フォトグラファーやアートディレクター、クライアントの意図を汲みながら、写真や動画を仕上げるレタッチャーという職業。言うまでもなく、広告写真の分野ではなくてはならない存在だ。
その先駆けとして独自の技法を駆使し、誰もが一度は目にしたことがあるグラフィック広告やCMを数多く手がけてきたレタッチカンパニー「foton(フォートン)」。1988年の創業以来、業界屈指の技術力とクオリティで長年、多くのクリエイターやクライアントから信頼を得続けてきた。
確かな技術力、クオリティへの意識、納品までのホスピタリティ、業界を先進するチャレンジ精神は一体どのように培われているのか。
この座談会ではfoton若手社員のレタッチャー2名と、彼らと共に創り上げるプロデューサー3名に集まってもらい、その秘密に迫った。若手社員の視点でそれぞれの仕事を語ってもらうことで、fotonで働くことの魅力、レタッチャー、プロデューサーとしての仕事の楽しさが見えてきた。
――広告に関わるお仕事もいろいろありますが、その中でもfotonに入社を決めた理由を改めて聞かせてください。
津野晃士(プロデューサー/入社2年目):もともと広告業界に興味があり、雑誌や写真集を買って読むことが好きで、自分もいつか創る側になってその一端を担いたいという思いで就職活動をしていました。
fotonを選択した理由としては、入社前に数ヶ月間アルバイトとして働いていた時期に、自分が知っているフォトグラファーなど有名な広告の仕事を多く目にし、自分も一流の方々と一緒に仕事をしてみたいとの思いが決め手となりました。
石原佳汰(プロデューサー/入社4年目):僕は大学時代に広告を作るサークルに入っていて、グラフィック広告を主に制作していました。
仕事でもグラフィックの世界に携わりたいと強く思っていました。
とはいえ、美大を卒業しているわけでもなく、自分で手を動かせるわけでもないので、自身の長所であるコミュニケーション能力を活かせる営業やプロデューサーとして仕事がしたいなと。そこで出会ったのがfotonでした。
扱っている仕事の規模も大きく、広告の質をより高めていくという社内外問わず一流が集まる環境だと感じ、自分を成長させていく環境にはこれ以上ないと思い、それが決めてとなりました。
高村梨里(プロデューサー/入社1年目):私も広告のクリエイティブに関わりたいと大学ではデザイン学科を専攻していました。
PM(プロダクションマネージャー)の勉強、プロジェクトの進行管理やリスク管理を少し学んでいたので、それを活かせればと思いfotonに応募しました。
大きな規模の仕事が多かったので、責任感を持って仕事ができるかなと。
山田七瀬(レタッチャー/入社7年目):大学時代は建築を学んでいました。自分の設計をプレゼンする時、現地の写真を撮って作った模型と合成するのですが、そこで合成にハマってしまったんですね。
そこからレタッチにも興味が出てきて、人の顔をレタッチするのが好きだなと。
fotonは、化粧品なども多く担当しているので、携われたら楽しそう! と思ったのがきっかけでした。
西野未悠(レタッチャー/入社1年目):私は大学で写真学科を専攻しましたが、フォトグラファーになるという将来がしっくりこなかったんです。
でも、写真関係には携わりたいと思った時に、レタッチャーという職業があると知り、これだ!と。レタッチ会社を探す中で、ご縁があったのがfotonでした。
若手社員5名に聞く、fotonってどんな会社?
