ゼウスのスチルライフマジック Vol.17

水槽銀河の小惑星とコップの中の入道雲
Photo&Words:Tetsuro Takai   Photo :Shinjo Arai

高井哲朗が
スタジオスチルライフ撮影の
アイデアと 愉しみを 伝授
創造主ゼウスのように
光を操って 宇宙を創造しよう
スチルライフ それは あなたが
神になれる世界

被写体を正確に描写するだけがスチルライフフォトではない。
スチルライフマジックなら、石ころを銀河の小惑星に、牛乳を入道雲に見立てることもできる。
という訳で、今回は、2年前にNYから戻り、プロとして独立した荒井真丞さんをスタジオに呼んで、
アイデアとトリックを駆使した「見立て」撮影。
合成なし、CGなし。一発勝負のスチルライフイメージング。

Photo:荒井真丞



スタジオの中に「宇宙空間」を作ってみてよ

“しんじょうくん たんじょうび おめでとう 
そろそろかな ニューヨークは?
がんばって修行して 帰ってきたら また あそびにきてね”

そんな メールしてから もう何年も 経ったね

あれから ニューヨークに行き 土井浩一郎さんのアシスタント
青木健二さんとも お話しして
トップフォトグラファーの 写真を作る流儀 いろいろ刺激を受けて
いいもの 盗んできたのかな?

いまは 料理の撮影から 車の撮影まで いい仕事してるね

撮影仕事の 評判良くて それが 次の仕事を呼ぶ
いい循環だね 

忙しいとは思うけど また APA アワード 公募が始まるから
あたらしい世界に チャレンジしても いい頃だね

APA アワード2023 は グランプリ ¥100 万 らしい
ゲット してみてよ

水槽は 用意するからさ
いままで 見たこと ないような 
イカした 写真 撮ってほしいな

宇宙空間 みたいなの 天地創造 神の道 ゼウス
ブラックホールから 何が 生まれてくるか?

表彰式 楽しみにしてるよ


ライティングの組み立て             

ライト:❶broncolor Pulso G Head+standard reflector P 70 ❷ERI-SPOT /カ
メラ:Canon EOS 5Ds R/レンズ:TS-E90mm F2.8/8秒 f18 ISO100

 

ライト❶。ブルーフィルターをつけたストロボを、
撮影台下のタオルに向けて打つ。
ライト❶ + ❷。定常光のエリスポットをCD-ROMに反射
させ、分光したスペクトルを水面と石にあてる。

薄く水を張った水槽に石を置いて、俯瞰から撮影。
撮影台下には、シワにしたタオルが敷いてある。
CD-ROMに反射した光。余分な光はケント紙でカットしている。
エアポンプで泡を立て、ドライヤーで風を送り、シャッタ速度8 秒の長時間
露光で撮影。水面が揺らぐことで水槽の下に敷いたタオルの布目が消え、
はじけたエアポンプの泡、水槽の底の気泡はブレて滲み、星雲のように見える。




Photo:高井哲朗



牛乳の入道曇を作るマジック

おめでとう

えっ なに APA 賞 ノミネート えっ 本当ですか?

それは 突然のことで 棚からぼた餅的な 素敵な連絡だった

表彰式は 赤坂プリンス 宴会場
最初の APA 賞は コダックの広告だった

APA 賞のコピー  「サクセスストーリーの序章」
第一回目受賞者 篠山紀信 って書いてあった

サクセス ね 最高 頑張ろうって 思った

次の年も コダックのポスターで 応募した
前回より 斬新な出来
当然 賞 獲れると思っていたら 入選だけだった
なんで? そんなことないだろう 審査員 クソだなって 思った

でも その翌年 賞 もらったことで 新しい 宝石の仕事が 入った
いいのが 撮れた それで また APA 賞 もらった
化粧品会社からも 写真見せて欲しいと 連絡があった
新たなクライアント ゲット
広告仕事 どんどん 増えてきて スタジオも 作った
なぜか 怖いもんなしで ガンガン イケイケだった 

