ゼウスのスチルライフマジック Vol.51

高井哲朗が
スタジオスチルライフ撮影の
アイデアと 愉しみを 伝授
創造主ゼウスのように
光を操って 宇宙を創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界

年春に独立したばかりの日野拳吾さん。

ポートレイトが得意ジャンルで、4月には個展も開催していたが、そんな日野さんをブツ撮りに誘ってみた。

彼が選んだ被写体は、錫のお猪口。

ならばゼウス高井は琉球ガラスの杯で、「春宵、月見酒」と洒落込もう。

Photo:日野拳吾

日野くんに会ったのは APAの表彰式

丘の上に登った子供たち
組み写真が多い中で 1枚写真で完成してる
素敵な作品だった

あれから3年 今年4月には
『John Doe』というタイトルの
個展を開催していた

『John Doe』とは『身元不明人』の名前
個展の案内は こんな感じで

−「人はなぜ生きるのか」
という問いを出発点に、
“誰か”であり “誰でもない”存在を通して、
実存主義的な視点から“存在”の不確かさと
豊かさに触れようとした展示です−

なんとも 写真で哲学してるような
人間の存在をテーマにしている

そんな日野くんが
ブツ撮りをすると どんなかな?
被写体は 錫のお猪口

錫でできているお猪口は
水に含まれる不純物や
アルコールを醸造する時にできる
油の成分を溶かしてくれる
その特性で
お酒をまろやかで 芳醇な味に変化させる
変質 変色もしない
使い続けるほどに 風合いも出てくる

まさに 物事を深く考える人にピッタリ

人生の深み うまく表現できるかな
映し込みと 奥行き
影に哲学をつくることを
探っていく道

ライティングの組み立て

ライト:❶ broncolor Pulsospot 4 ❷ broncolor Pulso+Snoot
    ❸ broncolor Pulso+P70 standard reflector
カメラ:FUJIFILM GFX100 II
レンズ:FUJINON GF110mm F2 R LM WR 1/125秒 f8 ISO200

水槽に水を張り、薄い石片の上に錫のお猪口を配置。
濃紺のカラーペーパーにスポットライト❶をあてて、その反射を水面に映し込む。
スヌート❷の光を黒ケント紙でさらに絞って、お猪口に真上から照射。
ライト❸をカラーペーパーの隅にあててバウンス。
お猪口のフチにハイライトを入れる。

撮影台に黒布を敷き、水槽を置いたセット。お猪口真上のストロボがメインライト。
右手からのスポットライトと標準リフレクターライトは、後ろに吊るした濃紺のペーパーに向けて打っている。
スポットライトは空に浮かぶ月をイメージ。
この円形のスポットは画角には入らないが、ペーパーに反射した光が水面に月明かりのように映り込む。
右上のライトは光の中心を外し、リフレクターから周囲に広がる光だけがペーパー右端にあたる角度にセット。
少量の光だけをバウンスして、おちょこ内面とフチにハイライトを入れている。
メインライトはお猪口の真上にセット。
スヌートの先に円錐形に丸めた黒ケント紙をつけて照射範囲を狭め、お猪口の底に向けて照射した。
撮影中の日野さん。
本番撮影では、水面にスモークを入れ、
ブロアでおちょこ内のお酒と、水槽の水に波をつくる。

ZEUS’S STILL LIFE MAGIC

Photo:高井 “ゼウス” 哲朗 

日野くんの撮影 覗きながら
お酒も 少し頂きつつ 組み合わせを考える

京漆器 漆の黒と金
その上に 沖縄の琉球ガラス
琉璃(るり)の杯

艶のある漆の黒に
ボックスライトの光を反射させ
ガラスの透明感を出す

金の部分に アクリルに透過させた光で
柔らかなグラデーションをつくり
奥行きのある質感を 演出する

ガラスに光が反射して スポット的にあたるように
ハイライトを作り
深みのある緑のガラスに キャッチを入れる

黒ベースの中 緩やかに深い緑の森に
入っていけるように しっとりとしてながら
華やかさもある 色の物語を語るように

ほろ酔いの キリッしたお酒のあとの
締めくくりは 甘いデザートワイン

その特性によく似た 味醂を琉球ガラスに注ぐ

滑らかな液体は 揺らいで夢を誘う

まるで 洋酒のように
豊かで複雑な甘さが 広がります

デザートワイン
ドイツの貴腐ワイン

貴腐ワインは
特別なカビ(貴腐菌)によって
糖分が濃縮され 独特の風味と甘さを持ちます

味醂は
発酵によって 甘味が生まれ
米やもち米の 風味を持ちます

どちらも甘いけど
発酵の仕方や素材に 違いがあるんだよね

ヨーロッパでは
女性が 寝る前に飲むお酒として
甘口のアルコールが 親しまれてきたように
昔の日本でも
寝る前に 味醂を少しだけ飲んで
眠りにつく習慣があったとか