――具体的なお仕事の内容も聞かせてください。どういった流れでfotonに依頼があり、レタッチ業務が進んでいくのでしょうか。
石原:大きく分けて2つの流れがあります。
1つは、フォトグラファーからレタッチャー指名が入る場合です。
その場合はプロジェクトが動き出す前から「fotonの誰々さんにお願いしたい」と声がかかります。
そして、もう1つが特に指名はないけれどfotonにお願いしたいというルート。この場合は、プロデューサーに連絡が入り、動き出すという感じです。
――fotonでは、ルームと呼ばれるチーム制を取っているとお聞きしました。
石原:レタッチャーはチーム制です。
弊社の看板レタッチャー、例えば村山輝代、福井 修、栗下直樹の場合はほとんどが指名なので、その場合はそれぞれのチームで担うことになります。
特に指名がない場合は、担当のプロデューサーがイメージに合うレタッチャーに依頼する形になります。全体のバランスを見ながら仕事を割り振り、チーム内での作業分担は各々話し合って進めていきます。
その中で、プロデューサーはクライアントとレタッチャーをつなぐ役割だと考えています。
――それぞれ仕事にやりがいを感じるのはどんな瞬間でしょうか。
山田:レタッチャーとしては、自分が関わった広告がOOHとして街に掲出された時は本当に嬉しいですね。
達成感もあるし、本当にレタッチャーをやっていてよかったなと。「私がやったんだよ」と自慢できるのは嬉しい瞬間です。
石原:今、山田が言ったようにやはり自分が携わったものが世の中に出る、というのは何ものにも代えられないと思います。
実際に手を動かしているレタッチャーはもちろん、僕らプロデューサーも感じることですね。
実を言うと僕の場合、自ら手を動かしているわけではない、ということが少なからずコンプレックスでもあるんですよ。
山田:そうなんだ。彼の本音を今初めて聞きました(笑)。
石原:日常でべらべら喋ることじゃないしね(笑)。
プロデューサーの業務はレタッチャーがいてこその仕事と考えているので、そのコンプレックスが辛いわけではないんですけど(笑)。
世の中に出るものに携われるというのは、広告業界で働きたいと思った最初のきっかけでもあるし、充分満たされています。
山田:逆に私たちレタッチャーとしては、プロデューサーがいないと話が進まないんですよね。
私たちは結局、目の前の写真を仕上げることに集中していますし、それ以外のことをプロデューサーが全部やってくれるから、本当に助けてもらっています。
石原:僕らプロデューサーの存在価値はそこで発揮できるものだと思っています。
クライアントから受け取った情報をそのままレタッチャーに渡すだけでは、あまり意味がないと思っていて、僕らが間に入ることで、いかにプラスの流れを作れるか。それは、先輩のプロデューサーからも常々言われていることですね。
レタッチャーの技術や頑張りを言語化するのもプロデューサーの仕事
――そもそもプロデューサーがいるレタッチカンパニーも、わりと珍しいですよね。
石原:そうですね。だからこそ、クライアントとレタッチャーの間に入ってプラスの存在になることが大事だと思っています。
あとは、なるべく生活者の方と同じ目線で物事を見ることも心掛けています。
レタッチャーから納品前のデータを見てほしいと声をかけてもらうこともありますが、そういう時こそ生活者の方と同じ目線で見たいなと。
半分プロ、半分生活者みたいな目線で見ることでクライアントに対しても、よりわかりやすく説明できると思っています。
いくらレタッチ技術がすごくても、パッと見た時にそのすごさが伝わりづらいことも多いじゃないですか。
それでも「いいね」と思ってもらうには、プロデューサーが言語化したり、調整を加えることが大事なのかなと。
――レタッチャー的には、具体的にどんなところをプロデューサーに助けてもらっていると感じていますか。
山田:一番はレタッチに集中させてくれるところですね。
例えば、広告はたくさんの方が関わるので、レタッチへの意見が各所によって違うこともあります。その中でどう折衷案を取って仕上げていくのか。
そういうコミュニケーションが必要な場面をプロデューサーが担ってくれるので、その分作業に集中できて、クオリティを上げることに注力できます。
