現在、神奈川県立近代美術館・葉山にて大々的な回顧展が行なわれている上田義彦。
展覧会に連動してコマーシャル・フォト2025/8月号に掲載した記事を抜粋してお届けします。
記事では学生時代〜初期作品から、「QUINAULT」「サントリー烏龍茶シリーズ」などの代表作について、氏自身にその「記憶」と「想い」を語っていただきました。

New York Portrait 1985-1987
1985年からファッションブランド「JUN」の依頼で、
春と秋、それぞれ1ヵ月ほどN.Y.に滞在して、著名人達のポートレイトを撮りました。
場所はSOHOのロフトのアトリエ。
1階にはJUNのショップがあり、僕はそこで1ヵ月間、ほぼ籠もるように、
アトリエに来るウォーホルやメイプルソープ、マイルス・デイビスといった人たちを撮っていました。
カメラは67で、ストロボを使い、誰が来てもほぼ同じセットです。
背景は「土バック」。
今でも事務所に置いてありますが、セントラルパークの土を取ってきて、
撮影背景用の無地の布に塗りたくったものです。
このポートレイトシリーズは僕の転機になりました。
恵比寿にあるスタジオのギャラリーで展示をした時、
サン・アドのAD葛西 薫さんが見てくれて、
そこからサントリーウイスキーの新聞広告「作家シリーズ」が始まります。


サントリー 烏龍茶 1990-2011
「やはりほんの少し羨ましい気持ちで、
微笑ましい風景を眺めていた。
そんな風景を見ているうちに、
烏龍茶で次に撮りたい人間模様や美しい風景が脳裏をかすめ、
ひとりでに夢想がはじまっていく。」
サントリー烏龍茶は、僕の広告の仕事でもっとも重要なシリーズです。
と言っても僕の中では、もともと「広告」と「自分の作品」の区別はなく、
烏龍茶の撮影でもADの葛西 薫さんと中国のさまざまな場所に行き、
「撮りたい」と感じたものを撮っていました。
もちろん広告の仕事だからこそ行ける場所や、出会える人、風景があり、
それは僕にとってとても幸せなことだったと思います。
20年以上に続いた広告ですから、その時々のキャンペーンやアプローチの違いはありますが、
改めて並べて見るとずっと変わっていない。
それは烏龍茶の広告が人々の日常の中にある「幸せ」を撮っていたからなのでしょう。
烏龍茶の中国ロケでは、訪れた街や移動の列車の中で、
たえずそこで暮らす人や風景のスナップを撮っていました。
烏龍茶の広告写真と同様、そのスナップも僕の大切な「記憶」です。

At Home 1993-2006
「そして、その幸福は、日々過ぎていく一瞬一瞬の中にある。
安らぎも慰めもそこからやって来る。
僕は、そんな瞬間をカメラで記録しつづけていきたいと思う。」
写真家が家族を撮るとき、それはどんな視線なのか。
僕の場合、日々成長し、変わっていく子どもたちの姿を、
今、撮っておかなくてはいけないという想いで撮り始めました。
写真家と父親のまなざしが半分半分ぐらいだったと思います。
ただ普通のお父さんと違って、運動会や特別な日に撮る写真ではなく、
いつも手元に置いている35ミリカメラで、気がついたら撮っている感じです。
ある時、アルバムを整理していた妻に「あんなに沢山撮っているのに、
アルバムにはあなたの写真が1枚もない」と言われました。
アルバムの写真は全て妻が撮ったもので、
僕が撮った写真はベタ焼きのまま積み重なっていました。
それで「1枚だけ焼いてみよう」と、結婚して最初の頃の妻の写真をプリントしたらやはりいいんですね。
そこから止まらなくなり思い出を辿りながら1年半ほどかけて家族の写真をプリントしていきました。
月刊コマーシャル・フォト2025/8記事 「上田義彦 写真の記憶」より
上田義彦写真展 「いつも世界は遠く、 / Yoshihiko Ueda: From the Hip」
神奈川県立近代美術館 葉山 2025年7月19日〜11月3日
www.moma.pref.kanagawa.jp
<概要> 過去40年以上にわたる写真活動から、上田義彦自身のプリントによる500点の作品を展示。『QUINAULT』『AMAGATSU』『materia』シリーズなどの作品群、サントリー烏龍茶をはじめとする広告写真、モノクロポートレイト、家族写真、最新作から学生時代の写真までを時系列で見せる大回顧展。
会場ではCM映像作品、広島県福山市沼名前神社にある豊臣秀吉が愛用したといわれる能舞台で撮られた、能の長尺映像も上映される。

本特集ではコマーシャル・フォトが注目する若手フォトグラファー5名にフォーカス。直近の仕事を起点に、日々の制作への向き合い方、これから挑戦したい表現やフィールド、そして撮り溜めてきたパーソナルワークについても話を伺った。
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