写真を楽しむスペシャリストたち Vol.02 井本善之が求めるフォトグラファー像

アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。

井本善之(いもと・よしゆき)

2008年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒、同年電通入社。「無視されないものを作る」ことをモットーに、メディアにとらわれないアートディレクション、プランニングを行なう。著書に「クリ活 広告クリエイターの就活本」(2013)、「クリ活2 クリエイターの就活本/AD 編」(2021)。

中野 井本さんの作品は、写真をすごく効果的に使用されているイメージがありました。今回のインタビューの入り口として、まずは写真の扱い方について、その考えをお聞きしたいと思っています。

井本 写真って、基本的にはありのままを写すものだと思うんです。僕が写真を使う時に意識するのは、ありのままであるというフリを活かして、視点をずらしギャップを演出するか、思い切りリアルな部分を引き出していくかです。タレント広告だとしても、どちらかに振り切ることで、違和感を持たせることができます。今や、国民総カメラマンといっても差し障りがない時代になっているので、普通に撮った写真だと埋もれてしまいます。写真のクオリティは前提として、違和感を効果的に取り入れる手法は、広告的にも有効だと思っています。

中野 “視点をずらす”、というのはフォトグラファーに対してもそのようにオーダーするんですか?

井本 そうですね。まず、普通にしたくない、ということは大体伝えます。広告は最も無視される表現物だと思うので、まずはそこの土俵を越えられるフォトグラファーにお願いすることが前提です。そのビジョンを共有できる人、そこを相談しやすい人として、大学時代からの同級生である高梨遼平さんにお願いすることが多いですね。実力はもちろん、性格も最高なので、コミュニケーションが取りやすい。写真としての美醜だけではなく、こうした方が面白くなるなどのアイデアを重ねることで、想定を越えた写真が上がってくるんです。

中野 ちなみに、井本さんが求めるフォトグラファーからの提案って、どこからどこまでになるのでしょう?

井本 僕の考えや感覚とは違ってもいいので、何でも提案してもらいたいです。なので、相手に余白を残しておくような依頼の仕方をすることもあります。

中野 例えば、タレント広告の場合だと、フォトグラファーが考えることは、表情や距離感がメインとなり、タレント広告ゆえに表現の枠組みが決まってきてしまうことも多く、フォトグラファーとして何ができるかはいつも自問自答する部分があるんですよね。そうすると、ライティング技術は当然として、できることはコミュニケーションしかないかなと。

井本 タレント広告はそうかもしれません。言語化が難しいのですが、写真の色気というか、グッとくる感じが欲しいんです。例えば、こういう表情でハッピーな写真を撮りたいんだとオーダーするとして、明るい表情で撮影できる人は結構いるじゃないですか。僕の主観かもしれませんが、そこに、品や色気を乗せることができる人が理想ですね。広告って下品になりがちなんですけれど、プロが見ても丁寧に作られている印象を感じさせるのは、写真の色気なんじゃないかなと。

中野 外した表現でも広告としての品が保てる写真が理想ということですね。

井本 そこはかなり気をつけているところで、昔はなかなか上手くいかなくて。そのバランスが定まり始めたのがこの5〜6年で。それはやっぱり、上手なフォトグラファーの方々のおかげです。

中野 その他、フォトグラファーに求めていることはありますか?

井本 今、ロケで撮るふんわりとした写真が多いじゃないですか。流行に左右されない、確かな技術とゴールイメージを共有できる方、そういった流行だからこそ、逆に作り込んだ写真を撮るフォトグラファーに興味があります。例えば、あまり仕事をご一緒していない方で言うと、toki さんや永倉航介さんが気になります。偶然ではなく、技術やアイデアで「普通にさせない」絵作りができる方と、一緒に仕事をしたいですね。

中野 逆を行くマインドというのは井本さんらしい考えだと思うのですが、その考えに至ったきっかけはありますか?

井本 大学生の時に自分自身の広告を作る課題があり、70人くらいの生徒から投票で1位を決めるという授業があったんです。僕はどうしても1位を取りたくて、みんながかっこいいものを作ろうとしているのはわかっていたので、同じ土俵に上がって票が割れるのを避け、真逆のことをしたんです。ホストの格好をした僕の周りに、女装した水着の僕を30体くらい配置して、「自分のことが大好き」という謎コンセプトのビジュアルです。そうしたら、見事に1位を取ることができたんですよ。要はカウンターです。

中野 カウンターというのは、すごく興味深い話ですね。今後、フォトグラファーやそれを志す人にとって、人と差を付けるために大切な意識って何だと思いますか?

