AI時代に“人が撮る”意味とは? ゲッティイメージズの動画クリエイターセミナーで探る表現と多様性 

テーマは「テクノロジー」。多様性と映像制作をめぐる2日間


世界最大級のフォトストックサービス「ゲッティイメージズ」が主催する、クリエイター向けのリアルイベントが2025年5月31日と6月1日の2日間にわたって東京・品川にて開催された。

コロナ禍以降初となるこのリアルセミナーイベントは、日本国内で活躍する12名のコントリビューターを招き、2日間にわたる撮影ワークショップとして実施。テーマは「テクノロジー」。多様性(DE&I)を意識した表現とともに、いま求められるビジュアルの形を探る貴重な機会となった。

今回のセミナーの意図について、ゲッティイメージズ シニアアートディレクター 小林正明氏は次のように語る。「動画の需要は世界中で高まっています。近年、AIの進化が話題ですが、AIは過去から学ぶものであり、偶然やチャレンジングな表現は生まれにくいものです。私たちには“人間だからこそ撮れる表現”を求めるクライアントがいる限り撮影を続けていきます。

クリエイター同士が刺激し合いながら撮影する場には、オンラインにはない情報量とエネルギーがあります。今回のようなリアルなイベントが、まさにその土壌になると考えています」。


撮影テーマは「テクノロジーと共にある日常」

セミナーが行なわれたポーチ品川スタジオ外観。

Day1:プランニングとインプット

初日は、ゲッティイメージズ クリエイティブコンテンツ部門グローバルヘッドのレベッカ・スウィフト氏による開会スピーチからスタート。

開会スピーチをするレベッカ・スウィフト氏(写真左から2番目)

そこでは現在求められているコンテンツや人気の傾向、需要のある内容などのトレンドや統計データを紹介。
その後、アジアパシフィック担当クリエイティブディレクター クリス・ドワイヤー氏によるポートフォリオレビューでは、改善が必要なコンテンツ例と、コンセプト的にもビジュアル的にも優れているコンテンツ例を具体的に提示しながら解説。

シニアアートディレクター 小林正明 氏からは、映像撮影の技術的なポイントを解説。その後参加者たちはお互いに映像ポートレイトを撮影し合いながら実践を行なった。

レクチャー中の小林氏。クリエイターたちにインスピレーションを与え、学びを提供し、スキル向上をサポート。
参加者たちはお互いに映像ポートレイトを撮影し合いながら実践撮影




午後は2日目の撮影に向けたチームごとの撮影ミーティングが行なわれた。

主なテーマは以下の3つ:

  • テクノロジーと共にあるライフスタイル
  • テクノロジーと共にあるビジネスシーン
  • テクノロジーと共にある日常生活

4人1組の3チームとなり、ゲッティイメージが共有している撮影ブリーフをベースに、構図・演出・小道具など、アイデアを練り上げていった。

クリス 氏は「全体を通して、クリエイターたちがGetty Imagesの専門家やお互いから学びながら、映像制作スキルを身につけ、自信を持てるように支援することを目的としたセッションでした。とても素晴らしい時間になったと思います」と活動を総括してくれた。

Day2:実践的な撮影セッション

2日目はいよいよ撮影本番。

タブレット、AI音声アシスタント、AI機能付き防犯カメラなどのガジェットをプロップに、スタジオの各所を活用して「テクノロジーとともにある日常」をビジュアル化していく。

モデルのキャスティングも多様性を意識し、世代・性別・LGBTQ・聴覚障がいなど、リアルな社会を反映した人選が行なわれている。


撮影現場から

ベッドでくつろぎながらタブレットを眺める家族を撮影。テクノロジーが日常に溶け込む様子を、自然光を活かして演出。
鏡をモニターに見立てた「朝の支度」シーン暮らしとテクノロジーの交差点を柔らかく描写する。
テーブルを囲むセッション撮影。多世代のモデルとクリエイターたちが協力し、多視点のリアルな空間を構築。
モデルに演出指示をする参加クリエイターと各チームを見守り、アドバイスをするシニアアートディレクター 小林氏(写真手前)。その場でフィードバックを行ない、クリエイターたちをサポートする。
親子とデジタルデバイスをテーマにした1シーン。日常の中の学びとつながりを、静かな構図で表現。
ビジネスシーンを想定し、1人作業中の女性を撮影。室内に差し込む光が、集中の瞬間を印象づける。
ビジネスシーンを想定した撮影風景。世代の異なる2人のやり取りを通じて、多様性とリアリティのある働き方を映像で描き出す。

