解説:小島勉
EIZOのカラーマネージメントモニターの新製品「CG2700X」は、 ColorEdge CGシリーズ 27型モデル初の4K UHD解像度、インターフェースの強化(USB Type-Cケーブル1本で映像の表示、PCへの給電、有線LAN接続、USBハブ機能などを実現)、映像市場向けのHDR表示対応など、様々なプロフェッショナルのニーズに応えるモデルだ。インクジェットプリント制作の専門家・小島勉氏に、CG2700Xの実機を検証してもらった。
CG2700XはColorEdgeの決定版
筆者はColorEdgeシリーズを使い続けて18年になる。この18年間、プリント制作の業務において常に最高の表示性能を提供し続けてくれてきたColorEdgeシリーズだが、その決定版と言えるレベルに仕上がったと感じているのが、2022年1月に発表され、9月20日に待望の発売となったCG2700Xだ。
6月16日に先行発売されたCG2700Sとともに、HDR時代に相応しいマイルストーンとなるカラーマネージメントモニターである。実勢価格は30万円台で仕事用としては比較的導入しやすいモデルになっている。
ColorEdgeシリーズには、カラーグレーディング用のリファレンスモニターのColorEdge PROMINENCE、プロフェッショナルモデルのCGシリーズ、スタンダードモデルのCSシリーズと3つのラインがあり、現在は合計10機種がラインナップされている。
今回検証するCG2700XはCGシリーズにあたるが、筆者はここ数年CSシリーズのCS2740を使用している。発売はCS2740の方が3年ほど先行しているが、画面サイズと解像度はどちらも27型、4K UHDである。今回はスペックのよく似た2つのモニターを比較しながら、最新モデルCS2700Xの特長を紹介していきたいと思う。
高級感が漂う洗練されたデザインの筐体
まずは台座、背面、前面EIZOロゴなどの筐体から見ていきたい。CG2700Xのデザインは洗練されたもので高級感が漂う。CS2740との比較では、台座が直径で20mmほど小さくなっている。台座の手前に凹みのデザインをあしらうことでよりスッキリした印象だ。
おなじみのEIZOロゴマークは前面左下に配置された。CS2740では上面の中央部分にわずかにエンボス加工されているため、よく見ないとわかりづらい。個人的にはこちらのほうが控えめで好みではあるが、やはりColorEdgeはきちっとロゴが見えたほうが気分は高まるかもしれない。
右下操作ボタンは同じ静電スイッチのようだ。ボタンの輝度はオフから7まで8段階に調節できるため、目に付くようなら暗くすると良い。筆者は最も輝度の低い1で使用している。
そのほか従来モデルからの変更点を挙げると、付属の遮光フードのデザインが一新されている。組み立てが不要なマグネット取付け方式となり、モニター本体に簡単に取り付けられる。
型番についても触れておくと、CG2700X / CG2700Sから新生ColorEdgeとなり、型番のルールが一新された。EIZOに確認したところ、4Kモデルの末尾にはX、2Kモデルの末尾にはSがついているそうだ。
4K UHD解像度のおかげで、モニター表示は紙を見ている感覚に近い
筆者はインクジェットによるアートプリント制作を生業としているが、高精細化した作品データをクリエイターの望む形で紙に落とし込むには、4K UHD(3840×2160)解像度が必須と考えている。日常的に使用しているCS2740は4K UHDなので、快適に作業ができている。
27型の4K UHDにおける画素密度は164ppiで、画素ピッチは0.155mmとなっている。人間の目の分解能の限界は明視距離25cmの時、0.075mmと言われる。モニターとの距離を50cmとした場合、分解能は2倍の0.15mmとなる。筆者はモニターまでの距離をおおむね70cm程度としているが、その時の分解能は0.21mmだ。
同じ27型のCGシリーズでも、先行発売されたCG2700Sは2K WQHD(2560×1440)の解像度なので、その画素ピッチは0.233mmとなり、筆者の望むセッティング(ディスプレイまでの距離)ではわずかながら画素感を感じてしまうだろう。
その意味でもCS2740と同じ画面サイズと解像度、画素ピッチを持つCG2700Xのほうが、プリント制作のワークスタイルでは理想的ではないかと考えている。
印刷用設定でモニターキャリブレーションされた表示は紙を見ている感覚に近い。この質感を一度味わってしまったら他のモニターを使う気にはなれないというのが正直なところだ。いわゆる発色がキレイなモニターは数多あるが、クリエイティブ作業においてはキレイさよりデータを正しく表示してくれることのほうがはるかに重要なのだ。