井本 結局、重要になるのはその人ならではの視点、つまり作家性しかない気がするんです。そのためには、やっぱり数を見るしかない。今どんな写真があって、今までどういう写真が残されてきたか。みたいなことを考えつつ、隙間を狙うのか、王道で行くのかを選択しなければいけないのかなと。

中野 客観性はとても大切ですよね。

井本 自分が面白いと思うものをどう理解してもらうか、そして人が面白いと思うものの中に、自分が面白いと思うものをどう見つけるか。これをセットで考えないとお金にならない。この記事を読んでいる多くの人に希望を持たせたいけど、現実は大変だと思います。さらに、AIの発達による影響も出てくるので、ディレクション能力やビジョニングといった、AIだと難しいことが武器になりそうです。

中野 おっしゃる通り、今の若いフォトグラファーは、自分でディレクションをすることも含めて武器にしている人が増えている印象です。彼らとアートディレクターの関係性がWin-Win になるのが、今後の理想なんだろうと思っています。

井本 今後、広く色んなことができるディレクター的なフォトグラファーと、深くできる作家的なフォトグラファーの二極化になる気もします。そして、前者は我々アートディレクターと競合になる可能性もありますね。

中野 要約すると、フォトグラファーもエクストリームであれということだと思うんです。ただ、言うのは簡単ですけれど、実際成り得るのは難しいです。

井本 例えば、それこそコミュニケーション能力を磨き上げるのもひとつの手かと。仕事相手とコミュニケーションがきちんと取れれば、寄り添えたりアイデアを出し合えたりもできる。

中野 やはり全方位的なコミュニケーション能力が求められるという理解でいいんですかね?

井本 全方位で話せる人の方がチャンスは広がるので、価値はあると思います。クライアントに対してその人なりの相談や提案ができれば、あとは相性の問題だけなんじゃないでしょうか。

中野 僕はコミュニケーションが苦手という若者に対して、居酒屋のバイトを勧めたりします(笑)。

井本 鍛え方としてはアリですよね。僕はバラエティ番組が好きなので、芸人さんのトークが参考になっています。元陸上選手の武井壮さんも、芸人のように喋りたいと思い、彼らが集まるバーに行って喋りのスキルを学んでいたらしいです。彼らのお喋りを聞いて、自分で特訓することで面白く喋れるようになった。喋りは鍛えられるんですよ。

中野 撮影現場でコミュニケーション能力が試されるのは、どんな場面ですか?

井本 フォトグラファーさんなら、被写体の方に撮影意図や目的のビジュアルをきちんと伝えるといった場面でしょうか。僕が伝えることもありますが、やっぱり被写体の一番近くで撮っているフォトグラファーが伝えた方がいいです。誰かを挟むよりもスピードが速いので、個人的にはそういったスキルのある方にお声がけすることが多いですね。

中野 僕が雑誌撮影を止めない理由もそこにあります。エディトリアルって撮影時間が10分とか、タイトなものが多くて、被写体に素早く意図を伝える必要があるんです。訓練にもなりますし、それを何度か繰り返した相手だと、バイブスが合ってくるんです。

井本 広告撮影だけでは得られない経験ですね。そういう人たちと仕事をすると、やっぱり被写体の表情を上手く引き出してくれる印象です。

中野 お互いのプロ認識が共有されるというか、広告の現場だと一歩引いているスタッフが多く、被写体本人も乗り切れない時があると思うんです。過去に何度か撮影経験があると、違う空気感を作れるから引き出しやすいなと思います。

井本 競争率も高い業界の中で、作家性に技術、ディレクション能力、コミュニケーション能力など、様々な面でプロモーションしていく必要がありますね。

森ビル / 虎ノ門ヒルズ 「WELCOME TO TORANOMON HILLS.」

壮大な建築物とそこに生きる人たちを魅力的に描いた仕事です。フォトグラファーの高梨遼平さんと幾度となくロケハンを行なった渾身のカットの集積が、虎ノ門の街全体に掲出された時は、街の景観を「邪魔する」広告ではなく、街に「飾られる」広告と感じられました。(井本)

NAKANO’s COMMENT
井本さんには、フォトグラファー、アートディレクターに限らず、クリエイター全般に求められるコミュニケーション能力の地平をわかりやすく説明していただきました。確かに楽観的な内容ではありませんが、逆手に取ってみれば、楽しんで写真を撮るための指針にもなりますね!

Q1 写真の好きなところ
良くも悪くも「ありのまま」を写すところでしょうか。そこに写るものを嘘にも誠にもできる。どちらにもさせることができるところが、写真ならではの好きなところですね。

Q2 最近気になるフォトグラファー
最近というか、ずっと気になっているのは興村憲彦さんです。人物も風景もプロダクトも、何を撮ってもグッとくる写真を撮る方だと思います。しかも面白くていい人ですよね(笑)。

Q3 業界を目指す人へ
好きだけで終わらないように、仕事に必要なスキルを磨くのも大切です。プロとして一般の方とわかりやすく差をつける技術や知識が差になってくるんじゃないでしょうか。まずは地盤固めが大切。

Q4 衝撃を受けた写真
アインシュタインのポートレイトです。あの写真ってみんな知っているじゃないですか。天才なのに、ベロを出して茶目っ気のある表情。強いし、太いし、面白い。僕の好きな要素が詰まっています。

Q5 フォトグラファーと出会う場所
フォトプロデューサーに教えていただくことが多いです。案件ごとにいい方がいないか、聞くようにしています。あとは、仲良しのデザイナーやレタッチャーに気になっている方を聞くこともあります。

Q6 キーアイテム
いつも使っているBALENCIAGA の鞄です(笑)。ハイブランドなのに、落書きだらけのこのデザインが好きで、積み上げてきたものを壊す、守りに入らないというイズムに共感できるんです。

中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/


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