まろやかで 甘いお酒は
眠る前に飲むと リラックスできるよね

眠るに入る前
ナイトキャップ 含ませて
今宵も 甘い夢の世界へ

ライティングの組み立て             


ライト:❶ broncolor Picolite+Picobox ❷broncolor Pulso Spot 4
    ❹broncolor Pulso+P70 standard reflector
カメラ:Canon EOS R6
レンズ:EF50mm F2.5 Compact Macro 1/125秒 f13 ISO100

乳白アクリル越しのボックスライト❶。
光沢のある黒漆器の盆にフラットな面光源をあてると、
盆面が白(グレー)になるが、ライトを斜め逆光にすることで、
画面上には盆の上辺の影が落ち、光があたっていない画面下には漆器の黒色がそのまま残る。
この1灯で、漆器盆のグラデーション、杯の描写、杯を透過した光の映り込みがほぼ完成。
右やや後ろ斜めからのライト❷のみ。
杯の左側にハイライトを入れると同時に、金箔右半分の明るさを補う。
スポットライト❸のみ。杯のフチにある花の細工にあてている。
ライト❶❷❸のミックス。ブロアで液面に波紋を作って撮影。

味醂を注いだ杯の乗った盆を3灯のライトで囲む。
メインライトはアクリルボード越しの小型ボックスライトで、
琉球ガラスの緑を透過して味醂の琥珀色を盆に映し込む。
左斜め前からのスポットライトは、レンズ効果で光を1点に絞り、
杯のフチについた飾り細工にあてている。
乳白アクリル越しメインライトの面光源を入れると、液面全体が白っぽくなってしまうため、
乳白アクリル裏に黒テープを貼って暗部を作る。
これで杯のフチの飾り細工もクリアに映り込む。
左:黒テープなし
右:黒テープあり
ブロアで風を入れて波紋をつくり撮影。
粘度の高い味醂は、立体的で大きな波紋ができるので、シャッタータイミングも合わせやすい。
波紋のバリエーション。

日野拳吾 / ひの・けんご
2018年よりフリーランスとして活動。クロカワリュート氏、須田卓馬氏、青山裕企氏に師事し2025年春に独立。
現在はWEB広告等でポートレイトやプロダクトを中心に撮影。2022年、APA賞にて準グランプリとなるAPA特選賞を受賞。実存主義をテーマにした作品制作も行ない、2025年4月、個展『John Doe』を開催(@ユカイハンズギャラリー)。
Instagram:@inkr26
X:@h_kengoR26
note:note.com/hinkthink

高井哲朗
たかい・てつろう/1978年 フリーとして活動開始。1986年(株)高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
www.kenkyujo.co.jp/
x.com/tetsurotakai

コマーシャル・フォト2025年07月号記事より

ゼウスのスチルライフマジック 記事一覧

コマーシャル・フォトで好評連載中の「高井哲朗/ゼウスのスチルライフマジック」がMOOKとしてまとまりました。
化粧品のボトル、ジュエリーから自転車、バイクまでさまざまな「ブツ撮り」に挑戦。

Vol.1
「ゼウスのスチルライフマジック

プロフェッショナルスタジオライティングのアイデアと実践」

Vol.2
「光を操るスタジオ・スチルライフ ライティングのアイデアと実践」

【特集】人気クリエイターの思考回路
話題作を次々と生み出す人気クリエイターは、何を考え、どこでアイデアを生み出しているのか。本特集では、広告・エンタメビジュアルなど様々なフィールドで活躍する6名へのインタビューを通して徹底取材。思考のプロセスや発想の起点、日常の習慣、創作の源泉、そしてプライベートまで、そのリアルに迫る。栗田雅俊/井本善之/吉兼啓介/有元沙矢香/吉良進太郎/泉田 岳

【特集】
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Mrs. GREEN APPLEのデビュー10周年を記念して虎ノ門ヒルズ・TOKYO NODEで開催された展覧会を、制作に携わったクリエイターへの取材を通して紐解く。
10年間で生み出された楽曲の背景にあったアイデアや対話を、いかに空間体験として構築したのか。そのコンセプト設計や表現のプロセスを掘り下げ、音楽と展示表現を横断するクリエイティブの現場に迫る。

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ほか