また、紙モノを制作するクリエイティブ作業では、やはりノングレア(非光沢)タイプの液晶画面のほうが作業しやすい。ColorEdgeシリーズは一貫してIPS方式のノングレアパネルだが、過去のモデルではパネル自体のギラつきが多少気になったものもあった。
個人的に、往年の名機と謳われたCG21やCG19の見え方を彷彿とさせるほど見やすいパネルだと感じている。1日の大半で見続けるモニターだからこそ、目に負担の少ないモニターの選定が重要となる。筆者が1ヶ月程度使用した感触では目も疲れにくく、まさしくColorEdgeクオリティそのものだ。
内蔵センサーによるキャリブレーション作業の自動化
CGシリーズのCG2700Xはキャリブレーションセンサーを筐体に内蔵しており、自動でモニターを定期的に測定してくれる(CG2700Sも同様)。モニター使用中でも測定は行えるため、作業の邪魔にならない。高いパフォーマンスが求められるプロフェッショナルのツールとして申し分ない使い心地の良さだ。
それに対してCSシリーズのCS2740は、外付けタイプのキャリブレーションセンサーを用意しなければならない。筆者はプリントプロファイルの作成も行うため、X-Rite社のカラーマネージメントツールi1 Pro2を使用しているが、定期的にセンサーを取り出して測定するのは正直なところ手間に感じてしまうことがある。測定間隔が空いてしまうこともある。
余談だが、この内蔵センサー開発時に、EIZOの技術者からキャリブレーションについてのヒアリングを受けたことがある。筆者自身はキャリブレーション作業を定期的にやっていたが、他方で経時変化が出にくいColorEdgeの性能の良さから、ややもするとキャリブレーション作業を怠りがちになってしまうという現場の実情を伝えたことがある。
キャリブレーション作業の自動化はユーザーであれば誰もが望んだことであったが、EIZOはユーザーの声に真摯に耳を傾け、その要望を製品化してくれた。2010年に内蔵センサー搭載モデルが登場したことによって、多くのユーザーがナンバーワンブランドとしての「ColorEdge」の魅力、ユーザーに寄り添う丁寧なモノづくりの「EIZO」を再認識したのではないだろうか。
USB Type-Cケーブル1本で必要な接続をカバー
CG2700Xに搭載されたUSB Type-Cポートは最大94Wで給電できる。M1チップを搭載するMacBook Pro(10コアモデルのM1 ProおよびM1 Max)の給電も十分カバーできる。このUSB Type-Cポートはもちろん映像信号の入力にも対応している。
さらにモニターの側面にはUSBポートを4端子、背面には有線LANポートを搭載しており、モニターとMacBook ProをUSB-Cケーブル1本でつなぐだけで、PCへの給電、映像表示、USB機器との接続、有線LAN接続などをカバーできる。フォトグラファーや映像制作者にとっては、この機動力の高さはロケ撮影時に威力を発揮するだろう。
LANポートは実は筆者が一番望んでいた機能でもある。もちろんWi-Fiでも実用的には問題ないのだが、やはり安定したネットワークを望むなら有線のほうが良い。CS2740にはLANポートがなかったので、Apple純正のUSB Ethernetアダプタ(販売終了品)を使用してUSBポート経由でネットワークに接続していたが(MacBook ProとはUSB-C1本で接続)、やはりLANポート経由で接続できる方が安心感がある。
側面のUSBポートは4つあるので、今回の検証では、ワコムペンタブレット、外付けHDD、プリンターの3つをモニターに接続した状態で使用した。USBポートの数はCS2740と変わらないが、C2700Xではネットワークへの接続にLANポートが使えるので、そのぶん接続できるUSB機器が1つ増えることになる。
ノートPCをメインにしている方であれば、USB Type-Cケーブル1本ですぐ作業に取り掛かれる快適性は、一度体験したら戻れなくなってしまうだろう。
まとめ
今回は筆者のプリント制作における視点でレビューをさせてもらったが、どこから見ても死角のない完成度だと感じている。
CG2700Xの特長としてはそのほか、HDR(ハイダイナミックレンジ)映像を正しく映し出す表示性能も忘れてはならない。映像制作者にとっては、このHDR表示対応が最大の注目点と言えるだろう。プリント制作におけるHDRは筆者自身勉強中のため今回は触れなかったが、HDR動画から切り出した画像でプリント制作する可能性も考えると、CGシリーズでは今後、HDR表示対応と4K解像度が重視されることになるだろう。
誰にでもおすすめできる手軽なモニターというわけにはいかないが、CG2700Xの万能ぶりは、少なくともプロフェッショナルが使うカラーマネージメントモニターとしては最善の選択肢と言える。