ゼウスのスチルライフマジック Vol.53

高井哲朗が
スタジオスチルライフ撮影の
アイデアと 愉しみを 伝授
創造主ゼウスのように
光を操って 宇宙を創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界

ゲストは写真家の中村 治さん。

クライアントワークではポートレイト、ドキュメントの撮影が多いが、

個人プロジェクトとして日本全国を回り、街のネオンサインを撮影。

2冊の写真集を出版している。

そんなネオン写真の専門家中村さんと、フィールドワークではなく、スタジオワークでネオンを撮ってみた。

場所は中村さんのスタジオ。

Photo:中村 治

中村さんって 不思議

以前「HOME-Portraits of the Hakka」という写真集で
「さがみはら写真新人奨励賞」を受賞していた

中国客家土楼の 歴史的建造物と
そこに住む人たちをテーマにした
直球で 重量感のある写真集だった

写真は 風景の背後に 思想と哲学を見せ
記憶の深い部分を 呼び覚ます

そんな考え方から
いろんな 旅をしてきたのかな?

ここ最近は 街のネオンを撮っている

今度は ネオンの懐かしい光そのものに
魅せられてしまったのか?


面白そうだったから ネオンサインをお借りして
中村さんのスタジオで ネオンの光に憧憬を探す
スペシャルテクニック見せてもらうことになった

ネオンのイメージって
「昭和」「哀愁」「失われた時間」「泡のような光」「夜の孤独」
「心の奥に残る色」

ネオンは 単なる照明じゃなくて
記憶や感情を照らす光

写真は 記録だけど
“見えない余白”
そんなものも 記憶から引き出せるものなのか?

中村さんは
見えないものを どう 撮るんだろ

ライティングの組み立て

ライト:❶COMET CB-25H+Photoflex Litedome
    ❷❸HEKEE LEDスマート電球 12W(100W相当)
カメラ:Sony α7 R V
レンズ:TS-E90mm F2.8LMacro+マウントアダプター+NDフィルター 3.2秒 f20 ISO50

被写体は木樽熟成前の無色透明なウィスキーのボトル。
三脚ポールの上にセットしている。
ネオンサイン手前には黒アクリルボードを置き、ネオン文字を映り込ませた。

ネオンのみの撮影。露光時間は3.2秒。
ボトル上部はネオンの光が直接透過して、ボトルのレンズ効果で鏡文字となる。
ボトル中央には、黒アクリルボードに反射したネオンの文字が映っている。
ライト❶❷❸を点灯。ライト❶はソフトボックス。
黒フラッグで光を半分カットして、ボトル左サイドに縦のハイライトを入れている。
ライト❷❸はカラー調光が可能なLED電球。
本番撮影では、ポールの先端につけた2つの電球を動かして、光のラインを描いた。

撮影場所は中村さんのスタジオ。
壁際に黒布を垂らしてネオンを設置。「祭」のネオンは神輿になっている。
ネオン協力:東京システック 小野利器
黒アクリルボードを置き、さらにその手前にポールを立ててボトルを載せた。
撮影のためラベルは剥がしているが、被写体のボトルは亀田蒸溜所 NEW POT NONPEAT 2025。
ボトルの左サイドのソフトバンクライト(ストロボ)。
ライト前に黒フラッグを立てて光を半分カット。
ボトルに入る縦のハイライトの幅を調整している。
ポールの先端につけた二つLED電球を、ボトル背後で動かしながら撮影(3.2秒露光)。
LED電球はリモコン操作で色の調整が可能。
露光中も色を変えて複数の色の重なりを描いている。
ボトルからネオンまで距離は3メートルほど。
90mmレンズの「望遠圧縮効果」で背景のネオンを大きく見せつつ、
ボトルとネオンの間にLED光のブレを入れることで、
まるで実際の夜の街で撮影したかのような写真に仕上げた。

ZEUS’S STILL LIFE MAGIC

Photo:高井 “ゼウス” 哲朗 

中村さんの事務所 『トラムヨガスタジオ』に到着

普段はヨガスタジオとして 使われているみたいで
天井が高くて 気持ち良い

中村さんの撮影セットは ほぼ 完成していて
真ん中に 祭のネオン
その下に NEON NEON
中村さん 黒Tシャツにも NEON NEON の文字

思った通り 直球勝負 ど真ん中
モニターには 祭とNEONが映っていた

さてね どうする ゼウス


スタジオの反対側の壁に 中村さんの写真が 飾ってあった
チベットの美しい景色
澄み切った光が 美しい

この壁際のカウンター 使わせてもらおう

撮影テーマは ネオン
光 そのものだからね
ライティングは どうしようかな?
ちょっと考え グラス ボトル シェーカーを
BARのイメージで 並べてみた

BARの鏡に ネオンが見える
直接 ネオンを撮るんじゃなく
反射させてみる

ネオンがはっきりと映るように 表面反射鏡を置き
さらに 半分透けるように ハーフミラーも加えた

「祭」のネオン 「NEON NEON」の文字
バランスよく配置するのは 思った以上に 大変
ライブビューで 確認しながら 微細に鏡を動かす

ネオンに ピント合わせると 距離の関係で 他がボケる
それで平面の空間に 奥行きを出す

時間軸のズレた 空中感覚 トンネルにいるような設定

記憶が 香港の旺角(モンコック)
油麻地(ヤウマティ)に 飛んだ
油麻地 廟街(男人街) ネオンと露店の光
華やかだった九龍半島の ネイザンロードの看板

鏡を動かすうちに また 別の空間が現れる

道頓堀から 難波のほうに 祭のネオン あとにして
ほろ酔いの 道すがら
「ねぇ 何もしないからさ ここで 休憩していかない」
なんてね

快楽の時間と歩む 享楽の記憶の懐かしさ

光は ここちよく
生きている喜びに 満ちあふれてる

enjoy a happy life

ライティングの組み立て             

ライト:❶室内 ❷COMET CB-25H+Photoflex Litedome ❸LEDのハンドライト(懐中電灯)
カメラ:Canon EOS R6
レンズ:EF100mm F2.8L Macro IS USM 0.8秒 f11 ISO100