石原:とはいえ、プロデューサーが前面に立ちすぎると、クライアントは僕らとしかやり取りせず終わってしまうこともあるので、難しいところだなと。
最終的には指名が取れるレタッチャーになってもらうのが一番なので、打ち合わせに参加してもらい、現場の意見をもらうこともあります。
スピード重視の時は難しいケースもありますけど、状況に合わせていろいろ考えています。
津野:クライアントにどう伝えれば理解していただけるのか、という部分はプロデューサーとしては一番苦心するところです。
その言葉選びをレタッチャーに助けてもらうことも多くあります。
レタッチャーとプロデューサーの良い関係で
“fotonクオリティ”を作り上げる
――お話を聞いていると、プロデューサーとレタッチャー。業種は違えど、すごく良い関係性なのだなと感じます。
石原:そこまで人数が多い会社ではないので、誰とでも気軽に話せる環境ですね。
実際、僕は10歳くらい年齢が離れている先輩レタッチャーともすごく仲良くさせてもらっています。
山田:仕事で関わる場合、私たちの世代だと自ずと先輩方との関わりが多くなるんですよね。
この3人(石原さん、津野さん、高村さん)と一緒に仕事することってほとんどないんですよ。
でも、顔を合わせたら会話もするし、ご飯を食べに行くこともあります。
石原:社内全員が好きなように会話を交わせる雰囲気ですね。
――入社1年目の高村さんと西野さんは、先輩との関係性をどう捉えていますか。
高村:大先輩方とお仕事をする機会も多いので、まだ少し緊張はしています(笑)。
でも、先輩方がフランクに話しかけてくださるので、変に気後れすることがないというか。業務での疑問点もすぐに聞こうと思える雰囲気を作ってくださっているがわかるので、すごく働きやすいなと感じています。
西野:本当に皆さんフランクで。でも、作業に集中する時は黙々と、という感じでメリハリがあるなと。業務に関しては、第一線の技術を直接見て吸収できるので、本当にラッキーだと思っています。
――丁寧に指導してもらえる環境があるということですね。
津野:僕からすると、石原さんも頼りになる先輩の1人という感じです。
石原:いやいや、僕なんてまだ4年目ですから(笑)!
津野:同じプロデューサーとして、いろいろアドバイスをくれるんですよ。石原さんをはじめ、聞きやすい先輩が多いのも特徴だと思います。
石原:経験豊富な先輩ばかりなので、イレギュラーな仕事などはレタッチャー、プロデューサーの業種を超えて相談をすることもあります。
その助言が自分の力につながっているように思います。
山田:私の入社1年目だった頃なんて「わからないことがわからない」状態でしたが、そんな私の質問にも丁寧に答えてくださって、教え上手な先輩ばかりですね。
レタッチャーは、それぞれに得意なジャンルがあるのでいろんな技術を学べます。
例えば、隣のチームが忙しかったら「あちらのチームを手伝ってきて」と送り出してもらって、そのチームのやり方を学ぶ機会が得られたりします。特定の誰かにずっとついて学ぶというよりも、いろんな先輩が技術を共有してくださったりもするんですよ。
fotonとして一定以上のクオリティを守りつつ、皆で仕事を進める事も大事なことですから。
――これまでに手掛けたお仕事のなかで、印象的なものを教えてください。
山田:最初に指名でいただいたお仕事ですね。新聞広告で指名をいただいて、驚きながら作業したのをよく覚えています。
私の師匠である先輩とよく仕事をしていたフォトグラファーさんが「今回、山田やってみない?」と指名してくださった仕事が私のスタートになりました。
ここから始まったなと思える印象深い仕事です。
――先輩からの関係性で指名が来るパターンもあるんですね。
山田:最初はアシスタントとして現場に立ち会うことが何度か続く中でチャンスをいただいた感じです。
そういったご縁があるのも高い技術力を持ったレタッチャーがいるfotonだからこそ、と思います。
――プロデューサー陣は、いかがでしょうか。
石原:個人的にプロデューサーとして価値が生み出せたと感じた時はやっぱり嬉しいですね。
ある仕事で急遽、レタッチの方向性に変更が出た時、すぐにレタッチャーが対応してくれたことがありました。
