CP+2025/CREATORS EDGE Spring Edition「心を動かすサウンドデザイン」(Yuichi Ishida)

2025年2月27日(木)から3月2日(日)までの4日間、パシフィコ横浜で開催された「CP+ 2025」。本記事では、そこで行われた玄光社のVIDEO SALONとCommercial Photoがプロデュースしたイベント企画「CREATORS EDGE Spring Edition」のYuichi Ishidaさんのセミナー模様をお届け。

3月1日(土)11:35-12:15にステージCで行われたこのセッションでは、国内外で映像制作の実績を重ね、映画祭での受賞・選出経験もあるYuichi Ishidaさんに、見た人の心に響く映像にするために必要な「サウンドデザイン」の考え方をレクチャーしていただいた。

CP+2025 CREATORS EDGE Spring Editionアーカイブ動画

サウンドデザインとは?

今日のテーマ「は心を動かすサウンドデザイン」。映像の中で音をうまく使っていけば観客の心をちょっとだけ動かすことができます。今日はその秘密について少しだけお話をしていきたいと思います。映像作家の石田裕一です。普段はYouTubeをやったり、観光やホテルの動画、あとはドキュメンタリーなどを撮っています。ライフワークとしてドキュメンタリー、特に非言語の音を使って映像作品を作るといったことに挑戦しています。

まず「サウンドデザイン」とは何か? ということですが、「Designing emotions through sound.」。音で感情をデザインしてあげるということです。例えば建築家が素敵な建物を作る。訪問者はそこで「この空間、すごい心地いい」などいろんな気持ちになると思うんです。音をうまく使ってあげると、建物に入った人の「わあっ」という感情と同じことを映像でもできます。

サウンドデザインには主に3つの役割があります。
1つ目。臨場感を伝える。その場所の空気感、場所の温度感みたいなものを伝えることができます。カラオケの映像では泣けないですよね。カラオケの映像って現実世界からちょっと遠いんです。画だけがなんとなく流れてるからです。でも、映像を作る時にその音をちゃんと使ってあげると見てる人が自分がそこの場所に行ったような気持ちになるんですね。音にはそういった役割があります。

そして2つ目。感情をコントロールします。突然音が大きくなったら緊張するし。ちょっと音が小さくなったら落ち着いた気持ちになる。音によって期待感を煽ったり、恐怖感を演出することもできます。想像してください。ホラー映画で効果音ゼロ。怖いジョーカーが出てきても「うわー」がないともうコメディーでしかないんです。そういう感じで見てる人の気持ちを音でコントロールすることができます。

そして3つ目が映像のインパクト。人は映像を見る時に2つの感覚を使います。視覚と聴覚です。ですが特に動画を始めたての方だと視覚の情報しか使わないんですね。せっかく2つの感覚を使って映像を届けられるのに忘れられがちなのが聴覚です。耳で音を聞いて人は感情を動かす。そこを使わない手はありません。

音は出汁のようなもの

今回、3つのバージョンの動画を作ってみました。BGMだけの動画、効果音だけの動画、そして両方を使った動画です。それぞれを皆さん見比べてもらえばと思います。
いかがですか? 1番最初の「BGMだけ」が1番心に響いた方は手を挙げてもらえますか。では2つめの「効果音だけ」が心に響いた方?「効果音だけ」の方も何名かいらっしゃいますね。では「両方使った」ものが1番心に響いた方? やっぱり1番多いですよね。よく動画を始めたての方にあるのが、映像を作ってBGMを付ける。そうするとなんとなく雰囲気がカッコイイ動画が仕上がると思います。でも、なんかカッコイイんだけどなんか物足りないんですね。

それは例えれば、出汁の入ってないお味噌汁みたいなものなんです。お味噌汁としては飲める。でもなんか足りないという。音は昆布出汁みたいなもので、映像の中には見えないですよね?
でも、旨味みたいなものは見えないところで作ってくるじゃないですか。音をちゃんと入れてあげると、そういった出汁の効果が出てきます。ですから音環境などにこだわってこなかった方は、ぜひ今日から出汁になるような音を入れてみてください。

距離感でレイヤーを作る

次にお話ししたいのが音のレイヤーについてです。皆さんに質問です。今この会場の中でどんな音がしますか?

