写真を楽しむスペシャリストたちVol.13 児玉七美に聞くプロデューサーの役割

アートディレクター、キュレーター、編集者など写真を扱うクリエイターに、フォトグラファー中野敬久氏が取材を行う連載企画。
それぞれのフィールドにおける写真の役割や、求められているフォトグラファー像などを聞くことで、写真業界に対する理解度の向上を目指していく。

児玉七美 (こだま・ななみ)

2009年 横浜スーパー・ファクトリー入社。スタジオアシスタントを経て、フォトプロデューサーへ。退社後、なないろを経て 2023年 echo 設立。最近は広告だけでなく、アーティストのアートワーク、映画ポスターなどのフォトプロデュースにも携わる。
HP:https://hello-echo.jp Instagram:@codama773

中野氏が組んだセットを使用して、本人が iPhone でリモート撮影。

中野 プロデューサーという仕事に就いた経緯が知りたいです。

児玉 可愛い包装紙が好きで、そういったプロダクトに関わりたくてグラフィック志望で芸術大学に入ったんです。でも、当時は就職が思うように決まらず悩んでいて、気持ちを切り替える意味もあり、日本写真映像専門学校に入学しました。

中野 グラフィックから写真への転身は思い切りましたね。

児玉 そしたら、写真がとても楽しくて。2年間勉強した後は大阪の会社に就職して、料理写真などを撮っていました。ただ、どうしても広告の仕事がしたいと思い、広告を最前線で撮影しているスタジオで学ぶために旧・横浜スーパー・ファクトリーにスタジオアシスタントとして就職をしました。

中野 児玉さんがそこまで広告写真にこだわっていた理由は?

児玉 老若男女、たくさんの人に見ていただけるからですね。当時は今と比べて、紙の広告を目にする機会も多く、渋谷や原宿に貼り出された巨大な広告写真を見て影響を受けていました。

中野 当時は、広告グラフィックの全盛期でしたよね。

児玉 スタジオアシスタントを3年くらいやって、卒業するかというタイミングで腰を痛めてしまったんですが、先輩に「児玉は周りをよく見られるタイプだから、プロデューサーに向いてると思う」とアドバイスをいただき、採用試験を受け、プロデューサーとして入社しました。

中野 実際、プロデューサーとしての業務に充実感はありましたか?

児玉 それよりは大変さの方が勝っていました。スケジュールや予算管理はもちろん、現場の段取りも考えなくてはいけない。時間に追われて1年くらいは全く余裕がありませんでした。今思えばとても贅沢な時間ではあったんですけど、当時は辛かったですね(笑)。いい時代に勉強させてもらったなと思います。

中野 プロデューサーとして最も重要な要素は何でしょうか?

児玉 コミュニケーションですね。この人は何がしたいのか、何に重きを置いているのか。それを理解するにはコミュニケーションしかないので、できる限り対話をしたいなと思っています。コロナになってからは、打ち合わせもリモートが増えて、現場で初めてお会いするパターンも増えがちですが、積極的に打ち合わせを提案したり、オンライン会議を活用したりして、なるべく多く話す機会を設けています。

中野 フォトグラファーをキャスティングする時、どのようなことを判断材料にしているのでしょう?

児玉 その人が何を大切に撮影に臨んでいるのかを知っておきたいです。会話が上手いのか、寡黙であるのかを気にされる方もいますが、携わっているスタッフの皆さんが生きる現場を作るのがプロデューサーの仕事です。なので任せていただいても構いません。

中野 スタジオアシスタント時代から、長年様々な現場を見てきた中で、広告写真業界にどのような変化を感じますか?

児玉 この言葉が適切かどうかわかりませんが、何でも撮れる器用な人が増えたと思います。昔は化粧品、缶ビール、男性など専門分野で絶対的に分かれていた印象がありましたが、今は色々撮れる人が求められる時代になってきました。予算の問題だったりもしますが…。

中野 ちなみに器用さがありつつも、その中で抜きん出ているフォトグラファーは何が違うと思われますか?

児玉 自分のトーンをしっかり持っているかどうかですかね。広告は作品ではありませんが、「こう撮りたい」という強い意志がないと、奥行きのない写真になってしまいます。誰が撮っても同じではないから、色々なフォトグラファーに頼んでいるわけですし、私たちが想像した画を超えた写真を撮影できるのは、その方が持っているトーンがあるからだと思います。

中野 その意味のトーンって、言語化が難しいですよね。

児玉 そうですね。ライティングの癖や表情の引き出し方だったり。フォトグラファー頼みというわけではありませんが、ビジュアルの質を最終的に引き上げてくださるのが、皆さんの持つトーンなのかなと。同じ被写体の写真が並んだ時でも、「中野さんっぽい」みたいに思うじゃないですか。

中野 好みの表れみたいなことですよね。フォトグラファーのトーンを一番見ているお仕事だと思うのですが、どこに注目して写真をご覧になっていますか?

児玉 フォトグラファーへの理解を深めるには、紙のブックでできるだけ多くの作品を見るのが一番かなと思います。広告ではバキバキの写真を撮っているのに、本当はしっとりとした写真が好きで、幅のある人なんだな、とか。そういうのが知れるのは、やはりブックですよね。それに、ブックを持ってきていただくと会話するじゃないですか。その時に人となりを感じることができる。写真は ADが求めている質感だったとしても、フォトグラファーと AD の組み合わせが合わないこともありますから、それって人となりがわからないと判断ができないんですよね。

中野 ADへのプレゼンはどんな形で?

