錫のお猪口と琉球ガラスの杯で春の朧月に献杯
Photo&Words:Tetsuro Takai Photo: Kengo Hino

高井哲朗が
スタジオスチルライフ撮影の
アイデアと 愉しみを 伝授
創造主ゼウスのように
光を操って 宇宙を創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界
年春に独立したばかりの日野拳吾さん。
ポートレイトが得意ジャンルで、4月には個展も開催していたが、そんな日野さんをブツ撮りに誘ってみた。
彼が選んだ被写体は、錫のお猪口。
ならばゼウス高井は琉球ガラスの杯で、「春宵、月見酒」と洒落込もう。

日野くんに会ったのは APAの表彰式
丘の上に登った子供たち
組み写真が多い中で 1枚写真で完成してる
素敵な作品だった
あれから3年 今年4月には
『John Doe』というタイトルの
個展を開催していた
『John Doe』とは『身元不明人』の名前
個展の案内は こんな感じで
−「人はなぜ生きるのか」
という問いを出発点に、
“誰か”であり “誰でもない”存在を通して、
実存主義的な視点から“存在”の不確かさと
豊かさに触れようとした展示です−
なんとも 写真で哲学してるような
人間の存在をテーマにしている
そんな日野くんが
ブツ撮りをすると どんなかな?
被写体は 錫のお猪口
錫でできているお猪口は
水に含まれる不純物や
アルコールを醸造する時にできる
油の成分を溶かしてくれる
その特性で
お酒をまろやかで 芳醇な味に変化させる
変質 変色もしない
使い続けるほどに 風合いも出てくる
まさに 物事を深く考える人にピッタリ
人生の深み うまく表現できるかな
映し込みと 奥行き
影に哲学をつくることを
探っていく道
ライティングの組み立て

❸ broncolor Pulso+P70 standard reflector
カメラ:FUJIFILM GFX100 II
レンズ:FUJINON GF110mm F2 R LM WR 1/125秒 f8 ISO200

濃紺のカラーペーパーにスポットライト❶をあてて、その反射を水面に映し込む。


お猪口のフチにハイライトを入れる。
セッティング〜撮影

右手からのスポットライトと標準リフレクターライトは、後ろに吊るした濃紺のペーパーに向けて打っている。

この円形のスポットは画角には入らないが、ペーパーに反射した光が水面に月明かりのように映り込む。

少量の光だけをバウンスして、おちょこ内面とフチにハイライトを入れている。

スヌートの先に円錐形に丸めた黒ケント紙をつけて照射範囲を狭め、お猪口の底に向けて照射した。



ZEUS’S STILL LIFE MAGIC

日野くんの撮影 覗きながら
お酒も 少し頂きつつ 組み合わせを考える
京漆器 漆の黒と金
その上に 沖縄の琉球ガラス
琉璃(るり)の杯
艶のある漆の黒に
ボックスライトの光を反射させ
ガラスの透明感を出す
金の部分に アクリルに透過させた光で
柔らかなグラデーションをつくり
奥行きのある質感を 演出する
ガラスに光が反射して スポット的にあたるように
ハイライトを作り
深みのある緑のガラスに キャッチを入れる
黒ベースの中 緩やかに深い緑の森に
入っていけるように しっとりとしてながら
華やかさもある 色の物語を語るように
ほろ酔いの キリッしたお酒のあとの
締めくくりは 甘いデザートワイン
その特性によく似た 味醂を琉球ガラスに注ぐ
滑らかな液体は 揺らいで夢を誘う
まるで 洋酒のように
豊かで複雑な甘さが 広がります
デザートワイン
ドイツの貴腐ワイン
貴腐ワインは
特別なカビ(貴腐菌)によって
糖分が濃縮され 独特の風味と甘さを持ちます
味醂は
発酵によって 甘味が生まれ
米やもち米の 風味を持ちます
どちらも甘いけど
発酵の仕方や素材に 違いがあるんだよね
ヨーロッパでは
女性が 寝る前に飲むお酒として
甘口のアルコールが 親しまれてきたように
昔の日本でも
寝る前に 味醂を少しだけ飲んで
眠りにつく習慣があったとか
まろやかで 甘いお酒は
眠る前に飲むと リラックスできるよね
眠るに入る前
ナイトキャップ 含ませて
今宵も 甘い夢の世界へ
ライティングの組み立て

ライト:❶ broncolor Picolite+Picobox ❷broncolor Pulso Spot 4
❹broncolor Pulso+P70 standard reflector
カメラ:Canon EOS R6
レンズ:EF50mm F2.5 Compact Macro 1/125秒 f13 ISO100

光沢のある黒漆器の盆にフラットな面光源をあてると、
盆面が白(グレー)になるが、ライトを斜め逆光にすることで、
画面上には盆の上辺の影が落ち、光があたっていない画面下には漆器の黒色がそのまま残る。
この1灯で、漆器盆のグラデーション、杯の描写、杯を透過した光の映り込みがほぼ完成。

杯の左側にハイライトを入れると同時に、金箔右半分の明るさを補う。


セッティング

メインライトはアクリルボード越しの小型ボックスライトで、
琉球ガラスの緑を透過して味醂の琥珀色を盆に映し込む。

杯のフチについた飾り細工にあてている。

乳白アクリル裏に黒テープを貼って暗部を作る。
これで杯のフチの飾り細工もクリアに映り込む。


粘度の高い味醂は、立体的で大きな波紋ができるので、シャッタータイミングも合わせやすい。

日野拳吾 / ひの・けんご
2018年よりフリーランスとして活動。クロカワリュート氏、須田卓馬氏、青山裕企氏に師事し2025年春に独立。
現在はWEB広告等でポートレイトやプロダクトを中心に撮影。2022年、APA賞にて準グランプリとなるAPA特選賞を受賞。実存主義をテーマにした作品制作も行ない、2025年4月、個展『John Doe』を開催(@ユカイハンズギャラリー)。
Instagram:@inkr26
X:@h_kengoR26
note:note.com/hinkthink
高井哲朗
たかい・てつろう/1978年 フリーとして活動開始。1986年(株)高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
www.kenkyujo.co.jp/
x.com/tetsurotakai
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ほか