そのスピードと技術力をクライアントへ説明したところ、きちんと理解していただけました。
情報を整理して、クライアントへ提示するという大事なプロセスを踏むことで、プロデューサーとして結果につなげることができたのかなと感じています。
山田:レタッチャーとしても、それは嬉しかったんじゃないかな。
プロデューサーが私たちの作業のことを理解してくれているんだなと思えるから。ものすごく頑張ったことが報われたと思うと、ありがたいなと。
石原:そう言ってもらえると、僕らもホッとします。
義理と人情みたいな時もやっぱりありますけど、「これだけ大変だったんだから!」という時もあると思うので、それぞれの考え方を柔軟に採り入れないといけないなと感じますね。
津野:僕が印象に残っているのは、プロデューサー立ち会った飲料パッケージの撮影です。
実際にシズルを作るために僕も手を動かしたんですが、納得できるものが撮れるまで続ける追求心はすごく勉強になりました。
翌日、右腕だけ筋肉痛になったのも良い思い出です(笑)。
西野:私も、その時研修中だったのでお手伝いに行きました。そういう予想外のこともいろいろ経験させてもらえるのはすごく楽しいです。
――皆さんの今後の目標もお聞かせください。
津野:今はグラフィックだけを担当しているので、いつかムービーも担当したいですね。
両方担当しているプロデューサーの先輩がいるので、自分もどちらもできたら強みになるんじゃないかなと思っています。
石原:津野ほど具体的ではありませんが、僕自身、石原佳汰という人間の価値を外に発信できたらいいなと考えています。
「fotonの石原に依頼したい」と言われるようになっていきたいですね。
高村:入社してプロデューサーになった時に立てた「クライアントとレタッチャーの間に立って双方に気持ちよく仕事をしてもらう」という目標を、まずはクリアしたいなと思っています。
山田:私は7年目なので、勉強させていただけることやfotonイズムは、ある程度身につけられたかなと思ってはいますが、そのうえでレタッチャー山田としての個性を見つけたいと考えています。
西野:大きな目標としては指名をいただけるようになることですが、まだそれを言える段階ではないので、まずは基礎的なことが完璧にできるようになる。それが今の小さく、大きな目標です。
――では、最後にプロデューサー、レタッチャーに向いている人はどんなタイプか、教えてください。
山田:もらった情報をそのまま伝えるのではなく、翻訳して渡せる人がプロデューサーに向いているように思います。
ただの連絡ハブになるのではなく、お互いの事情を汲んで、それをアウトプットできる能力がある人。それが完璧にできる人は少ないと思いますが、まずは人と喋るのが好きな人はすごく合っていると思いますね。
石原:たしかに、コミュニケーション能力がある人は向いていると思いますね。
ほかには、気遣いができる人や第六感が優れている人。
このタイミングでこの質問をされそうだから事前準備しておこうとか。営業経験のある人も意外と向いているかもしれないです。
知識はあとからいくらでも補えますけど、人の心をどう掴むか。この人と仕事するとやりやすいと思ってもらえるかどうか。
それが肝になってくるので、未経験であっても本人のやる気があれば全然関係ないと思います。
逆にレタッチャーは、傍から見ていると探求心がある人ですかね。
それぞれ技術や得意ジャンルがあるので、その人のもとで学びたいというのはもちろん、誰にも負けない技術を身に付けたい、なんて人も向いていると思います。
山田:そうですね。基礎的なことからしっかりと学べる環境が整っているので、新たな技術を身につけたいという方も安心して働けると思います。
基礎的なことからしっかりと学べる環境が整っているので、新たな技術を身につけたいという方も安心して働けると思います。
フォートン株式会社
日本初のデジタルイメージングカンパニーとして1988年に設立された。修整のためのレタッチではなく、写真表現領域の拡張を目的としたデジタルフォトレタッチを行ない、広告写真の世界に浸透させたパイオニア的存在。
数多くのグラフィック広告のほか、映画やCMにサイネージ、Web 動画などでも高い評価を得ている。
https://www.foton.jp/
協力:foton