もちろん僕が今喋ってる声、少し動いた足音が聞こえるかもしれない。あとカメラの音、空調の音、ちょっと隣の部屋の声、という感じに音って複雑な層になってるんです。これを動画の中で使ってあげる。ちゃんと階層を作ることによって空間が生まれてきます。
例えば小さな音で聞いてると「遠くから聞こえるな」という感じがするので、「空間の向こう側にある」といったことを人は感じたりします。反対に、例えばマイクの近くだと小さい音が出ても大きく聞こえるわけです。映像の中でそれを再現してあげるとペットボトルのフタを開けるシーンで「プシュッ」みたいな音があると臨場感が一気に増すんですね。
その音を聞いて例えば「7月下旬の真夏で喉が乾いた時の……」というような記憶なんかが音によって紐づくんです。これがレイヤーという考えです。複数の音を重ねることで、映像に奥行きとリアリティを加えることができます。

音を分析してレイヤーを考える

レイヤーを作るためにはどうするか? 先ほど皆さんに僕が質問したように音を分析するんです。「え、分析する?」と思うかも知れませんが耳を傾けるだけなんです。
例えばこの画を見てどんな音がしそうですか? どなたかこんな音しそうというのがあったらおっしゃってください。

はい、足音が聞こえそうですね。他にはありますか? 森の中なので風の音がしそうですね。はい、鳥のさえずりも聞こえそうですよね。葉っぱの擦れる音、歩いている音、木の枝の踏んでいる音もカシャカシャってなりそうですね。虫の音、森の中だから絶対虫が鳴いていますよね。

そうやって1枚のショットを見た時に、自分で同じように再現してあげればいいんです。そうすることによってレイヤーが生まれてきます。ここで動画を見てもらいましたが、皆さんがおっしゃっていた音は大体入っていると思います。叫び声や楽器の音も入っていましたが、動画はクリエイティブなので目に見えない音も入れてしまって良いんですね。これで雰囲気を作ることができます。

例えばガールフレンドが待っているみたいな設定にすると、心臓の音なんかは合ってそうですよね。はたまた彼が「子供の頃見た海は良かったな」と思いふけっているなら波の音を入れるなど、動画の中で音を入れることは色々できます。

サウンドモチベーションとは?

「環境音」「聞こえてもいい音」と話してきましたが、もう一つ「サウンドモチベーション」というものがあります。これは動きによって生じそうな音です。

分かりやすく言うと、ボクシングをやっている映像は絶対に「シュッ」となりますよね。僕がよく使うものだと目のアップでまぶたが開くときに「ブワッ」みたいな音を出したりします。まぶたが開くときに音はしないですが、動画の世界だとそれをやってしまって良いんです。音の動機づけのようなもので、これがサウンドモチベーションです。
音を重ねるとどうなるかというのを動画にしたのでここで見てもらえればと思います。

どうでしょう? 音を重ねていくだけで、ただの湖のショットなのにすごい立体感出てきますよね。これをぜひ皆さんには取り入れていただければなと思います。

サウンドデザインの磨き方

本日のテーマの3つ目は「サウンドデザインを日常で磨く」。これを皆さんに意識していただきたいです。1つ目は外部マイクを使うこと。特に一眼レフとかミラーレスカメラの内蔵マイクってすごく音が悪いんですよね。

小さい外付けマイクでも十分きれいにに音は録れます。今日お見せしてる動画もほとんどこの小さいマイクで録ったものです。この写真の中ではPCMレコーダーというのを持ってるんですが、こういったもので音を録ってもいいです。

