現在、神奈川県立近代美術館・葉山にて大々的な回顧展が行なわれている上田義彦。
展覧会に連動してコマーシャル・フォト2025/8月号に掲載した記事を抜粋してお届けします。
記事では学生時代〜初期作品から、「QUINAULT」「サントリー烏龍茶シリーズ」などの代表作について、氏自身にその「記憶」と「想い」を語っていただきました。

materia 2011〜
「やっと徐々に見えはじめた写真の姿。
その目指すものの姿を見失わないように『materia』と名付けた。」
2011年3月、東日本大震災の同月、僕は8×10カメラを担いで屋久島の森に入りました。
屋久島の森は以前にも来たことはあったのですが、震災後、一刻も早くこの森を撮りたい、
撮らなくてはならないという想いに駆られたのです。
私たち人間にとって「震災」は唐突に起こるもので、
その報道映像や写真を見るとどうしようもなく心がかきむしられるのですが、
地球、自然という大きな流れで見ると、それは常に起こっていて、その流れの中で我々人間は生きています。
写真集のタイトルにもなった「materia」とは、ラテン語で「新しい命を生む力」という意味を持ちます。
この言葉に出会ったとき、自分がこれから撮っていくものの輪郭がはっきりと見えてきました。
以降、「materia」シリーズは「M. River」「M.Venus」「M. Sea」「M.Ganges」、
そして「Māter」(母)へと、続いていきます。


葉山 /映画『椿の庭』 2018
「自分が映画を撮るのであれば、
日常という無常を表したいと思った。」
葉山の家を買ったのはもう20年以上前になります。
土蔵もある古い民家で、ここで多くの撮影をしてきました。
僕が監督をした映画『椿の庭』もこの家が舞台になっています。
この場所の「光」は僕にとって大切なものです。
近くに海があり、それが特別な光を作るのか、光というものをとても意識させられる。
光が庭の草木に反射して僕の目に入ってくる。
その生命力を感じて僕も生きるための力をもらったり、また写真を撮りに行こうと思えてくる。
数年前、生活も事務所もすべて東京から移し、ここで暮らし始めてからは、
毎日のようにそう感じています。
葉山の神奈川県立近代美術館は、僕の一番好きな美術館です。
2年前「展覧会をしませんか?」という話があった時、
美術館の学芸員の方は僕が葉山に住んでいることを知らなかったようで、
不思議な縁のようなものも感じてしまいました。

「犬の記憶、鳥の記憶、木の記憶、川の記憶、山の記憶。
この世のありとあらゆるものの記憶に、懐かしさで胸が締めつけられる。
写真は眼差しの記憶、遠い場所、過ぎ去った人々や時の記憶。」
展覧会では、2024年〜25年にかけて撮影をした最新の写真から、
45年前の学生の時の写真まで、過去に遡る形で500点を展示します。
実際に会場に並べてどうなるのか、現時点(6月18日)ではまだわからないのですが、
僕自身がそれを見るのをとても楽しみにしています。
年代順に並べた写真を歩きながら見ていくと、
自分でも気がつかなかった写真の繋がりが見えてくるかもしれません。
撮りたいと思ったものを撮る、撮りたいと思ったところに行く…。
何か行き当たりばったりの人生のような気もしますが、
やはり何かに引っ張られてこうなったのだなということが、わかるような気がするのです。
月刊コマーシャル・フォト2025/8記事 「上田義彦 写真の記憶」より
上田義彦写真展 「いつも世界は遠く、 / Yoshihiko Ueda: From the Hip」
神奈川県立近代美術館 葉山 2025年7月19日〜11月3日
www.moma.pref.kanagawa.jp
<概要> 過去40年以上にわたる写真活動から、上田義彦自身のプリントによる500点の作品を展示。『QUINAULT』『AMAGATSU』『materia』シリーズなどの作品群、サントリー烏龍茶をはじめとする広告写真、モノクロポートレイト、家族写真、最新作から学生時代の写真までを時系列で見せる大回顧展。
会場ではCM映像作品、広島県福山市沼名前神社にある豊臣秀吉が愛用したといわれる能舞台で撮られた、能の長尺映像も上映される。

本特集ではコマーシャル・フォトが注目する若手フォトグラファー5名にフォーカス。直近の仕事を起点に、日々の制作への向き合い方、これから挑戦したい表現やフィールド、そして撮り溜めてきたパーソナルワークについても話を伺った。
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