですが、実際に素材を扱ってみると普通のカメラで撮影したものと遜色はありませんでした。撮って出しの状態も悪くなかったので、グレーディングはいつもに通りDaVinci Resolveで行いました。


――DaVinci ResolveでのLUTはどのように設定しましたか。
西田 まずはデフォルトからスタートして、そこから特にフィルムエミレーション系のLUTは特に使わず、そのままの感じを少しだけ味付けするぐらいのイメージで仕上げました。
――記録方法は「Prores 422」を選択されたそうですね。
内田 現場で木村監督的に何テイク必要なのかを相談し、iPhoneの容量で収まるデータ量と照らし合わせて選びました。30分が限界だったので、4テイクで126GBぐらいだったと思います。

iPhoneからの映像も遜色なくクリーンに仕上げる
――Blackmagic Camera ProDockが先日発表されました。これは外部タイムコード入力をサポートする機能があすが、これがもし今回の撮影現場にあれば作業は劇的に変化していたと思いますか?
木村 撮影ではTentacleのアプリで同期したのですが、何台かはうまくいかなかったものもありました。カメラに映り込むため見栄え重視でLANケーブルだけ繋ぎましたが、HUBをつけると充電など色々なものが見えてしまいます。そのコネクターの動きが統一されているのはかなり美しいなと思いますし、リリースされたら試してみたいですね。
内田 今回はiPhoneだったので色々くっつけたりできて可能でしたが、恐らく普通のカメラだったら、システムを打ち込んで遠隔でRecできるように改造しないと無理でしたね。
――どんな作品を想定していましたか?また、制作の上で難しかったことや苦労したことを教えてください。
木村 まずはiPhoneで撮っていることを強調したいと思っていました。無理矢理にシステマチックなルックにするのではなく、レンズも魚眼の8mmみたいなものをあえて使用しています。複数のiPhoneで同時にいろんなアングルから撮影していることを強調するために、編集時には1つの画面を2つ以上に分割するスプリット構成をたくさん使いました。編集時にまとめてみると、40台分の素材はもうちょっとあってもよかったとは思いましたが、タイムコード的には多すぎました。それらをレイヤーで重ねて編集しないといけないので、同時に作業するとレイヤーがものすごく多くなるんです。編集をしていると途中でどれがどれだかわからなくなりますし、パソコンも重くなってくる。きちんと色分けなどをしておかないと、どれがベースのシーン、どれがドラムのシーンかもわからなくなったりしました。
――Blackmagic CameraというiPhone、スマートフォン用のカメラコントロールアプリがあったことは今回の撮影が実現した大きな理由でしょうか。
木村 このアプリがなかったら恐らく実現できませんでしたね。メディア総合イベント「Inter BEE 2025」の際にBlackmagicの開発者の方とお話した際に、240台ぐらいまでは理論的にもネットワークの制限的にも問題なさそうだったので、複数台で検証しました。その後開発の方からもっと台数を増やせるかもしれないという話を聞いて最終的に40という数字に落ち着きました。実際には予備で持ってきたiPhoneも追加で7台ぐらいは使っていたような気がします。ベースは演者1人に対して4カメラを設置し、ボーカル用のカメラはもう少し台数を増やしていたと思います。ピアノの手元に近いショットやアングルなど、iPhoneならではの表現はお気に入りのシーンです。
――iPhoneを使った撮影はこれからどうなるでしょうか?
木村 いまやiPhoneの技術の進歩はすごいですし、シネマカメラとの差がなくなってきているのは明らかです。2025年に公開されたホラー映画『28年後…』のようにiPhoneで撮った映画が劇場公開されて数字を出しているような時代ですから。これから先も楽しみなことだなと個人的に思っています。





※この記事はコマーシャル・フォト2025年12月号から転載しています。

特集「LEDライト最新活用術」&別冊付録「CM・映像 キャメラマン&ライトマンファイル 2026」。
巻頭特集ではフォトグラファー福岡秀敏が俳優・田中麗奈をLEDで撮り下ろし。さらに倭田宏樹、森山将人、川村将貴、須藤絢乃による現場事例や機材検証を通して、LEDライティングの実践的な活用方法を解説。「Aputure LED 4機種 実践検証」ではCOB型、パネル型、スポット型、ストリップ型という異なる光源を用い、静物撮影で検証。光の質や質感表現の違いを比較しながら、LEDライトの特性を具体的に探る。撮影と解説は中村雅也氏が担当した。
【広告特集】King & Prince「STARRING」のクリエイティブ
2025年12月24日発売のKing & Prince 7thアルバム「STARRING」。本企画では、収録曲それぞれを“架空の映画の主題歌”に見立て、1曲につき1本の特報映像を制作するという前例のないプロジェクトを徹底取材。本編は存在しないにもかかわらず、長編映画を想定した設計で10本の特報映像とポスターを制作。さらにレッドカーペットイベントや映画館での上映会まで展開するなど、アルバムの枠を超えた大規模なプロモーションとして構築されている。特報・ポスター制作全体のプロデューサー加藤諒氏をはじめ、3人の映像監督、アートディレクター、フォトグラファーが参加。企画設計の背景と制作プロセスをそれぞれの立場から語る。
【好評連載】
フォトグラファー生存戦略 Vol.36 小暮和音×黒田明臣「退路を断った行動から生まれた転機」
ゼウスのスチルライフマジック 高井哲朗 vol.60 イメージセンサーで描く未来の風景
長山一樹流 違いを生み出すコマーシャル・ポートレイト 第13回 建築とポートレイト
写真を楽しむスペシャリストたち 中野敬久 Vol.12 小髙美穂が考える写真の“今”
GLAY CREATIVE COLLECTION 2024 – VOL.21 TAKURO 4th SOLO ALBUM「May Love Guide Your Way」
Create My Book -自分らしいポートフォリオブックを作る- vol.19「ブツ撮り 記憶を感じさせる写真」金村美玖
ほか