スタジオの室内光を落とし「祭」ネオン点灯。
「NEON NEON」の白色ネオン点灯。
カウンターの上の室内光❶を点灯。
グラス、ボトルがうっすらと見えてくる。
ソフトボックス❷を発光。
ストロボの出力は最小、モデリングライトをオンにしたままで 0.8秒露光。
背景の壁にほのかな明るさを作る。
鏡に映るネオンの光に対し、室内光だけではグラスの存在感が弱く感じられたため、
LEDハンドライト❷をカウンターのふちの高さから照射。
露光中、細かく上下に振り、縦のハイライトを作っている。
ネオンの文字が鏡像になるため、P107の完成カットは、
データを反転して「鏡に映っている」感を出さないようにした。

スタジオの壁際にあるカウンターテーブルにグラスやシェイカー、ボトルなどを並べる。
壁に飾られているのは、中村さんがチベットの寺院で撮影した写真。
グラスの間に2種類の鏡を立てる。Aが表面反射鏡(スパッタリングミラー。
ガラス表面に金属蒸着をした鏡)。Bがハーフミラー(角度により光の一部を透過する)。
「祭」のネオンの後ろから、グラス、鏡を並べたカウンターテーブルを見たところ。
カウンターテーブルまでの距離は7メートルほど。
スタジオの奥行き(10メートル)を目一杯つかった撮影となった。
カウンターテーブルと壁の間に、ソフトバンク(ストロボ)を上向きにセット。
モデリングをオンにしたままストロボ発光することで、背景の壁に暖色系の光を入れる。 
カメラのライブビューをモニターで確認しながら、2枚の鏡の角度を調整する。
ネオンとの距離があるため、なかなか難しい作業。
写真1 が鏡を置いていない状態。
写真2 が表面反射鏡を置いた状態。
ネオンの光をそのまま反射するため、0.8秒の露光でかなり明るく写る。
写真3 がハーフミラーを置いた状態。
光を一部透過するため、反射がやや暗く、また背後のグラスも透けて見えている。

中村 治 / なかむら・おさむ
1995年から2年間、中国北京にて語学留学中、ロイター通信社北京支局の現地通信員として写真を撮ることから写真家としてのキャリアをスタート。帰国後、雑誌社カメラマンを経て、鳥居正夫氏に1年間師事。坂田栄一郎氏に4年間師事。2006年独立。
2019年、『HOME-Portraits of the Hakka』(LITTLE MAN BOOKS)を上梓。同作で第20回さがみはら写真新人奨励賞受賞。土門拳賞最終候補。
2021年、東京周辺のネオンのある風景を撮り集めた写真集『NEON NEON』(LITTLE MAN BOOKS)を上梓。2025年、全国のネオンのある風景を撮り集めた写真集『NEON TOUR』(LITTLE MAN BOOKS)を上梓。右写真は写真集『NEON TOUR』。
HP: https://samphoto.jp/ Instagram:@samphoto36

高井哲朗
たかい・てつろう/1978年 フリーとして活動開始。1986年(株)高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
www.kenkyujo.co.jp/
x.com/tetsurotakai

コマーシャル・フォト2025年09月号記事より

ゼウスのスチルライフマジック 記事一覧

コマーシャル・フォトで好評連載中の「高井哲朗/ゼウスのスチルライフマジック」がMOOKとしてまとまりました。
化粧品のボトル、ジュエリーから自転車、バイクまでさまざまな「ブツ撮り」に挑戦。

Vol.1
「ゼウスのスチルライフマジック

プロフェッショナルスタジオライティングのアイデアと実践」

Vol.2
「光を操るスタジオ・スチルライフ ライティングのアイデアと実践」

【特集】人気クリエイターの思考回路
話題作を次々と生み出す人気クリエイターは、何を考え、どこでアイデアを生み出しているのか。本特集では、広告・エンタメビジュアルなど様々なフィールドで活躍する6名へのインタビューを通して徹底取材。思考のプロセスや発想の起点、日常の習慣、創作の源泉、そしてプライベートまで、そのリアルに迫る。栗田雅俊/井本善之/吉兼啓介/有元沙矢香/吉良進太郎/泉田 岳

【特集】
Mrs. GREEN APPLE Wonder Museum MGA MAGICAL 10 YEARS EXHIBITION
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10年間で生み出された楽曲の背景にあったアイデアや対話を、いかに空間体験として構築したのか。そのコンセプト設計や表現のプロセスを掘り下げ、音楽と展示表現を横断するクリエイティブの現場に迫る。

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ゼウスのスチルライフマジック 高井哲朗 vol.58 望遠マクロを使ってスウィートでエレガントな絵作り
ほか