そんなある時 コマ・フォト表紙撮影の 話が来た

「水って 瞬間撮影すると 氷みたいに 固まるじゃない?
柔らかい表現って できないの?」

なんて 当時の編集長 河村さんから 問題提起された

柔らかい水ね
ツンツンヘアーの頭が ぐるぐるした

水槽に 水 張って バシャバシャやって
ストロボあてると フリーズするよね
でも 水の中に水を入れたらどうだろう
ゆるやかに 動く? 比重差 水流 いけるかも

なんてことで やってみたのさ 夏の日は 入道雲だよね

写真ってさ 面白いよね  世界 作れるよ ゼウス 降臨だね

ライティングの組み立て

ライト: ❶ broncolor Pulso G Head+standard reflector P 70 / ❷
broncolor Pulso G Head+conical snoot /❸broncolor Pulso Spot 4+
Optical snoot ❹broncolor Impact 21+Fibrolite/カメラ:Canon EOS
5 D MarkII/レンズ:EF 50 mm F 2 . 5 コンパクトマクロ/1 / 100秒 f 10
ISO100
 

 

背後からの乳白アクリル越しのバックライト❶。
ブルーフィルターで青のグラデーションを作る。
右サイドからのスヌート❷。
やや斜め後ろからの光で、牛乳が広がった時、逆光気味に
牛乳の雲にハイライトが入るようにセット。
カラースポット❸のみ。青から赤のカラーグラデーション
フィルターをつけ、コップ内の牛乳に色を入れる。
バックライト❶とサイドライト❷が合わさると、
❸のスポットの色が弱まる。
赤と緑のFibrolite❹は、湧き上がった牛乳の右サイドに色
を入れる。なお、牛乳の雲は形や密度がコントロールできないため、
スヌート❷による左側のハイライトやFibrolite❹による色
の入り方は、実際に撮ってみないとわからない。

牛乳の入道雲を作る手順

1:きれいに洗った水槽に水を張り、コップを置く。
2:スポイトに牛乳を入れて、コップ内に注ぐ。途中、コップの外に牛乳が
垂れてしまったらやり直し。水槽を洗い直して1に戻る。
3:牛乳は水よりも比重が重いので、静かに注ぐとコップの底にたまっていく。
4:水槽外面の曇りを拭き、内面についた気泡を取り除く。
水槽の水を攪拌しないように注意。
5: スポイトに水を入れ、コップ真上から噴射。
水流で牛乳が湧き上がる瞬間を連写する。
連写で撮影。牛乳の雲が形を保つのは1 秒程。最後は水に混じり、水槽は濁っ
てしまう。
この撮影のポイントはコップと牛乳の雲が水中にあるのを、気づかせないこと。
水中の気泡や水の濁りは厳禁。雲の形や広がりは偶然の産物なので、1 回の連
写で良いカットが撮れなければ、水槽やコップを洗い直して再度撮影する。

ちなみにこちらが20 年近く前に撮ったコマーシャル・フォトの表紙。
当時は連写ができない4 × 5フィルムでの撮影。
ワンショットごとに水槽とコップを洗い、フィルムを交換して再度撮影、
しかもフィルムの現像が上がるまで、ベストのタイミングでシャッターが
切れているかわからなという、非常に手間と時間(とフィルム代)がかかる撮影だった。




荒井真丞
あらい・しんじょう/1991年福島県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、都内スタジオ勤務の後、渡米。2018 年帰国。静物撮影を中心に活動中。
shinjoarai.com

高井哲朗
たかい・てつろう/1978年 フリーとして活動開始。1986年(株)高井写真研究所設立。広告写真を中心に活動するかたわら、ゼウスクラブを開催し、写真の可能性を伝導する。
www.kenkyujo.co.jp/
twitter.com/TetsuroTakai


コマーシャル・フォト2022年9月号記事より

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