写真は北海道の知床です。作品は釧路なので場所が違うんですが、知床で録ったセミの音のほうが良かったので音だけ拝借して阿寒湖の映像に入れてます。

独特の音に敏感になることが大切です。それぞれの場所や地域、国によって出ている音って全然違うんです。例えば那覇の国際通りを歩いてると絶対三線の音がしますよね? あれを聞くと、今僕沖縄にいるみたいな感じでテンション上がります。
あの音が無かったら東京の飲み屋街とそんなに変わらないかもしれない。沖縄に行って沖縄の雰囲気を感じる瞬間って三振の音が聞こえてきた時だったりするんですね。

この話をまとめると、ある場所に行ったり違った風景を見た時に、「この音いつもと違う」「その音は何がそうさせている?」「その雰囲気は何が作ってるんだ」というのを考えるようにしてください。そこに自分の意識が向かうと、そういった特別な音が録れます。音に敏感になってほしいと思います。

そして音の近くで録音するということ。マイクもちゃんとついてるんだけど、後から聞いてみると全部ノイズにしか聞こえないということがありませんか? 音が良くないから音は編集で全部消してしまってBGMにする。その原因は音の距離感にあるんですね。後ろのカメラから僕が今持っているペットボトルの音を録ろうと思ってもうまく録れないわけです。

なので、音が発生するところの近くで録ってあげる。それを意識するだけでむちゃくちゃ立体的な音になってきます。蛇口を捻る音もスマホでもいいので近くで録ると「キュッ」といい音が録れたりします。「ここの音を録っておくと、後で映像がリッチになるな」という発想を持ってください。そうするとすごく映像の中で音が引き立ってきます。別に現実通りにしなくてよくて、自分が見せたい場面に合わせて心地の良い音量で入れてあげるといいですね。

映像作品も音に注目

そして最後にサウンドデザインを日常で磨くテクニックとして映像作品の音に注目してください。今までいくつか動画を流しながら分解して見てきたと思います。同様に、例えば映画で銃を構えた時に「カチャ」っと鳴る。だから、「緊迫感生がまれるんだ」といった裏側を意識すると映像の音に対してすごく敏感になれるかなと思います。

今日の話をまとめると音を効果的に使っていくことによって、動画の中に臨場感が出せます。感情を伝えることができます。そしてインパクトを与えることができます、ということでした。ぜひ皆さんもこれからは日常生活にある音に耳を傾けながら、それを動画の中に取り入れてみてください。(以上)

CREATORS EDGE2025は10月9日(木)開催!

CP+ 2025

コマーシャル・フォト 2025年4月号

【別冊付録】
CM・映像 キャメラマン&ライトマン ファイル 2025

CM業界、映像業界関係者必携の1冊! CMやMVの分野を中心に活躍する、キャメラマンやライティング・テクニシャンの185人のプロフィールや仕事データを掲載。※電子版では、付録は本誌の後のページに収録されています。

【特集】
「写真におけるAIの今」
今回の巻頭特集は「写真におけるAIの今」。博報堂プロダクツREMBRANDTが行なった、レタッチャーによる 生成AIビジュアル作品展「PHANTOM」を取り上げ、写真におけるAIの現状を紐解いていく。

【誌上写真展】 
写真学生たちの挑戦 2025
日本大学 芸術学部 写真学科/東京工芸大学 芸術学部 写真学科/長岡造形大学 視覚デザイン学科/日本写真芸術専門学校/東北芸術工科大学 グラフィックデザイン学科

【新連載】
長山一樹流 違いを生むコマーシャル・ポートレイト
「 ポートレイトisブラックアンドホワイト」

【FEATURE】
「Tokyo Moonscapes 東京恋図」 南雲暁彦
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「フィルムの世界、4人の視点」増田彩来/鈴木文彦/染谷かおり/松本慎一

ほか