ゲッティイメージズ クリエイティブコンテンツ部門グローバルヘッド
レベッカ・スウィフト氏が語る「多様性」のあり方

また、このセミナーにあわせて来日したゲッティイメージズ クリエイティブコンテンツ部シニアヴァイスプレジデント レベッカ・スウィフト氏は、日本での開催意義とクリエイターたちへの印象についてこう話す。

「今回は“クリエイション”というより、“エデュケーション”の場として企画しました。合宿のように、クリエイター同士が協働しながら学び合うことを目的にしています。日本の参加者はとても意欲的で、学ぶ姿勢が素晴らしいですね。」

世界を舞台にしたゲッティイメージズのストックフォト&ムービーだからこそ「多様性」が大きなキーワードになる。日本における多様性表現についても聞いた。

多様性とは「単なる女性像」ではない

「多様性をビジュアライズするときに、他の国ではスキンカラーを意識したりしますが、日本の場合、体型や髪型、世代、性別などの表現が多くなると思います。

特に広告の世界では“若くて長髪の女性”が登場する傾向があり、それ以外のスタイルの可視化が求められていますね。私たちは、体型や髪型、スタイリングの選択、年齢など、さまざまな要素でバリエーションを増やそうとしています。年齢の多様性も重要なポイントです」

AIと写真表現の違いとは?

さらにAIの活用と写真表現の未来についても尋ねた。

「私たちは、自社コンテンツのみで学習させた安全に商用利用可能なAIツール“生成 AI by Getty Images”を開発しています。

このサービスでは、AIモデルの学習に使用されるコンテンツを提供したクリエイターには適切な報酬が支払われます。ですので、私たちはAI関連のコンテンツと他のコンテンツを明確に分けて扱っています。

AIについては多くのニュースやメディア報道があり、人々は盛んに議論していますが、実際には生成AIによる画像を使った事例はあまり多くありません。というのも、生成AIコンテンツを使うことに対して倫理的な懸念が多くあるからです。そういった経緯もあり、私たちは写真や映像制作にフォーカスしています。

そして今回このイベントを開催しているのもその一環で、今このAIに不安を感じているこのタイミングだからこそ、コミュニティ、つまり私たちの仲間をサポートしたいと考えています」

そして、人間が撮る写真と生成AIの違いについてこう語ってくれた。

「写真とAIの大きな違いは“バッググラウンドとストーリー”の有無にあります。

これからいかに精巧な生成AIが誕生したとしても、そこにはリアルなストーリーやBTS(撮影の裏側)がありません。人間が撮るからこそ、そこに物語や過程が生まれ、受け手側に共感や感動を与えます。

撮影や制作過程を見せることで、クリエイティブへの署名になると考えています」


「創る」ことの価値を取り戻す2日間

リアルの場で身体を使い、チームと対話し、イメージを組み立てる。
それは、生成AIの時代だからこそ、より強く求められている「人間の手による創作」の価値を再確認する機会でもあった。

ゲッティイメージズは今後、マレーシア、アトランタ、オーストラリアなど、世界各地で同様のセミナーを開催していく予定だという。
AI時代におけるビジュアル表現のあり方を、現場での実践を通じて見つめ直す取り組みのひとつとして、今回の2日間は重要な機会となった。

コマーシャル・フォト 2025年7月号

【特集】レタッチ表現の探求

写真を美しく仕上げるために欠かせない「レタッチ」。それはビジュアルを整えるだけでなく、一発撮りでは表現しきれないクリエイティブな可能性を引き出す工程でもある。本特集では、博報堂プロダクツ REMBRANDT、フォートンのレタッチャーがビジュアルの企画から参加し、フォトグラファーと共に「ビューティ」「ポートレイト」「スチルライフ」「シズル」の4テーマで作品を制作。撮影から仕上げまでの過程を詳しく紹介する。さらに後半では、フォトグラファーがレタッチを行なうために必要な基本的な考え方とテクニックを、VONS Picturesが実例を通して全18Pで丁寧に解説。レタッチの魅力と可能性を多角的に掘り下げる。

PART1
Beauty  石川清以子 × 亀井麻衣
Portrait  佐藤 翔 × 栗下直樹
Still Life  島村朋子 × 岡田美由紀
Sizzle  辻 徹也 × 羅 浚偉

PART2
フォトグラファーのための人物&プロダクトレタッチ完全実践
講師・解説:VONS Pictures (ヴォンズ・ピクチャーズ)

基礎1 フォトグラファーが知っておくべきレタッチの基本思想
基礎2 レタッチを始める前に必ず押さえておきたいポイント
人物レタッチ実践/プロダクトレタッチ実践

ほか