児玉 ひとつの案件に対して、まずは4人くらい提案します。私の場合、提案するフォトグラファーのグラデーションに幅を持たせるようにすることが多いです。例えば、ライティングで柔らかめが得意な方から、ちょっと硬めが得意な方といった具合です。写真では見えにくいコミュニケーション能力については、プレゼン資料に書くことが多いですね。「ライティングの幅もありフレキシブルに撮影ができる。表情をたくさん引き出せる方なので被写体とのコミュニケーション能力も高いと思われます。」みたいな。

中野 そのリファレンス用の資料写真はどこから探してきているのでしょう?

児玉 プレゼンの第1段階としては、ホームページや Instagram の写真を参考にすることがほとんどですね。その中から選んでもらったフォトグラファーは、さらに細かいシートを作ります。面識のある方だったら連絡して、参考になりそうな写真を送っていただくことも。

中野 探す時はどこを入口にすることが多いですか? フォトグラファーが広告写真を撮りたいと思っても、広告の場合だとその入口がとても狭く感じます。

児玉 同業者から紹介されることもありますが、今だと Instagram でお仕事を見ることが圧倒的に多いかもしれません。投稿にタグ付けされているスタッフを辿って、さらにその先を見て、また戻ってきたりみたいなことを繰り返すんです。「この写真この人だったのか」とか、「この人たちは繋がってるんだ」みたいなことを調べていきます。

中野 音楽をディグる作業と近いですね。ディグられる側としては、アピールの仕方が難しいんですけどね…。

児玉 そこでおすすめしたいのが、やっぱりブックです。デジタルの時代だから作っていない人も意外と多いのですが、「ブックを見てください」と言える人はガッツがあるなと思います。ブックで見た写真が印象に残っていて、仕事に繋がることだって多いんです。Instagram においては、作品についての考えを自分の言葉で書ける人も素敵だなと思います。ぶっきらぼうでもいいので、ちゃんと書いている人には惹かれます。ちなみに中野さんは Threads って使われてますか?

中野 見てますね。

児玉 Threads には色んなフォトグラファーがいますけど、話題になるのは「撮影のギャラがいくらでどう思う?」みたいなお悩み系トピックが多い印象です。

中野 その人たちの疑問って、実は全部『コマーシャル・フォト』で特集されているようなことだったりするんです。目先の悩みや華やかな一面に気を取られて、広告写真業界のリアルさが伝わっていないのかもしれません。

児玉 業界に入る流れが変わってきていますからね。活躍しているフォトグラファーの直アシについたり、広告撮影の多いスタジオに勤務するといった昔ながらの道筋ではない人が増えてきています。

中野 そういう人たちにとっても、有益な内容になればと思い、始めた連載でもあります。

児玉 広告はちょっと特殊な世界ですからね。商品を売るためのビジュアルなので、いい写真が撮れればいいというわけではないです。引き出しの多さ、その人らしさとなるトーンなどを身に付けつつ、それらをクリエイターにアピールして、仕事に繋げていく必要があります。中野 その架け橋になってくれるのが、プロデューサーということですね。

asics WALKING 寄り道を愛そう。

撮影は福岡秀敏さん。まるでそこで生活しているように見せるために、スタッフと丁寧に会話していく。ロケ地、キャスト、光の見え方をセレクトしていく。衣装、ヘアメイク、表情、ひとつひとつ意味を持たせて丁寧に映し出す写真がとても好きです。(児玉)

NAKANO’s COMMENT
児玉さんのように広告写真に深い愛情を持って向き合う方と話す中で、フォトグラファーとしてもがいていた頃の自分を思い出しました。広告写真を志す中でぶつかる壁の答えは、いつも本誌『コマーシャル・フォト』の中にあったのだと、あらためて実感しています。

Q1 写真の好きなところ
1枚に全てが詰まっているところです。光と影、構図、表情、その時の温度や湿度など、撮った人にしか見えない一瞬を見せてもらえる。それが全てだなと思っています。

Q2 最近気になるフォトグラファー
仕事柄多くのフォトグラファーを知っておかなければならないので、どんな方でも気になっている状態です。Instagramで仕事ページと作品ページを分けているアカウントは特に追いたくなります。

Q3 業界を目指す人へ
写真をたくさん撮り続けていくことはもちろんですが、自分の好きな写真を曲げないことも大切です。その両立によって、その人なりのトーンが作られていくのだと思います。

Q4 衝撃を受けた写真
ヘルムート・ニュートンの写真集です。その中でもファッションフォトをまとめたものが特にインパクトがありました。彼のトーンを突き詰めた表現だと感じています。

Q5 フォトグラファーと出会う場所
フォトグラファーのお弟子さんや、スタジオマンの方など、出会う機会は多いです。自分で新しいフォトグラファーさんを探す場合は、やはり Instagram が一番多いですね。

Q6 キーアイテム
アイテムではないのですが、愛犬のむぎこ(左)ときなこ(右)を連れてきました。朝起きる、夜寝る、部屋をきれいにするなど当たり前のことを守れているのは、この子たちのおかげです。

撮影・インタビュー

中野敬久(なかの・ひろひさ)

1993年渡英。ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティングで、写真、映像を学び、スタジオにて数々のアシスタントを経験後、帰国。VOGUE のイタリア版メンズファッション紙「L’UOMO VOGUE」をはじめとするファッション誌や国内外の俳優女優、アイドル、ミュージシャン、文化人など枠にとらわれないポートレイト撮影で、広告、CD ジャケット、雑誌など幅広い媒体で活動中。
https://www.hirohisanakano.com/home/
https://www.instagram.com/hirohisanakano/



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